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初撃〜目覚めの片鱗〜

目の前に立つ化け物。

「化け物を倒せ」

という謎の少年。

この二つの非現実的な出来事に、奈緒は何がなんだか分からなくなっていた。そして、首から生える鎖。その鎖が少年の手に繋がっていることに、まだ、気付くことも出来ずにいた。とにかく、この今の状況が夢であることを祈るしかなかったが、その思いとは裏腹に、その現実―化け物はすぐそこまで迫っていた。足がすくんで動くこともできない。「これは夢…そう、夢…夢…夢…」

奈緒はとにかく呟く。夢なら早く覚めてほしいと願いながら。

その様子を見兼ねた少年は、呆れた様子でため息をついた。

「これだから人間は嫌いなんだ。浅はかで非現実主義で。もう少し目の前の現実を受け入れたらどーなんだぁ?」

そう言うと、奈緒に向かって一言。

「おい、女!お前がその右手に持ってるモンは何だ!?単なる飾りか?」

そう言われた奈緒は、ふと右手を見る。するとそこにはいつから持っていたのか分からないが、テニスのラケットがあった。

「え…」

奈緒は何がどうなっているか、さらに分からなくなる。その時である。奈緒の耳に空気を切り裂くような音が聞こえた。上を見上げると、化け物の左腕が、まさに今、無防備な奈緒目掛けて振り下ろされようとしていた。

奈緒は咄嗟に右に跳んでその攻撃を避ける。が、しかし、ホッとしたのもつかの間、次の瞬間には奈緒の左脇腹に化け物のチョップが突き刺さっていた。「かっ…」

奈緒の口から空気と共に苦痛の声が漏れる。数メートル先の地面に体がたたきつけられた。

「がっ…はっ、はっ、はっ…く…あ…」

今までに感じたことがない痛みに、声が声にならない。

(痛い、痛い…なんで…私がこんな目に…)

頭がぐらぐらする感覚と脇腹の鈍く思い痛みに耐えながら、奈緒はこれが現実なのだと理解し始め、どうにか自分の今の状況を把握しようと努め始めた。

(やっぱり私…昨日一度死んでるんだ…)

そう考えれば今のこの状況―化け物と少年の説明だけはつく。

(…なんで私が、こんな化け物と戦わなきゃならないの?)

奈緒はそこで、夕べ少年に生き返らせてもらう代わりに、少年と交わした『約束』を思い出した。


夕べ少年は、奈緒に生き返らせる代わりに交換条件をのめと要求して来た。

耳元で囁く少年の口から出た言葉。

「人を蘇らせる術は相当霊力を喰うんだ。お前は生き返った後、俺のためにその体と魂を使う覚悟はあるか?俺としてもコッチの世界で楽しむために下僕がほしい。もしお前がこの条件をのむなら、多少の霊力消費にも目をつぶってやる。目の前の化け物も俺がどうにかしてやるし、お前も生き返らせてやる。選べ。どうするかはお前次第だ」

そして、その条件を奈緒はのんだ。そして生き返った。


(なるほど…私は下僕ですか…)

奈緒はとりあえず、昨日の約束を思い出し、そういう事かと理解した。しかし、目の前には昨日の化け物がいる。どうにかしてやる―…つまりは倒してくれる。と理解していた奈緒は、確かに生き返らせてもらいはしたが、その自分が再び同じ化け物に殺されそうになっていることに底知れぬ怒りを感じた。

(でも、今はこの状況をどうにかしなきゃ。また死んじゃう。それに、アイツは私を生き返らせるのには霊力とかってのを相当使うって言ってた。そこまでして生き返らせた人間をそう簡単に殺されたくないだろうし―…本当にやばいときには何かあるでしょ…)

気になることがもう一つあったが、それは今考えていても仕方ない事だと理解した奈緒は、とにかく痛む脇腹を気にしながらヨロヨロ立ち上がった。 その時、耳に少年の声が聞こえて来た。

「ばかやろー。敵の攻撃の外側ににげるんじゃねーよ!逃げるなら内側か後ろなんだよ、ふつー!!」

奈緒は一瞬少年を睨むが、化け物が再びこちらを向いた事で、化け物に視線を戻した。

(…どうする?体格差もありすぎる。持ってるのはテニスラケット一つ…ってかいくら私がテニス部だからってラケット一つで何ができんのよ…)

と、奈緒は苦笑いをする。余談だが、たしかに佐倉奈緒はテニス部、しかも2年のエースである。

目の前に再び化け物が迫る。その時、奈緒は少年に向かって叫んだ。

「ちょっと!アンタ、テニスボールとか持ってないわけ!?」

すると、少年は不敵な笑みを浮かべた。

「やっとやる気になったか!?ボール!?んなもんテメーの足元に何個も転がってるじゃねーか!」

奈緒は足元を見る。

「え…?」

確かに数個のボールが足元に転がっていた。

(さっきまでなかったのに…これもアイツの仕業なの?)

