2-96 世界樹中層
―1―
ふぅ。なんとか勝てた。次を考えない全力戦闘でコレか。次に同じレベルの魔獣が出てきたら逃げるしかないなぁ。
いやでもさ、コレに勝てるなんて――俺、いや俺たちって凄くないか。これがゲームならステータスやレベル差で絶対に勝てない相手だよなぁ。これは数値だけに左右されない現実だからこそ勝てたってとこか。
そうだ、経験値とMSPを確認しよう。経験値は……ぶふぉ。現EXPが4524だと。1匹で3552も増えたのか。って割る3だから、1匹で10656も持っているってコトか。おいおい、コイツを乱獲したらすぐにレベルアップ出来るんじゃね。って、まぁ全力戦闘でなんとか勝てる――いつ負けてもおかしく無い相手を乱獲なんてしたくはないんですけどね。それに復活するかどうかも分からないし……。
と、MSPは……8も増えてる。こちらも割る3だから24かよ。なんというか、インフレが酷くないですかねー。ボス扱いだから多いのかなぁ。だってさ、転移装置がこいつの前にあるとか、絶対に狙っているよね。この迷宮を作った迷宮王ってヤツは、この迷宮をゲームみたいにしたかったんだろうか。
見るとシロネさんが単眼巨人の体から魔石を取り出していた。そういえば解体のスキルを持っているんだったか。にしてもアイテムの分配をどうしよう。魔石なんて公平に分配出来ないし……売却してそれを分けるってのが筋なんだろうけど、こんなレアぽい魔石を売りたくないんだよなぁ。うーん、後でみんなと相談しよう。
シロネさんに先へ進むか相談する為に声をかけようとしたが、彼女は――魔石を取り出し手持ち無沙汰になったのか――懐からペンダント? のような物を取り出し、なでていた。なんというか無意識の行動ぽいなぁ。声をかけるか悩むところだ。
「ラン殿、ここで一度休憩を取らないか?」
そこでミカンさんから俺に声がかかる。
ふむ、そろそろお昼ご飯にしようか。
―2―
さて、食事だ。迷宮内ということもあり、簡易な食事になりそうだな。
「むふー。あー、食事的な感じなんだねー」
単眼巨人の死体の目の前で食事というのは食欲が失せるので、死体から離れ、壁際、外周部で食事を、ということになった。
シロネさんが魔法の袋から次々と食べ物を出していく。果物ぽい物、野菜ぽい物中心だが、4種類ほどあった。肉類は……無いな。というか、4種類って、4種類って、そんな物に魔法の袋の枠を取るとか勿体ない事ないか? ありえねぇー。
「食事は大事だよねー。もうクリエイトフードは嫌なのです」
あー、そういえば落とし穴の下でクリエイトフードで生活していたんだったな。そりゃあ、美味しい物が食べたくなるよな。
ミカンさんも干し魚を取り出し食べている。はむはむと眼を輝かせて食べている。この娘はホント、嬉しそうに食事をするな。
シロネさんも果物や野菜を優雅にお上品に食べていた。いや、あの、もうちょっと早く食べましょうよ。ここで時間を潰すわけには……って、ああ、もうね。ふぅ、俺も食事にしよう。
俺はグリーンヴァイパーの素焼きを取り出す。さあ、魚醤くん、君の出番だ。素焼きに魚醤を垂らす。もしゃもしゃ、うん魚醤の塩味が利いて最高に美味い。焼き鳥みたいな感じだから醤油系は微妙かと思ったけど意外といけるんだよなー。本当はタレみたいな甘みが欲しいんだけどね。これはこれで。うん、飽きない味です。
とシロネさんがぼーっと俺を見ていた。な、何?
