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葵と孝子 


 龍之介と小次郎は、葵たちが到着するのをイライラと待っていた。

 葵たち一行は、旅籠の離れ屋敷に落ち着く予定だった。他の泊まり客と一緒になることはないプライベートな屋敷だ。


 雪江が、料亭内で待っている龍之介と小次郎に、ちょっと特別なスパゲッティ・カルボナーラとイカのカラマリサラダを持って行ったが、二人は上の空だった。

 一応、お礼を言って、木製のフォークでスパゲッティをつついていたが、あれでは味はわかっていないだろう。


 雪江が厨房に戻ってくるなり、徳田が来る。

「どうだった?スパゲッティの反応は」

「それがさ、ランチどころじゃないみたい。一応、機械的に口に運んではいたけど・・」


「そんなに小次郎さんのお姉さんって怖いのか?」

「うん、そうみたい。それにあの二人、重要なことを隠しているみたいなの。それを打ち明けなければならない状況に追い込まれているらしいわ。隠しごとをしていて、叱られるってびくびくしている・・・まるで子供みたいね」

「三十二歳の俺にしてみれば、雪江も龍之介さんもみんな子供だ」

「よく言うよ。全然、年齢のギャップ、感じないっしっ」

「そうか、そんなに俺は若いか」

「精神年齢がね」

「こらっ、ギャーギャー騒がないっ」


 裕子に叱られてしまった。シュンとなった徳田は厨房に戻り、雪江は旅籠に隠れていることにした。武家の女性たちに対する言葉づかいができないからだ。顔を出さない方がいいだろう。

「雪江ちゃん、御一行が着く前に、旅籠の先生から名前のリストをもらってきて」



 そろそろ着くという連絡が入り、ロビーに龍之介たちは出てきた。

 雪江たちが密かにロビーと呼んでいるのだが、旅籠へのフロントサービスカウンターと料亭レストランへの入り口があり、広くて団体が入ってきても対応できる。


 そこへ、雪江が裕子に頼まれた名前のリストを持って、木製の階段を降りてきた。

 はだしで、着物の裾も気にせずに、ダッダッダッと勢いよく降りてきたから、龍之介と小次郎は驚いて見た。その視線に固まる雪江。


「なによ。なんか言いたそう」

 龍之介が進み出た。怒っている顔だ。

「躾のされていない男の子が、階段を駆け下りてきたのかと思ったではないか。それに女子であろう、もう少し気をつけて、女らしくしたらどうなのだ」

「あ、ごめん。まさか、下に人がいるなんて思わなかったんで・・・。これからは気をつけます」

「人がいようといまいと、女は女らしくっ」


 龍之介もピリピリしているから、雪江の口応えがますます苛立たせるのだろう。雪江の方も、いつも言われていることなのだが、カチンときてしまった。


「気をつけるって言ったじゃない。まったくもう。年寄りじゃあるまいし、同じことをクドクドと。そして、二言めには女らしく、女であろうって、うるさいな」

「うるさいとはなんだ。女は女らしくするのが道理であろう、それに・・・」

「はあ~い、はいはいはいはいはい。わかりましたよ。ったく、女らしくして、新宿駅のラッシュアワーの階段を降りられますかっていうの」


 雪江は龍之介の言葉をさえぎり、言うだけ言うとプイと顔をそむけた。


 ロビーには、二人の会話を唖然として聞いている葵と孝子の一行が立っていた。

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