任務《3》
毎度のことですが、この物語はフィクションです。作品に登場する人物・団体等は実在するものとは一切関係ありません。
サハ。
首都マスクヴァから約七〇〇〇キロ離れた連邦極東管区エヴァンジェ自治州の主要都市。アクーラ大陸の北東部の永久凍土の上に建設された少数民族エヴァンジェ人の街であり、天然資源の街だ。ヘルティアに流通、国外に輸出されている地下資源の実に六割がここサハ郊外の油田や鉱山から産出されており、地下資源を取り扱う企業の現地事務所が軒を連ねる。北半球に領土を持つヘルティア連邦の中でも最も気温が低い地域に位置しているため、夏でも寒さが厳しい。一歩街を出れば、オーロラとシロクマの世界である。
現地時間〇五五〇時。ソフィアとミハイル、そして四課が動員された地元サハ警察からの応援を加えた摘発部隊は、市内中心部、朝靄に包まれたサハ大学の周囲に展開していた。ステーションワゴン六台に分乗した摘発部隊は、大学側に察知されないような絶妙な待機地点で決行時刻を今か今かと待っていた。ソフィアとミハイルが待機するのは正面ゲート、イリヤとクラーラは裏口でそれぞれスタンバイしている。
『親会社(PC)より各子会社(SC)へ。状況を報告』
『子会社1(SC1)、目標Bを捕捉、現在追尾中』
『子会社2(SC2)、異常なし』
『子会社3(SC3)、計画通り行動を終了』
『子会社4(SC4)、目標Aのゲート通過を確認』
『子会社5(SC5)、所定の位置に到達』
ソフィアは凍り付く窓越しに、サハ大学を見る。首都から遠く離れた地域にも関わらず、立派な建物である。さすがは帝政時代に創設された由緒正しい名門大学である。
予定の時間まで五分を切った。ソフィアは持ち込んだガンケースから散弾銃を取り出した。連邦軍正式採用の軍用半自動散弾銃だ。少し型は古いが、動作不良が起り難い良作だった。
「ショットガンか」
「殲滅戦にはいいかと思いまして」
「普段からFSAは使ってんのかよ、んな物騒なモン」
「ケースバイケースです。こだわりはありませんよ」
「あっそ」
ミハイルは令状が入った封筒を掴んだ。着手予定時刻まであと一分。時間だ。ここまでは参謀役のイリヤが立てた計画通りに物事が進んでいた。この上なく状況は良い。仕掛けるなら絶好のタイミングである。ミハイルは各待機車両に無線を入れる。
『親会社(PC)より各子会社(SC)』
―――着手しろ。
次の瞬間、各所に配置されたステーションワゴンの扉が一斉に開いた。摘発部隊を率い、ミハイルとソフィアは正面から乗り込んだ。しかしそれを大学の守衛が慌てて制止する。ミハイルは何事かと動揺している守衛たちに調査官証と令状を提示した。
「連邦議会図書館調査局だ。連邦法第七九一号魔術文献取扱法違反容疑でこれより捜索を行う。以上」
「ちょっと、何だか知らないが、とりあえず上と……」
守衛が異議を唱える。身体をいっぱいに使い、同僚の守衛と共に身体を張ってミハイルの行く手を阻んでいる。
「んだからよ」
ミハイルは溜め息をつく。めんどくさい。全身がそう言っているようだった。ミハイルは女の守衛に問答無用で令状を突き付ける。ひっ、と守衛の喉が鳴った。
「強制処分だっつーてんだろ!!」
ミハイルは何事かまくし立てている守衛たちを無視し、背後に控えるサハ警察の警官たちに踏み込むよう手を振った。それでもそれも阻もうとする守衛たちと揉み合いになる。ミハイルはその狼のような目を一層吊り上げると、素早く懐から九ミリ拳銃を抜き、守衛の足を撃った。悲鳴を上げてのたうち回る守衛。そんな同僚の姿を目の当たりにした守衛たちは勿論、摘発部隊の面々も息を呑んだ。
「もう一度言うぞ。これは強制処分だ。これ以上邪魔するんだったら頭ブチ抜くからな。死にたくなきゃ道を開けろ」
