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龍之介登場

「すまぬが、先ほどの明かりをもう一度、照らしてはくれぬか。わずかでかまわぬのだが」


 その人は雪江の背後の木の下に座りこんでいた。そこから動けないらしい。

 彼の言う、先ほどの明かり、というのが、携帯電話の光のことを言っているのだと認識するのに、五秒ほどかかった。彼の言葉づかいに違和感もおぼえる。

 それでも言われたとおりに携帯電話を開いた。


 再び、暗闇に光が放たれ、視界が広がった。

 光が映し出したその人はやはり、羽織、袴姿で腰には刀を装着していた。頭も総髪という月代さかやきを剃っていない頭だが、髷を結っていた。

 まぶしそうにしているその顔は割と若い。同じくらいか年下にも見える。

 こういう顔のことを眉目秀麗びもくしゅうれいというのだそうだ。祖母とテレビを見ると、若いタレントを見るたびにそうつぶやいている。つまり、イケメンってこと。


 ああ、もしかしたら、映画のロケに入り込んでしまったのかもしれない。この人も新人俳優なのかも・・・・。どっかで見たことがあるかもしれない。

 その考えは少し元気にしてくれたが、頭のどこかで否定している。


 彼は本物のひどい怪我をしていたのだ。袴がざっくりと切られて、あらわになった太ももから出血していた。

 携帯の光がすぐに消えてしまったが、またオンにする。

 

 その人は自分の袴を手で切り裂くと、その切れ端で傷口をぐるぐると巻いた。応急処置だろう。雪江も手伝い、ぎゅっと縛りつけた。


「かたじけない」

 それはお礼の意味だとわかる。

 お願い、そんな言い方、しないでよ。普通にありがとうって言って。


 次の光で、お互い目があった。

 雪江が彼の姿に違和感を感じていたとき、向こうでも雪江を見て、目が点になっている。

 雪江が(何?この人?)と思っていると、向こうも(なんだ、この女は)と思い、(髪形がおかしい)と思っていると、向こうも雪江の茶髪を(変な頭だ)と見ているのがわかる。

 雪江も彼のことを変だと思っているが、自分のことを変だと思われていることが不愉快でならない。

 それでも怪我人だ。そのままでは放っておけない。


「救急車、呼んだ方がいいですか? この近くに病院ってあります? 私のケータイで誰か身内の方、呼びましょうか?」

 不安にかられている雪江は急に饒舌になっていた。男は黙っている。


 とりあえず、どうしたらいいか相談するため、雪江は祖母に電話してみた。ケータイ表示には圏外とでた。電波の悪いところにいるのか。再度、かけ直してみたが、同じだった。

  

 他の友達にもダイヤルするが、すべてが圏外と出た。心の傷がぱっくり開いたままの豊和にも電話してみた。むなしいことに結果は同じだった。


 一体なにがあったの? 地震のような揺れの後、暗闇に落ちるような感覚、でも、それは一、二秒くらいのものだった。圏外になるほど遠く離れてしまったとは思えない。しかし、雪江の電話はどこにも通じなかった。


 私はどこに迷いこんじゃったの?


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