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5 砦

 ルシオとソフィアは、砦に向かってゆったりとバーリョを歩かせながら砂利道を行く。

 遠くから、獣に乗った人が近づいてくるのが分かった。

 その場に立ち止まり、やり過ごそうとしたのだが、どうやら、砦の見張りがルシオ達をめがけてきたようだった。

「言葉は大丈夫にはなったけど。一応言葉を入れ込む魔水晶を用意しておこう」

「……ルシオ、あれは人なの?」

 近づいた人をよく見ると、犬の様な耳があり、後ろにはパタパタと動く尻尾まであった。彼は大きな鳥に跨がっていた。ダチョウを更に大きくしたような鳥だ

 ――獣人か? 

「お前達は何者だ?」

「僕らは旅の者です」

「……人族の生き残りか……付いてこい」

『どうするソフィア』

『相手の出方を見るしか無さそうね。掴まって、また牢に入れられるかも……』

『一旦逃げて、認識阻害を掛けて出直すか、彼等と同じ姿に化けるって言う案はどう?』

『もう見付かってしまったのよ、今更どうしようも無いと思うわ。近くには村もなかったし。姿を獣人に変えても、見知らぬ獣人は結局怪しまれるのではないかしら』

『じゃぁ、大人しく掴まるか』

『そうね。砦の中に入ることが目的ですもの。その方が情報を仕入れやすいわ』

「何をコソコソしゃべっている。サッサと付いてこい!」

 全く、ソフィアは度胸があると言うか、肝が太いと言うか何というか……。


 地図で見たときは、砦のように見えていた物は、大きな岩をザックリと細工した門だった。

 門には丸太を組んだ扉があり、見た目は荒削りだがとても頑丈な造りだった。

 門をくぐると広場になっており、広場を囲んで粗末な小屋があちらこちらに建っている。ザッと見まわしたところ百戸以上はありそうだ。

 奥には深い森がある。森からは引っ切り無しに獣人達が出入りしていた。どうやら、この場所はメインストリートのような場所で、獣人達が普段住んでいるのは森の中のようだ。

 ルシオ達が広場に立ち止まると、獣人達が物珍しそうに寄ってくる。口々に「人族だ」「白いぞ」などと言っている。

 その中から一人の年老いた獣人が人垣を押し分けてやってきた。どうやら女性のようだ。

 何故性別が分かったかというと獣人達は皆上半身が裸だったからだ。老婆の胸には垂乳根が揺れていた。

 老婆は二足歩行だが、腰が曲がり、杖を突いてよたよたと歩いて今にも転びそうでハラハラして仕舞う。

 ルシオの前に来た老婆は徐に話し始めた。

『ドコカラキタ』

 ――ん? ドコカラ……! これはグランデ大陸語か……

 ルシオが言葉を紡ぎ出すのにワタワタしていると、ソフィアが前に出てサッサと答えている。

「東です。あの山の向こうから……私の言うことが分かりますか、通じていますか?」

「ああ、分かるぞ。人族にしては精霊語が流暢だの」

 ルシオ達は小屋の一つに案内され、其処で尋問をされた。

 老婆はここのまとめ役らしかった。ソマと言う名の老婆は、犬獣人で他にもここには猫獣人、鳥獣人がいるという。

 鳥獣人は身体が華奢で小柄だ。翼を持ち、飛べるそうだが、西の地を隈なく飛べるほど長時間の飛行は出来ないと言った。

 彼等はルシオ達が東から逃れてきた難民だと思っているようだ。この頃はめっきり少なくなったが、数百年前は度々難民が来たのだそうだ。

 あの災厄の時から数百年間の間、北回りでひっきりなしこちらに逃れてきたのだろう。若しくは山脈越えをしたのかも知れない。

 ルシオ達の辿ったルートからは渓谷がある為、無理だったろう。

「人族の村も此処にあるのですか?」

「いや、殆どの者は、南や、西沿岸へ行った。ここに暫くいた者もいたが、今は死に絶えて誰も居なくなった。人族は寿命が短い故」

 ソマの寿命は一体どれくらいなのだろう?

