06:お兄ちゃんの家へ
ユウは気が付くと、車の後部座席に横になって寝かせられていました。
車は走っているようでした。エンジンとクーラーの騒音。ユウは一度目を瞑って、しかしすぐにまた目を開きました。窓の外は、相変わらずの青空一色。ハケで丁寧に塗り潰されたような一面。窓枠がカンバスのように見え、ボウッと眺めていると、偶然に白い飛行機雲が、一枚絵を分割するように、やや斜めに、下から上へと白い線が引かれていきました。線は、車が進むと共に右へと流れていって、あたかも幕が引かれているようにも見えました。空の青さが、やや少しずつ黄色みを増してきたのです。
ユウはムクリと体を起こしました。足を下におろして、座席に真っ直ぐに座りました。
「ユウ、起きた?」
お母さんが助手席から振り向きました。
「熱射病だよ、お茶飲む?」
「ウン……ちょうだい」
ユウの喉はカラカラで、口の中が粘ついていました。お母さんは足元に置いてあった水筒を取って、一杯軽く注ぐと、こぼれないように両手で添えて渡しました。
「ありがとう」、ユウは一気に傾けて飲み干し、「もう一杯欲しい」とコップをすぐ返しました。
「ユウ、先に家に帰るからな」、お父さんが、前を向いて運転しながら、ユウに訊ねました。
「どうして?」
湖に行った後は、お兄ちゃんの家へ向う予定でした。
「お前は体、辛いだろう」
「ユウ、一旦家に帰ろうね」、お母さんが合わせて頷きました。
「ウウン、行く」、ユウははっきりとそう言いました。
「ユウ、倒れたんだから、無理は駄目よ。先に帰って横になってなさい」
「ウウン、行きたい」
ユウはただ頑固にそう言って、プイと窓の方へ目を向けました。空はさっきよりさらに赤みを増して、もう夕方の時間です。車は、村一番の大通りを通っていて、ここでは多少なりの交通量があります。
「ユウ、ずっと眠っていたけど、さっき病院に寄ったのよ。熱射病で、静かに寝ているようにって。だから、帰ろうね」
「だって、あたしが行かないのは、駄目だと思う」
「また今度行くようにすればいいじゃない」
「でも、お母さん、大切なことだから行かなくちゃ駄目って言ってたでしょ」
「大丈夫よ、お兄ちゃんのお母さんには、ちゃんと説明しておくわ」
「行く、絶対行くの」
頑とした態度に、お母さんはため息をついて、お父さんの方を見ました。お父さんは片手で頭を掻いて、「分かったよ、じゃあユウも行こう」としぶしぶ頷きました。