4 不可解な子供達
もう少しで砦だろうという場所に降り立ち、バーリョ達にまた出てきて貰う。近くに人がいたらフライトモービルでは驚かれてしまうだろう。
よく見ると砂利敷きの踏み固められた二メートル幅の道が出来ている。どう見ても人の手が入っているようだ。
「これは明らかに知恵のある生きものがいる証拠だ。認識阻害を掛けるか……その方が面倒なことに巻き込まれない」
「そうね.。でも何だかワクワクするわ。人族かしら、それとも別の種属が見付かるかしら」
「魔素が薄いから、鬼人では無さそうだ。魔法使いも居ないだろうな」
レオン達は道から逸れ、近くの林の木々に紛れるように進んだ。
林は道に沿って細長く伸びていた。林の奥は緩い起伏になっていて身の丈ほどの草が生い茂る草原が続いている。時より草原を揺るがしているのは獣だろう。暫く行くと、複数の獣のうなり声がする。バーリョの匂いに誘われて、肉食獣が寄ってきたのだろうか。
「バーリョ、心配ないよ。ちゃんと結界に守られているからね」
バーリョの首をポンポンと叩き話しかけると、
「ヒン!」
大丈夫だと言っているのか? そう言えばバーリョは、以前魔物を蹴散らしていた。普通の馬もこうなのだろうか? それとも、異空間の魔素がバーリョを変化させたのだろうか?
手綱を引き締め、獣から離れようとしたが、何故か、バーリョは獣の気配のする方へ寄っていく。
「バーリョ、お前が強いのは知っているから。だから良い格好をしなくても良いんだぞ」
「ルシオ! 子供が獣に襲われているみたいだわ」
ソフィアが鐙に足を掛けたまま伸び上がって、遠くを見ていた。
「なんだって」
手綱を緩めると、バーリョは活きよいよく駆け出した。ルシオの前方に獣がうなりを上げ永ら走り回っているのが見えた。
その中心では十人ほどの子供がうずくまり周りにはそれを守るように十人くらいの子供が立って、小さな刃物を持ち周囲の獣から身を守ろうと必死になっている。その周りを数十匹のハイエナに似た獣が取り囲んでヒットアンドウエイの要領で時々かじりついて居る。
何度か襲われたのか、子供達の殆どが怪我を負っているようだ。
バーリョは獣の中に突っ込んで数匹の獣を踏み潰しながら子供達の所に辿り付く。
魔物でなくても大型の獣や肉食獣は危険だ。ましてや子供にとっては脅威だ。急いで周りを結界で包む。
『風の鎌』の魔法を放てば簡単に獣の勢いを殺せるが、無駄な殺生は避けたかった。獣たちも生きる為に狩りをしているのだから。
ハイエナのような獣は、見えない壁に何度も突進して勝手にダメージを受け、その内に諦めて散っていった。
「ここが魔物と獣の違いね。魔物なら死ぬまで諦めないもの」
「獣の特性は受け継いでいるんだが、魔物化すると恐怖に対して鈍感になるのかもな」
ソフィアと二人で取り留めの無い話をしながら、呆然とルシオ達を見ている子供達を治療していく。ルシオもソフィアも治癒魔法は得意だった。
しかし魔力が直ぐに底をつく。ここまで来るのにも結界や認識阻害で魔力を使って居た。周りの魔素が少なければこんなにも魔力に影響があるのだと改めてルシオは思った。
「ルシオの異空間で治療した方が効率が良いわ」
子供達を異空間で治療し終わり、食事を与えて、今は屋敷の中で休ませている。
子供達を一番大きな部屋に纏めて入れ、其処に言葉を解析する魔水晶を置いておいた。
子供達とは、何度か言葉を交わしたり身振り手振りを加えて意思の疎通を図ったが、彼等の言葉はやはり分からない。ここでも言葉の壁があった。魔水晶のお陰で、暫くすれば言葉の解析が出来る様になるだろう。
今ルシオはソフィアと、子供達の事を話し合っている。
「何故子供達だけで草原にいたのかしら。大人が一人も居ないなんておかしいわ」
「……危険な獣が居る場所に置き去りにして……許せないな!」
子供達は男女合わせて二十二人居た。皆同じような年頃だった。百十センチほどの身長だから、十歳前後のはずだ。薄茶色の肌色に濃い茶色の髪の毛と小さな茶色の目。比較的頭が大きく、ややずんぐりしていて手足は短めだった。種属の特性なのだろう。前世の日本人に似ている色彩に、親近感が湧いた。
子供達は、一人一人で僅かな違いはあるが、兄弟のようによく似ていた。
――これに髭と帽子でもあれば、白雪姫に出てくる「七人のこびと」みたいだな。
近くには、子供達の村らしき集落は見当たらない。多分あの砦の住人ではないだろうか。
地図をもう一度取り出し、砦の奥を見て見るが、深い森がどこまでも続いて集落があるかどうかは分からなかった。
「木々に隠れて見えないけど、多分ここに子供達の集落があるに違いない」
「連れて帰っても大丈夫かしら? 子供を置き去りにするような種属なんて……冷酷な一面がある種なのかも知れないわ」
「何とも言えないが、どちらにしても意思の疎通が出来なければ誤解を呼ぶ。言葉の解析が出来るまで、子供達の面倒を見るしか無いよ。一ヶ月もすれば、君なら言葉が話せるようになるんじゃないか?」
「ええ、出来ると思う。ふふ、暫くは賑やかになるわ」
ソフィアは、嬉しそうだ。子供が好きなのだ、彼女は。
夕方になりクリステルも合流した。事の次第を話し、彼の意見も聞く。
