これからどうなるのか 龍之介
龍之介は、老医者の言葉をかなり重く受け止めていた。確かに今の雪江の様子では、隠れキリシタンに思われても不思議ではない。それと雪江の言葉づかいも誤解を呼ぶような言葉が飛び出すからだ。
キリシタンもデウス(神)、パライソ(天国)などあちらの言葉を使う。普通の町人たちにはその違いはわかるはずもない。
誰かが岡っ引きにでも洩らしたら、最悪の場合、捕えられてしまうかもしれない。一度疑いをかけられたら面倒なことになりそうだ。
雪江は、そんな龍之介の心配をよそに、夕べ自分の着ていた奇妙な着物をお絹に見せていた。
お絹は母親と一緒に着物の仕立てをやっていた。母の方は有名な呉服屋から直接仕事をもらい、お絹はその手伝いをしている。だから、雪江の着物(制服)はお絹の最大の関心でもあった。
雪江の話によると手縫いではなく、機械があのように細かく、真っ直ぐに縫うのだそうだ。布地もしっかりしているし、袋があちこちについていて便利そうだ。
小次郎が龍之介に、そっと耳打ちした。
「もしもこの雪江殿をここで匿うのでしたら、お絹殿のお母上に言って、関田屋のご隠居に雪江殿の身元引受人になってもらったらいかがでしょう」
小次郎もこの妙な雪江のことを案じていたのだ。もしも雪江が捕えられたら、こちらにも火の粉が降りかかってくるかもしれぬと考えたのだろう。
関田屋は、この広い江戸でも知らぬものはいないと言われるほどの大地主だった。日本橋近くに呉服屋(絹製品)、式部長屋の表通りには太物屋(木綿、麻製品)、そして日本橋中州には旅籠、料亭を持っていた。
その関田屋に身元引受人になってもらえば、岡っ引きも同心でさえも、うかつにも手はだせまい。
「だが、いかに雪江のことを説明すればよいのだ」
雪江のように出身地の証文がない場合、簡単には身元引受人にはなってもらえまい。
「甲斐大泉に戻った際、葵殿に会いました。雪江殿を葵殿の下女ということにしまして、使いに江戸に出てきた途中、何者かに襲われて証文をなくしてしまったということではいかがでしょうか。若がそう言い張れば、身元引受人とまではいかなくとも、何かあれば庇いだてをしてもらえるかもしれません」
村上葵、龍之介の許嫁だった娘だ。事情があってこの縁談は破棄されたが、かわいらしい娘だった。
「よし、それでやってみよう。事は早急にせねばならぬのだからな」
雪江はあの光を放つ道具を開いて、お絹に見せていた。こっちはその身を心配しているというのに、のんびりしていた。
「これが私の友達」
龍之介にも見せてくれる。そこには鏡のように人を映し出していた。
数人の男女が、雪江の着ていた同じ着物(制服)を身につけて笑っていた。他には雪江と他の女子、爪の絵だったりした。
それらを見ていると、本当に雪江は別世界から迷いこんできたのだと確信する。そちらの男どもは皆、散切り頭で何とも妙な感じを受けた。やはり、雪江のような髪の赤い者もいる。
雪江は、その画面を忙しそうに操作し、一際大きく映し出された男を見つめていた。それを見る顔は何やら淋しそうな悲しそうな表情だった。そしてなにかを決断するかのように顔を上げ、ピッと道具を押すと男の顔が消えた。