2-98 晩餐
―1―
さあ、お楽しみの換金タイムだ。
3人で換金所へ。どばどばと大量の素材を換金所のお姉さんに渡す。いやぁ、シロネさんという荷物持ちが居てホント助かるね。なんで探求士をメインにしないんだよ、と思ったけど、この魔法の袋から素材をどばどばと渡している所を見ると狩人メインも有りだなって思っちゃうんだよなぁ。俺も早く狩人のクラスが欲しいぜ。
にしても、こんな便利な魔法の袋って物があるんだから、これを使って運送業をやれば儲かりそうなもんだけどなぁ。隊商の方々も運んでいた商材を魔法の袋には入れていなかったけど、何かあるんだろうか。うーむ、謎だ。
換金所のお姉さんが素材を鑑定している間、指定の席に座って大人しく待つのです。数が結構あるからなぁ、時間がかかりそうだ。3人並んで待っていると手持ち無沙汰になったのかシロネさんが懐からペンダントらしき物を取り出しなでていた。うん? 前にも取り出していたよな? 何だろう?
【世界樹のアッシュペンダント】
【世界樹の迷宮を守護していた証。木属性のブレスを完全反射する】
うお、何だソレ。というか、狙っていないけど無意識に中級鑑定を使ってしまったようだ。えーっとアッシュペンダントって遺骨とかを入れるコトが出来るんだったかな。もしかして形見とかなのか?
「むふー。ランちゃんさん、このペンダントが気になりますかー」
いやまぁ、気になるけどさ。わざわざ聞きませんよー。
「これは祖母の形見なんですよー。と言っても生きているのか死んでいるのか……。世界樹の迷宮の攻略に必要になるから持っていなさいと、これを私に渡して、世界樹に向かったそのまま帰ってきていないんですよー」
ん? 何だろう。そういえばシロネさんに似た女冒険者を見たような。何処で見たんだったかな。あ、世界樹か。そうか、もしかすると……そうなのか?
「何で自分が世界樹の迷宮へ行くのに、そんな大事な物を私に渡していったんでしょうねー」
これはシロネさんの独り言だろうな。
と、換金が終わったのかお姉さんが戻ってきた。
ねじれた牙:
40960円(小金貨1枚)
謎の肉:
1280円(銅貨2枚)×10=12800円(銀貨2枚、銅貨4枚)
ヴァインの種子:
640円(銅貨1枚)×10=6400円(銀貨1枚、銅貨2枚)
ヴァインの魔石:
640円(銅貨1枚)×10=6400円(銀貨1枚、銅貨2枚)
金色の粘液:
5120円(銀貨1枚)×7=35840円(銀貨7枚)
マイコニドの魔石:
2560円(銅貨4枚)×7=17920円(銀貨3枚、銅貨4枚)
アッヒルデの魔石:
2560円(銅貨4枚)×9=23040円(銀貨4枚、銅貨4枚)
ポイズンワームの魔石:
10240円(銀貨2枚)×10=102400円(小金貨2、銀貨4枚)
竹筒10個:▲1920円(銅貨3枚)
合計:243840円(小金貨5、銀貨7枚、銅貨5枚)
3人で分けるから、一人頭81280円(小金貨1、銀貨7枚、銅貨7枚)かな。うーん、儲かったと言えば儲かったんだけど、あれだけ死にそうな思いをして必死に戦ってこれだけ? って気持ちが強いなぁ。日当8万って考えれば多いんだろうけどさー。
さ、換金も報酬の分配も終わったし、今日はもう道場に帰ってご飯を食べて寝よう。
―2―
夕暮れ時の赤く焼けた道を通り道場に戻ると、ユウノウさんが一生懸命に弟子の指導をしていた。純朴な森人族の少年と、大人しそうな森人族の少女を……って、一人増えてる!?
しかも大きな庭には簡易だが屋根も作られているし、おいおい、一日で屋根を作ったのかよ。
「あ、お嬢とお友達、お帰り」
あ、ああ、ただいま。
「お嬢も帰ってきたし、それでは晩ご飯にしますか」
ユウノウさんはニヤニヤしている。なんだか、メチャクチャ得意気に上機嫌な調子で話しているけどさ、その森人族の少女はどうしたんですか?
「そうなんですよー。また一人弟子が増えましてね。この子も住み込みで私が指導しますのでー」
うわ、すっごい嬉しそう。ま、まぁ食事だ、晩ご飯だ。
食事室に入るとテーブルの上に鉄の鍋と器に大量に入った油ぽい物が用意されていた。なんだコレ?