「そうですか。ところで、ここにはハーフリングという種族がいると聞きましたが……」

「何故その様なことを知っている? もしや追放された者達に会ったのか」

「……はい、彼等を保護しています。彼等はこちらには戻れないのでしょうか?」

「無理だろうな。王は赦さないだろう。彼等は……いや、お前達は知る必要は無い。お前達が何も聞いて居ないところを見れば彼奴等も肝に銘じているのだろうな……これ以上詮索するようなら直ぐに出て行って貰う」

「……あの、私達は難民ではないので、勿論直ぐに立ち去ります。ですが、私は商人です。ここで商売させて貰えないでしょうか?」

「ほほう商人とな。何を売りたい?」

「魔法鞄……とか?」

「魔法鞄を持っておるのか! 何故それを早く言わなかった出して見よ」

 以前逃れてきた人族は魔法鞄を持っていたようだ。ここの王に献上もしたそうだが、もう使えなくなって仕舞ったそうだ。

 口から出任せで商人などと言ってしまったソフィアは、少し困っている。其処でルシオは収納にずっと入れっぱなしになっていた魔法袋を出して見せた。

 見本の魔法袋を渡し、この魔法袋で良いのならがいくらでも作ってやれるというと驚かれ、暫く待っているように言われた。

 その日、ルシオ達には小さな小屋を宛がわれ、其処で寝泊まりしても良いと許可が下りた。

 食事は出ないようだ。早速異空間に入り、食事をする。そして手持ちの魔物素材で手早く魔法袋を作った。ソフィアに巾着を縫って貰って魔法袋にする。例の簡単な巾着型だ。魔物素材ならば、魔水晶は使わなくてもそこそこのものが出来上がる。

 魔水晶を使った最高級の魔法鞄は以前作っていて売れずに残っていた物がある。それは王への献上用とした。

「魔法鞄が欲しいと言うことは、魔法は使えないようね」

「いや、魔法は使えるかも知れない。妖精達がもし居るとすれば、魔法とは違う精霊魔法が使えるはずだ。ワクワクするな、若しかするとエルフも居るかも知れない!」

「何故そう言いきれるの? それも前世の知識かしら」

 ソフィアにそう言われて、浮かれすぎていたルシオは少し恥ずかしくなった。幾ら妖精がいたとしても、この世界の理が漫画やゲームと同じとは限らないのだ。

「でも、ここには魔素がある。然も綺麗で清浄な魔素だ。魔法はきっと使える……使えていたら良いな。精霊魔法があるなら見て見たい」

「結界は張られていないのよ。もし精霊魔法があっても結界も張れないのでは意味が無いわ」

「魔素は森に近づけば近づくほど濃くなっている。森の奥に聖地のような若しくは魔水晶の森のようなところがあるんだよ、きっと。其処に結界が張ってあるかも知れないだろう?ここの獣人達はそれを守っているのではないのか?」

