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あすかの幸せについて第一章題「白いマフラーの冬」  作者: こうた


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14/20

第14話 言えなかった本音

約束していた日帰りの外出。

その日、空はよく晴れていた。

冬の光はやわらかく、どこか穏やかで。

本来なら、楽しいはずの一日だった。

「……寒いですね」

あすかが言う。

「ですね」

しょうたろうも短く答える。

並んで歩く。

けれど、いつもより会話が少ない。

(……どうしてだろう)

ほんの少しのズレ。

それだけのはずなのに。

それが、こんなにも空気を変えてしまう。

カフェに入る。

温かい空気。

けれど、心の中はどこか落ち着かない。

「何にします?」

「……なんでも」

短いやり取り。

前なら、もう少し笑っていたはずなのに。

注文を終え、席に座る。

沈黙が続く。

しょうたろうが、ふと口を開く。

「……あすかさん」

「はい」

「この前のこと、なんですけど」

その言葉に、胸が少しだけ強くなる。

「……泊まりの話」

やはり、その話になる。

「自分、あれから少し考えてて」

あすかは、黙って聞く。

「無理させたくはないです」

優しい言葉。

「でも……」

その“でも”に、空気が変わる。

「正直に言うと」

彼は少しだけ視線を落とす。

「もう少し近づきたいって思ってました」

その言葉は、まっすぐだった。

あすかは、すぐには答えられない。

「……分かります」

ようやく、言葉を出す。

「私も、もっと一緒にいたいって思います」

そこまでは、本音だった。

「でも……」

同じ言葉が、重なる。

「……怖いんです」

しょうたろうが顔を上げる。

「何がですか」

「……変わってしまうことが」

あすかは、ゆっくりと続ける。

「今の関係が、すごく大事で」

「壊したくなくて」

その言葉は、確かに本音だった。

けれど――

「……それって」

しょうたろうが静かに言う。

「自分は、まだそこまでじゃないってことですか」

その一言に、胸が強く揺れる。

「違います」

すぐに否定する。

「そういうことじゃなくて」

「じゃあ、どういうことですか」

声は強くない。

けれど、逃げ場がない。

あすかは、言葉に詰まる。

(……どう説明すればいい)

気持ちはある。

好きだと思っている。

けれど――

「……分からないんです」

その一言しか、出なかった。

沈黙。

しょうたろうは、少しだけ目を閉じる。

「……すみません」

彼が言う。

「責めたいわけじゃないんです」

「……分かってます」

けれど、その優しさが逆に苦しい。

「ただ……」

彼は続ける。

「同じ温度だと思ってたので」

その言葉に、胸が締めつけられる。

(……違うの?)

そう思ってしまう自分がいる。

「……違うんですか」

気づけば、そう聞いていた。

彼はすぐには答えなかった。

少しだけ間を置いて――

「……少しだけ、違うのかもしれません」

その一言が、静かに落ちる。

あすかは、何も言えなかった。

それ以上、言葉が見つからない。

コーヒーは、もう冷めていた。

そのあと、会話はほとんどなかった。

外に出る。

空は、少しだけ曇り始めている。

並んで歩く。

けれど、距離はほんの少しだけ開いていた。

手は、繋がれていない。

それが、何よりも分かりやすかった。

(……どうして)

さっきまで、普通だったはずなのに。

ほんの少しの言葉。

ほんの少しの気持ちのズレ。

それだけで――

こんなにも、遠くなる。

冬の空気が、少しだけ重く感じる。

ふたりの間に。

初めての“壁”が、静かに生まれていた。

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