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第6話:地獄への道は善意で舗装されている

【王都オラム:住宅地Bブロック】

「みんな、今日は俺が衝撃のニュースを持ってきた! 是非聞いていってほしいな。」


早朝の住宅地Bブロック

そのど真ん中で俺は声を張り上げた。


なんだなんだと集まってくるBブロックのみんな。

ある程度の人数が集まってきたところで、俺は話し始める。

伝える内容が内容なだけに、俺はいつの間にか本気モードになっていた。


「みんな、この世界......いや、この世界は根本からおかしいんだ! これから、俺はこの世界の真実を話す。」


俺は続けた。


「この世界は紛い物なんだ。イオフィエルたちが神に成り代わるための生け贄として、みんなを文字通り消費するつもりなんだ! 今ならまだ間に合うはずだ。協力してくれないか?」



住民たちの反応は冷ややかだった。

厳密には『冷ややか』とは少し違っていた。

俺のことを本心から心配しているように見えた。


「コウヘイ君。一応聞くけど、本気で言っているの?」


「サーシャおばさん。昨日、王城に忍び込んで直接聞いたんです!!」


サーシャからの問いかけに大声で答えた。

このやりとりを聞いていた他のみんなは、何かを確信したような表情をしていた。


「コウヘイ君。君は『知恵の実病』にかかっているわ。」


「俺は病気なんかじゃありません!」



誰も俺の話を真剣に取り合わない。

それどころか、サーシャおばさんから病気扱いされてしまう。

なんとかしてみんなを信じさせるために、必死になって反論を続けていく。


「俺は正気です。妄想とかじゃありません!」


「わかっているわ、コウヘイ君。おかしくなっているのはあなたの身体よ。身体が病魔に冒されているせいで、変なことばかり言うようになってしまっているの。」


「サーシャおばさん......何を言ってるんですか?」


「「典型的な『知恵の実病』の症状だな。」」

「「ああ、早く助けてあげないとだ。」」


「皆さん......サーシャおばさんだけじゃないんですか? 俺を病気扱いするのは......」



周りの住民たちも全員が俺のことを病気扱いしてくる。

そんな中、サーシャが俺に優しく語りかけてきた。


「コウヘイ君。『知恵の実病』は、発症してから五日以内に死亡するとても危険な病気なの。初期症状は『意味不明な言動』よ。コウヘイ君にはその症状が出始めているわ。」


「何を言ってるんですか? そんな病気あるわけありません!」


「別の世界から来たんでしょ? 知らなくても当然よ。でも安心して。『病院』で一月くらい治療を受ければ絶対に治るから。」



近くにいた一人の男性が、優しげな声色で俺に語りかける。


「騎士団に連絡しといたぞ。すぐに来てくれるそうだから安心しろよな。コウヘイ。」



今度は別の女性が俺に話しかけた。


「みんなで見守り合っているのは、この病気を早期発見するためよ。今回はうまくいって良かったわ。」


その場の全員がこちらに語りかけてきた。

そこには微かな狂気が滲み出ていた。


「「「あなたには病気で死んでほしくないの。ちゃんと病気を治して、私たちと『幸福』を追求していきましょ。」」」



隣人たちの表情と声色には、一切の悪意が籠もっていない。

俺のことを心から心配する隣人たち。

純粋な善から、俺を助けようと必死になっていることが伝わってきた。



(人々の『善意』そのものを利用して、相互監視体制を作り上げるなんて......この世界は、どこまで歪みきっているんだ!!)



