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利久の死と雪江の受けた傷  R15・鬱の気がある方は注意してください。

鬱っぽい人は気を付けてください。かなり深刻になっています。その後には光が見えてきますが、一応です。


利久の神に対する考えは、彼なりに考え付いたものです。実際のキリスト教の教えとは違うと思いますので、ご了承ください。

 利久に関する情報は、龍之介があちこちに手をまわして集めてくれていた。どんなことでも隠さずに教えてほしいと言っていた。


「いきなり石抱きの拷問を受けたそうだ。あの利久は大の男でも五枚目になると呻きだし、六枚目には気を失うと言われているその拷問を無言でいたらしい」

 石抱きの刑。

 何やらその言葉に重いものがある。縛られてその膝の上に石を乗せられる、時代劇で見たことがある、あれだ。

「だが、その七枚目で・・・・・・」

 龍之介が言うのをやめようかと考えているのがわかった。

「七枚目で?」

とつい聞いていた。


「脛の骨が折れたらしい」

「骨が?」

 雪江はその様子を想像していた。真っ青になっていた。

「ひどい、お役人がそんなこと、してもいいのっ」

と叫んでいた。

 龍之介は何も悪くないのに、いつも八つ当たりしている雪江。

「ごめん、ちょっとびっくりしたから」

 しかし、涙が出てきた。

 恐ろしかった。そんな利久の事を思うと震えが止まらない。

 龍之介は言い過ぎたかと悔やんでいるようだ。卒倒そうな雪江を抱き締めていた。恐怖で震える心はそれでも癒されない。


 お光はいつも利久のことを心配していた。そんな拷問に合ったことを知ったらどんなに嘆くだろう。

「ある程度の拷問は許されている。特に隠れの場合、なかなか転ばぬことが多いから、致し方ないのだ」

 龍之介がギュッと抱きしめていた。

「落ち着いて聞くようにな。利久殿の刑が決まったそうだ。明後日、斬首となる」

「ざんしゅ? 斬首って・・・・」

「市中引き回しの上、刑場にてその命を絶たれる」


 雪江は龍之介のその言葉の意味がわかった。

 斬首、つまり首を斬られるということだ。

 そうわかるとブルブルと震えがきた。


 雪江は刑場へ行く勇気がなかった。

 しかし、父が言った。

「利久はもう妻を亡くしている。その妻女の代りに顔を見てやるのもよいかもしれぬ。遠方から堂々たる姿を見てくればいい」

 そう言われて、雪江もそう思った。


 見知らぬ目だけに晒されるよりは自分の死を本当に悲しんでくれる人に来てもらいたいと思うかもしれない。その涙で送り出すのもいいかと思った。それに最期に一目だけでも利久の姿を見たい。

 龍之介が承知してくれた。処刑される前に、市中を馬に乗せられて引き回されるから、その時少し顔を見ればいいと言ってくれた。


 

 馬の背に乗せられて、利久は町の中を引き回されていた。罪状を書かれた看板を立てられ、人々の中を連れられていた。

 この江戸の町は短い間だったが、お光と暮らした思い出のある町だ。最期に、この目に焼き付けておく。


 その群衆の中に町人の着物を着た雪江とその夫、正和の姿があった。いつもお供でついてきていた小次郎もすぐそばに控えていた。

 遠くから見守ってくれている。雪江は目も合わせられないほど涙にくれていた。龍之介が雪江を慰めている。その震える肩を抱いていた。


 ふと、小次郎ならば唇が読めるかと思った。小次郎に目をむける。すぐに気づいてくれた。

 周りに気づかれないようにあまり口を動かさずに言った。

《雪江様、私のために泣かないでください。私はただ、この身を捨てるだけのこと。魂は無傷でお光のところへ行きます。私達の分まで元気に生きてください。どうか末永くお幸せに》

