2-95 世界樹中層
―1―
さて、どうしようか。目の前には超巨大な一つ目巨人。ホント、どうしよう。
鎖に繋がれて動かない巨人の前で待っているとミカンさんとシロネさんがやって来た。おそよう。
「こ、これは!?」
しーっ。気付かれちゃうでしょうが。
「むふー。もしかしてキュクロープ? にしてはサイズが」
全てが大きなこの異世界でも異常なサイズなのか。うーん、鑑定してみようかなー。でも、鑑定によって気付かれて襲われたら洒落にならないんだよなぁ。よし、戦闘になったら鑑定しよう。
ということで作戦タイムだ。
「で、ランちゃんさんはどうしたいのかなー?」
む。何故、俺に聞くのだ。
「ランちゃんさんが、このパーティのリーダーでしょ」
むむむ。俺がリーダーで……いいのか?
『意見を聞きたい』
むふーさんが手を挙げる。
「私は戦うべきだと思うなー」
「む。危険過ぎないだろうか?」
ミカンさんは戦うべきじゃないと思っているのかな。
「私が戦うべきだと思った理由、その1。キュクロープが恐ろしく凶暴な魔獣だってこと。見つかれば戦いを回避することは出来ないからねー。先手を取った方が有利ですよね」
うーん、種族的に凶暴なのかも知れないけど、この巨大なキュクロープも凶暴とは限らないからなぁ。対話出来るかもしれないんだぜ?
「戦うべきだと思った理由その2。地形的な問題だねー。上に上がるには外周の坂を登っていくしかないですよねー」
ふむふむ。
「登っている途中であのサイズのキュクロープに襲われたら逃げられないですよねー」
確かに坂道の途中からなぎ払われるように襲われたら逃げ道が無いな。うん、危険だ。でもさ、やはり襲われる前提なんだな。さてミカンさんは?
「む。私はラン殿の意見に従おう。どちらにしても全力を尽くすのみ」
う、うーん。
戦闘を回避して外周を駆け上がる。戦うと決めて先手を打つ。やはり、そのどちらかになるか。よし、決めた。
『一応、戦う方向で。まずは自分が近づこう。そして攻撃してくる兆しがあれば全員で攻撃だな』
近寄ってみても攻撃してくる気配が無ければ平和裏に終わるな。わかんないじゃん、ここで超巨大キュクロープ君が仲間になって、彼の力でダンジョン制覇みたいな感じになるかもしれないじゃん。
「むふー。手ぬるい気もしますが了解ですー。戦闘になったら私はこのダガーに土属性の魔法を付与して体を駆け上がり目を潰しますねー」
シロネさんオッケー。ミカンさんは、っと。そうだなー、魔法攻撃の手段が多ければ《疾風陣》で頑張って貰うトコなんだけどなぁ。
「うむ。では私は《隼陣》でシロネ殿が駆け上がるのを補助しよう」
『自分は弓で目を狙い、その後は槍で足を削ろう』
作戦、決定。皆が頷く。
では、行きますかッ!
―2―
俺は両手足を鎖に繋がれた一つ目巨人の前へ歩いて行く。だらりと垂れ下がった鎖は壁面まで伸びており、外周を登る際に壊すことも出来そうだった。
眠っているように動かなかった一つ目巨人が、俺に気付いたのかゆっくりと顔をこちらへ向ける。
『こんにちは』
とりあえず挨拶してみた。その瞬間、一つ目巨人が暴れ出した。……やばい!?
ぐおぉぉ、と大きな声で叫びだし、手足の鎖を引きちぎろうと大きく暴れ出す。こ、これは!?