「星獣様って普通に食事をするんだねー」
いやいや、食事をしないと死んじゃうでしょ。俺も普通にお腹が空くんだぜ。
食事タイムも終わり、出発である。さあ、黙々と外周部分を登りますか。
終わりが見えないくらい長い螺旋階段を登っていく。階段状の坂というのが意外とキツい。段差があるから結構疲れるんだよなぁ。更にこのエリアは単眼巨人との戦いだけで終わりだと思っていたのにさ、なんで普通に魔獣も出てくるんだよ。ホント、坂道を駆け上がる選択をしなくて良かった。
現れたマイコニドをスキル《百花繚乱》で粉々にしたり、降ってきたアッヒルデをミカンさんが《一閃》したり、毒を吐きかけてくるポイズンワームを俺が身を盾にして防いだり、道幅が狭い分大変である。
新たな魔獣は現れず、出てくるのはマイコニドにアッヒルデにポイズンワームと――後はヴァインも居たな――もうね、なんというか、この世界樹の迷宮の復習みたいな内容だ。しかし、今更それらの魔獣に苦戦するような要素はなく、面倒なだけでサクサクと登っていく。まぁ、いくら雑魚だと言っても戦闘すれば疲れるし集中力も切れていくんですけどね。ホント、キツい。
もう、無理と思うくらいに階段を上ったところで、また広間に到着した。外壁部だと思っていたのは中央の仕切り部分だったようで空間が更に大きく広がる。そしてその広間には上に上がる為の道がなかった。
―3―
「これは……」
ここから先、どうやって登るんだ? と思うべき所なんだろうが、俺にはある物が見えていた。
上を見上げる。そう空中に足場が浮いていたのだー。なんだコレ。どういった力で浮いているのか分からないが、確かに空中に浮いている。更にその浮いた足場が一定のリズムで動いていた。アクションゲームかよッ! って思うところなのかも知れないが、こういったのが現実になると非常に恐ろしいな。高所を動く足場から足場へ飛び移るとか常識的じゃない。だって落ちたら怪我をするか、最悪死ぬんだぜ? 一応、足場は一定のリズムで動いているように見えるけど、常にそうだとは限らないしな。こんなのまともな神経をしていたら進めない。
こんなの空でも飛べないと無理だ。まぁ、俺は浮遊が使えるから、最悪、浮遊でなんとか出来るかも知れないけれどミカンさんとシロネさんがなぁ。
俺は二人を見る。二人とも驚くほどに怖い表情で浮いている足場を見ている。二人もここら先の移動方法を理解したようだな。
はぁ……。ここに転送装置があっても罰は当たらないよなって気分です、はい。
「ここを進むのか?」
ミカンさんの不安げな声。はい、気持ちは良くわかります。ホント、この迷宮を作った人間? は正気じゃない。
ふぅ。二人の重さはどれくらいだろうかな。二人とも持って運べるかなー。前回の時にシロネさん一人なら背中へ乗っけて運ぶことも出来たが、ミカンさんもいけるかな。それとも一人ずつ運ぶか? いや、頂上がどれくらいか分からないし二人一緒に運ばないと。よし、気合いを入れよう。
『二人とも聞いて欲しい』
二人がこちらを見る。
『自分が魔法糸を使って登るので、二人は自分の背中に掴まって欲しい』
「むふー。大丈夫なのかなー」
た、多分。
「わかりました。この命、預けます」
う、うむ。任せろ。
――《魔法糸》――
魔法糸を出し、二人の体に結びつける。これが命綱の変わりだな。二人が背中から俺の首部分へ手を回す。二人の重さが俺にのしかかる。あー、これ、本当なら嬉しいシチュエーションだよね。俺はなんで芋虫なんだ……。まぁ、芋虫型モンスターだからこそ、ここを登れると言えるんだけどさ。にしてもシロネさんはまだしも、ミカンさんが意外と重い。やなり戦士系職業だし、鍛えているから――筋肉の重さだろうか。うーん、本人の前では絶対に言えないなぁ。言ったら月光で斬られそうだ。
――《魔法糸》――
魔法糸を飛ばし動く足場へ。そのまま糸を縮め足場の上へ。動く足場に乗ったら、また次の足場へ魔法糸を飛ばし乗り移る。よし、いける。どんどん進もう。どんどん進まないと二人の重さで俺が潰れちゃいそうだしね。
動く足場の上を飛び進んでいると中央に大きな浮島が見えてきた。あれが目的地かな。にしても魔獣とかが現れなくて良かった。そういえば、この部分って俺が外周を登った時にも魔獣が出なかったエリアじゃなかろうか。外周を登った時に魔獣に襲われない、姿を見ないってのは今考えてもおかしかったもんな。なんだろうな。もしかして、この動く足場か? ふと思いついたんだけど、この足場を動かしている謎装置と魔獣が出ないことが関係しているのかもしれない。うーん、なぜだか分からないが正しい気がする。
と、中央の島に到着っと。ふぅ、疲れた。俺の背中に抱きついてた二人も背中から降りる。
浮島の中央にはガラスシリンダーのような物が遙か上空、遠くまで伸びており、それを囲むように4つの箱があった。竜の描かれた台座もある。よっしゃ、これで一時帰還することが出来るぞ。
4つ並べられた箱を見る。箱の一つは開けられており中身は空っぽだったが、残りの3つはそのままの状態だ。
にしても透明なシリンダーって、どうよ。これガラスぽい感じだよな。シリンダーには透明な扉が付いており、中に入れるようだ。これってさ、間違いなくエレベーターだよな。SFとかで出てきそうな近未来的なエレベーターだよな。なんだコレ。超古代文明とか、そんな感じなのか。
どう考えてもコレに乗るとラスボス戦だよなぁ。世界樹の迷宮のラストに到着って匂いがぷんぷんする。うん、このまま進むのは危険過ぎる。
さあて。




