表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
インペラートル  作者: 石田まみれ
CHAPTER.1
2/5

任務《1》

この物語はフィクションです。作品に登場する人物・団体等は実在するものとは一切関係ありません。

 その日、ソフィア=レナトゥスはヘルティア連邦の首都マスクヴァを北に歩いていた。

 世界最大のアクーラ大陸ほぼ全域を領土に持つヘルティアは、七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの連邦国家と言われるほど多様性を内包している北の超大国だ。ヘルティアと肩を並べる国と言えば世界広しと言えども南のアナフィエルくらいしかない。

 ソフィアはやがて巨大な壁の前に辿り着く。マスクヴァは円盤状に広がっている都市だ。都市は五つの地区に分けられ、時計回りにA地区からD地区、高い城壁と四つの門によって他と隔離されている中央のG地区からなる。G地区には大統領官邸や連邦軍参謀本部や外務省など連邦政府中枢機関が集まっており、そのため連邦政府直轄地として連邦政府と連邦軍が厳重な管理下に置いている。内務省発行の許可証を持つ者でない限り、G地区に立ち入ることすら許されない。

 検問所に近付くと、警戒に当たっていた首都警備大隊の兵士に取り囲まれてしまう。一個小隊ほどの人数だ。兵士たちは全員ケブラーのヘルメットにサングラス姿で、顔はほとんど分からない。ぎらりと太陽に反射する自動小銃の銃口が妙な迫力を帯びていた。五年前まではマスクヴァ市警がゲートの警護を担当していたが、内務省爆破事件を機に連邦軍に警備が移管されたのだ。

「連邦議会図書館調査局のソフィア=レナトゥスです」

 兵士に許可証を渡すと、兵士は無線で照会を始めた。照会中も決して銃口がソフィアからそれることはない。

 まもなくして通行の許可が下りた。検問所を潜ると、そこはヘルティアの中枢G地区である。マスクヴァは市内に割と帝政時代の古いヘルティア風建築が数多く残っているが、G地区は近現代風の高層ビルのみが無機質に建ち並ぶ。マスクヴァであってマスクヴァでない。それがG地区だった。

 冬のマスクヴァの夕暮れ時は寒い。昼間ならまだ辛うじてマイナス三度から八度辺りをうろうろしているが、日が落ちると途端に氷点下二〇度まで冷え込んでしまう。だがそれでもヘルティアという国ではマシな方だ。ヘルティアの気候は寒冷で、南部は広大な平原だが、北部は広大なタイガがその大部分を占めており、さらに北に行くとなると、樹木の生育しないツンドラ地帯となる。北方の僻地に行けば、それこそオーロラと白熊の世界なのだ。

 寒さに耐えながらしばらく歩いていくと、一際目を引く白塗りの建物が見えてきた。いくつもの尖塔をいただいたその荘厳な建物は、帝政時代に建設された歴史と伝統の建物だ。古い建物だが、大理石の白い輝きが失せることはない。威風堂々とした面持ちのこの建物こそ、連邦議会議事堂である。

 内部は見かけよりも広い。ロビーに入ると、その古風な内装には似つかない近代的な警備関係の機材が並んでいた。ゲート付近以上の物々しい警備体制だ。室内にも関わらず、自動小銃を手にした何人もの兵士が金属探知機を取り囲むように配置されており、来訪者に目を光らせている。

「ソフィア」

「……ルチアーニ統括官」

 手荷物が、仕上げにボディースキャンを受けてようやく入館を許可されると、すぐ近くのエレベーターの前で男が待っていた。男は茶髪で、ブランド物のスーツを着こなしている。男はアルビノ=ルチアーニ統括官。ソフィアの上司に当たる人物だ。

「初任務だったのにマルクスじゃ災難だったな」

「いえ。こちらこそお手数をおかけしました」

「下まで付き添うよ。オフィスに回収してきたの提出してくれ。それから四課長がお呼びだ」

 アルビノは柔らかい表情を浮かべて、そう告げた。そうこうしていると、エレベーターが停まった。両院の議事堂は上階にあるが、連邦議会図書館は広大な地下にある。連邦議会図書館の外局である調査局もそこに併設されていた。