拳銃で脅され、よろよろと道をあける守衛たちを後目に、ミハイルは摘発部隊の面々を一喝する。
「魔術文献は人類民俗学研究所だ。早急に回収しろ。妨害があれば即座に排除しろ。射殺してかまわねぇ」
ぱたぱたと校内に散らばっていく警官たち。
「親会社(PC)より子会社(SC3)へ。予定通り、周囲を完全包囲しろ」
『子会社(SC3)了解』
ミハイルとソフィアも進む。
「新人、少しでも身の危険を感じたら迷わず殺せ」
「了解」
まもなくして銃声が聞こえてきた。まだ遠いが、戦場独特の冷たい臭いがする。発砲したのは先発隊の警官たちか、それとも大学側の抵抗勢力か。
「親会社(PC)より各子会社(SC)。速やかに状況を報告!」
情報が上がってこない。まだ分からないが、急いだ方が良さそうだ。
「面倒ごとが起こらなきゃいいけどな」
早足で進むミハイルに続く。嫌な予感がするよ、全く。そう呟くミハイルにソフィアは無意識に頷いていた。
一
「あれだな」
長方形の白い建物が見える。そこから散発的な銃声が聞こえてきた。強化ガラスか防弾ガラスか分からないが、建物玄関の自動ドアが鋭利な何かで切断され、破壊されていた。先行した部隊が突破した際に破壊したものだろう。
その自動ドアの大穴を潜って、照明が落ちた施設内部に入る。奥の方から散発的な銃声が聞こえてくるそこは、鼻を覆いたくなるような硝煙の臭いと死臭に支配されていた。強烈な臭いにやられ、思わず込み上げてきた酸っぱい何かを押さえ、ソフィアは右腰のホルスターからハンドサイズのフラッシュライトを抜いた。
広い正面玄関をフラッシュライトの強烈な光を頼りに進んでいくと、改札のような警備機器が置かれている自動ドアが見えた。警備機器の隣には守衛室も見える。さながら駅の改札口のようだった。ミハイルとソフィアは守衛室内部をフラッシュライトで照らしたが、すぐに後悔した。
「酷いな」
内部で思わず目を疑いたくなるような光景だった。銃創だらけの室内、中央部で三人の守衛が椅子に座ったまま蜂の巣にされていた。血飛沫がそこら中に飛び散り、彼らの足下には血溜まりが出来ていた。腰の拳銃は収まったままだった。恐らくいきなり襲撃されて抵抗する暇もなかったのだろう。
「チキン野郎め。妨害されたら射殺して良いとは言ったが、無抵抗な野郎を射殺しろとはいってねぇぞ……」
守衛室前を通り、内部を進んでいくと、そこら中に研究員と折り重なるように血溜まりに沈んでいた。先行している部隊はは突入の際に照明系統を徹底的に破壊したらしく、施設内部はどこまでも行っても真っ暗だ。奥から聞こえてくる銃声、悲鳴、施設内を充満している硝煙の臭いと死臭や、暗闇に浮かぶ死体がどうすることも出来ない根源的な恐怖感を煽る。地獄絵図とはまさにこのことなのだろうと、ソフィアは適当に思う。
「豪華な研究施設だな。さすが大学の研究施設ってとこか」
「いえ、これは大学程度ではありません」
「田舎大学だからか」
「いえ、そういう意味ではなくて」
ソフィアはフラッシュライトで機器を照らす。
「どういうことだ?」
「大学程度の予算ではこれほどの研究施設は逆立ちしても作れません」
ソフィアは断言した。
「これだけの施設はヘルティア国内でも五つあるかないか、こんな立派な施設が地方大学にあるなんて、あり得ない」
「おい、どういうことかちゃんと説明しろ」
「これだけ整った設備だと大抵の魔術は解析可能です。地方の大学でこれだけの設備を整えるなんて、中央の大学でもここまでの設備を整えるとなると、小国の国家予算並みの資金が必要です。どれも最新鋭の一流品ですし」
「計器にゃ興味ないな」
「身も蓋もない言い方ですね」
「人間興味がないことなんてみんなそんなもんだろ」
視線を逸らし、ミハイルは正直にそう言った。