「え? ランさん言ってませんでした? 鉄の鍋と食べられる油を用意しろって。ちゃんとモリイモも買ってますよ」
へ? 何のこと? というか言っていたって俺、喋れないんですけど。
「え? でも深夜に念話で聞きましたよ」
って、もしかして寝言かよ。寝言も念話で飛ぶのかよ。ま、マジカ。ちょっと、聞いてないんですけど。念話が寝言で飛ぶとか聞いてないんですけど。これ、変な夢を見たらヤバイんじゃあ……うう、寝るのが怖くなるよう。
「で、ランさん、これどうするんです?」
そ、そうだ。とりあえずモリイモを油で揚げてみよう。というか、食用油がしっかりとある世界なのか。しかもユウノウさんが買えるくらいに安い、と。
『まずはモリイモを短冊状に切ってくれ』
「うむ、では私が」
そう言うが早いかミカンさんがモリイモを宙に投げる。そのまま手に持った刀を一閃。モリイモは一瞬で小さな棒状にバラバラになった。って、それは『斬る』じゃないか。いい物見せて貰いましたけども、弟子二人も羨望のまなざしでミカンさんを見るようになってますけども、ソレを見てユウノウさんが悔しそうにしてますけどもッ! ま、まぁ、いいか。
『鍋に油を入れて火をかけて欲しい』
「りょうかーい」
って、よく考えたら、この世界での調理は初めてじゃね? 火をかけるって、どうやって火をかけるんだ?
見ていると鉄の鍋の下に小さな金属のような物を置き、その中に魔石を入れていた。あー、魔石ってそうやって使うのね。少し待つと小さな金属から火が放出され鉄の鍋が温まっていく。なんだか、こういう不思議装置を見ると異世界って凄いなって思うよな。
『油が温まったらモリイモを入れる。そして食べる』
「え? この油の中に入れるんですか? それは危ないんですよ」
ふふふ、やはり異世界には揚げ物料理がないのか。これは俺の異世界チートがやっと始まったかな?
「むふー。大陸で偶に見る料理ですねー。だから大丈夫ですよー」
って、大陸には普通にあったのかよ。と、というか、何故むふーさんが居る!? いつの間に?
「あれれ? 私が居ては駄目ですか?」
いやまぁ、駄目じゃないですけど。
「では、調理法を知っている私が料理をしましょうかねー」
そう言ってシロネさんはモリイモを油の中へ。は、はねる油に気をつけてくださいね。
「で、これ、どうやって取りましょう……」
って、そこを考えてなかったのかよ。
「あ、コレをどうぞ」
そう言ってミカンさんが長目の箸をシロネさんに渡す。シロネさんは器用に箸を使い、モリイモを揚げていく。って、シロネさんも普通に箸が使えるのか。この世界だと箸って一般的なのか? でも食堂や宿では使ってなかったよな? うーん、謎だ。
「はふはふ、熱いけどかりかりしていて美味しいですね」
あ、やっぱり油で揚げた方が合うよね。
「僕、これも嫌いじゃないです」
「わたしもー」
森人族の少年少女も喜んで食べている。ということは、もしかしてコレを売り出したら儲けられるんじゃ……。
「まさか、これを売りに出そうとか思ってないよね? そんなことをしたらこの道場が潰されちゃうのです。絶対に止めてー」
え? どういうこと?
「むふー。商人連中は恐ろしいってことだねー」
その言葉にユウノウさんもミカンさんも頷いている。な、なるほどなー。うん、肝に銘じておきます。
あ、そうだ。寝言とはいえ鉄の鍋と油も買ってきて貰ったし、その代金を渡しておくか。俺はユウノウさんになけなしの小金貨1枚を渡す。
「おお、またもお給料を。ありがとうございます」
って、いつから給料になったんだよッ!