「どうぞ。レディーファーストだ」

 二人はエレベーターに乗り込む。



     一



 ヘルティア連邦連邦議会図書館調査局。

 連邦議会を構成する組織の一つで、連邦議会両院や連邦議会議員個人のために資料提供など、文字通り調査活動を行う部局だ。蔵書数、予算額、職員数など全ての点で世界最大規模を誇る連邦議会図書館を実際に運営しているのは調査局だと言っても過言ではない。

 二人を載せたエレベーターの扉が開く。地下一七階がソフィアとアルビノが所属するヘルティア連邦連邦議会図書館調査局調査第四課、通称、図調四課とちょうよんかのフロアがある。地下一七階にあるフロアには当然窓一つ無いが、照明配置など様々な工夫が施されており、あまり息苦しさは感じられない。

 調査局は調査第一課から調査第四課まであり、調査官や事務官が日夜働いている。ソフィアたち四課以外は図書館の司書や議員秘書と殆ど代わり映えのしない仕事しているが、魔術文献を相手にしている四課は違う。四課が所管する業務は、違法に流通している魔術文献の調査、発見から摘発まで、魔術文献に関すること全てである。四課の職務は基本的に警官や軍人のそれとさほど変わらない。そんな職務性から四課には生え抜きの人材は少なく、八割はソフィアのような外部組織からの移籍組だ。アルビノは連邦軍出身、ソフィアはヘルティア連邦保安庁(FSA)からの出向者だ。

 この世界で魔術はホームレスから大統領まで使える技術だ。小学校で教えているほど、この世界になくてはならない存在だ。その魔術の指南書が魔術文献である。

 魔術文献は人々の生活を豊かにする素晴らしいアイテムだが、反面影の部分が非常に大きい。帝政時代、国内の魔術文献は基本的に全て宮廷が独占していた。お抱えの魔術文献作家たちは皇帝のためにその外見の美しさ、納められた魔術の優美さなど、競って魔術文献を書いていた。同様なことが世界各国で起っており、今や魔術文献は絵画や彫刻と並んで美術品、芸術品としての側面も持っている。

 ヘルティアでは、革命時の混迷でその魔術文献は四散してしまい、マルクスの事案のように、国外に流失してしまったものも少なくない。かつて宮廷が独占していた魔術文献作家たちも同様だ。現在では魔術文献は連邦政府の厳重な統制下の元、認可された魔術文献作家たちの手によって、認可された魔術を納めた魔術文献が世に送り出されている。

 しかし、連邦政府の認可を得ず、または取り消された作家たちの手によって、非合法な魔術文献は著されていることもまた事実である。それらの魔術文献がテロなどの非合法活動に利用された例は枚挙に遑がない。三年前、ヘルティアからの分離独立を唱えるクロベニア人武装勢力が起こしたマスクヴァ同時多発テロ事件はその一例である。

 まもなくして二人の眼前に巨大な扉が見えてきた。銀行の地下金庫のような重厚な扉だ。扉の向こう側にあるのは、ヘルティアの魔術文献政策の総本山である。アルビノは壁に取り付けられたコントロールパネルを操作し、身分証をリーダーに読ませる。身分証にICチップが埋め込まれているのだ。

 ピーッと割と派手な電子音が響く。赤が点っていたランプが緑に変わる。分厚い扉のロックが解除された合図だ。

 扉の向こうには、遙か見渡すほどの広大な空間が広がっていた。ざっと見渡しただけでも五〇人以上のスタッフが動いている。中央に作られた通路を挟み、左右に長テーブルが幾重にも整然と並んでおり、長テーブルの上にはパソコンや資料が載っていた。講堂の中を調査官や事務官たちが行き交い、ピリピリとした雰囲気と熱気が混在している。

 講堂の上座には、巨大モニター群が見る者を圧倒するように設置されていた。どのモニターも画像の乱れはなく鮮明だ。三〇面もの六〇型液晶ディスプレイには、地図、現場写真、不法に魔術文献を所持したために四課が執行した犯罪組織など様々なものが映し出されていた。

 モニター群の根元には、長テーブルを数台組み合わせた指揮台がある。スタンドマイクが人数分並んでおり、大規模事案が発生した場合、課長や統括官など四課幹部陣が指揮台から直接指示を出すのだ。