「魔術研究は近年盛んですから。魔術と精霊のエネルギー化の研究分野が重なりますし、精霊を知りたければ魔術を知れ、が鉄則なので。ここまで本格的な機材入れているということは、本気で魔術、もしくは精霊を研究していたのでしょう。しかし問題は資金の出所です。背後にどんな組織がついているのか……」
尤も、この辺はヘルティアの重要拠点に間違いはない。連邦が他国に輸出する地下資源の六割はサハ郊外で産出される。地元民の心を掴むため、インフラ整備に投資しても損はないが―――。
「資金の流れを早急に調べるべきかと」
「分かった。先に進むぞ」
早足で二人は構内を進んでいく。死臭や硝煙の臭いが段々キツくなってくる。死体がそこかしこに転がっており、真っ赤に染まっている場所が至る所に点在していて、非常に生々しい。特にこの奥の区画へ続く廊下は死体の数が多い。壁や床を抉る銃創の数も多い。それだけでこの廊下は激戦区であったことを何よりも雄弁に語っている。
「こりゃスゲェな。押収品を本部に送るだけでも難儀しそうだ」
研究成果だろう。論文、資料、その他様々なデータが記された書類が所狭しと並んでいる。ソフィアはフラッシュライトを頼りに、書類が詰まった辞書のように分厚いファイルを無作為に手に取ってみた。どこかに転送しようとしていたのか、研究者間で使われる専門用語が訳されていた。学会向けの資料ではない。ファイルのタイトルは、
「——— Imperator」
「なんか見つけたか?」
「いえ。特に」
どうせここの資料は四課が残らず押収するはずだ。四課の分析班に任せればいいこと。ソフィアは自分にそう言い聞かせ、ファイルを元あった場所へ戻す。
「班長」
ライフルを抱えた警官を引き連れ、暗闇の向こうからイリヤが現れた。
「敵の掃討は大方完了した」
「よし。んで、何人殺した?」
「さあ。俺が見た限りじゃ二〇人前後ってとこでしょうかね」
「クラーラは?」
「奥。まだ敵の匂いがするんだってよ」
「犬みたいですね」
「違いない」
鼻で笑い合うソフィアとイリヤ。
「で、これからどうするか……」
ミハイルが呟く。
「イリヤ」
「そうだな」
イリヤが進言する。
「各隊との連携を密にする。どこで敵が盛り返してくるか分からないからな。んでさ、次に隊を三つに分けるのはどうだ? 一つは投降した連中を署に連行する班、もう一つは所内の探索する班、最後は研究所の外周警備する班だ」
「外周なら警備担当がいるだろ?」
「保険さ。一般の大学関係者は別として、研究所の関係者を逃がしちゃまずいだろ? なあ、ソフィア」
「そうですね。研究所はほぼ制圧しましたし、警備に人員を割いても問題は無いかと」
「分かった。そうしろ。あとイリヤ、探索班の連中に言っとけ。警備員はどうでも良いが、研究員は生け捕りだってな」
「了解」
イリヤはのんべんだらりと敬礼すると再び暗闇の中へ戻って行く。
「二〇人近くも殺すなんて……。調査に影響しなければいいですね」
「だな」
ミハイルとソフィアは調査活動を再開する。
「それにしても死体が多いな。死体が、……七つ。これも数に入ってんのか?」
「施設側も研究室を守るために必死だったのでしょう。この区間に死体が集中していますから、守る側はどうしてもここを突破されてはいけなかった」
「この先は何がある?」
防寒服のポケットからソフィアは再び携帯端末を取り出して確認する。今回の一件に関わっている人間には、それぞれの携帯端末に研究施設の見取り図が配布されている。見取り図には、その区画がどのような役割を示していたかという情報は勿論、各区画の捜索を担当している人物の氏名や所属といった情報も、たちどころに分かるという優れものだった。ソフィアは端末を操作し、見取り図を呼び出す。
「データには研究室とあります」
「そこに保管していた魔術文献を死守しようとした、か?」
「そうかも知れません」