暫く経って、数人の騎士がこちらに向かってきた。

どうやらタイムオーバーのようだ。


「通報を受けて参りました。患者さんはどちらですか?」


「「「こちらの方です。」」」



隣人たちが一斉に俺に指先を向けてくる。

騎士たちは俺を見て笑みを浮かべる。

一見とても優しい表情。

だがその態度からは、邪悪な何かがにじみ出していた。


「君が患者さんだね? 一緒に来ようか。」


「大丈夫だよ。心配しなくてもお兄さんたちが付いているよ。」


表面上だけは穏やかな口調で騎士たちが話す。

俺は連れて行かれる直前に、最後の叫びを上げた。


「この国全体が『偽りの世界』なんだ! みんなの『善意』のせいで、俺は『地獄』に落とされるんだ!!」





【王城地下牢:特別収容室】

病人扱いされた俺は、騎士たちに連行されていった。

もちろん『病院』なんかに連れて行かれる訳がない。

王城の地下牢へ幽閉されてしまった。

それも、『魔力の生成を阻害する効果がある』とか言ってた首輪のおまけ付きでだ。


嫌すぎるおまけ商品だな。

ハッピーセットのおまけみたいな、可愛らしいものだったらまだ良かったのに。

まあ、そんなもので喜ぶ年齢でもないか。



~~~~

「ここがお前のスイートルームだ。のんびり......はできないだろうが、せいぜい大人しくしていろよ。」


看守が檻の中の俺にそう告げる。

俺は、目の前の看守に向けて怒りのままに叫んだ。


「何が『知恵の実病』だ! 『病院』とやらに連れて行くとか言ってなかったか!?」


「うるさいやつだなー。そんなもんあるわけないだろ。全部知られたからには『処分』するだけさ。」


「『一月治療すれば戻れる』って住民たちが言っていたぞ。それを過ぎても戻ってこなかったら、みんなが不審に思うんじゃないのか?」



俺の言葉を聞いた看守が鼻で笑った。

そして、冷酷な事実を突きつけた。


「魔術の才能も軍師としての適性もあるくせに、そんなこともわからないのか?」


彼は続けた。


「決まっているだろう。お前は『存在自体』を消されたんだよ。Bブロックの住民たちには、既に記憶処理を施してある。誰もお前が居たことすら思い出せないだろうな。」


「.........」


「君だって隣人がいなくなった事を忘れていただろ? 『オスカー』とか言ったか? 彼は人手が足りなかったから連れ去られたけど、君はそのこと自体を忘れていただろう?」


「お前たちは......どこまで姑息な手段を使うんだ!!」


「ハハハ。お褒めにあずかり光栄です。それではごゆるりとお過ごしくださいませ、コウヘイ様。これ以上不平不満を述べられましたら、拷問させていただきます。お気を付けくださいませ。」



皮肉たっぷりの悪意しかない台詞を吐いて、看守は去って行った。

これじゃあみんなを助けることは不可能だ。

不本意すぎる形で、肩の荷が下りた俺は、元の能天気さを取り戻していた。


誰かの命がかかっているときしか、本気モードにならないみたいだな。

俺ってとことん変人だ。



「はあー......もういいや。何やっても無駄そうだし、看守が言ってた通りゆっくり過ごそう。」


「ずいぶんのんきね。新人。」


唐突に後ろから声を掛けられる。

振り向くとそこには一人の少女が座り込んでいた。



16歳くらいの見た目で、情熱的で美しい赤い長髪。

金色に輝く宝石のような瞳。

俺と同じく黒いローブを着込んだ美少女が、俺のことを見つめていた。


なかなか返事を返さない俺に、彼女は再び問いかけてきた。


「ねえ、聞いてるの?」


「聞いてるよ。ところで君は誰?」


「あたしは『エリシャ』よ。一週間前からここに閉じ込められてる。あんたは?」


「俺は『コウヘイ』だよ。昨日お城に忍び込んで、今日の朝同じブロックのみんなに真実を話したら捕まっちゃった。」



俺の返事を聞いたエリシャは、怪訝そうな表情で問い詰めてきた。


「コウヘイだったわよね? あんた本当に王城に忍び込んだの? そんなことできるくせに、考えなしに住民に事実を伝えたの?」


「そうだけど、なにか?」


「もう少し巧妙にやろうと思わなかったの? 住民たちがまともに取り合ってくれないことすら予想できないの? あんた馬鹿なの?」


「君は疑問ばっかり言うね。もちろん、俺は馬鹿に決まっているじゃないか。」


「あきれたわ。あたしと違って、救いようのないアホね。」



さすがに、この子俺のこと馬鹿にしすぎじゃね?

まあ、それはいったん置いておこう。



俺は話題を変えた。


「ところで君は何でここにいるの?」


「もともとCブロックに住んでたんだけど、あんたみたいな馬鹿が真実を知っちゃってね。そのことをベラベラと演説しやがったの。」


「記憶処理されなかったの?」


「もちろんされたわ。でも、いつもの癖であたし自身に回復魔法を掛けちゃってね。そのせいで記憶が残っちゃったの。偶然そのことを騎士団に知られて、この部屋があたしの新居になっちゃったの。」


「洗脳されているのに、よくそんなことできたね。」


「あたしは天才魔道士だからね。洗脳なんて効くわけないわよ。」


彼女はドヤ顔でそう答えた。


エリシャは幽閉されている割に元気あるな。

それに、かなり自信過剰のようだ。

この子も俺みたいな変人なんじゃないか?



そんな彼女に俺は別の質問をした。


「ちなみにさ。俺たちがどうなるのか知らない?」


「さすがの私もそこまでは知らないわ。まあ、悲惨な目に遭うことは確かでしょうね。」



そこまで言ったとき、エリシャは表情を変えた。

その目には、強い闘志が宿っていた。


「ねえ、コウヘイ。あんたもこの世界がおかしいと思っているのよね?」


「当たり前じゃん。」


「あたしは、この世界をぶっ壊したいと思ってる。ねえ、協力して一緒にこの狂った世界を滅茶苦茶にしてやりましょ。城に忍び込んで帰って来れたあんたと、このあたしが組めばやれるはずよ!」



エリシャの力強い言葉を聞いて、俺の心に再び火が付いた。

そうだ、やってやろう!

こんな『偽りの理想郷(エデン)』なんて存在しちゃいけないんだ。



「いいぜ。俺も協力するよ。」


「決まりね。ひとまず体力を温存しましょう。」


意気投合した俺とエリシャは、脱走できる機会を伺った。

だが、脱走する機会が訪れることはなかった。

それどころか、投獄されてから一週間後に、俺たちの状況は更に悪化してしまう。




「準備しろ。囚人共。今日からお前たちは『農村』行きだ。」

「逃げようとしても無駄だから覚悟しておけよ。」




第七話に続く

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