「四課長室はあっちだ」

 アルビノが指を指した先、講堂の上座に置かれている指揮台の向こうに扉が見えた。

「その前にソフィア、苦労して持ってきた魔術文献を回収したいんだが」

「はい」

 ソフィアはアタッシュケースを机の上に載せた。ソフィアが把握している九桁の暗証番号と、統括官アルビノの身分証でアタッシュケースの封印を解く。厳重な封印も魔術文献保護のためには致し方がない。実はアタッシュケースも梱包用の保護材も全て四課の技術班が開発した特注品だったりするんだ。

「これです」

 ソフィアが運んできた魔術文献、それは雁皮紙がんぴしで丁寧に作り込まれた一冊の上品な物だった。帝政時代、宮廷作家が書き上げた文化的価値が高い一冊だ。

「情報通り、カテゴリーCだな」

 魔術文献は連邦議会上院魔術委員会よりその危険度により四段階にカテゴリー分けされている。最も危険度が低く、一般に流通が認めている魔術文献はカテゴリーD、一冊で戒厳令が発せられるほど最も危険度が高い魔術文献がカテゴリーAといった具合だ。そのカテゴリーによって四課や各機関は警戒態勢や回収に投入される人員の規模や装備が違って来る。

「それにしても、一八〇〇年代のにしちゃやけにくすんでるな」

 白手袋を填めたアルビノが魔術文献を丁寧に精査する。

「ま、この程度だったら修復できるから問題ないけど。確かに受け取ったぜ。あー」

 辺りを見渡して、

「イリヤ、これ解析班に渡しといてくれ」

 アルビノはたまたま近くで作業していた男を呼び寄せた。ファイルをいくつも抱えた彼は露骨に表情を歪める。

「……統括官、徹夜明けなんスけど」

「人間一日や二日の徹夜じゃ死なねぇよ」

 呼び止められた男はヘルティアでは珍しい紅髪だった。目の下に大きなくまを作っている。男はきびきびと働いている他のスタッフと同じ四課員とは思えないくらい緩慢な動きでアルビノの元に寄って来た。

「よろしくな」

 渡す、と言うよりは無理矢理押し付けたという感じだった。

「ところでそちらさんは?」

「新入りだ」

「ソフィア=レナトゥスです」

「執行九班の調査官付事務官、イリヤ=C=ハグストレームだ。よろしくな」

 図調四課の実動単位は班である。四課ではどんな事案に対応するにも班単位で行動している。一つの班は調査官と調査官を補佐する事務官で構成され、基本一班四名で編成されていた。四課には執行班だけでも五〇班以上編成されており、連邦各所で日夜任務を行っている。

「……何か?」

 握手を交わすが、ソフィアはそこで違和感に気付く。初対面なのにイリヤが苦笑しているのである。

「いやあ、こんな綺麗な女性がマルクス警察をぶっ潰したなんてちょっと信じられなくて」

「ぶっ潰していません」

 綺麗な女性と褒められた嬉しさが一瞬で吹き飛んだ。警察ぶっ飛ばすってどんなぶっ飛んだ人間だ、と思わず叫びたくなる。そんなソフィアの様子が面白かったのか、アルビノはけたけたと笑っていた。

「なんなんですかその根も葉もない噂」

 じとっとソフィアはアルビノを睨む。

「情報は出来る限り全員で共有しないと。課一体で物事を運ばないと勝てる戦も勝てなくなる。そうだろ?」

「この話、自分に教えてくれたの統括官だから。ついでに言いふらしてるのも統括官だから」

 ぎろりとアルビノを睨み付けるソフィア。

「まあまあ。四課は腕っ節が頼りの武闘派集団だから。武勇伝の一つや二つ、課内に流れたっていいじゃん。尊敬されるよ? 今後の仕事で役に立つかも」

「役に立ちません。逆に人間関係がギクシャクします。あたしがイジメられたらどうするんですか?」

「それはない。だって警察吹っ飛ばすような人間は虐められる方じゃなくて絶対イジメる方だから」

「イジメません」

「ま、ちょっとした俺なりのプレゼントだよ。良かったじゃん、みんなに早く認知して貰えて。人気者街道まっしぐら」

「だからと言って変な噂を流して良いって訳じゃありません」

「いやー、うちは優秀な人材を獲得できて幸せ者だ」

 ソフィアは肩を落とした。彼女の古巣であるFSAが病的に融通が利かない厳格な組織だった。上官の命令には絶対服従が当たり前。意見することすら許されない場合もある。FSAと四課のギャップに慣れることから始めようとソフィアは思う。尤も、彼女はそんなそぶりは一切見せない。

