まおおおおおおう!!!! でてこおおおおおおおい!!!!
魔術。それは、世界に溢れる魔力という名のエネルギーを利用して不可能を可能にする技術。人々は、魔術の進歩に多大な時間と労力を費やした。おかげで魔術は人々の暮らしを豊かにしたが、反面、災厄も生み出した。
それが、魔王である。魔王とは、魔術の真髄に最も近づいた人間であり、その結果、強欲にも魔術の力で世界の支配を企まんとする人物のことである。魔王が一国を支配し、さらに一国、さらに一国と順調に世界の支配を進めていたその頃、とある田舎村で一人の少年が魔王を倒すべく立ち上がった。彼の名は、センド。のちに"不死身の勇者"とも呼ばれる英雄である。
魔王が魔術という人外の力を操る一方で、センドは魔術の"ま"の字も知らなかった。魔王による情報統制が行われ、一般市民が魔術の使い方を知る術は無かったのだ。それゆえに、センドの武器はたった一本の鍬だった。家の倉庫に眠っていた何の変哲もない木の鍬だ。それは、もはや武器とは言えなかった。
センドは一本の鍬を持ち、魔王城の城門前へとやって来た。そこには、門番の一人もいない。門番など居なくとも問題ないという、魔王の自信の表れだろうか。
センドは門を力いっぱい叩き、大声で叫んだ。
「出てこい魔王!! お前を倒しに来た!!」
......出てくるはずもなかった。仕方ないので無理やり城内に入ろうとするが、その大きな鉄の門はぴくりともしない。今こそ鍬の出番だ。そう意気込んだセンドは手に持った唯一の武器を大きく振りかぶり、魔王への道を塞ぐ門に叩きつけた。聞くに無惨な音を立てて、鍬は折れた。
「......」
ここまでの旅の相棒を失い、センドの魔王への怒りはさらに燃え上がった。
「まおおおおおおう!!!! でてこおおおおおい!!!!」
三日三晩、門の前で叫び続けた。これには流石の魔王も耐えられなかったのか、ようやくセンドの前に姿を現した。
そして、赤子の手を捻るように風の魔術でセンドを遠くへ吹き飛ばした。うるさいガキは死んだだろう。魔王はそう思った。しかし、それから一ヶ月が経った頃、再び門の方から叫び声が聞こえた。
「まおおおおおおう!!!! でてこおおおおおい!!!!」
何ということだ、生きていたのか。驚きながら再びセンドと対峙した魔王は今度は炎の魔術で塵一つ残らないほどに燃やし尽くした。流石にもう死んだだろう。そう思った。しかし、また一ヶ月後。
「まおおおおおおう!!!! でてこおおおおおい!!!!」
どういうことだ。確かに目の前で燃えて死んだはずだ。ならば、と今度は氷の魔術を使ってセンドを氷の彫像にして城内の目の着くところに飾ってやる。これならば、再び門の前に現れることはないはずだ。
「まおおおおおおう!!!! でてこおおおおおい!!!!」
変わらず氷の彫像は城にあった。おかしい。再び門の前に現れた少年を氷漬けにし、前の彫像の横に置く。そして気付いた。同じ年頃の少年ではあるが全くの別人である、と。
思い返してみれば、最初に来た少年と二度目に来た少年も別人だったのではなかろうか?
そうだとすれば、素性の違った少年たちが毎月かわるがわる魔王城へとやって来ていたという事だ。魔王には訳が分からなかった。
「まおおおおおおう!!!! でてこおおおおおい!!!!」
懲りずにまたやって来た偽センドを、今度は会話ができるように頭の部分だけ残して凍らせる。そして、何のつもりだと問うた。だが偽センドは答えを言うことなく、舌を噛んで死んでしまった。
「まおおおおおおう!!!! でてこおおおおおおい!!!!」
「まおおおおおおう!!!! でてこおおおおおおい!!!!」
「まおおおおおおう!!!! でてこおおおおおおい!!!!」
気が狂いそうだった。住む場所を変えてもどこから嗅ぎつけたかやって来る。耐えきれなくなった魔王は、誰も近づけない絶海の孤島へと身を移した。そして現在まで魔王はそこから出て姿を見せた事はない。圧倒的支配者を失った魔王軍は、次第に勢力を減らしていった。
こうして世界に平和は訪れたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆
センドの村は魔王が派遣した軍に一方的に壊滅させられた。生き延びたのは、センドただ一人。この時からセンドの復讐は始まった。
センドはまず仲間を募った。センドと同じく、命を賭けてでも魔王に復讐を誓う仲間を。
自分達に魔術は使えない。自分達は強力な武器を持っていない。自分達に魔王を倒せるほどの力は無い。
ならば策を練ろう。
センドはできるだけ自分に近い年齢の少年を集めて、こう言った。
「僕たちは、不死身の勇者だ」
月に一度一人ずつ、魔王城へと決死の特攻を行う。同じ格好、同じ髪型。できるだけ似た姿で。
決して途絶える事なく、これを数回繰り返して、次は月に二度、それをまた繰り返してその次は月に三度。徐々に徐々に増やしていく。
いとも容易く殺される事だろう。だからこそ魔王は殺した者の見た目など気にも留めないはずだ。何度も何度も繰り返せば、いくら魔王といえど耐えられなくなるはずだ。
バカな作戦だと思う。でも、僕にはこれしか思いつかなかった。僕たちは魔術どころかろくな勉学も受けさせてもらえない。僕たちに学はない。
僕たちにあるのは、無謀な勇気、それだけだ。
もう一度言おう。
「僕たちは、不死身の勇者だ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
今もなお絶海の孤島で隠れる魔王の耳には、現実か幻聴か、あの声が聞こえる。
「まおおおおおおう!!!! でてこおおおおおおい!!!!」