「子供だけで旅など考えられないな。若しかして、奴隷商に売られたのかも知れない。奴隷商が獣の餌食になってまっ先に死んでしまったとか、考えられないか?」
「そうかも知れないな。近くにはそれらしき争った後は見付からなかったんだが……」
「南の状況はどんな具合?」
「ああ、凄いぞ南は。人族の街があった。調べればもっとあるかも知れない。地図で見えなかったのは、彼等は地下に街を作っていたせいだ。肌色は白くて目の色も明るい。私達と見た目は近いな。だが、彼等は体毛が無い種属だった。若しくは剃る習慣があるのかも知れないが、兎に角、男も女も髪も髭もなかった。認識阻害を掛けて見て回ったんだが、言葉は通じないから詳しくは調べられていないんだ」
「だったらクリステル、この魔水晶を持って行ってくれ。言葉を解析してくれる魔水晶だ」
「魔素は? 濃かった?」
「地上は薄い魔素しか感じられないが、地下の都市では魔素が程よく行き渡っていた。地下水脈の魔素が流れ込んでいるのかも知れない」
「で、魔法使いはいたか?」
「まだ、調べていないが、居ても不思議はないだろう。あの街を作り上げるほどの力があるのだから。北を見限ったのは時期尚早だったかも知れない。北にも地下に住む人族が居たかも知れないのに……」
「可能性はあるな。南と西が終われば、みんなでもう一度北の探索へ行ってみよう。クリステルのお陰で転位陣があるんだ。何時でもいけるさ」
「でも、南は北ほど気候が厳しく無さそうなのに、何故地下に住んでいるのかしら」
「一つには暑すぎるせいだと思う。湿気も多くてジメジメしている。地下の気温は一定で快適だった。何処からか空気の入れ換えもしているようだ。海に近いから海の風を取り込んでいるのかも知れないな。それに引き換え、地上は一面ジャングルだ。毒のある動植物の宝庫だった。住みにくいから地下に潜ったのではないかと思うんだ」
「世界って、広いのね。今更だけど、こうやって調べて廻って実感したわ」
その夜三人で食事をした。クリステルは、久し振りに美味しい食事をしたと喜んでいた。
クリステルの異空間に置かれる質素な食事は有り難くはあったが、味気ない無いものだろう。
「毎晩ここに来て食べれば良いよ」
「いや、私は神からの食事を食べるよ。私に与えられた食べ物だ。粗末には出来ない」
「……そうか……」
異空間で十日ほど過ごす内に、子供達の言葉が少しずつ分かってきた。
驚いたことに彼等は、あの大きさで成人だった。子供ではなかったようだ。ルシオはまだ話す事は出来ないが、聞いて理解することは出来る様になった。ソフィアはもう既に話せるようになっている。
「ええ、良いわよ、湖へ入っても。あの水を飲みたいの?」
「ああ、あの水は精霊の泉と同じものだ。おら達にとっては甘露の水なんだ。あと……薬草、も少し欲しい。採っても良いか?」
「薬草……ああ、ウゴが植えた薬草が蔓延っているわね。そこいらに沢山あるもの、好きなだけどうぞ」
ソフィアは、流暢に会話が出来ている。ルシオはやや出遅れているが、仕方が無いことだ。ソフィアは天才なのだ。張り合っても適うはずはない。
彼等の話を聞いて、やはり砦がある森に住んでいたことが分かった。彼等に、砦まで送ろうと言うと、彼等は慌てて
「おら達、ここに住んでも良いか?」
と言い始めた。不思議に思い、事情を聞くと
「……おら達は……罪人だ。国を追い出されたダ」
「どんな罪で?」
「……それは……余所もんには明かしてはなんねぇ事なんだ。堪えてくれ。でも、ここに居させてくれれば、一生懸命働く。どうか、お願いだ。おら達をここに住まわせてくれ。畑も作るし、薬草の世話もちゃんとするから。住処は自分達で作るし、迷惑は掛けねぇから。どうか、どうかお願ぇだ」
彼等の種属はハーフリングだと言った。ハーフリングは、確か妖精だ。どれくらいの寿命なのか。ルシオよりも確実に長生きだろう。 ここはルシオの異空間だ。ルシオが死ねばここは消えて仕舞うものだ。だから、新しく住む場所が見付かるまで、仮の住処としてなら良いと許可を出した。
何時までも住んでも良いと言ってあげたいが、それは彼等にとって良くないだろう。安住の地を早く見付けてあげたい、若しくは元の場所に戻してあげたいとルシオは考えた。
許可を受けて、彼等は湖の近くに半地下の穴を掘り、住まいにした様だ。
「彼等は妖精だったのか」
「妖精って何?」
「前世では、そんな話があったんだ。人間とも動物とも違う、お話に出てくる架空の生きものだったんだけど、ここでは実際に居たんだな」
「彼等、お肉も好きみたいよ。どうしましょう。大人しい獣を異空間に入れた方が良いかも……」
「ソフィアがそうしたいなら良いよ。ここは殺風景だったしね。馬しか居なかったんだ。今まで気にならなかったけど動物をここに住まわせれば、賑やかになって良いかもな」
こうして、広すぎるルシオの異空間に沢山の動物たちを迎え入れることになった。
ハーフリングの彼等には好きに狩りをして食べても良いと許可を出すと、彼等は喜んで弓矢を作り始めた。
獣はサバンナには沢山居た。出来るだけ個体数が多く危険度の少ないものを数十種類選んで入れた。
ペニーニョ島にはいない、変わった動物が、思い思いにルシオの異空間で走り回るようになった。