 小次郎がそれを読み、雪江たちに伝えていた。

 雪江がはっとして顔を上げる。利久を見た。


《最後に笑って見せてください》

 そういうと、真っ赤に泣きはらした顔を無理にゆがめるかのようにして笑顔を作ってくれた。

 そう、それでいい。あの元気な雪江様には泣き顔は似合わない。

 利久も雪江に微笑んでいた。


 鈴ヶ森刑場へ到着した。

 刑場の周りは木の柵でぐるりと覆われていた。人々はその残酷さをもの珍しそうにして見にやってきていた。ひっそりと一人で死んで逝く者もいれば、こうして大勢の目に晒され、死んでいく者もいる。


 神は助けてはくれない。そして利久の脚も直してはくれなかった。それはいくら祈ってもそんな奇跡は起こらないのだ。

 遠い昔にわかっていたことだった。幼い頃の記憶が甦っていた。


 皆がひどい拷問を受けていた。泣いてもわめいても役人たちはその手を緩めようとしなかった。父も母も他の人たちと一緒に海の中に建てられた柱に括り付けられ、最期には海の中で眠るようにして息絶えた。

 そして利久自身も山の中を彷徨い、その寒さと飢えで倒れても、神はその手を差し伸べることはしなかった。父と母を殺した役人たちにも罰を与えることもしなかった。

 そう思っていた。


 父に会いたかった。母に抱きしめてもらいたかった。しかしすべてが消え去ったのだ。神は助けてくれるどころか、その神を信じていたせいで、皆が殺されていった。幼かった利久のその記憶は無意識に閉じ込められることになる。

 だから、お光が病気になるまで自分が隠れキリシタンだったということを思い出せないでいたのだ。


 しかし、今ならわかる。神という存在がわかった気がしていた。これは利久だけの考えだ。集会に行かなかったからその本当の教えを知らなかった。それでも神という存在が人々に何を与えてくれたのか気づいていた。


 神は人としての愛とその正しく行うべきことを説き、人としての道を踏み外さないようにその道を照らしてくれている。いわゆる、十戒だ。

 そして、神は幼い利久を助けてくれていた。神は山で死にかけていた利久を、お光の母の手を通して助けたのだ。そして実の息子のようにかわいがり、育ててくれた。

 役人たちにも神はその手を差し伸べていた。拷問することにより、その心が痛んでいたはずだ。いつかは自分の手が下した人の死の意味を考える瞬間が来るはずだった。それはその人によってどう考えるかは定かではない。しかし、長い人生の中、それを考え、向き合う時を与えてくれるはずだった。自分が犯した罪を悔い改めよと。

 神は一人一人の心の中にあるのだ。人は誰もが神を抱えている。

 たぶん、人という存在自体が神なのだと思った。


 お光の死をあんなに恐れていた利久は、自分の死を目の当たりにして、あの時のお光の心情がわかる気がした。

 お光も臨終を迎えるとき、きっとこんなふうに穏やな心でその命の炎を消したのだと感じていた。



 雪江は鈴ヶ森刑場までは行かないつもりだった。しかし、その利久の後について自然に足が動いていた。そのまま一人で死なせてはいけないと感じていた。


「雪江、もういいだろう。さあ、屋敷へ戻ろう」

 龍之介が言ったが、聞こえていないかのように足が動いていた。

 龍之介も小次郎もそう言いながら雪江についてくる。その後を雪江のための駕籠もきていた。もし途中で気が変わったら駕籠に乗ればいい、そう簡単に考えていた。


 刑場は人家のない町の外れにあった。

 その周りを木の柵で覆われていた。それを見て雪江は足をとめた。急に恐ろしくなったのだ。

 龍之介がそれを察していた。

「雪江、駕籠の中へ。利久殿は例え駕籠の中にいても雪江がここにいることをわかってくれる」

「うん。そうだね。そうする」

 雪江は一人、駕籠の中へ入った。

 悪いがほっとした。今からとてつもなく恐ろしいことが起るのだ。その空気に触れているのが苦痛だった。


 遠巻きの駕籠の中まで、役人が利久の罪状を読み上げている声が聞こえてきた。周りにいる人々の反応も様々だ。耶蘇教に対して否定的な声が駕籠の中まで聞こえてくる。禁教なのにという非難だった。