「それほど守らなきゃいけねぇってことか。さて、どんなバケモノ文献があるのやら。楽しみだな」
「不謹慎ですね」
「楽しまねぇと損だろ。何事もな」
「不謹慎ですね」
「どーとでも言え」
ミハイルとソフィアは施設最深部へと進んでいく。通路を奧に行けば行くほど血糊や壁の銃創が増えていくような気がしたが、やがて研究室周辺に到達すると、圧倒的な光景が目の前に現れた。
「これはなんとまあ……」
先着していただろう警官隊の姿はもうない。ミハイルが新たな指示を出したからだ。ミハイルとソフィアの目の前には表れたのは、体育館ほどのスペースに唸りを上げるタワーのようなコンピューターが雑木林のように乱立している光景だった。何台もの巨大なコンピューターが並び、地鳴りのような低い音を響かせている奇妙な空間である。
コンピューターからは太いケーブルが伸び、中央に鎮座している壊れた円筒形の水槽に繋がっており、水槽には壊される前には何かしらの液体で水槽は満たされていたらしく、床に得体の知れない液体が広がっていた。中央の水槽は破損しているようだが、コンピューターがまだ作動しているということは研究室自体の電源は他と別系統だろう。他の施設の電源は制圧作戦時に全て破壊したはずだが、ここだけは生きていた。恐らくこのフロアだけ電源系統が別なのだろう。
「なんだよこのコンピューター」
「どれも最新型です。これだけのコンピューターを集めていることから魔工学の研究施設と考えた方が無難ですね」
ソフィアはコンピューターに刻み込まれた型番を見ながらそう言った。
「魔工学?」
「魔術分野と工学分野を掛け合わせようという学問です。まだマイナーな研究分野ですが、連邦軍の研究機関である特科研では早くから魔工学の可能性に注目していて、最も人と金を注ぎ込んでいる分野の一つです。ちなみに現在の魔工学の最高傑作は空中空母のエレメンタルエンジンと言われています」
「お前、無駄に詳しいな」
「連邦軍士官学校で専攻していましたから」
「あっそ。でよ、これもあれか? 国家予算並みの施設か?」
この分野に関しては全くの素人であるミハイルが溜め息を付き、ぺしぺしとコンピューターを小突く。
「そうですね。精密機械なんですから壊さないでくださいよ。あとで調査してもらうんですから」
「あ? いくらするんだ?」
「一億くらいですかね」
「全部で?」
「一台で」
「げっ……。つーか、一台一億って、何台あるんだよ」
ソフィアはそこが引っ掛かっていた。なまじこの分野に精通しているだけに、ソフィアは疑問に思う。事実上、ヘルティア最高にして最大の研究機関である特科研———連邦軍特殊科学研究所と同等の研究施設がこのような地方大学にあるとは。いくら連邦政府や州政府から補助金が降りているとは言え、国家予算並みの設備をここまで充実させる事は不可能だ。ならば、どこかの組織が資金援助していた可能性が濃厚だ。
「班長。この施設、もう一度洗い出す必要があります。表も裏も、職員の経歴に家族、機器の納入業者まで徹底的に」
「そうだな」
小さな爆発音がした。聞こえてきた方向を見れば、その方向からミハイルが戻って来た。
「魔術文献はありましたか?」
「ああ。そこの金庫に入ってた。安っぽい金庫でよ、開けて下さいって言ってるようなもんだな、ありゃ」
ミハイルの手には魔術文献専用のアタッシュケースが握られていた。
「まさか、その金庫……」
「面倒だったからな。一発燃やしといた。何か文句あっか?」
「いえ」
やり方が強引。言おうとしたが、ソフィアはその言葉を飲み込む。
「魔術文献は見つかったんだ。もうここには用はねぇ。後片付けはサハ警察に任せて俺らは撤収するぞ」
そしてミハイルは獰猛な笑みを浮かべながらこうも続けた。
「これから署に連行した関係者の取り調べだ。楽しい楽しい取り調べだ」
二
