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ガーデンランチ1

 当初、雪江の計画では、安寿と二人でのんびり外でお茶しようと思っただけだ。けれど、安寿を誘えば必然的に明知も誘わなければ失礼にあたる。明知が来るなら、その話し相手として、龍之介を呼ぶことになる。

 そして、龍之介も明知もそろって出席するなら、ただのお茶ではなく、ランチとしてお弁当を用意しようというのが徳田と裕子の意見だった。それなら落ち着いて座れる場所が必要になるから、小次郎たちもその準備にいろいろと動くことになった。

 雪江はガーデンランチと称して、きちんとした招待状を作ったというわけだ。



「小次郎が、中庭の藤棚の下に宴席を設けてくれた。身重の二人がくつろげるようにと広く作るそうだ」

「え、そうなの」

 そこまでしてくれるなら、お弁当だけ食べてすぐにお開きになったら申し訳ない気がする。

「そして、雪江はわしになにも言わぬが、兄上もくるのであろう」

「あ、うん。よく知ってるね」


 雪江が関心した口調で言うと、龍之介は得意げな顔をみせた。

 正重は、シークレットゲストとして招待していた。招待状を届けてもらう時には、もうすでに皆に知れ渡っていたらしい。すべて内緒でやろうと思っていたが、無理だったようだ。


 

 そして翌日。ガーデンランチ当日。

 雪江は朝早くから台所へ足を向ける。裕子たちは、加藤家の料理人たちに手伝ってもらいながら、忙しくしていた。

「忙しそうだね。準備の方はどう?」

「大丈夫よ。昨日のうちにかなりの仕込みを済ませておいたから、後は座るタイミングを待って火を通すだけだから」

 そう答える裕子の背後で、徳田が得意げに言う。

「おう。任せておけよ。久しぶりにタカ様がここで飯、喰うんだからな。腕を振るわないと。それに今回はすんげえ助っ人もいるから助かるよ」

 それは加藤家の料理人たちのことだろう。その二人は、徳田にそう言われて顔がほころんでいる。それでも野菜を刻む手を止めない。


「よかった。ここまで大げさなイベントになるとは思ってもみなかったから、ちょっと申し訳なくて」

「ううん、いいの。この太平な時代。たまにはこうした催しものもいいじゃない。私達もいつもの日常だけだったら、その腕が振るえないし、上達しない気がする。こうして加藤様と一緒に何かがあれば、もっと研究したり、勉強する。その方が楽しいわ」

 裕子にそう言ってもらえると安心する。

 他家からの料理人の養育と突然のイベントで、嫌味の一つも言われることを覚悟していたからだ。


 お初が雪江を呼びにきていた。

「雪江様、皆さまはもう中庭の方にいらっしゃいます」

「あ、今行きます」

 そうお初には返事をして、また裕子たちに向き直った。

「じゃ、よろしくお願いします」


 お初に手を引かれて、中庭へ出る。日差しはかなり強い。お初がすかさず日傘をさした。

 中庭の奥まったところに大きな藤棚がある。その下に宴席が設けられていた。畳敷きになっていて、優に十人は座れるほど広々した席だった。

 もうそこには明知、安寿、正和が座り、談笑していた。


「雪江、遅いぞ。ここだ」

 龍之介が隣の座布団をポンポンと叩いた。

 そこには座椅子と座り心地のよさそうなふかふかの座布団が用意されていた。これなら何時間座っていても疲れないだろう。安寿も同様の用意がされていて、もうすでにくつろいでいる。


 雪江がどっこいしょとつぶやきながら座りこむと、明知が声をかけてきた。

「雪江様。この度はこのような席にお呼びいただき、誠に嬉しく思っております」

「わたくしも楽しみにしておりました」

 安寿までがそう言って頭を下げた。

「あ、いえ。とんでもないことでございます。あ、ええと、わざわざお越しくださいましてありがとう存じます」

 しどろもどろになりながら返事をした。

「わざわざお越しくださいまして、は変であろう。お二人とももうすでにこの屋敷にいたのだからな」

 龍之介がまた、雪江の物言いにケチをつけてきていた。雪江がギロリと睨むと龍之介は明後日の方向を見てつぶやいた。


「あとは兄上だな」

 龍之介がそういうと、小次郎が報告した。

「正重様はもう半時ほど前にお越しになられておられます。こちらにお通ししたのですが、なにやら用事があると申されまして・・・・・・」

「そうか、では我らは先にお茶でも飲んで待っていよう」

 雪江も冷たいお茶を口にする。安寿もその冷たさに信じられないものを見ているような顔をした。

「ほう、これはなんという口当たり」

 明知も気に入ったらしい。


 冷茶を用意していた。この屋敷専用の氷室には、つい先日、新しい氷が入っていた。徳田がわざわざ富士山の麓の町、鳴沢まで出かけて行って切り崩してきた。ミネラルがたっぷり含まれているらしい。そんな贅沢な氷をふんだんに使い、お茶を作ってもらった。おいしいはずだ。

富士山の近く、鳴沢村へ行くと氷穴があります。そこの氷は江戸時代、夏、将軍に献上されたものだそうです。

鳴沢の道の駅にいくと富士の水が汲めるところがあります。

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