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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
2  世界樹攻略
109/999

2-99 世界樹の迷宮上層

―1―


 転移を使い世界樹の迷宮へ。


 さ、隠し部屋から転送っと。


 はい、サクサクッと浮島に戻ってきました。浮島の中央には空へと伸びる透明なシリンダーが一つ。さあ、行きますか。

「むふー。あの中央が怪しいねー」

「うむ」

 うん、あれがエレベーターだろうからね。さあ、お二人さん、行きますぞ。


 俺たち3人がシリンダーの中に入ると透明な扉がしまる。そのまま体がふわりと浮き、上昇を始める。うお、エレベーター的なリフトで移動するのかと思ったら、浮き上がって進むのかよ。透明なシリンダーの中をどんどん上昇していく。一つ、二つ、三つ、木の層を抜け、一つの部屋にたどり着く。


 透明なシリンダーが開き部屋へと排出される。部屋の奥には綺麗な竜の装飾が施された大きな緑色の扉が一つ。非常にシンプルな部屋だね。

『この扉の先が世界樹の迷宮の最後になるだろう』

 外から登ったことのある俺だから分かるけど、どう考えても、高さ的にもここが最後だ。

「むふー。ここが最後……ですか。なら皆さんに渡す物があります」

 少し苦い顔をして話してくるシロネさん。ああ、ここまでにお婆ちゃんが居た証が見つからなかったことが気になるんだろうな。

 シロネさんが魔法の袋から取り出したのは何かを凝固して作ったかのような紫色の小さな宝石だった。

「金色の粘液から作られた火の結晶石ですねー。ランちゃんさんの、その槍に使えば火属性を付与できますよー」

 あ、それは有り難い。有り難く貰っておこう。真紅は火と風の属性を持っているから必要無いし、ホワイトランスに火属性を持たせることが出来れば戦力が一気にアップだな。


 ミカンさんが緑の扉に手をかけ、ゆっくりと扉を開けていく。




―2―


 薄暗い室内に足を踏み入れる。入ってすぐ壁際には木が生えた無数の骨があった。

「む。人骨……?」

 壁まで吹っ飛ばされたかのような骨達。鎧などを着けたまま骨と化し、その隙間から無数の木が生えていた。この数――昔は意外と挑戦者が多かったのか。

「まさか……」

 シロネさんが一つの骨を指差し、駆け出す。って、まだ状況も分からないのに危ないよ。

「おばあちゃん……」

 シロネさんが青いマントの付いた骨へ。

「このマント、おばあちゃんのマント……、そんな……」

 え? マジですか。フラグの回収が早すぎないか。いや、でも俺が見た女盗賊風の冒険者はマントを着けていなかったような――あの時の人とは別人なのか?


 と、そこで薄暗い室内の奥に緑の光が灯る。な、なんだ?


 それに合わせてぐおぉぉっと大きな叫び声が室内に響き渡り、一斉に部屋の灯りがつく。


 明るくなった広い室内、奥に居たのは一匹の竜だった。2本の角を生やし翼と手足を持った西洋風の竜。その体には無数の苔が生えており、背中からは木も生えていた。樹木で出来た竜か何かか?


 か、鑑定してみよう。


【名前:リチャード・ホームズ】

【種族:アッシュドラゴン】


 ほ、は? 名前付き(ネームドモンスター)だと? しかも、何だか紳士的な名前だ。


 木を背負った西洋竜がゆっくりと顔をこちらに向ける。竜は右手に何かを握りしめているようで左手のみを地面に付けた四つん這いの状態でゆっくりとこちらへ歩いてくる。……えーっと、対話を求めているのか、な? な?


 樹木竜はもう一度、大きく叫び声を上げこちらへ突っ込んできた。対話は出来ないっと。く、戦闘開始だ。


 俺たちはバラバラに飛び突進を回避する。すぐさま、サイドアーム・ナラカに持たせたホワイトランスに火の結晶石を触れさせる。火の結晶石が砕け散り、ホワイトランスに紫の炎が宿る。ほー、こんな感じなんだね。

 さらに俺は真紅を取り出し、こちらは自分の右手に持つ。じゃきーんと伸びる穂、うん、格好いいぜ。次に左手へ鋼の槍を……三槍流だッ!


 相手の右側、何かを握っていて不安定な方に回り込む。


――《屠竜陣》――


 ミカンさんの陣。これでミカンさん自体はスキルを使えなくなるが、そこは俺の火力がカバーする……予定だッ!


