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時がきた 雪江

24時間営業のコンビニ、いつでも明かりがつく電気、どこでも話せるケータイなど便利な世の中になりました。

でも、それらが本当に必要なのか考えてみたくて、この物語を書きました。


幸せいっぱいな人はそれでいいし、でも、この情報社会、学歴社会に疲れてしまった人もいるのではないでしょうか。

江戸時代は、朝日が昇る明るくなりかけが明け六つ、日没の暗くなるころが暮れ六つ。

夜はろうそくの光では夜更かしもできません。つまらないかもしれませんが、安心してゆっくりと目を閉じることもできると思います。

もしも、あなたがこの主人公の立場だったら・・・・どうしますか。

 神宮寺雪江は、一人自転車置き場に佇んでいた。時折、人が来るとはっとしてそちらに目を向けるが、すぐに消沈する。


 もう、豊和ったら、どこへ行っちゃったのよっ。教室にも、校内の食堂にもいなかったし、一緒に帰るって約束、忘れちゃったのかな。


 彼の携帯電話の電源は切れていた。考えつく場所はすべて行ってみた。急用かなんかで帰っちゃったのかもしれないと思い、しかたなく雪江も帰ろうと自分の自転車にカバンを入れたところだった。

 豊和の自転車がまだ、そこにあった。自転車を置いて帰らない限り、豊和はまだ学校にいるはず。

 そんなわけで、雪江はそのまま豊和を待つことにした。


 なかなか豊和は現れなかった。次々と帰って行く友人たちにバイバイして、ポツンと一人残されていた。なんだか段々心細くなる。

 最近、豊和のドタキャンが多くなっていた。後で必ず、ごめん、忘れてたと傷つくことを言われる。一緒にいても時々大きなため息をつくことがあった。その度に、雪江は自分が飽きられているんじゃないかと不安になっていた。


 赤茶色に染まった髪をかき上げる。

 先月、長かった黒髪を切り、この鮮やかな赤茶色に染めた。それは何気なく豊和が洩らした言葉が動機だった。

 同じ色の髪のファッションモデルの女の子を褒めたからだった。雪江にもそう思えた。活発そうで、すごくかわいく見えた。だから、雪江もそうなりたくて同じ髪型にしたのだ。

 豊和は最初、褒めてくれた。けど、すぐに彼の視線は目の前を通り過ぎる女の子に向いていた。隣にいる雪江ではなかった。

 この髪は生活指導の先生にも注意を受け、当然ながら家族にも叱られた。すぐに染め直すと約束したものの、既に二週間がたっていた。


 寂しかった。少し悲しかった。いつも豊和に見つめてもらいたい、それだけなのに、当の本人が見てくれていなかった。



「雪江、豊和くんのこと、探してたよね。彼なら部室の鍵を持って行ったって誰かが言ってた」

 一度、帰りかけていた友人が戻ってきて、そう教えてくれた。

「あ、サンキュ、行ってみるね」

 雪江はそう返事をして、無理やり笑顔を向けた。


 そうか、豊和はテニス部の部室に行ったのか。何か忘れ物なのかもしれない。それか先輩に明日のための準備を頼まれたのかもしれなかった。

 雪江は何やら得体のしれない不安に取りつかれていた。それでなくても今日は朝からソワソワしていて落ち着かなかった。だから、豊和の笑顔を見て、ホッとしたかった。


 男子テニス部の部室のドアを開けた。もうそこに豊和がいるとわかっていたから、ノックもしなかった。一声かければよかったのかもしれない。しかし、そこには豊和がいて、雪江を見るとにっこり笑いかけてくれるような気がしたからだった。


 しかし、雪江の目に飛び込んできたのは、まったく別の姿だった。そこには豊和と雪江の友達、沙希のキスシーンがあった。豊和が沙希をぐっと抱きしめ、映画の一シーンのようだった。

 ドキリとして、全身が凍りついたかのように動かなかった。豊和とは目があった。キスをしながら、突然現れた雪江を見ていた。


 ドアを思い切り閉め、自転車置き場まで逃げかえった。肩で息をしている。足ががくがくしていた。自分の自転車に手をかけたが、こみ上げてくる涙に両手で顔を覆っていた。


 好きだったのに・・・・。一年生の時から好きだった。同じテニス部に入り、その姿を毎日見られることがうれしかった。秋ごろ、告白し、つきあうようになった。クリスマスには初キッスも。

 彼の誘いを断ったことはなかった。いつでも彼の好みに添えるよう、その言葉に注意を払い、行動してきた。他の上級生と一緒にいたという噂も問いただすことはしなかった。


 涙は止まらない。もう辺りは薄暗くなっていた。雪江はそこから動けないでいた。


「雪江・・・・ちゃん? どうしたの」


 振り向くとテニス部の先輩、今井裕子がいた。その後ろには雪江と同じクラスの徳田厚司が立っている。

 そのスラリとした美女の裕子と柔道、レスリングなどの選手で有名な巨体を持つ徳田たちはつきあっていた。意外なカップルと言える。

 その後ろから、さらに誰かが歩いてきた。


「なんだ、こんな時間までいたのか。さっさと帰って勉強しろっ」

 歴史の朝倉秀和先生と保健室の杉田久美子先生も一緒に現れた。


 時がきた。

 

 その四人が雪江を囲むようにたった時、大地が揺れた。ぐらりとバランスを崩す。雪江はとっさに自分の自転車を掴んでいた。

 徳田は裕子を支えるようにした。朝倉は持っていたカバンを落とし、杉田はその場に座り込んだ。


「地震っ」


 雪江が叫んだ。しかし、それは地震のようで、そうではない。揺れていたのは雪江を含む、この五人だけだった。自転車はまったく揺れていなかった。

 突如、雪江の足元が崩れるようにして沈み、闇が現れた。その中に吸い込まれる。


 雪江の目の前から、朝倉が消え、杉田も消えた。裕子と徳田は手を取り合って、雪江にも手を差し伸べてくれたが、わずかに届かず、消えていた。


 どこへ行くの? どうなっちゃうの。


 この五人だけの空間、その時がきたのだ。


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