「さて、与太話はこれくらいにしといて、じゃイリヤ、魔術文献それよろしくな」

「了解っす……」

「あ、後でクラーラと作戦会議室に来い。ピーチェルで仕事だ」

 どっへーと背後から溜め息が聞こえてきた。思わずソフィアが振り返ると、そこには項垂れながら魔術文献を持っていくイリヤがいた。足取りが重々しい。

「んじゃ行こうか」

 ゆっくりを息を付き、アルビノはソフィアを見据える。

四課長ボスがお待ちだ」



     二



 ソフィアが上司の命令で、ヘルティアの防諜、犯罪対策を担うFSAから図調四課に出向するよう命じられて一週間。

 ようやく図調四課を束ねる課長との対面に漕ぎ着け、安堵するソフィアだったが、課長室に入ったソフィアを出迎えたのは机の上に薄高く積み上げられた書類の山だった。散らばる書類で床が見えず、足の踏み場がないほど散乱している書類。どこを見ても書類、書類、書類、書類……。課長職がいかに激務かということを象徴しているような書類群の中で、くだんの四課長がいる。

「あの人ですか」

「そ。あの書類の山ン中で爆睡してる馬鹿女が図調四課うちの課長、エレーナ=ヴォルコヴァ。御歳三五歳独身彼氏なし」

 ぐおー、と獣みたいな寝息を立てている四課長。アルビノは平然と床に散らばっている書類を踏みつけ、四課長の元にたどり着くと、机に載っていた分厚い辞典で四課長を小突いた。ばこんと軽い音が四課長室に響く。

「あが、あああああァ、……あ?」

「人間的な応対は出来ないんですか? もう良い歳なんですから」

「むー、もうちょっと……、んごー」

「四課長。新入り連れてきましたよ」

「んごー」

 アルビノは無言で分厚い辞典を手に取った。今度は大きく振る被った。

「こんなんだからだから貰い手がいないんだ、よっ!!」

 そのまま辞書を振り下ろした。先程とは比べ物にならないくらい、迫力満点な音が四課長室に響く。

「あがっ、……ああ、アゴが、アゴが壊れる……」

「四課長。例のFSAからの出向してきた」

「―――し、出向、……ああ、例の、ね」

 のそっと四課長が顔を上げた。まず、軽くウェーブかかった金髪が目を引く。直立不動で何も言わなかったら結構な美人なのにと、横でアルビノがなかなか失礼なことを言っているが、寝ぼけ眼の四課長には聞こえていない。

「あんたが、ソフィア、……ソフィア=レナトゥス中尉ね。あー、ごめんなさいね、徹夜明けだったもので……。四課、……課長の、エレーナ=ヴォルコヴァよ。ようこそ我が四課へ……」

「ソフィア=レナトゥスです。よろしくお願いします」

「あら、……礼儀正しくて、……良い子じゃない」

 あくび混じりに、四課長。

「どこかの腐れ四課長おんなとは遺伝子レベルで違いますからね」

「ぅうう。……誰が、腐れよ。み、見なさい、この美貌」

 ふらふらと椅子から立ち上がろうとするも、腰が砕けてしまった。へなへなと椅子にもたれ掛かる。もう何もかもが台無しだった。ソフィアは勿論のこと、見慣れているはずであるアルビノまで何故だか悲しくなってきた。