 どよめきが起こった。

「何っ、何が起こったの?」

と雪江が外にいる龍之介に聞いた。

「利久殿が目隠しを拒んでいるのだ。普通はその刃が振り下ろされる瞬間を見ないように目隠しをする」

 そうなんだ。あまりにも具体的過ぎてまた震える。

「しかし、利久殿は実に穏やかな表情でいるぞ」

 雪江を落ち着かせるためなのだろうが、その言葉に少しほっとした。


 ドキドキしていた。やはり、ここまで来るべきではなかった。辺りの緊張が伝わってきていた。

 雪江はお光に祈っていた。安らかに利久を連れていってくれと。そう願うしか術がなかった。


 ふとかすかな歌が聞こえてきた。

 いつもお光が歌っていたお気に入りの讃美歌だった。周りもそれを聞いて、再びざわめいていた。役人もそれに気づき、躊躇していた。


「何をしているっ。早く、早くせよっ」

 雪江はその瞬間、駕籠の戸を開けていた。

 利久の口ずさむ讃美歌に、そのまま駕籠の中で座っていることはできなかった。思わず戸を開けていた。


 雪江は利久の顔を見た。その表情は実に穏やかで、むしろ嬉しそうだった。まるで天国の入口に立ち、その先にお光の姿が見えているかのようだった。

 役人が利久の歌をやめさせるかのように、刃を振り下ろした。大勢のどよめきが起こった。刑は執行された。


 雪江の視界は真っ白になった。

 遠くで龍之介が雪江の名を呼ぶ声が聞こえていた。すぐ近くにいるはずなのに、その声はひどく遠く感じていた。

 体がふわりと浮くようで、立っている意識がない。何も感じなくなっていた。意識が遠のいていた。



 利久がこの世を去った。お光の元へ、天国へと旅立っていった。

 その天国とは、二十一世紀で育った雪江にもよくわからない。しかし、そう信じる者の前にはあるのだろう。二人はその世界で一緒に微笑んでいるに違いなかった。


 江戸時代はこうして罪人を公開処刑していた。それは見せしめでもあった。罪を犯せば、罰せられると。

 人の死をまともに見てしまった雪江は、その残酷な処刑に心が遮断していた。

 雪江は、感情を失った人形のようにぽつんとして一日中でも大人しく座っていた。まるで今までの元気や笑顔になる素を封じ込められたかのようだった。

 父も毎日やってきた。雪江を利久のところへ行かせたことを悔やんでいた。

 龍之介も自分自身を責めていた。なぜ、あの瞬間を雪江に見せてしまったのか悔やんでいた。


 雪江は自分でもこのままではいけないと思っている。頭の中ではいろいろと考えていた。このままでは周りに心配をかけるだけだとわかっていた。しかし、どうすることもできずにいた。コントロール不可能だった。

 笑うことが億劫で、感情を表すことがひどく大変なことに思える。できれば一人でいたかった。誰にも会わず、一日中口を利かずにいられたらどんなに楽だろうと考えていた。


 それでもご飯は勧められるまま食べ、お風呂にも入り、普通の生活はなんとかお初の指示通りにしていた。毎晩のように龍之介が来て抱きしめて寝てくれた。そうするとその時は安心し、なんとか眠ることができた。


 日がたつにつれ、何も感じなかった心が痛くなった。

 心に血が通い始めているようだ。いろんなことを考え始める。そうすると思い出したくないことまで浮かんできて心がズキズキしてくるのだ。だから再び心を凍結する。そうすれば痛くはない、なにも感じなくなるから。


 そんな毎日を送っていた。

 人は忘れていく脳を持っている。嬉しいことも楽しいことも忘れたくないことも印象には残っているが、その詳細は忘れていくものだ。


 それは心の防御としても成り立っていた。つらいこと、悲しいことを時間がたつにつれ、忘れるということでその傷を薄れさせ、直していく。それがうまく忘れられないといつも嫌なことを思い出し、心を痛めていくことになる。