【スキルの同時発動が拡張されました】

【《Sスパイラルチャージ》が発動します】


――《Sスパイラルチャージ》――


 三つの槍が螺旋を描き樹木竜へと迫る。ホワイトさんに竜をも貫くと太鼓判を押された槍の威力を見るがよいッ!

 ガリガリと竜の脇腹を削っていく。その威力に竜が悲鳴を上げ、鋭い爪を持った左手を振り回してくる。


――《集中》――


 おっと、回避だぜ。危険感知も作動しないし、これくらいは余裕ってコトだよな。振り回される爪を左、右と回避する。

 さらにいつの間にか樹木竜の背中を駆け上がっていたシロネさんが手に持った紫に輝いている真銀のダガーで竜の角を斬り裂く。その攻撃に竜が俺への攻撃を止め、左手を頭の上へ……そうはさせるかよ、こっち見ろッ!


――《百花繚乱》――


 樹木竜の脇腹に真紅が血の花を咲かせていく。と、そこで視界に赤い横線が走る。すぐに迫る木の尻尾によるなぎ払い。


――《払い突き》――


 尻尾を払い打ち返そうとして、そのまま吹き飛ばされる。く、さすがに無理だったか。


 俺は鋼の槍を地面に突き立て壁に叩き付けられるのを防ぐ。


 見るとミカンさんが振り回された尻尾に長巻で斬り付け、そのままの勢いで一回転、空中へ飛び上がる。長巻を背中に戻し腰の刀へ、そのまま尻尾を斬り付けていた。ミカンさんが一太刀浴びせるごとに尻尾に二つの切り傷が増えていく。ああ、これが鬼神の小手の効果か。


 まずは邪魔な尻尾からだな。

「ラン殿」

 ミカンさんが、そのまま樹木竜の尻尾を掴む。って、凄い力だな。

『ああッ!』

 俺はミカンさんが押さえた尻尾まで駆ける。もう一発ッ!


――《Sスパイラルチャージ》――


 三つの槍が螺旋を描き尻尾を削る。このまま切断してやるぜ。


 ガリガリと木片を飛び散らせ尻尾が削れていく。


 樹木竜が大きな咆哮を上げる。その瞬間、樹木竜から光の柱がほとばしる。光の柱によって上に乗っていたシロネさん、尻尾を握っていたミカンさん、尻尾を削っていた俺が大きく吹き飛ばされる。




―3―


 さ、さすがにこのまま倒しきれないか。


 そして樹木竜は大きな口を開ける。口の中に緑の光が集まっていく。ま、まさかブレスか!?


 こんな状態でブレスを喰らったらひとたまりもないぞ。この壁際にある骨って……そういうことかよッ! て、ブレス? ブレスッ!

『シロネ、ペンダントだ』

 俺はシロネさんに念話を飛ばす。

「むふー。呼び捨てにして……」

『いいから早くッ!』

 シロネさんが懐からペンダントを取り出す。

『シロネの元へ集まれ』

 俺は吹き飛ばされてぼろぼろの体を持ち上げシロネさんの元へ。ミカンさんもゆっくりだが、シロネさんの元へ。


 樹木竜の口に集まる緑の光はどんどん大きくなっていく。ああ、矢をぶち込みたくなるなぁ。

 樹木竜から緑の光が放たれる。

『ペンダントを前にッ!』

 激しく大きな緑の光が迫る。緑の光が通った後に木々が生えていく。なんだコレ。


 シロネさんの持ったペンダントに緑の光が当たる。その衝撃にシロネさんが吹き飛ばされそうになる。そこを俺とミカンさんが支える。うおおぉぉ、耐えろ、耐えろッ!


 ペンダントが緑の光を跳ね返していく。無限とも思える時間を経て緑の光が収まる。た、耐えきったか。さ、さあ、反撃開始だッ!


「ラン殿、陣は?」

『《隼陣》を』


「むふー。私は?」

『先程と同じように樹木竜の上に。ヤツの攻撃は自分が引き受けよう』

 この中で一番敏捷補正が高いのは自分だろうしね。すいすい回避して攻撃しまくってヘイトを集める役だぜ。範囲と全体攻撃以外は俺に任せろだぜー。


 俺たちは作戦とも言えない作戦を確認し樹木竜へ。


――《隼陣》――


 樹木竜の前へ。左手の爪が迫る。はん、危険感知も働かない程度の攻撃なんて怖くないぜ。そこへ赤い横線が走る。来たなッ!

