2-97 分配
―1―
まずは宝箱の開封だよね。その後で帰還かな。今日の探索は終わりなのです。戻って世界樹の迷宮のラスボス戦の準備をしないとね。って、そこまでして何もなかったら拍子抜けだよなぁ。ま、まぁ、何も無いに越したことはない。
さて、4つの箱のうち1個はすでに開けられているから、残りの3個だな。何が入っているのかなー。
「まったー」
シロネさん? どうしましたか?
「むふー。まずは罠があるかの鑑定をさせてください!」
あー、もしかして初級鑑定ってそういう風に使うのか。って、俺の鑑定は中級鑑定だから、もっとしっかり分かるんじゃ……。
「これには毒針の罠が仕掛けられていますねー」
ホントに? というかパーティを組んでいるのに鑑定のシステムメッセージが表示されなかったよな。表示されない仕様なのだろうか?
俺も鑑定してみるかなー。罠を調べるみたいに鑑定したら分かるんだろうか。
【罠はかかっていない】
お、出来た。出来るじゃん。名前以外も調べられるじゃん。今度からは宝箱なども調べることにしよう。……って、罠が無いって表示されているんですが。えーっと、あのー、シロネさん?
まあいい、開けてみよう。俺は俺を信じるぜー。
「だ、駄目です。危険ですよー」
ぱかりとな。
……。
…………。
何も起こらない。やっぱり罠なんてないじゃん。うーん、これはシロネさんの鑑定が初級だったからなのか、スキルの熟練度が低かったからなのか、どっちなんだろうなぁ。俺の中級鑑定は叡智のモノクルの固有スキルだからか、熟練度が上がらないからなぁ。クラススキルの場合は上がるとかあるんだろうか。試してみたいな。うーむ、探求士も便利なスキルが多いみたいだし、取得したいクラスだよなぁ。
と、箱の中身は……盾か。
【樹星の大盾】
【木の魔力を宿した大盾。自己修復能力を持ち、所持者にわずかばかりの自己再生能力を与える】
木で出来ている為、簡単に燃えそうではあるが、非常に使えそうな大盾だな。だけど現状のパーティだと使える人間が居ないんだよなぁ。俺が独りで入手したなら確保だけはしておくんだけど……ま、要相談ってことで。
残り二つの箱も鑑定だけはしてみるか。
【罠はかかっていない】
【クロスボウ】
お、一個罠有りか。シロネさんを見るとすぐに次の箱の鑑定へ取りかかっているようだ。良かった、良かった。俺の行動が彼女の誇りを傷つけたんじゃないかと少し心配したんだよなぁ。
「一個、罠有りですねー」
クロスボウの箱だな。
『解除は出来そうか?』
シロネさんに聞いてみる。
「むふー。やってみますねー」
シロネさんは箱を少しだけ開け、何かの道具を中に差し込みかちゃかちゃと作業をしている。なんだろう、探求士って、ゲームで言うと盗賊みたいなクラスなのかな。探知、探索、鑑定、解除とゲームなら完全に盗賊職だよなぁ。二刀のダガーもそれぽいし……ホント、何で彼女はそっちをメイン職にしていないんだ?
「なんとか解除できました」
彼女は額の汗をぬぐっている。やはり罠の解除は精神的に疲れるのかな。
さて、箱の中身はっと。
一つは頭に付けるぽい輪っかか。もう一つの箱は……これは小手かな。
【叡智のサークレット】
【精神補正を大きく引き上げ、精神攻撃を無効化する】
うお、なんだコレ。もし俺が芋虫型じゃなくて人型だったなら絶対に欲しかった装備だよなぁ。今の芋虫型だと装備することが出来ねぇ……。
もう一個はっと。
【鬼神の小手】
【筋力補正を大きく引き上げ、連続攻撃を可能にする】
こ、これも凄いなぁ。そして変わらず俺には使えそうにない。ここで手に入ったのは『樹星の大盾』に『叡智のサークレット』と『鬼神の小手』か。
『アイテム分配は里に戻ってからで』
俺の言葉に二人が頷く。
では、里に戻りますか。
―2―
竜の描かれた台座に触れると視界が変わった。うん、例の隠し部屋に戻ってきたね。ちゃんと先程の場所に戻れるかを確認する為、もう一度、竜の描かれた台座に触れてみる。しっかりと画像が4つ表示される。よし、戻ることも可能と。
そのまま外へ。
『転移のスキルを使う。ミカン殿は経験したと思うが、上空高くに上がるので驚かないように』
ミカンさんが頷く。更にシロネさんへ詳しく説明してあげているようだ。よし、行くか。
――《転移》――
3人の体が遙か上空へ。よし3人とも転移出来ているな。うん、ちゃんとレベル3だからね。見るとシロネさんは驚きの為か大きく目を見開いている。ミカンさんは……目をつぶって瞑想していた。
スイロウの里を指定してっと。さあ、落下だ。
「ちょ、ちょ、これだいじょ……ぎにゃー」
そのまま地面に激突。ふぅ、一瞬でスイロウの里だぜ。
「こ、これは凄い。むふー。うん、興味深いですねー」
シロネさんは素直に感動している。うーん、ほいほい使っちゃったけどなるべく隠す方が正しかったんだろうか。
ま、まぁ、里に入りますか。
「うむ。まずは冒険者ギルドへ行こう」
ミカンさんの言葉に当たり前と言った感じでついて行くシロネさん。あれー、なんで冒険者ギルドなんだ。換金所じゃないのか。
「むふー。最初は手に入れたお宝の分配だからねー。それから換金、分配って流れだね」
へー。そういう流れなのか。
冒険者ギルドへ。
「む。虫……と、仲間達?」
中に居たのはちびっ娘だった。はーい、虫と愉快な仲間達ですよー。
「ソフィアちゃん先生ー、席を借りますねー」
うん? ソフィア先生? 先生だと? ……このちびっ娘が? 気にしたら負けなのか?
「では分配だねー」
俺たちは席に着く。
今回手に入ったのは、
【クルーエルキュクロープの魔石】
【樹星の大盾】
【叡智のサークレット】
【鬼神の小手】
そのほか、多数の魔石に素材か。
素材と普通の魔石は換金で構わないな。俺的に欲しいのはクルーエルキュクロープの魔石だけかなぁ。で、分配ってどうするんだ?
「むふー。それぞれが欲しい物を言って、かぶったら……普通はダイスかなー」
ダイス? なんだろう。サイコロを振って決めるとかなんだろうか。サイコロがあるのか? これも俺に分かるように翻訳されているだけで何かの謎儀式なのかもしれないけどさ。
「むふー。では私は叡智のサークレットが欲しいなー」
「では、私は鬼神の小手を」
ま、そうなるよね。戦力的にも、分担的にもさ。となると俺は残り物でいいかな。
『自分はクルーエルキュクロープの魔石を』
魔石だけでも充分です。だってさ、明日、俺を待っている、槍の為に、魔石が欲しいんだもんッ!
「魔石だけでいいんですかー!?」
え、そこ、驚くところなの?
「むふー。仕方ないですねー。この大盾も持っていってください」
「うむ。ラン殿、遠慮は良くないぞ」
あ、はい。なんだか、俺だけオマケを貰った形になっちゃったんだけど……。と、後は換金か。
さあ、換金所へいざゆかん。