しかし、ゆっくり考えている時間はなかった。また、化け物がすぐそこまで迫っていたのだ。奈緒は2個のボールを手に取る。すると、化け物がすぐ側まで来る前に、バックステップで距離を取った。

不思議とさっきまでの恐怖はない。相変わらず脇腹は痛い、が、これのおかげで状況把握は出来た。後は化け物を早くどうにかして少年を問い詰めるだけだ。ある程度距離を取ったところで奈緒は止まった。

(とっさに拾って来たはいいけど…普通のテニスボールと白いテニスボール。こんなんで本当にあんな化け物やっつけられんの?)

奈緒は手に持っているボールを見て再び苦笑いを浮かべた。

(こんなこと考えてる間にまたあのチョップくらいたくなんかないし、ま…やってみるだけかっ!)

奈緒は普通のテニスボールの方を頭上に放り上げた。 化け物は奈緒がボールを放り上げたのを見て、何か危険なものを感じ取ったようであった。その瞬間、恐ろしい咆哮をあげながら、奈緒に向かって跳躍した。その様子を見て、狙いを定めた奈緒は、自信ありげな笑みを浮かべる。

「飛んで火に入る夏の虫ってーのは、アンタみたいなのを言うのよっ!」

そう叫ぶと奈緒は、ラケットをボールに向かって振る。上回転のかかったサーブ。それは、凄まじいスピードで化け物の顔面に直撃した。

「ガアァァァ!!」

顔にボールが当たり、そう化け物が叫んだ刹那、辺りの世界を凄まじい光と爆音が支配した。

奈緒も一瞬何が起きたか分からなかったが、化け物に当たったボールが爆発したらしい、ということが、目の前で頭が吹き飛びもがいている化け物を見て分かった。

奈緒は目の前の光景を見て、一瞬気持ち悪くなったが、それも本当に一瞬だけだった。人生の中で、何故かそのような光景をよく見て来たような気さえした。そして、奈緒は化け物を完全に消し去るべく、今度は白いテニスボールを頭上に放り上げたの。このテニスボールが炸裂したとき、何が起こるかさえ、今の奈緒には理解できるような気がした。

「さよなら。」

奈緒はそうつぶやくと、白いテニスボールでサーブを放った。それは、綺麗に化け物に直撃し、次の瞬間には崩れゆく化け物の体を目にした。白いテニスボールは、さっきのように外部からの爆発による破壊ではなく、内部からの崩壊、いや、分解を行うべく、命中すると融解し化け物の体を侵食し始めたのである。

奈緒は、とりあえず命中を確認すると、危険を回避した喜びを見せる訳でもなく、傍観していた謎の少年の方へ向き直り、その足を踏み出した。そして、歩きながら少年に対し、話を切り出した。

「さて、聞かせてもらうわよ。全部。」

先程まで奈緒が化け物と戦う様子をただ眺めていた少年は、奈緒からの問いかけに対し、こう答えた。

「いちいち聞かなくても、もう大体飲み込めたろ?なんたって、お前は俺の下僕だからな。」

「そういうわけにもいかないのよ。頭は理解しても心が理解できてないもの。やっぱり、全部直接、聞かせてもらうから。」

奈緒はそう言うと、少年の前に立ち、手に持っていたラケットを振りかざした。


スッコーン!!


少年の頭を思い切りぶん殴ったラケットの気持ち良い音が、昼間の公園の空に響いた。

少年の名前…いつになったら出せるんだ?本当にモヤモヤしてます。そして、何よりも鬼の酒井の本領を早く発揮させてやりたい!かなり反省だらけの3話目(実質は2話目になりますが)ですが、多少は楽しんでいただけていたら幸です。それでは、また。

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