02:宇宙を飛ぶ
下まで降りて、ユウはどこに行ったとあちこち目を流すと……ユウが宙に浮いています。
「エッ……」
ユウの頭のずっと上の方に星、ユウの下の足元の方にも……星。星空に囲まれて、空を飛んでいます。
しかし、少しユウの方に近付いたら、すぐに分かりました。ユウは桟橋の上に立っていたのです。木の桟橋は随分と古くてボロボロで、きっと水アカのせいでしょう、表面が黒く変色し、やはりこれも闇に溶けて見えなかったのです。湖の中に突き出た黒い桟橋の先に、ユウが立っていたのです。
「空を飛んでるみたいに見えない?」
そう言ってユウは嬉しそうにはしゃいで、その場でクルクルと回ったり、片足でつま先で立ったり、踊り出しました。右に左にステップを踏めば星々の間を軽やかに飛んで渡り歩くよう……手のひらを上に向けて掲げれば星粒をその手に受けて掴んでいるようです。ユウは決して踊りは上手くなく、時々踏み足を違えてよろめいたり、手の動きが変だったり、でもとても楽しそうに……段々と動きが激しく大胆になっていきました。
ハッと気付きました。そして手で口の前に筒を作って叫ぼうとした時、ユウの姿が黒い宇宙の底に吸い込まれました。ユウがいたのは、真っ暗でよく見えない、水垢で滑る桟橋の上でした。
「ユウ!」、言葉と体は、無意識のうちに動きました。自分まで下手に落ちないようにと、僅かな星の光を頼りに、滑らないようにひと踏みひと踏みしっかり踏みしめながら、桟橋の端までひた走り、そのまま飛び出して『宇宙』の中へと飛び込みました。
黒い空間が激しく歪み、波が大きく立ちました。ブクブクと泡が無数に立ち、どっちが上でどっちが下なのか……方向感覚が全く無くなる黒い宇宙空間。
ユウの記憶の隅に微かに、腕に、宇宙の冷たさとは違う温かさを感じたのを覚えているばかりでした。