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47 異空間の定着 2

 フライトモービルに乗ってはしゃぎまくった子供達は今、ルシオの屋敷で眠って居る。


 アダ王はもうここにはいないから、テセロが連れ去られる恐れはなくなった。


「一体、ロボと何があったんだ?」

「子供達が獣に襲われそうになったんだ。ルスは戦う姿勢を見せたし、テセロを守ってもいた。だから手を出さずに見守っていたんだが……」


 クリステルとロボの教育の仕方を聞いて、ルシオは仰天した。

 もし、その場にルシオがいたら、どういう行動をとっただろう。


「ロボは、子供達に生きる厳しさを教えようとしていた。聖獣とはそういう生き物なのか?」

「分からない……でも、子供達は心に傷を受けているようには感じなかった。大地溝で彼等は普通にはしゃいでいたしね」


 結果としては、良い経験になったと考えるしかないだろう。ロボがルシオ達に、子育ての見本を示したのかも知れない。


「私は自分の甘さに気付かされた。ルスをもっと突き放して育てても良かったのかもな」


「問題はテセロだな。襲われた直後に餌を与えるなど、全く周りの状況をわかっていない。同じような事態に陥れば、彼はどうするのか」


「すぐに喰われて終わりだろう。危機感が全くない」

「……精霊の感覚と人間の感覚がせめぎ合って、テセロの身が危険にさらされてしまう、そういうことか」

「ああ、このままでは危うい」


 精霊は神に滅せられた事はあったが、以前は怖いものなど無かったはずだ。だが、今は生身の身体に宿っているのだ。

 生身の身体は脆く、命は簡単にこぼれ落ちる。テセロに”自分は人間なのだ”と理解させねばならない。

 口で教えただけではダメだろう。経験させていくしかないのだ。

 幸いルシオは治癒が得意だ。多少の怪我ならすぐに治せる。


「心を鬼にして、手を出し過ぎない。そして荒療治が必要だ、と言うことだな」


 難しくなる子育てに、不安が押し寄せてきた。

 精霊が宿ってしまったテセロをどう育てるのが正解なのか。

 ルシオは真剣に悩んだ。


「クリステルは、いつまで休みが取れる?」

「後一週間だ。だが、仕事が終われば毎日ここに帰って来るようにする」

「ああ……助かる」



 クリステルが休暇のうちに、異空間の定着を済ませる必要がある。

身体の一部を切り取れば、数日、動けなくなる時間があるからだ。

その間、子供達の面倒を見て貰わなければならない。


 獣人も屋敷には大勢いるが、彼等にすべてを任せるには不安がある。

 獣人は長い間エルフ達を守ってきた存在だ。大丈夫だとは思うが、テセロのことに関しては用心に用心を重ねたい。


 ルシオは、異空間を任される、エルフを迎えに行き、彼と一緒に定着予定地に立った。側にはクリステルもいてくれる。

そこからエルフのために作った異空間に入る。そして精霊樹の木の実を食べた。


「ウッ! やっぱり酸っぱい!!」

 精霊樹の実は、見た目は李だが、レモンのような強烈な酸味がある。

 ここの管理をするのは、タバと言う名の一千歳のエルフだ。彼はルスの兄でもある。


 タバは、ルシオから渡された精霊樹の種を異空間の湖の辺に植え、エルフの“アルマ”を注ぐ。”アルマ”とは、魔力だ。


 彼の足下からみるみる木が成長して数メートルまで成長する。

 彼の“アルマ”はアダ王よりも大きいようだ。


「クリステル、多分僕は数日寝たきりになる。その間子供達を頼んだよ」

「……ああ、任せておけ。だが、こんな事をしなければ定着できないと、初めて知った……」

 クリステルは、今までエルフのためにルシオがどんな犠牲を払ってきたか改めて痛感した。


 タバは、ルシオをじっと見つめていた。

 彼にとってルシオは恩人でもあり尊敬する人族だ。

 我が儘な申し出にも、快く身体の一部を差し出す姿を目の当たりにし、タバの胸は痛んだ。


 一族のさらなる発展のためには、住処を確保する必要があるのはわかってはいるが、何故ルシオがそれをしなければならないのか。

 本来ならエルフが、精霊樹に自分の身を捧げなければならないことなのだ。だが、アダ王は「ルシオに任せておけば大丈夫だ」という。

 年若い自分が、精霊国の王に反論出来るはずもない。

「申し訳ない……ルシオさん」


 クリステルは悲痛な表情でルシオをみた。

 ルシオは自分に感覚遮断の魔法を掛け、片足を『風の刃』ですっぱりと切り落とし、その後治癒を掛けた。

 足は無事に再生したがルシオはその後、気を失ってしまった。


 タバは大事そうにルシオの足を抱え、精霊樹の根元に植える。


 顔が青ざめたルシオを抱えクリステルは、異空間へルシオを連れて入った。


  ◆  ◆  ◆


 ルシオを屋敷に連れて行き、ベッドに静かに横たえる。

 ルシオの顔は青ざめている。偶にピクピクと辛そうに身体をよじる。

 クリステルは、何もしてやれない自分が歯がゆかった。

 ルシオの身体は完治しているはずだが、多分、身体を切り取るという経験は、痛みがなくても、精神的に負担になっているはずなのだ。

