2-90 世界樹中層
―1―
さあ、中層です。
「ところでラン殿、そろそろ一度休憩を入れないか?」
あー、確かに。言われてみればお腹が空いてきたし、休憩したいな。
「にしても、このようなところがあったとは……」
そうそう、驚いたでしょ?
「しかしだ、ラン殿。知っていたのならば次からは事前に教えて欲しい。私にも準備があるのだ」
……。
あー、うー。ごめんなさい。驚かせようって考えだけが先行して、ミカンさんのことを考えてなかったなぁ。うん、これは俺の悪いところだ……。直そうとは思っているんだけど、くっ。
ま、まぁ、気を取り直して、と、とりあえず食事だ。う、うん、俺は世界樹の葉っぱをもしゃもしゃしよう。
辺りに魔獣が居ないコトを確認して大きな葉っぱの上で休憩する。
見るとミカンさんは腰に付けていた魔法の袋ぽいモノから魚の干物のようなモノを取り出して齧っていた。……魚、好きなのか? 干し肉とかではないんだな。
俺は足下の葉っぱを囓るのだ。もしゃもしゃ。うん、相変わらず美味しい。そうだ、ミカンさんも食べるかな。俺は齧り取った葉っぱを口から出す。って、よく考えたら、一度口の中に入れた物を上げるのは……うん、さすがにな。よし、これは非常食として俺のショルダーバッグの中に入れておこう。
もしゃもしゃ、ごっくん。皮の水袋から水分も補給したし、さぁ、行くか。
―2―
葉っぱと枝の上を歩き、うろの中へ。
薄暗い迷宮の中を進む。って、またランタンを買い忘れていたッ! するとミカンさんが腰の魔法の袋ぽいモノからランタンぽいものを出してくれた。
ミカンさんが先程の蜂から手に入れた分と思われる魔石をランタンの中に入れる。するとランタンからほのかな灯りがあふれ出た。あー、なんというか、準備不足ばかりですいません。にしてもミカンさんもかなり軽装だとは思ったけど、しっかりと魔法の袋を用意していたのね。どれくらい入る魔法の袋なんだろうか?
「あ、はい、袋ですか。う、うむ、すまない。パーティなのだから情報を共有しないと……今までソロ中心だった為、そこまで気が回っていなかった」
う、うむ。というかそこまで畏まられると興味本位で聞いただけだったのががが。
「この魔法のポーチはMサイズが4個まで入り、今は魚の干物と魔法のランタン、皮の水袋を入れている」
ふむふむ。ということは俺の方も情報を公開しておくべきか。にしてもMサイズが4個も入る魔法のポーチってのは羨ましいなぁ。しかし、その中を食べ物や水で埋めてしまうのはどうなんだろうなぁ。まぁ、今回は準備不足ということだし、それでなのかもなぁ
俺の持ち物に関しては迷宮を進みながら説明しよう。と言っても、何も無いんだけどね。
ミカンさんが手に持っている魔法のランタンから発するほのかな灯りの中、迷宮を進んで行く。すると周囲の木壁に石壁が混ざってくる。木の壁と建物が融合したかのような不思議な光景だ。
『ミカン殿、ここら先は自分が先行しよう』
ここから先は罠だらけだからな。俺が先行して教えながら進まないと……。
『ミカン殿、そこは踏まないように』
俺は罠に注意しながらゆっくりと歩いて行く。俺のすぐ後ろに居るミカンさんが道を照らしてくれているので灯りに困ることは無い。と、これ、戦闘になった時がやばくないか。俺は線で罠が見えているから大丈夫だけど、何処に罠があるか分からないミカンさんだと戦闘の途中にうっかり罠を発動してしまった、なんてなったら洒落にならないぞ。
前回、来た時にブルーバットとは遭遇しているから、ブルーバットが居ることだけは確定なんだよなぁ。
ある程度歩いていると登りのはしごが架かっている少し広めの部屋に出た。魔獣は出なかったか、うん、この迷宮もそこまで鬼畜じゃないってことか。
「ラン殿……」
ああ、見えている。はしごの前にあるのは竜の紋章が描かれた台座だった。よし、中間地点。本来はかなり難易度が高いエリアなんだろうが、罠が見えている俺なら楽勝楽勝っと。さあ、進むか……って、うん? 何か違和感が。
『待った』
はしごへ向かおうとしていたミカンさんを止める。
――《魔法糸》――
魔法糸をはしごの前の地面に飛ばす。すると魔法糸が地面をすり抜けた。やっぱりか。最後の最後で幻の床とは……嫌らしいな。罠だらけの道を進んで、やっとゴールだ、と油断したところにコレか、この迷宮を作った人間は絶対に性格が悪いぜ。
嫌な予感がして確かめてみてよかった。罠の線は見えても幻の床までは見えなかったしなぁ。隠し扉とは違う扱いだから表示されないんだろうか。
『ミカン殿』
俺の言葉にミカンさんが頷く。俺たちは手に持った武器で足下を叩き、確認しながら進む。まぁ、俺の場合、落下したとしても魔法糸を飛ばして這い上がれば大丈夫なんだけどね。
と、足下を確認しながら進んでいると、「おーい」という字幕が見えた。うん? これ、見間違いじゃないよな。
『ミカン殿、ちょっと待ってもらっても良いか?』
俺の言葉にミカンさんが足を止める。
『誰か居るのか!?』
俺は念話を飛ばしてみる。
……。
…………。
うーん、返事が無いな。さっき表示されたと思った字幕は見間違いだったのか? こういう時にバックログが無いのは不便だなぁ。
この下に落ちた人でも居るのかと思ったが……。にしても、穴の中がどうなっているか分からないけれど、この下で生き延びることなんて可能なのか?
うーん、勘違いなら、それはそれで別に構わないが、実際に、この下に人が居た時がなぁ。
――《魔法糸》――
俺は穴の下へと魔法糸を飛ばす。こうやって少しだけ待ってみるか。まぁ、こんな何時、魔獣に襲われるか分からない迷宮の中に余り長居も出来ないし、少し待って何も無ければ糸を垂らした状態で床にくっつけて放置して進むか。
少し待ってみたが何も起こらなかった。うん、進むか。
『すまない、ミカン殿。先を進もうか』
と言っても今日は準備も中途半端だし、台座に触れて帰還かな。
ミカンさんと二人で足下を確認しながら台座の元へ。よし、ゴールっと。さあ、今日は帰るかな。
「ラン殿、アレを」
ミカンさんが俺の後ろを、さっき通ってきた道を指差す。
俺が掛けた魔法糸が揺れていた。ま、まさか誰か登ってきているのか?