10:想う者たち
坂を上って、上から湖を一望しました。空には山のような大きい入道雲。今日も湖は、青い空を色濃く映しています。どこまでも底無しのような青。
桟橋の辺りを見ると、そこに誰かがいるのが見えます。その人はしゃがんでお祈りをしているようで、しばらく微動だにせず頭を下げていました。やがて立ち上がり、一度か二度、振り返ったりして、こちらへの坂を上ってきました。
その人はユウたちより何歳も年上のようでした。薄くても綺麗に化粧した髪の長い女性で、凛とした落ち着いた佇まいの美しい人で、ちょうどすれ違う時、ユウたちを見て丁寧に会釈しました。二人もそれに合わせて頭を下げました。
「すっごい美人じゃない? 誰だろう」
女性が行ってしまって、ヨシコがため息混じりに言いました。
「あのお兄ちゃんと同じくらいの歳の人だよね、友達かな」
ユウは下げて持っていた花束を、胸元へと持っていきました。言い知れぬ恐ろしさを感じ始めました。あの人が……お兄ちゃんの親しい人なのか、好きな人か、あるいはもしかして単に身内だとか。どちらにしても、あの人の表情、あの人の姿、それらがフラッシュの光ように、ユウの頭の中に何度も光って、意識に深く焼きついてきます。
「ユウ、あたしはここで待ってるから」
ヨシコが優しく微笑んで頷きました。ユウも頷き返し、静々と坂を下りていきました。
その様子を、ヨシコはガードレールにもたれて眺めていました。彼女は桟橋の手前で一度頭を下げて、そこで立ち止まりました。しかし、しばらく迷った様子の後、意を決したようです、その先の桟橋の上へと足をのせました。そして、桟橋の先端で、またお辞儀をして、腰を下ろして花を、湖の中へ流しました。そのまままたお辞儀を……。
「ハヤカワッ」
後ろから声がして、ヨシコは振り返りました。それは、隣のクラスのタカシでした。昨年の二年生の時に、ヨシコとタカシは同じクラスで、お互いウマが合い、よく遊んだり勉強を教え合ったりしていました。
「何してんの?」
「友達の付き合いで……ちょっとね」
そしてユウを見ました。
「ああ、そういやここで事故があったって」
「あの子の知り合いのお兄さんだって」
「フゥン……」
タカシもガードレールに肘をかけてユウを見つめました。