解〜うさん臭い閻魔様?〜
奈緒は頭を押さえながら地面を転げ回っていた。それを見て不敵に笑う少年は奈緒に向かってこう言った。
「女、お前に俺は殴れないぞ。仮に殴ってもその衝撃はお前に返るだけだ。」
奈緒は手に持っていたテニスラケットで確かに少年を殴ったハズだった。確かに少年の頭から気持ちの良い音が響き渡った。しかし、気がつくと自分が地面に転がっていた。
(う…こうなるって分かってたハズなのに…)
奈緒は心の中でそうつぶやくと、まだ痛む頭を押さえながら立ち上がった。そして、少年に向かい精一杯の悪態をついた。
「あんた…マジでムカつく……」
「その涙目にその姿じゃあ説得力ないぞ」
少年は奈緒の言葉など全く気にしていない様子で、そう返した。確かに、今の奈緒は、痛みで目には涙が滲み、ボサボサになった頭を両手で押さえ、足は微妙にがに股ぎみと、まるでコメディアンのような姿になっていた。
「うるさいっ!」
奈緒はまさにコメディーマンガのような顔をして少年を一括する。が、やはり少年には全く気にする様子がない。
「女、俺の事、知りたいんだろ?」
そう言いながら少年の顔のニヤニヤ度があがる。
「いーのか?そんな態度で?知りたいんだろ?俺のしょ・う・た・い」
奈緒は少し飽きれ気味な顔をする。
(言葉攻めのつもり…なのかなぁ………?)
それは少年のニヤニヤが最高潮に達した時だった。
「いーぜぇ?教えてやるよ…俺の正体はなぁ…」
少年は突然真顔になり、少し立ち位地と奈緒から見える角度を補正した。
「あんたが閻魔大王だとか、そんなんは興味ないのよ…」
少年は奈緒に自分の正体を言われると同時に、大きく目を見開いて、口をあんぐり開け、鼻水まで垂らした。
「で、私を下僕とやらにして何がしたいわけ?それにこの鎖、まさかこれからもところ構わず私を呼び出すつもりじゃないでしょうね!?」
そういうと、奈緒は自分の首から生える鎖をつかみ、少年の目の前に突き出した。しかし、その時少年の様子が変わる。
「女、テメェ………俺がわざわざ自己紹介しようとしてる時に先に俺の正体言うんじゃねーよ。こっちはなぁ………」
そう言うと少年は、スゥっと思い切り空気を吸い込み、叫んだ。
「わざわざ構図考えて立ち位置まで変えちまったぢゃねーかよぉぉぉ!!だいたいなぁ、俺はもっと………そう、『俺の正体は泣く子も黙る閻魔大王様だ。舌抜いたろか?』みてぇな感じで読者にカッコよくアピールするつもりだったんだぞー!!」
奈緒の顔がフッと少年を馬鹿にしたような表情になる。
「んなもん知らないわよ。大体ねぇ、読者って何よ、読者って!?」
少年はムッとした顔をしながら話始めた。「ふん、そんな話は置いといて…」
(置いとくんかいっ、その程度の話!?)
「俺がお前を使って何をするつもりかって?」
少年は少しの間考えるフリをし、辺りを見回す。そして、再び奈緒の方へ視線を戻した。
「ま、しばらくは今みたいな化け物退治に付き合ってもらう。そのために今回は夕べの奴を生かしたままにしておいたんだからな。今日、お前にこいつらの片付けかたをマスターしてもらうためにな…」すると奈緒は、
「なに!?またあんな化け物に会わなきゃなんないわけ!?だいたいねぇ、今日みたいに変な時間にホイホイと呼び出されたら、こっちはたまったもんじゃないのよ!?」
そう言うと奈緒は、ハッと何かに気付く。そして顔がみるみる青ざめると、少年に向かって発狂したように叫んだ。
「ちょっと!今すぐ私を学校に帰して!」
「?女、何をそんなに慌てている?まぁここにいるお前は魂だけの存在だし、まぁ俺様が許可すればすぐに肉体に戻ることが可能だが。」
「なんでもいいから!早く私を返して!」
少年はこれまでにない奈緒の慌てっぷりを見て、しぶしぶと言った顔をした。
「わーったよ!帰す帰す。その前に女、これから俺の事は『宗明』と呼べ。俺が閻魔になる前、生前からの名だ。それと…」
少年―宗明―は、手に握っている鎖を目の前に突き出し、
「この『双錠の鎖』の呼び掛けには素直に応じることだ。」しかし、奈緒は相変わらず慌てふためいていた。
「あー、もう!なんでもいいから早くして!」
その様子を見て、少年は少し嫌味な笑顔を奈緒に向けた。
「くくっ、鬼の酒井によろしくな。」
宗明の一言に奈緒は目をパチパチさせた。
「あんた―…その事知って………」
次の瞬間、宗明の前から奈緒の姿が消えた。宗明はコの後の奈緒の苦悩を想像して、少し笑いを漏らす。そして、真剣な顔に戻ると、再び宗明は辺りを見回した。
(『羅生門』を開放して来たとはいえ、まさかここまで早く人間に被害が出るとはな…)
宗明は辺りの様子を確認し終わると、空を見上げてため息をついた。
(実際んとこ一部の記憶が混線したのは予想外だったが、どうやら本当の目的は知られていないらしい。それに、そのおかげで予定より早く戦い方もマスターしたみたいだし。ま、女には悪いが、しばらくは俺の道楽に付き合ってもらうさ。)
そうして、宗明は歩き始めた。記憶の一部混線。これにより、奈緒は宗明の記憶を少し垣間見ると同時に、宗明も奈緒の記憶を一部垣間見ていた。
そして宗明は、奈緒にこれから襲い来るであろう『鬼の酒井』による仕打ちを予想し、少し鳥肌を立てながら、
「名無阿弥陀物…」
と呟いた。
あー、ちょっと失敗が目立つ感じですが、まぁ気にしないことにします。説明や設定紹介が上手く出来ないんだよな〜。次回はやっと本当に鬼の酒井が動きます。1番のメインイベントかも(笑)駄文だらけな小説ですが、こんな感じでお付き合い頂けるとありがたいです。