 ルスとテセロは、側に寄り沿い、その姿を見ていた。


「ルシオさんは具合が悪いの?」


 ルスが訊ねたので、こうなった理由を二人に聞かせた。

 ルスはルシオが行った事を聞き青ざめる。


「何故? 自分に関係ないエルフのためにそこまでする?」

「エルフが住処をなくし困っていたからだろうな。ルシオは再生の治癒が得意だ。以前も同じ事をしたそうだ」

「じゃぁ、僕らが住んでいた異空間はこうして出来上がったと言うこと?」

「そうだ」


 ルスは、畏敬の念を浮かべ再びルシオをみたが……テセロは違った。

 何でも無いことのように、ただボンヤリとルシオを見ているのだ。


 その姿を見たクリステルは背筋が凍る。

 テセロの表情にはなんの感情も読み取れない。ただ単に情報の処理をしているように見えた。その無垢な無邪気さが、返って底知れない精霊の感覚を宿しているように見えた。


――やはりテセロは人間ではなくなった……のか?


 だが、考えて見ればテセロはまだ三歳だ。この状況が理解できないだろうし、ましてや共感もできないだろう。

 

 精霊と同化して大人びた物言いをするようにはなったが、精神年齢は、精霊もテセロも低いといえる。

 クリステルはそう考え、自分の心にわだかまる気味悪さから目を背けた。



 次の日、ソフィアが帰ってきた。仕事が立て込んでいて一ヶ月ぶりに休みが取れたそうだ。

 そこで、伏せっているルシオを見て慌てだした。

「ルシオに、一体何があったの!!」

「エルフ達の住処を定着するために足を切り落としたんだ……」

「……まさか、そんなこと……じゃぁ以前の異空間もそうしたって事?」

「そうだ。それとなく話には聞いて居たが、実際は見ていなかった。ルシオが一人でしたことだ」

「……なんということを……」


 数日してルシオは回復したが、ソフィアが側から離れなくなってしまった。

「ソフィア、嬉しいけど、学校は大丈夫なの?」

「もう目途は付いたわ。今はカリカピタルの校外に校舎を建てているところよ。私がある程度形を作っておいたから。今は残った魔導師達が細部を調整している。だから暫くは閑なの」


 クリステルは休暇が終わり、シュバリスへ行ったが夕方になればここへ戻って来る。


 ルシオは、「今頃は、新しい異空間にエルフやその住人達が続々と移住しているだろうな」

 と考えていた。


 ルシオは態と新しい異空間に転位陣を敷かなかった。行こうと思えば、大地溝の洞窟の側に転位陣を敷いたままなので行くことはできる。

 エルフの異空間同士なら精霊樹の移動手段がある。問題が起きれば助け合ってどうにかするだろう……いや、自分等で解決して欲しい。

 だから暫くはエルフの行動を静観しようと思ったのだ。


 ――あの異空間には危険な獣がいる。一応ロボを置いてきたから酷いことにはならないだろうが、今までのように安穏とした生活とはかけ離れるだろう。


 彼等には強く生き抜いて欲しい。新たな精霊国の飛び地の王となったタバはきっと立派に管理してくれるはずだ。

 年老いたバーリョとその番はここに連れ戻したが、ロボには暫くあの異空間の見張りをして貰っている。


「アダ王はこの頃温泉にきていないみたいだけど、どうしたのかしら?」

「彼は帰ってもらった」

「え? どうして?」

「テセロに執着しすぎていたから。異空間の定着を早めることを交換条件にここから追い出した」

「そう、大変だったのね……」

「君は忙しいからそっちを頑張って欲しい。君の仕事は神からの使命だ。僕は僕の使命でやっているんだから気にしてはいけないよ」

「ええ、わかった。でも、妖精達は置いて行かれて可哀想ね」

「え!?」

「あら、沢山いたわよ。森に。知らなかったの?」

「アダ王め! 油断も隙もない」


 妖精達も総て引き上げて貰ったつもりになっていたルシオだが、どうやらアダ王は妖精の原種と言われる虫のような小さな妖精達は、ここに置いたままにしたようだった。


「良いじゃない。綺麗だし、危険はないわ」

「……それはそうなんだけど……」


 暫くすると、迷宮に籠もっていたバレリアとアレハンドロが屋敷にやってきた。

 バレリアは逞しくなっていた。相当鍛えてきたようだ。

 彼女は戦闘魔導師としては、申し分ないだろうが、まだ座学が終わっていない。だが、

「俺に座学も任せろ」

 ルシオ達が子育てに奔走している話を聞き、アレハンドロがバレリアの勉強を総て受け持つと宣言した。


 バレリアはその話を聞き、()()()()ながら顔を赤くしている。


 ――どうして? 二人の関係が深まった?


 ルシオにはどうしようもないことだ。

 ――アレハンドロは性に対して奔放だ。彼女が傷つかなければ良いが……。


 だが、ルシオはそこまで自分が踏み込むべきではないと切り替えた。

 バレリアも大人だ。彼女がそれで良いのなら何も言えない。






 




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