「そうかも知れないわね。精霊魔法……もし本当にあったのなら是非見たいわ」

「そう言えば、ハーフリング達は異空間の湖を精霊の泉と似ていると言っていた。精霊の泉、それが彼等の秘密だろう」

「そうね、そうかも知れないわ。ハーフリング達はその水に関して何らかの罪を犯して追放されたのではなくって?」

「もしそうなら隠すほどのことでも無いじゃないか、全く!」

「ルシオ、魔素が薄いこの地ではすごく大事にされているはずだわ。それを汚されれば、それは相当重い罪になるとは思わない?」

「……そうだったね、魔素が災いになるほど多かった場所から来たからか、有り難みを忘れていた」

「仕方が無いわよね、ありすぎてもダメ、少なくても困るんですもの……魔素って」

 異空間の屋敷の窓から外を見ると、ハーフリング達が湖に降りて水を汲み出している。

「彼等はあの水をどうしようと言うんだ?」

「畑に蒔くそうよ。そうすれば畑の作物がよく育つのですって」

「ふーん、でも、ここは何処でも魔素が行き渡っているから必要無いんだがな……」

 気温も一定に保たれていて、土は何時も程よく湿っていて水も撒く必要も無いのだ。薬草など手間も掛からない。

 お陰でウゴが植えた薬草は広範囲に蔓延って、大変な群生地になって仕舞っている。

 雑草など、もの凄い勢いで生えるのだ。屋敷の周りは『風の鎌』で一気に刈り取っても暫くすると復活してしまう。

「ふふ、その内彼等も気が付くでしょう。好きにさせておきましょう」

 ハーフリング達のちょこまかとしたコミカルな動きは、見ていて飽きない。大人だと知っていてもつい可愛らしく思えてしまうのだ。

 小さくても彼等は力持ちで疲れ知らずだ。一日中、身体を動かし働いて、そしてよく食べる。食事の時は皆で集まってワイワイがやがやと愉しそうにしている。

 彼等の食べ物は毎日この土地から採取してくる木の実や、草や根菜だが、いつの間にか何処から見付けてきたのか麦を脱穀してパンを焼いてルシオ達の所に『献上します』と言って持ってきたりもする。

「麦が自生していたなんて初めて知ったよ。自分の異空間なのに見て廻っていなかったな」

「そうね外にばかり目を向けていて、ここでは寝るだけだったものね」

「小麦の脱穀は大変な作業だ。ソフィア、彼等に脱穀機を作ってやれば喜ぶかな」

「そうね作ってやりましょうよ。小さな身体をのけぞらして驚く姿が目に浮かぶわ」


 次の日、王への献上品だと言って最上級の魔法鞄を差し出すと、猫獣人は慌てて何処かへ持って行った。

  作った魔法袋は瞬く間に売れてしまった。ここでは物々交換なので、物の価値が釣り合っているのかどうか全く分からない。

 商売をする目的では無かったのでルシオは構わなかったが、元商人のソフィアにとっては不本意だろう。

「もう売り切っちまったのか、おいらも欲しかったのに! また作ってくれるんだろう。次は絶対買うからな」

「ああ、また作るから。君のために取って置いてやるよ」

 ここに来るとき、ルシオ達を捕まえて連れてきた監視人の犬獣人は、売り切れてしまった魔法袋に未練タラタラだった。

 暫くして王様からの使いが来た。

 見た目は二足歩行の猫。猫獣人とも違うようだ。驚いてみていると、彼女? は「あたいはケットシーさ」と言った。その猫の妖精に付いてくるように言われ、大人しく従う。

 森の中に深く入り、暗い洞窟の入り口をくぐると、目の前には立派な宮殿があった。白亜の宮殿。お伽の国に迷い込んだのかと見まごうばかりの、繊細で美しい建物だった。

 ただ、宮殿の素材は石ではないようだ。堅い木を変化させて出来上がっていると教えられた。

「ここは洞窟の中だったはずなのに……空がある」

「なんだか、異空間に迷い込んだような感じね」

 洞窟だと思った空間は、立派な木々が生い茂る手入れの行き届いた森の中だった。木々の間は広く取られていて、光が降り注いでいる。下生えも綺麗にされていて、歩きやすい。

 木は総て大きく、木の洞は住居として利用されているようだった。

 周りを見まわすと案内人と同じケットシーという生きものや、二足歩行の犬もいた。犬獣人とも違う小さめの、後ろ足で歩く犬。他にも羽の生えた小さな人型の生きものや見たことも無い生きものが木の上や間からこちらを観察している。沢山のハーフリング達もいた。

 呆然としているルシオ達は宮殿に招き入れられた。

 宮殿の中はそれほど広くは無かったが、そこに居た人々は紛れもなくエルフだ。然も肌色は真っ白で、髪は銀色、切れ長の目は翠玉色だ。耳は僅かに長いようだが気になるほどでもなかった。細くたおやかな身体付きで、正にゲームで見たエルフそのものだった。

 余りの美しさにボーッとしているとソフィアに小突かれた。

『ルシオ、王様の御前よ。挨拶しないと』

『ああ、そうだった。でも、エルフだよ。まさかこんなに綺麗だとは思わなかった』

 玉座に座っている威厳のあるエルフは、ルシオ達を感情の籠もらない目で見ていた。

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