 雪江の心は少しだが、確実に心が解けているようだ。時折無性に悲しくなり、涙が止まらなくなっていた。どうしていいのかわからずに一日中泣いていることもあった。

 徳田がいつか言っていた。涙にはストレス分子を流す働きがあると。涙が出るということは、自分の中にこもっていた悲しみの分子を吐き出せる段階なのかもしれない。治り始めているのかもしれなかった。


 しかし、雪江が泣いていると龍之介も他の者たちも悲しげにしていた。今度は良心が痛んだ。雪江は何をしているのだろう。雪江が皆を悲しませている。龍之介の顔を曇らせているのは雪江自身だと気づいた。


 少し笑顔が戻ってきたある日、朝餉の臭いが鼻につき、吐いてしまった。それからはもう食べ物が喉を通らなくなった。

 臭いが敏感になり、いつも車酔いをしているように目がまわり、胸がむかむかしていた。

 食べないでいるとお初がさめざめと泣いた。しかし、食べないのではなく、食べられないのだ。とりわけご飯が嫌だった。口の中で噛みしめると広がるあの甘さがダメだった。だから味噌汁とお茶しか手をつけない日々が続いていた。

 体も怠く、三日もそんな調子で寝ていた。

 四日後には裕子が怖い顔をして、雪江の寝所へやってきた。手にはおかゆを持っていた。


「雪江ちゃん、今日は何が何でも食べてもらう。みんなが本当に心配しているの。今の雪江ちゃんの姿、利久さんとお光さんに見せられるの? ねえ、あの二人の分まで生きるんでしょ。そんなこと、してていいのっ」

 裕子がそう怒鳴りながら泣いていた。ほとんど泣いたことのない裕子までを泣かしていた。

 本当に雪江はなんてひどいことを皆にしているのだろうと他人事のように考えていた。


 確かに食べないから体に力が入らず、ますます起きるのがつらくなる。怠い。ずっと寝ていると頭がくらくらしているからまた寝ている、そんな悪循環になっていた。

 しかし、裕子を前にしてやっと雪江は体を起こした。雪江自身も少しでも食べないといけないと感じている。

「別に食べないって決めたわけじゃないの。口が変わったみたいで、あんなに好きだったご飯が嫌になったの。噛むと口の中がべたべたしてきて、その甘味がねっとりしてきて・・・・それが嫌。もっとさっぱりとしたものが食べたい」

 おかゆの真ん中に大きな梅干しを見つけた。

「あ、その梅干しなら食べる」


 裕子が梅干しを取り出してくれた。

 雪江はそれを齧りながら、お茶で流し込んでいた。

 裕子が目を丸くして見ている。雪江が利久たちの死を悼んで食べないのかと思っていたらしかった。

「わかってるの。でも何もかも億劫で起きていられない。怠いし、気分が最悪。もう何日もずっと車酔いをしている、そんな感じ」


 裕子がじっと雪江を見ていた。お茶をおかわりする。梅干しがさっぱりしていておいしかった。食べるっていいなと思う。

「ねえ、あの後、少しは食べていたのよね。いつから食べられなくなったの?」

 裕子の問いに少し考えた。

「ん、四日くらい前、気持ちが悪くなって吐いたの。食あたりじゃないと思うけど、普通吐けば楽になるでしょ。でも全然よくならなくて、ますますひどくなった。吐く物がないのに。だから苦しくて苦しくて・・・・」