―3―
夜、寝る前にステータスプレート(銀)を見るとレベルが上がっていた。
全然、気付かなかったよ。
ああ、クルーエルキュクロープの経験値が異常に多かったからな。まぁ、良い。ここで上げておくか。
【レベルアップです】
さて、振り分けは、っと。
【ボーナスポイント8】
筋力補正:4 (2)
体力補正:4 (2)
敏捷補正:28(4)+8
器用補正:9 (8)
精神補正:4 (0)
あれ? 何故かステータスが増えている気がする。前からこうだったかな? 経験値部分とかは見ていてもステータスはしっかり見ていなかったからなぁ。まぁ、いいや。振り分けよう。
筋力補正:4 (2)
体力補正:4 (2)
敏捷補正:36(4)+8
器用補正:9 (8)
精神補正:4 (0)
更にどーんですね。これで敏捷補正が48ですよ、48。この世界の一般的な方々がどれくらいの数値かは分からないけど、結構なもんなんじゃない? レベル6でコレとか、もしかしてレベル10くらいが最高レベルになっている世界なのかなぁ。完全に回避特化の道を歩んでいるな。これ、範囲攻撃とか全体攻撃とかが来たら消し飛ぶパターンだよね。うーむ、気をつけよう。
次までの必要経験値は6000か。現在のレベル×1000が必要経験値ぽい。これはもう完全に確定だな。
さあ、寝るか。
―4―
翌朝、ユウノウさんが釣ってきた魚を食べた後、ホワイトさんのトコへ。待ちに待った風槍レッドアイの再誕祭ですよ。
「ランか、相変わらず早いよなぁ」
鍛冶屋に入ると、すでにホワイトさんが待ち構えていた。
「出来ているぜ」
ホワイトさんが俺の槍を持ってきてくれる。よっしゃ。世界樹の迷宮のラスボス戦前に間に合ったぜ。
その槍は1メートル半くらいの赤と紫の螺旋を描く無骨な細い円錐を持ち、握りを覆い隠すような銀のスカートが付いていた。
「風槍眼―真紅―だ」
ちょ、なんで和名に変わっているの? 俺の厨二心が刺激されるんですけどー。
にしても元が蜘蛛の牙とは思えないな。元々のサイズよりも大きくなっているしさ。
「こいつなら竜でも貫けそうだな」
さしずめ竜殺しですか? 最高だぜ。
「こいつは魔石を喰らって成長するからな、たまには魔石を喰わせてやれよ」
成長する武器とか最高じゃん。ということでさっそく食べさせよう。クルーエルキュクロープの魔石ですよー。
魔石を槍に近づけると槍と魔石が融合する。槍が一瞬、脈を打つかのようにドクンと振動し、槍の穂先に黒い螺旋が混じる。これで成長したのか? まあ、いっか。これからはどんどん魔石を食べさせよう。弱い魔獣の魔石を喰わせてランクダウンみたいなことがないと信じてどんどん食べさせよう。
あ、後、鉄の矢をください。本当はクノエさんとこで属性の矢が欲しかったんだけどさ、お金がないから仕方ないな。だから、ここで買ってあげるんだからね。って前もそんなことを言っていたような……。
「うん? 何本いるんだよぉ?」
21本必要です。えーっと26880円(銀貨5枚、銅貨2枚)か。にしても、これで矢筒の中、32本全てが鉄の矢になるのか。色々と買った魔法の矢も結局使い切ってしまったか……。ま、まぁ、お金が出来たら属性の矢ばかりにしよう。
「と、今回は俺の武器は壊してないようだな。手入れしてやるからよぉ、貸しな」
あ、はい。あー、でもこれで槍が3本になるのか。真紅もサイズがかなり大きいし、持ち運びが不便だなー。槍ってそういうとこが不便だよね。
俺のその思考を読み取ったのか手に持っていた真紅が姿を変える。ぎちぎちがりがりと音を立て小さくなっていく。最終的に握りとスカート部分だけになった。あ、折れた時のサイズに近い。
これ、どうやって元に戻るのかな。と、俺の意識を受けてなのか、またぎちぎちがりがりとサイズが元に戻る。その場で何度も試してみる。うん、武器として持つとサイズが元に戻り、鞘に収める感じで収納するとサイズが小さくなるんだな。俺のそういった意識を受けて変動してくれるのか、便利だな。これ、不意打ちとかで使えないかなー。あー、でも、こんなぎちぎちがりがりしていたらバレるか。それほどの時間では無いとは言え、どうしてもギミックが動く時間をゼロには出来ないからな、仕方ない。
まぁ、持ち運びが楽になったと言うことで。
うんでは、真紅も帰ってきて鉄の矢も補充したし、道場に戻って、ミカンさんとシロネさんに合流して世界樹の迷宮に行きますかッ!
さあ、世界樹の迷宮のラストだ。
【風槍眼―真紅―】
【戦慄の女王の牙より生まれた魔獣武器。魔石を喰らうことで成長する氷嵐の主専用の槍】
5月9日修正
そう言ってシロネさんが長目の箸をシロネさんに渡す → そう言ってミカンさんが長目の箸をシロネさんに渡す