屋上に上がった瞬間、ひゅわっと肌を裂くような冷たい風がソフィアを包み込む。
屋上は荒涼とした感じだった。ちょっとした柵がぐるっと屋上を囲んでおり、何に使ったのか分からない、錆びて触っただけで崩れてしまいそうな物干し竿が三つも並んでいる。足下のアスファルトはひび割れが激しく、そこから雑草が顔を出していた。切れ間に緑の藻が生えているアスファルトを踏み締め、徘徊するも何もない。砕けた塗料の欠片とか、コンクリート片しか落ちていない。無機質な世界だけに、落ちている物も無機質極まりない。何ともまあ寂しい世界だ。ただ、眺めはいい。サハ警察本部の屋上からは街が一望できた。夕焼け色に染まる白銀の街が、何とも幻想的に見えた。
「なんか引き出せたか?」
ミハイルはフェンスに背中を預けていた。
「主任研究員が死んだのは痛手です。ただ所長が生き残っていたので、突破口が全く失われた訳ではないので、背後関係の解明は時間の問題でしょう」
ソフィアはミハイルの隣に立つ。
「所長の供述によると、大学は定期的に六年前から裏で多額な寄付を受けていたようです。相手はサハ大学OBでマスクヴァ在住の資産家だと名乗ったそうですが、どうも怪しいですね。イリヤさんが四課本部に照会していますが、身元が割れるかどうか」
何気なくフェンスに手をかけて下を覗いてみたが、直ぐに後悔した。怖い。怖すぎる。目が眩んでしまった。足の辺りがぞっとして、思わずフェンスから離れた。頭もクラクラする。
「資金力から考えると大きな組織だな。神精教団、その下部組織だったら厄介だな」
「ええ。ですがまだ神精教団系列と判断するのは早計ですね。大方、非合法組織による魔術、魔術文献の研究に利用されていたのでしょう。所長は何も知らなかったようですが。何れにせよ、面倒な一件になりそうです。背後関係次第ではFSAの介入も視野に入れた方が良さそうです」
「ったく、四課長め、完全に見込み違いじゃねぇか。ガイドゥコフあたりエース班投入してりゃ面倒なことにならなかったのによ」
さて。ミハイルは一息ついてフェンスから離れた。
「話は変わるが、さっき四課本部から連絡があった。俺らは撤収だ」
「この件はどうなるんです?」
「本部から人が送られてくる。そいつらに引き継いだら俺らの仕事はおしまいだ。早急に本部に戻って来いってよ」
「何かあったんですか?」
「いや。ただ戦力の分散を避けたいだけだろ」
ミハイルは金網に身体を預けながら言う。
「今な、四課はちょっとした大物を扱ってんだ」
「大物、ですか?」
「魔術文献《グノーシス》。帝政期、皇帝お抱えの魔術文献作家が作り上げた魔術文献の傑作中の傑作、そして最も異端な存在だ。何でも聞いた話じゃインペラートルの魔術が納められて、使えば世界を征服できるんだと。革命の混乱で長い間所在が掴めてなかったんだが、一ヶ月前に見つかったらしくな、四課本部まで輸送することになったんだが、いろいろ面倒らしくて、いろいろ『地均し』してようやく後は輸送するだけ、ってとこまでもってこれたらしい。つまり、護送作戦で人手不足だからさっさと帰って次の現場に行けってこった」
「……インペラートルの魔術、ですか」
「ああ。お伽噺かっつーの」
「無事護送が完了すればいいですね」
ミハイルには、それがあまりにも冷徹な言葉に聞こえた。そして思う。これがFSAかと。ミハイルはFSAに在籍したことはない。一方、ソフィアはFSA局員として、諜報員として、感情を抑える訓練は嫌と言うほど受けてきた。そして今まではそれを忠実に実行していた。如何なる時も冷静に、あるいは冷徹でいられるように努力してきた。だからこその言葉だった。
「つーわけで、撤収だ」
背中越しにミハイルは言う。
「了解です。班長」
今年初めての更新になります。遅れましたが、今年もよろしくお願いします。