「行きます」
ミカンさんとシロネさん二人の行動は早かった。
――《隼陣》――
ミカンさんの陣効果により体が軽くなる。今なら空でも飛べそうな気分だ。それに合わせてシロネさんも一つ目巨人へと駆け出している。と、俺も戦闘に参加しないと……その前に鑑定だけはしておくか。
【種族:クルーエルキュクロープ】
……名前付きでは無いか。まぁ、なんというか、普通に魔獣扱いだな。
――《集中》――
俺は一つ目巨人の単眼に狙いを定める。距離は200メートルくらいか? 結構な距離がある。俺のこのコンポジットボウで届くか心配になるな。
残っていた最後の爆裂の矢をコンポジットボウに番える。サイドアーム・ナラカで弓を引き絞り、放つ。喰らえ。
単眼目掛けて飛んでいく爆裂の矢。それに気付いた単眼巨人が直撃を避けようと左手を眼の前へ。爆裂の矢は左掌に当たり、爆発する。その爆発により単眼巨人の左手首から先が吹っ飛んでいた。おー、良い威力だ。さすがに高いだけのことはある。
単眼巨人は無くなった左手を見て叫び声を上げる。単眼巨人の叫び声に体が震える。くっ、動け。気合いだーーーッ!
さ、さあ、もう一射だ。俺は鉄の矢を番え放つ。しかし距離がありすぎる為か巨人の単眼を狙った矢は大きな弧を描き、体に当たってはね飛ばされていた。矢で攻撃するには足下からじゃないと距離的に厳しいな。
俺は掛け出し単眼巨人へと近づく。
――《チャージアロー》――
単眼巨人の足下まで近づき、そこで鉄の矢に光を溜める。単眼巨人は左手首を右手で押さえ込んで動こうとしない。今がチャンスか?
喰らえッ!
光り輝く矢が単眼へ。見るとシロネさんも両手にダガーを持った状態で器用に巨人の体を駆け上がっていた。光り輝く矢が単眼に刺さる。もう一射ッ! 更に単眼へと鉄の矢を放つ。
――[アースウェポン]――
シロネさんの魔法により真銀のダガーが橙色に染まる。ほー、付与魔法って、あんな感じなのね。俺でも出来るかなー。いや、ここは『やってやるぜー』的な場面だね。
にしてもシロネさんはよく単眼巨人の体を器用に駆け上がれるな。単眼巨人がその場から動いていないとはいえ、上半身はかなり激しく動いているのにな。
シロネさんが単眼巨人の首に到達し、首を一斬り、すると単眼巨人の動きが目に見えて鈍くなった。そのまま禿げた頭の上に登り、そこから両手に持ったダガーを単眼へ突き刺していた。
俺も遊んでいられない。次々と単眼目掛けて矢を放つ。何本かの矢は振り回された右手によって弾き飛ばされる。更に俺を踏みつぶそうと巨大な足が迫る。視界の上半分が真っ赤に染まる。やっべ。
――《魔法糸》――
俺は魔法糸を後方へ飛ばし大きく距離を取る。この距離だと矢を届かせるのは難しいか。ミカンさんも巨人の踏みつぶし攻撃を器用に回避し、そのたびに単眼巨人の足に切り傷を付けていた。くそ、この単眼巨人てば意外と動作が速いんだよなぁ。これ、《隼陣》の効果が切れたらやばいんじゃないか。
―3―
鉄の矢が切れた為、コンポジットボウからホワイトランスに持ち替える。サイドアーム・ナラカにホワイトランスを、右手に鋼の槍を。単眼巨人の踏みつぶしをギリギリで回避し槍での一撃を加える。
俺とミカンさんはチクチクと足を攻撃する。シロネさんは禿げ頭の上からダガーでざくざくと攻撃。しかし、なんつう耐久力だ。
と、そこで急に体が重くなった。あ、もしかして《隼陣》の効果が切れたか。やっべ。
迫る単眼巨人の足。視界の上半分が真っ赤に染まる。このままだと回避することは出来ない。
――《魔法糸》――
俺は魔法糸を飛ばし後方へ。更にッ!
――《魔法糸》――
もういっちょー。動きが鈍くなったミカンさんに魔法糸を飛ばし、そのままミカンさんを回収。あのまま足下に居たら二人とも踏みつぶされていたな。にしても《隼陣》の効果時間中に倒しきれなかったか。
頭にとりついていたシロネさんの方を見る。今まで単眼巨人の右手を器用に躱していたシロネさんの動きが目に見えて鈍くなっている。やばい。更に単眼巨人の吹き飛ばしたはずの左手が煙を上げて生えてきていた。再生持ちかよッ!
