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あすかの幸せについて第一章題「白いマフラーの冬」  作者: こうた


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12/20

第12話 小さな違和感

あの日から。

ふたりの関係は、はっきりと変わった。

会う頻度が増えた。

店だけじゃなく、外でも過ごすようになった。

何気ない会話。

並んで歩く時間。

自然に触れる距離。

それが、当たり前になっていく。

「……あすかさん」

「はい」

名前を呼ばれることにも、もう慣れていた。

その響きが、心地よくなっていた。

その日も、ふたりは並んで歩いていた。

冬の空気は冷たい。

けれど、繋いだ手は温かい。

「最近、忙しくないですか?」

しょうたろうが聞く。

「……少しだけ」

「無理してません?」

「……大丈夫です」

そう答えながら、少しだけ目を逸らす。

本当は、少しだけ違う。

忙しいわけではない。

けれど――

心のどこかに、言葉にできない感情がある。

満たされている。

幸せだと思う。

それなのに、ほんの少しだけ引っかかるもの。

「……どうしました?」

彼が、気づく。

「いえ……」

言葉にしようとして、止まる。

(……なんだろう)

理由が分からない。

彼に対して、不満があるわけじゃない。

むしろ、優しい。

丁寧で、まっすぐで。

一緒にいると、安心する。

それなのに。

「……あすかさん?」

少しだけ心配そうな声。

「……大丈夫です」

無理に、笑う。

彼は少しだけ納得していない顔をしたけれど、それ以上は聞かなかった。

その優しさが、少しだけ胸に刺さる。

その日の帰り道。

ふたりはいつもの分かれ道に立っていた。

「……今日は、少し元気なかったですよね」

しょうたろうが言う。

あすかは、少しだけ目を伏せる。

「……そう見えましたか?」

「はい」

少しの沈黙。

逃げることもできた。

けれど――

逃げたくなかった。

「……分からないんです」

ぽつりと、言葉が落ちる。

「何がですか?」

「……今、すごく幸せだと思うんです」

自分の言葉を確かめるように、ゆっくり話す。

「一緒にいると、安心するし……」

「楽しいし……」

そこまで言って、少しだけ言葉が止まる。

「でも……」

しょうたろうは、黙って待っている。

「……少しだけ、怖いんです」

その一言に、空気が静かに揺れる。

「怖い……?」

「……はい」

小さく頷く。

「こんなふうに、誰かといることがなかったので」

「……失うのが、怖いのかもしれません」

それは、正直な気持ちだった。

長い間、ひとりでいた。

誰かに頼らず、誰かに近づかず。

そうやって、バランスを保ってきた。

それが今、崩れ始めている。

「……あすかさん」

しょうたろうが、ゆっくりと名前を呼ぶ。

「大丈夫ですよ」

その言葉は、優しかった。

「自分は、いなくならないです」

その一言に、胸が少しだけ締めつけられる。

(……本当に?)

そう思ってしまう自分がいる。

信じたい。

けれど、どこかで信じきれない。

その小さなズレが、心の奥に残る。

「……ありがとうございます」

あすかは、静かに言う。

それ以上は、何も言わなかった。

手を繋ぐ。

いつもと同じ温もり。

けれど、ほんの少しだけ――

その温度が遠く感じた。

「……また、会えますよね」

しょうたろうが言う。

「……はい」

そう答える。

けれど、その言葉の奥に。

ほんのわずかな不安が混ざっていた。

冬の夜は、変わらず続いていく。

幸せなはずの時間の中に。

ほんの少しだけ生まれた違和感。

それは、まだ小さくて。

見過ごしてしまいそうなほどだった。

けれど――

確かに、そこにあった。

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