2-5 板板
―1―
冒険者ギルドの前にはすでにウーラさんが居た。待たせてしまったのだろうか。
『すまない、遅くなった』
「いえいえ、僕も今着いたところですから、それほど待ってませんよ」
な、なんだ、この会話。┌(┌^o^)┐ ん? 今、思考にノイズが……っと、にしてもウーラさん、良い人過ぎませんかねぇ。
「ああ、そうそう、ステータスプレートには時計機能もありますよ。知っていたらごめんなさい」
え? 今、なんて言いました? 時計機能? 凄い現代チックな字幕が見えたんですが。翻訳機能が壊れちゃったのかなぁ。
魔法のポーチからステータスプレート(黒)を取り出して確認してみる。右上に12:08って数字が見えます。
「あ、見えます? 右上に表示されている12と言うのが正午って意味ですよ」
し、知っているよ。えーっと昨日の段階では無かったよね。これ、無かったよね。そこで気付く。冒険者ギルドに居た眼帯のおっさん、あのとき、『更新した』って言ってたよね。うは、確認しなかった俺のミスじゃん。
しかし、何だろうな、コレ。本当にタブレットPCみたい。この板の違和感が凄い、というか異物感が凄い。それを当たり前に、馴染んでいるこの世界の住人も、なんというか、なんなんだろうな……。
『すまない。自分のステータスプレートは旧式で今まで時計機能が無かったんだ。更新後確認をしていなかった』
「そうなんですね。じゃあ、裏面に履歴が見えるのも知らなかったりします?」
知りません。裏面も使えるのかよ……。
裏面を見る。
データ更新・ver1.66
前回からの更新内容
器用さ補正の導入
ギルド制の導入
時計機能の導入
所持金表示機能の導入
パーティ最大数4→8
・
・
・
もうね、ホント、なんだコレ。ちゃんと下にもスクロールする。自分がこのステータスプレート(黒)を手に入れたところから始まって、そこから起こった大きな出来事も記載されている。記載される内容とされない内容の違いが今の段階だと分からないけど、全てが記入されるわけじゃないみたいだ。それでも個人情報漏れすぎだろうと思う。
自分にはパソコンとかの現代知識があるから違和感を覚えるけれど、『こういう物だ』って思ってしまっているこの世界の人たちには普通の物なんだろうか。
『このステータスプレートって誰が作ったのだろうか?』
「迷宮から発見されることから迷宮王が作ったんじゃないか、とは言われているね」
ふーん。また出たね、迷宮王。ま、骨になっていたんだけどさ。古代の超文明的な物なんだろうかなぁ。それにしては生活に密着している気もするけど。
―2―
冒険者ギルドに入る。眼帯のおっさんは居なかった。代わりにちびっ娘が居た。眼帯のおっさん、いつの間にちびっ娘にクラスチェンジしたんだッ!?
「今日はソフィアちゃんが受付なんだね」
ちびっ娘はこくんと頷く。お、可愛いかな、と思ったが……。
「虫、虫がいる」
そんなちびっ娘が口を開いて喋った第一声がこれだった。
『いや、虫というか、虫なんだが……出来れば人として扱って貰いたい。自分は星獣、名を氷嵐の主という』
「虫の声、頭に響いた。虫、喋る?」
虫って、人として扱えって言っているだるぅおぅ。
『そうだ、知能があるからな。喋りもするぜ』
「虫、何しに来た?」
クエストを受けに来ましたぁ、来ましたッ!
「ああ、クエストを受けに来たんだ。彼、ランさんは昨日、こちらに来たばかりなんです。なので、まずは初級のクエストを、と思ってね」
「そうか、最初の三つか?」
最初の三つ?
「ええ。彼はステータスプレートを持っているので受ける必要はないんですけれど。クエストになれて貰うためにも、そこからかな、と」
説明を要求します。
「最初の三つ。森の食用キノコ採取、食用のホーンドラットの狩猟と解体、戦闘技能確認の森ゴブリンの退治」
「ええ、その三つを終えると冒険者として認定されてステータスプレートが貰えるんです」
あー、試験クエストって言われたのが、コレか。多分、この三つって冒険者の基本的なクエストなんだろうな。だから、ステータスプレートを持っている自分は本来受ける必要がなかったけれど基本を学ぶために受けさせるって感じだろうか。
『ちなみに一度に三つ全てを受けることも出来るのか?』
「ええ、出来るんですが、今回は三回に分けます。今日はキノコ採取クエストです」
『何故、分けるかを聞いても?』
「はい、初心者指導はクエスト三回攻略までなので一日で終わらせるのは勿体ないかな、と」
あー、なるほどね。なんというか、この人、なんでこんなに親切なんだ? 裏があるんじゃないかと思うくらいだ。
「虫、クエスト板ください」
ちびっ娘が要求する。って、どれを取れば良いんだ?
「ああ、ランさん。クエスト板の上に描かれているのが受けることが出来る階級です。ランク無しとGランクはGランククエストまでしか受けられないんですが、Fランクに上がると一個上のランクまでは受けられるようになります」
ほうほう。今、自分はGランクだから、Gのクエストしか受けられないのか。
「このキノコの絵が描かれた板が今回のクエストですね。これをソフィアちゃんに渡してください。ちなみにキノコ採取クエストは常設クエストなので何度も受けることが出来ますよ」
キノコの絵が描かれた板を見る。何度見ても絵馬みたいだ。目に近づけてよく見てみるとキノコの絵がとても精細に描かれているのがよくわかる。傘があり、途中に節のあるキノコ、ぱっと見は椎茸によく似ている。この形のキノコを探すってことね。その絵の下に色々書いてある。
常設クエスト(採取)
森の食用キノコの採取
スイロウの里近くからよく取れるキノコの採取
森の特選キノコを三本納品してください。
クエスト保証金:無し
報酬:640円
獲得GP:1
キノコ、四本目からは一本32円で買い取ります。
一日一回限定
ああ、コレ、アレだ。モ○ハンだ。にしてもくっそ安い賃金です。これじゃあ生きていけないよ。クエストをクリアしても銅貨一枚……。にしても1本32円って、銅貨一枚より小さな貨幣、あったんだ。
『ところでGPというのは?』
「あー、おやっさんが説明を省いたから……。GPが一定以上に増えるとランクアップの試験を受けられるんです。それをクリアすると一個ランクが上がるんです」
なるほどなー。まぁ、ステータスプレートに新しく書いてあったから、多分そうだとは思ったけどね。ちなみにGP0/100となっていたので、100でFにランクアップってことだね。
キノコクエストでGP1って……先は長いなぁ。
4月25日修正
特産 → 特選