 迫る樹木竜の尻尾。


――《Sスパイラルチャージ》――


 勝負だッ! 尻尾と三つの螺旋がぶつかり合う。じりじりと後退させられながらも尻尾を削っていく。尻尾と共に迫る左爪。そこへミカンさんが。長巻と左爪がぶつかり合う。こちらが尻尾を削りきるまで耐えてくれッ!


 尻尾から木片が消し飛び、肉を削り、血が飛ぶ。後、少しッ!


 しかし、そこでミカンさんの長巻が樹木竜の力に耐えきれず砕け散る。ミカンさんはすぐに腰の刀へ。と、体が重くなる。ああ、ミカンさんが陣を解除したのか。これは仕方ないよな。


――《月光》――


 カチンという音ともに樹木竜の爪が消し飛ぶ。そのまま、何度も樹木竜の手を斬り刻む。一度の攻撃で二つの斬り傷が増えていく。


 俺は尻尾を削るぜ。尻尾の圧力に耐えきれなかったのか鋼の槍が折れ砕け散る。補強しても耐えきれないのか……。いや、このまま押し切るッ!


――《百花繚乱》――


 真紅の穂先が見えないほどの高速突き。尻尾が削られ血の花を咲かせていく。尻尾が削れ、ついに千切れ飛ぶ。尻尾の切断に成功だッ! よし、もう少しッ!


 その瞬間、またも樹木竜から光の柱がほとばしる。光の柱によって吹き飛ばされる。俺は壁にぶち当たり、壁際にあったいくつかの骨が砕け散る。範囲攻撃とか卑怯だってばよ。


 またも樹木竜の口に緑の光が集まる。


『シロネ殿、ペンダントを』

 俺はコンポジットボウを持ち鉄の矢を番える。

「ちょっと待って。矢ならこれを」

 シロネさんがこちらへ駆けてくる。樹木竜の口に緑の光が集まっていく。見れば樹木竜の角の一つは折れ、片眼が潰れていた。

『これは?』

「何処かの誰かが換金所で売った世界樹の矢だねー」

 はは。コレ、綺麗に加工し直されているが、俺が売った世界樹の矢じゃないか。何で持っているんだよ。まぁ、いい。有り難く使わせて貰おう。


 鉄の矢から世界樹の矢に番え直す。


――《チャージアロー》――


 世界樹の矢に光が集まっていく。


――《集中》――


「むふー。ランちゃんさん、おばあちゃんの仇を!」


 ああ、任せろッ!


 世界樹の矢に紫の光も混じっていく。


 樹木竜が大きく口を開く。させるかよッ! 喰らえッ!


 俺が放った光の矢が樹木竜の口の中へ。樹木竜の溜めていた緑の光が口の中で爆発する。そのまま光の矢は樹木竜の顎を打ち砕き貫通する。終わったな。

 樹木竜が大きく口を開けたまま崩れ落ちる。それでも右手は握ったままだった。何を大切に持っているんだ?




―4―


「終わったのか?」

「終わったみたいだねー」

 終わったのか……? 勝てた――勝ったんだな。俺一人だったら、勝てたかどうかも分からないな、みんなが居たからこその勝利だ。


 樹木竜を倒したからか奥の壁の一部が『ふぁん』という音ともに消え去った。あそこが世界樹の迷宮の最奥かな。


 目の前の樹木竜の姿がぼやけ、小さな粉になって消えていく。そしてカランという音とともに小さな指輪が転がり落ちる。……うん? 指輪? 樹木竜が大切そうに握っていたのは、この指輪だったのか? もし樹木竜が右手も使えていたなら……。うん、もっと苦戦していただろうから助かったと言えばそうなんだが、なんで指輪なんかを……。


 俺は近寄って指輪を手に取ってみる。何だろう、ちょっと高そうだけど普通の指輪だよな。裏に文字が書かれているな。えーっと、R & N か。って、これ字幕変換されていない。俺でも分かる――というか、普通にアルファベットだよな……。どういうことだ? 何でこんな物があるんだ? しかも、それを大切に持っているとか……ホント、訳が分からない。


 パリ、パキ、ペリ。


 俺が考え込んでいるとショルダーバッグから、そんな音が聞こえてきた。な、なんだ?


