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あすかの幸せについて第一章題「白いマフラーの冬」  作者: こうた


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11/20

第11話 触れた温度

昼の光の中で過ごした時間は、思っていたよりもあっという間だった。

気づけば、空は少しずつ色を変え始めている。

淡いオレンジが、街をゆっくりと染めていく。

「……もうこんな時間ですね」

あすかが言う。

「早いですね」

しょうたろうも同じように空を見上げる。

並んで歩く帰り道。

昼の賑やかさは少しずつ落ち着き、夜へと変わっていく時間。

その境目のような、静かな空気。

会話は、少しだけ減っていた。

疲れたわけではない。

むしろ、満たされているからこその静けさ。

「……あすかさん」

しょうたろうが、静かに呼ぶ。

「はい」

その声に、少しだけ心臓が反応する。

「今日、楽しかったです」

「……私もです」

そのやり取りは、短い。

けれど、そこに嘘はなかった。

歩いているうちに、分かれ道が見えてくる。

あの夜と同じ場所。

けれど、意味は少し違う。

自然と、足が止まる。

夕方の光が、二人をやわらかく照らす。

「……ここですね」

「……はい」

少しの沈黙。

けれど、それは不自然ではない。

何かが起こる前の、静かな時間。

しょうたろうが、一歩だけ近づく。

ほんのわずか。

けれど、確かに距離が変わる。

あすかの呼吸が、少しだけ浅くなる。

視線を上げる。

彼の顔が、思っていたよりも近い。

「……あすかさん」

その声は、低くてやわらかい。

何かを言おうとして、言葉が出ない。

けれど、それでよかった。

一瞬だけ、時間が止まる。

風も、音も、すべてが遠くなる。

彼の手が、そっとあすかの頬に触れる。

優しく、確かめるように。

逃げることはできた。

けれど――

逃げたいとは、思わなかった。

ゆっくりと、距離が縮まる。

目を閉じる。

触れる。

ほんの一瞬。

けれど、確かに感じる温度。

やわらかくて、静かなキスだった。

離れる。

すぐには目を開けられない。

胸の奥で、何かが強く揺れている。

ゆっくりと目を開ける。

彼が、少しだけ照れたように笑っていた。

「……すみません」

「……どうして謝るんですか」

思わず、そう返してしまう。

「いや……嫌じゃなかったかなって」

その言葉に、少しだけ笑ってしまう。

「……嫌じゃないです」

それは、はっきりと言えた。

むしろ――

そう思いながらも、言葉にはしない。

少しだけ、距離が残る。

けれど、その距離はもう意味が違う。

「……あすかさん」

「はい」

「これからも……」

言葉を選ぶように、少しだけ間が空く。

「ちゃんと、大事にしたいです」

その言葉に、胸が静かに温かくなる。

「……はい」

それだけで、十分だった。

再び、少しだけ近づく。

今度は、迷いがない。

軽く、もう一度触れる。

さっきよりも、少しだけ自然に。

夕方の光が、ゆっくりと消えていく。

夜が、すぐそこまで来ている。

けれど――

もう、怖くなかった。

この関係は、確かに進んでいる。

触れた温度が、それを教えてくれる。

「……また、すぐ会えますか」

「……はい」

笑い合う。

それだけで、心が満たされる。

あすかは、ゆっくりと背を向ける。

数歩進んで、振り返る。

彼も、同じようにこちらを見ていた。

小さく手を振る。

彼も、同じように返す。

歩き出す。

胸の奥に残る温もり。

唇に残る、わずかな感触。

(……これが)

恋の、その先。

冬の空の下。

あすかは、確かに新しい一歩を踏み出していた。

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