「もうしゃきっとしろよ、恥ずかしい」

 アルビノは四課長の両肩を押し、無理矢理座らせる。四課長はムスッとした表情でアルビノを睨んでいたが、言わずもがな、寝起きの女に眼力に迫力はない。

「入局早々悪いね。いつもこんな感じだから」

「いつもなんですか?」

「大丈夫。すぐに慣れる」

「あまり慣れたくありません。そもそも慣れていいんですか?」

「そこは賛否両論だなあ」

 アルビノが戯けて笑った。

「とにかく四課うちはソフィアに期待してるんだからな」

「……うちって、魔術関連の業務なのに、その手の専門家が少なくてね。士官学校カデットで対魔術戦を専攻し、……FSAでは対魔術戦部隊で活躍……。経歴書は、寝る前に、読んだわ。———期待してるから。四課では、副官待遇の調査官として、その手腕を振るって頂戴、ね……」

 アルビノの言葉を引き継ぐようによれよれの口調で四課長がそう言った。

「で、ソフィア。早速配属の件だが———」

「四課長!」

 アルビノの声を遮るように、ファイルを持った事務官が課長室に飛び込んできた。

「何よ、急な用事じゃなきゃ、……後にしてくれる?」

 四課長は少し迷惑そうに、飛んできた事務官に言った。

「緊急な案件です。えっと、」

 事務官は直ぐに報告しようとしたが、ソフィアの姿を見つけると、躊躇した。見慣れぬ顔であるソフィアがいる中で口にしていいのか迷っているのだ。見かねたアルビノは構わないからと事務官に告げると、彼はまるで決壊したダムのようにまくし立てた。

「現地駐在員より報告。魔術文献が発見されたとのことです。場所は連邦極東管区エヴァンジェ自治州の主要都市、サハ!」

「あら、……丁度良い。詳しい情報は?」

「こちらに」

 事務官は四課長に持ってきたファイルを差し出した。四課長はそれを受け取るなり、はらはらとページをめくっていく。

「……これだけ、証拠が揃えば、問題ないわね。魔術委員会に……、令状申請しといて」

 事務官にファイルを返す。事務官は一礼してその場から立ち去った。

「ルチアーニ統括官」

「直ちに執行班を展開させます」

「手持ちに”浮き”は、あるの?」

「ピーチェルの一件に投入しようと思った九班があります。二日前に帰投したばかりですが」

「……仕方ないわね。サハの事案は、令状が、下りる段階まで進んでるから……こちらを優先させましょう」

「ミーティングしようとイリヤ呼び出したばっかなんだけどな……。ま、いっか別に」

 アルビノは呟き、頭を掻く。

「でもまあ、九班なら、好都合ね」

 四課長は流し目でソフィアを見た。

「九班は副官が欠員でね、ソフィア、……貴女にやってもらおうと思ってるの」

「副官、ですか?」

「そ。一年前に副官がね、殉職しちゃってね、それ以来九班はずっと……副官不在で回してたの。……わりかし有能な参謀役が、いるにはいるんだけど、それ以上に武闘派が……いろいろね、……実力は申し分ないんだけれど、まあ、おかげで荒事しかできない、頭の悪い執行班になっちゃって、……困ってたのよ。FSAで培ったオペレーションに期待してるわよ」

 四課長は苦笑した。

「了解」

「ところで、九班の連中は本部にいるの?」

「イリヤは四課本部で作業中、クラーラとミハイルは非番ですので正式に出撃許可が下りれば直ちに呼び出します」

 四課長の問いにアルビノが答える。

「良いわ。九班に、出撃命令」

 そう言うと大あくび。

「と言うことで、早速仕事よ、ソフィア。概要は追って、説明するから。準備は抜からないでね」

「了解。では、失礼します」

 四課長室から出ていくソフィア。

 目を擦りながら四課長は一度両頬を自分で叩き、活を入れる。

「今日も徹夜かな」

「四課長がもっとしゃきしゃき仕事すりゃ早く終わると思います」

「あら、ご機嫌斜めね」

 不敵な笑みを浮かべた四課長はアルビノを見た。

「ご不満のようね」

「正気ですか?」

 残されたアルビノは心なしか表情が優れない。

「そりゃ顔合わせもなしに現場に送り出しちゃったのは悪いと思ってるわよ」

「いえ、そうじゃなくて……」

 四課長はすぐにアルビノの言葉の裏を読み取った。

 その上で、毅然と告げる。

「心配ないわよ。例え『オルガン』だろうと、私の部屋に足を踏み入れた以上、もう私の部下なんだから」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