 ショルダーバッグから小さな猫の頭が出てくる。

「にゃあ、にゃあ」

 あっ! そういえば羽猫から貰った卵をショルダーバッグの中に入れっぱなしにしていた。

「ラ、ラン殿、その魔獣は?」

 あ、あれー? 魔獣扱いになるの? 見るからに小さな猫なんだけど。

『ファー殿から預かっていた卵が孵ったと思うのだが……』

「え? ファー様の」

「むふー。とりあえずそのバッグから出してあげましょー」

 シロネさんが羽の生えた小さな猫を俺のショルダーバッグの中から引っ張り出す。

「にゃあ、にゃあ」

 どうするんだ、コレ。

「受け取ったラン殿が責任を持って育てるべきかと。もちろん私も手伝いますので」

 あ、やっぱりそういう展開になるのね。

「むふー。まずは名前を付けてあげたらどうかなー?」

 な、名前ねー。あー、そういえば羽猫が子供の名前は決めているって言っていたな。えーっと確かエ、エー、なんだっけ。そうだ、エミリオだ。エミリオだったな。

『お前の名前はエミリオだ。よろしくなエミリオ』

「にゃー?」


【狩人のクラスを取得しました。派生クラスの為、弓士のクラスとの併用が可能になります】


 うお、狩人のクラスが発現した? ま、まさか、テイム扱いになったのか。小さな羽猫は俺の頭の上に登り、そこで寝息を立て始めた。ちょ、落としそうで怖いからやめてー。しかし、このちび羽猫の食事とかどうしようか。ま、まぁ星獣の俺が人と同じ物を食べているんだから、同じで良いかな。


 て、こんな場所でのんびりしている場合か。最深部に行かないとな。と、その前に少しだけ狩人のクラスを見てみようかなー。


 派生クラスも入れ替えが出来るのか。弓士と狩人を入れ替えられるけど何も変わらないな。ステータス補正も経験値もレベルも一緒と。スキルは両方取得出来ると。ちなみに狩人のスキルは……。



 生活   LV0(0/100)

 増加   LV0(0/20)

 解体   LV0(0/20)

 初級テイムLV0(0/40)


 《増加》が来ましたよ。待ちに待った《増加》スキルですよ。俺の魔法のウェストポーチXL(1)が神の装備になる第一歩ですよー。よし、これはガンガン上げよう。

 あー、なんで何も変わらないのにクラスを切り替えられるのかって思ったら、サブクラスの関係か。サブクラスの時は選んでいるクラスのスキルしか反映しないのか。ん? ということは狩人をメインにしているシロネさんは弓士のスキルも持っていたってことか? 弓も使えば良かったのでは? って、思っちゃうよなぁ。あ、もしかして、だから世界樹の矢を持っていたのか。自分用だったのね。




―5―


 奥の部屋は、予想していたように叡智のモノクルが置かれていた部屋だった。中央には砕けたスキルモノリスの残骸。壁に迷宮王の骨が寄りかかったままなのも一緒だ。

「何も無いねー」

 そうだねー。だって、この迷宮のクリア報酬はすでに俺が手に入れちゃっているからなぁ。


「む。ここから外に出られるようだ」

 ミカンさんが外へ。ああ、俺が以前に入ってきた入り口だね。

「むふー。ここにも台座があるねー」

 そういえば、ここにある竜の台座は転送装置として動かないんだな。戻るの大変だよなぁ。


 うん? まさか。あー、そういうことか。


 ここで手に入るスキルは転移と。そして出窓。


 謎は全て解けたッ!


 これ、この出窓から転移で戻れってことか? いやでもチェックポイントの関係で……あー、飛び降りて浮遊で着地しろってことか。


 まぁ、俺はすでに転移を憶えてチェックポイントも作ってるんですけどね。あ、今回で世界樹の迷宮も攻略してしまったし、世界樹の迷宮前のチェックポイント3は解除しておかないと。


 よしッ!


 さあ、帰るか。

『皆、ここから転移で里へ戻るぞ』

 俺の言葉に二人は頷く。


 これで世界樹の迷宮も終わりか。ついに八大迷宮とやらの1つを俺が攻略したってことだよな。なんだろう、長かった。ホント長かったよなぁ。

 世界樹の葉っぱから旅立って、ココに戻ってきて……色々あったけれどそれも終わりか。


 さあ、戻ろう。


――《転移》――





 八大迷宮・世界樹の迷宮クリア

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― 新着の感想 ―
世界樹の迷宮が名前に反してあっさり終わった
[良い点] 濃厚な章でしたねぇ。 丁寧な場面描写のお陰で脳裏に漫画再生余裕でした。
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