『シロネ! 飛び降りろッ!』
俺は念話を飛ばす。俺の言葉にシロネさんが飛び降りる。
――《魔法糸》――
魔法糸を飛び降りたシロネさんに飛ばし回収する。魔法糸によって、こちらへ飛んできたシロネさんはミカンさんが受け取る。ナイスキャッチ。抱きかかえ、そのままお姫様だっこである。シロネさんの方がミカンさんよりも体が大きいから、なんだか変な感じだな。
にしても仕切り直しか。
「むふー。ミカンちゃん、降ろしてください」
「う、うむ」
さてどうする。
「攻撃は効いています。もう少しで倒せそうな気がするんですよねー」
ホントに?
「む。では私の《屠竜陣》にて最後の突撃を」
陣を使っちゃうとミカンさん自身の攻撃スキルに頼れなくなるのがなぁ。それに《隼陣》の無い状態で単眼巨人の攻撃を回避し続ける自信は無いぞ。シロネさんなんか、絶対にアウトだし。
「私は攻撃魔法でなんとかするね」
よし行くか。考えている暇は無いしな。
――《屠竜陣》――
ミカンさんを中心に地面から周囲に光が広がる。にしても俺も武器に魔法を宿らせることが出来ないのかな。単眼巨人の動きが鈍っていたのってシロネさんのアースウェポンの効果だよな。あんな感じで俺も出来ないのかな。せっかく魔法付与が出来る槍があるっていうのにさ。あんな感じで。あんな感じで……行けるか? なんとなく出来そうなイメージがまとまってきた。よし、やってやろう。
俺は単眼巨人の足下へ駆け出す。ミカンさんも俺の後を付いてくる。俺たちの上へ巨人の足が――二手に分かれ巨人の踏みつけを回避する。よし、ここだぁッ!
【[アイスウェポン]の魔法が発現しました】
――[アイスウェポン]――
サイドアーム・ナラカに持たせたホワイトランスが氷に覆われていく。良しッ! 出来た。俺ってば、逆境に……ピンチに強いんだぜッ!
ここはこのスキルしかないなッ!
――《百花繚乱》――
氷に覆われた槍が単眼巨人の足を削っていく。穂先が見えないほどの高速突き。槍が刺さる度に血が飛び、血の花が咲いていく。削れ削れーッ!
足を削っている俺の元へ単眼巨人の右拳が飛んでくる。
――[バインドウィップ]――
シロネさんの魔法。蔓草が伸び巨人の右拳を拘束する。ギチギチと蔓草が悲鳴を上げる。その拳の前に飛び出したミカンさんが手に持った刀で拳を斬り裂いていく。
俺は二人に守られ、足を突き、突き、突き、血の花を咲かせていく。超巨大な単眼巨人が俺の攻撃に耐えきれず崩れ落ちる。俺とミカンさんは後方へ跳び崩れ落ちてきた巨人を回避する。そして顔面、単眼の前へッ!
――《Wスパイラルチャージ》――
氷を纏った槍が、手に持った槍が、双つの螺旋を描く。二つの螺旋が絡み合い単眼巨人の目を貫き、砕き、削っていく。
『次ッ!』
俺のスキルが終わったのを見計らい、ミカンさんが《屠竜陣》を解除する。それを確認し、俺は後ろへ飛ぶ。
俺が離れたのを確認し、次にミカンさんが単眼巨人の顔面へ飛び込む。
――《月光》――
ミカンさんの攻撃スキル。カチンという音ともにミカンさんがこちらを向く。その瞬間、単眼巨人の顔面は斬り裂かれ大きく血を飛ばしていた。
崩れ落ちた単眼巨人がこちらへと左手を伸ばし、そのまま動きを止めた。
5月6日追加
【[アイスウェポン]の魔法が発現しました】
魔法の発現システムメッセージを追加しました。