 裕子がまた考え込んでいた。やがて何かの考えに行きついた。

「ねえ、それって、雪江ちゃん。まるでおめでた、悪阻なんじゃない?」

 意外なことを言ってきた。

「え、誰が?」

 雪江は面喰った。

「先月は安寿様がご懐妊、もしかして雪江ちゃんもそうなんじゃない? その症状ってまさしく典型的な悪阻よ」


 雪江はそう言われて、霧がかかっているすっきりしない頭で考えていた。

 そう言えば、あの荒れたPMS(月経前症候群)の後、来るべきものがこなかった。

 お光の看病とその死で慌ただしかったから忘れていた。そして相次ぐ知人の死。利久のことも自分のことを忘れさせるほどショックだったから、気づかないでいた。


「あ・・・・そう言えば、生理、きてない」

 その一言で、裕子は満面の笑みを浮かべ、雪江を抱きしめてきた。

「雪江ちゃん、おめでとう」

「へっ、あ、ありがと」

 雪江は戸惑いながらもそう答えた。

 まさかと思うが、よく考えてみるとそうだと実感していた。


 待ちに待った赤ちゃんができたのだ。それは今まで雪江を覆っていた無気力な霧を一斉に吹き飛ばすほどの威力があった。

「私、お母さんになるの? 龍之介さんの子供がお腹にいるのね」


 母になるのだ。億劫だの具合が悪いだのと言ってはいられなかった。この身は今、自分だけのものではないと実感していた。

 子供を身ごもることはその子が無事に育ち、この世に生まれてくるまでを預かる大事な体だった。

 母のいない幼少を過ごした龍之介と雪江だった。その二人の子供は父親と母親が愛情をたっぷりと注いで育てる、といつか約束していた。


 裕子がお初にいう。正和、つまり龍之介を呼んでこいと。


 人の死を見た。そして今、新たなる生命を授かっていた。これが昔から繰り返されてきた生と死のサイクルなのだ。

 生はいつもめでたく、人々を笑顔にしてくれる。

 死は皆を悲しませるが、それをいつまでも引きずっていてはいけないのだ。死者も決してそれを望まないだろう。それをたった今知った、この小さな命が教えてくれた。この子のためにも雪江は起きて、無理してでも食べ、笑おうと思った。今までの雪江を取り戻さなければならなかった。そして雪江の事を思ってくれている人たちのために、これ以上心配をかけてはいけなかった。


 奥向きに、父と龍之介がやってきた。何事だと言わんばかりだ。不安そうにしている二人を前に、雪江はにっこりと笑った。

 その笑顔に、二人の緊迫した表情が少しほぐれてくる。


「ご報告いたします。父上様、正和様。懐妊いたしました」

 そう言って雪江は頭を下げた。

 父も龍之介もすぐには反応しなかった。狐につままれたような顔をしていた。

 もう、少しは反応してよ、とばかりにいつもの調子で言った。

「赤ちゃんができたのっ。おじいちゃんとお父さんになるのよ、二人とも聞いてるのっ」

 そう言われて正重と龍之介はお互いの顔を見合わせた。そして、まさか、という驚きの顔をした。


「ややが・・・・子ができたのか」

 龍之介が言った。

「うん」

 ちょっと恥ずかしい。

「雪江、正和、でかしたぞ。子守りは爺に任せておけ」

 父は気が早い。それに大名家の殿が子守りをするなんて聞いたことがない。

 その発言には、龍之介も雪江も他の皆も笑った。


 雪江が自分を取り戻し、やっと向き直ったことと、自分たちの新たなる家族に涙ながらの笑顔を向けていた。


                  第二部 完 


ここまで読んでいただいたこと、感謝いたします。ありがとうございました。第三部も書いていきたいと思っています。

「時をこえて」の第二部はこれで終了です。

後書きを長々この後の次話に書いています。


私がなぜ、この第二部を書こうと思ったのか、ちょっと不思議な話、おつきあいください。こんなことを考えながら書いている人もいるんだと。


悪阻ですが、つらいと思います。わたし自身は悪阻は殆どありませんでした。それでもその時期には甘味が嫌で、本当にレモンをかじりたいくらいでした。口の中がねっとりするのです。

そんな時、料理用のグラニー・スミスという甘味のないリンゴを見つけ、そればかり食べていました。悪阻の時期が過ぎるころになると、舌の感覚が戻ってきたのでしょうね。いきなり「こんなにまずいリンゴをなぜ私は食べているのだろう」と思いました。人それぞれですが、そのくらい妊婦は嗜好が変わります。臭いもすごく敏感になり、鼻がくさい棘に刺されるかのように鼻をつきました。腐ったものを食べて母体のお腹を壊さないようにする、胎児を守るための防御本能なのでしょうね。

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