2-92 流浪
―1―
スイロウの里まで歩いて帰る。とぼとぼとぼ。
俺やミカンさんの歩く速度に比べるとシロネさんの歩く速度は少しだけ遅く、ともすれば遅れがちだった。これも敏捷補正の差だろうか。出会った当初だったならばシロネさんの方が歩く速度は俺より速かったんだろうけどね。
スイロウの里に戻り、門番さんに挨拶をして里の中へ。その時、門番の人がシロネさんに頭を下げていた。シロネさんって里では有名な人なのかな。
大通りを抜け冒険者ギルドへ向かおうとすると、大通りの前に沢山の人だかりがあった。沢山の人、人、人。ただ、それらの人々はこれから帰路につくようで人の山が時間と共に減っていく。うん、何かの集会でもあったんだろうか。ちょっと聞いてみたいな。
「すまない、これは何があったのだろうか?」
ミカンさんが気を利かせて俺の代わりに聞いてくれる。なーいす。
「ああ、これかい」
村人Aが答えてくれる。いやまぁ、里だから里人Aか。まぁ、なんというか、この里に居る普通の森人族の若者だね。
「先程まで流浪の治癒術士様が居たんだよ」
なんだ? 流浪の治癒術士? 治癒術士はクラスかな。
「流浪の治癒術士様を知らない? まぁ、流浪の治癒術士様が姿を現されたのが1年くらい前だからな、知らない者もいるか……」
ふむふむ、で?
「その1年前からな、各里を巡って病気や怪我を無償で治療してくれていたんだよ」
無償で治療ねぇ……。タダより高いモノは無いって言葉もあるんだけどなー。
「何でも水の特級魔法まで使えるとかでなー」
特級魔法か。火の特級魔法なら喰らったこと、あるぜ?
「その流浪の治癒術士様がこの大森林から大陸に渡られるってことで、このスイロウの里に挨拶に来てくれていたんだよ!」
へー、それで人が集まっていたのか。まぁ、解散して皆々が帰るところってことは、その流浪の治癒術士様ってのは、もうこの里には居ないんだろうな。うーん、ちょっと会ってみたかったな。
ま、大陸に渡ったってことだからさ、俺が今後、大陸に渡った時に出会うことがあるかもしれんね。
―2―
「むふー。ところでランちゃんさん、お願いがあるんだけど良いかなー」
はいはい、何でしょうか。
「明日も世界樹に向かうのかな?」
一応、俺はその予定だな。まぁ、朝に買い物をして準備してからってことになるだろうけどさ。
「もし良かったら明日の世界樹攻略に私も参加させて貰えないかなー?」
む。むむむ。シロネさんの戦力は未知数だけど、単独で中層に上がっていたくらいだから悪くは無いと思う……んだが、経験値とMSPが3分の1になるのはなぁ。ちょっとなー。うーん。
「ラン殿、私は一応賛成だな」
む。ソロ仲間のミカンさんが賛成とは……ちなみにどういった理由で?
「シロネ殿は狩人のクラスとサブに探求士のクラスをお持ちだ。中層に上がってみて思ったのだが、ラン殿の言うようなトラップだらけと言うことならば、彼女の力は助けになると思うのだ」
ふむー。
「何なら、荷物持ちでもいいよー」
シロネさんはそう言って腰に付けている魔法の袋を指差している。
『わかった』
まぁ、ここまで言われて断ることは出来ないよなぁ。にしても最初はパーティに加入すること自体を嫌がっていたのに、どうして急に仲間へ入りたがったんだろう? どういう心境の変化が……。
『ところでパーティだが』
「むふー。このままでいいよー。また組み直すのも面倒だしねー」
ふむ。じゃ、まぁ、このままで。
「じゃあ、また明日ー」
そう言ってシロネさんは何処かへと帰って行った。って、合流時間も合流場所も決めてないじゃんッ! どうすんだよッ!
「まぁ、まぁ、ラン殿。彼女の家なら私が知っている。明日、準備が出来たら彼女の家に行こう」
へ? ミカンさんてば、彼女の家を知っているの? 顔見知りだったのか? うーん、よく分からないな。
―3―
冒険者ギルドで完了札を受け取り、換金所へ。
「あ、はい。換金ですね」
ソルジャー・ビー達の討伐
クエスト報酬:3840円(銅貨6枚)
追加報酬:3200円(銅貨5枚)
ソルジャーの甲殻:
2560円(銅貨4枚)×8=20480円(銀貨4枚)
エリートの剣:
1280円(銅貨2枚)×3=3840円(銅貨6枚)
エリートの甲殻:
2560円(銅貨4枚)×3=7680円(銀貨1枚、銅貨4枚)
エリートの顎:
2560円(銅貨4枚)×3=7680円(銀貨1枚、銅貨4枚)
クィーンの指示杖:2560円(銅貨4枚)
クィーンの甲殻:5120円(銀貨1枚)
クィーンの顎:5120円(銀貨1枚)
素材の傷み:▲1280円(銅貨2枚)
ウッドゴーレムの動力核:10240円(銀貨2枚)
獲得GP:+10(総計152)
合計:68480円(小金貨1枚、銀貨5枚、銅貨3枚)
うん、良い金額だ。べりーぐっど。さあ、報酬をミカンさんと折半するかな。
「ラン殿、私はこれだけでよい。私が捨てるつもりだった素材を運んだのはラン殿だから」
そう言って、ミカンさんは銀貨5枚と銅貨3枚の報酬だけを受け取っていた。うーむ、逆にちょっと申し訳ないけど、気持ちは素直に貰っておくかな。ということで今回の報酬は小金貨1枚です。
さ、では道場に帰るとするか。晩ご飯の内容如何によっては食堂に行こう、そうしよう。