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46 異空間の定着

※AIで製作した画像を差し込みます

 物語のイメージを掴む助けになれば幸いです。

 ルシオは、アダ王には「後五十年は異空間の定着はしない」と宣言していた。

 だが、テセロの一件で考えが変わった。

 ルシオには不安があった。二つある異空間が連動してしまわないかということだ。


 ――一つの異空間だけ切り離して、一方だけを定着できるものだろうか?


【出来る。異空間はそれぞれ次元が別だからな。お主が一方の異空間で精霊樹の木の実を食べ、その種をその異空間に植える事で定着するぞ】


「良かった。精霊樹の実をアダ王にもらうだけでいいんだ」


 クリステルに子供達を任せて、急いでアダ王に会いに行く。

 アダ王は初めは渋っていたが、なんとか納得してすぐに精霊樹の木の実をくれた。


 ――手回しがいい。前々から用意していたのだろうか?

 確か、何年もかかると言っていたのだが。


「ああ、これは、私の次代が作っておいたものだ。今度の異空間はその者に管理してもらうと決まっていたのでな」

「……アダ王は、まだここに居座るおつもりですか?」

「……精霊の香がする……この場所にいてはだめか?」

「また、この間のようなことをされては困ります。僕が育てるようにと、神から指示がありました」

「そッ! そうか。私は何も手出しはしない。だからここに置いて欲しい。お願いだ!」


 ――これでは、目算が壊れてしまいそうだ。

 アダ王はああ言っているが、信じられるだろうか?


 どちらにしても異空間はエルフのために作ったものだ。早めに定着しても問題はないだろう。


 異空間の定着には、異空間を造った者の亡骸を使う。しかし生きているうちは、身体の一部を切り落とし、代わりに使う事も出来るのだ。

 切り落とした身体の一部を、精霊樹の養分とする。そうすれば、精霊樹はその土地に定着できる。そしてその土地の魔素を吸い込み異空間を維持する。

 精霊樹にはその他にも、精霊樹間で行き来ができるという機能を持っている。


 エルフは自分の亡骸を精霊樹の養分にして異空間を定着させる。生きているうちに定着しようとすれば欠損したまま生きていかねばならない。

 その為、以前は先々代のエルフ王が作った異空間、一つだけしかなかった。

 その定着した場所の魔素も薄くなり始め、彼等は存続の危機に陥っていたのだ。

 そのエルフの惨状を哀れんで、ルシオの異空間を差し出したのだが……。


 ルシオは治癒魔法が得意だ。欠損しても再生できてしまう。

 それを知ったアダ王は、何時しか”代償の痛み”を忘れルシオに頼り切りになってしまった。

 最初は、住処が崩壊しそうになっていた哀れなエルフのために協力していたはずが、エルフ王にとって、当たり前になってしまったようだ。


 アダ王に「貴方が異空間を造って腕を切り取ればいい。欠損は僕が治してやる」

 最初に、そう言えば良かったのだ。

 そうすれば、アダ王がルシオにこれほど依存することはなかったかも知れない。

 ルシオの甘さが――言い方を変えれば優しさが、今のジレンマを引き起こしたとも言える。


 気付けばアダ王は、ルシオの力を前提に物事を推し進めるようになっていた。

 あまりにもルシオに依存しすぎている。


 ――もうエルフは自分達で生きる術を学ぶべきだ。これが終われば、エルフ達とは距離を置こう。


「アダ王。僕がエルフのために異空間を造るのは最後です。ここの場所は、僕が死んだ後なら差し上げます。でも、アダ王は精霊の国へ帰って下さい。それが条件です」


 アダ王は目を閉じ、長い息を吐き出した。

 目を伏せたアダ王は何時もより老け込んで見えた。


「分かった。帰るとしよう……神にまで目を付けられてしまったしな……」


 ルシオはアダ王と妖精達を精霊の国へ転移で戻してやった。

 新しい異空間を治めるエルフには、「もう少しだけ待っていて」と声を掛けておく。

 彼はウキウキしている。自分の広い異空間が持てるからだろう。


「分かりました! 移住の人員をそろえてお待ちしております。ルシオ殿」


「良し、これで何とかなった。後は定着予定地へ行って、もう一度あの場所を確認しよう」


 大地溝の岸壁で見付けた魔素が流れ出る洞窟には、予め転位陣を敷いておいたのだ。

 すぐに転位した。


  ◆  ◆  ◆


 ガルシアと一緒に見付けたあの日と変わらず、暗い洞窟の壁から魔素を含む水が、ちょろちょろと流れ落ちていた。


 魔素水が溜まって出来た池は、深さは六十センチほど。 

 まるで幼児用のプールみたいに小さい。広さも五メートルほどしかない。

 常に洞窟の外へ流れ出ているため、深くも大きくもなれないのだろう。


 ここの水は洞窟の外に小川となり、細い滝となって大地溝に流れ落ちていく。

 しかし谷底の大河に届く前に霧となって消えて霧散する。

 その霧は風に運ばれ、僅かだが、魔素の少ない対岸――獣人の住む大地へ届いているはずだ。


「獣人の住む地に魔素の霧が届き、行き渡るには……長い年月が掛かりそうだ……」


【お主が予想した通り、地下都市で見付かった魔素の流れはここに通じておる。神による大災厄がなければ、この大地溝は生れておらなんだ。そしてこの魔素の流れは獣人達にも行き渡っていたはずなのじゃ】


「神は、凄く後悔しているだろうな……」


 ルシオはふと、そんなことを考えた。

 そう思うことで、神がより身近に感じられるからだ。

 そして”神は決して万能ではなく、神でも間違えたり後悔したりするのだ”と思うことで、ルシオ自身を慰めているのかも知れない。


 あまりにも大きな力を持つ故に、一度それを解き放てば、ただでは済まない。

 神が滅多に干渉しないのにも、きっと理由があるのだろう。


 ――神が闇に落ちることもあるのだろうか? そうなれば、一体だれが神を裁くのだろう。


【ダメだ、ルシオ! また思考の海に飛び込みそうになっておるぞ】


「そうだ。そんな事を考えても無意味だった」


 ルシオは意識を切り替え、異空間に入った。

 異空間では、クリステル達が湖の側でルシオを待っていた。

 子供達がロボから距離を置いて座っている。

 そして、めそめそと泣いているのだ。


 その状況に違和感を覚える。あれほど懐いていたロボを、まるで恐れているように見えたからだ。


「どうした。何かあったのか?」

「いや、大した事ではない。強いて言えば、現実の厳しさを学んだ……と言うことだ。それより、ここから出してくれ」


 クリステルが、目配せしながら曖昧にぼかしたため、逆に不安になる。


 ――後で詳しく話す、と言うことだな。


 ルシオは訝しみながらも、異空間から洞窟のある場所へ出た。


「ここは?」

「異空間の定着候補地だ。ここに僕の異空間を定着しようと考えている」

「良いのではないか。ここならエルフ達が人族にちょっかいを出される心配が減る」


 エルフは魔法こそ使えるが、まだ精神的にも肉体的にも弱い。

 暫くは世間から離れて、ゆっくり強くなってもらおう。

 異空間の中の獣を倒していれば、自然と生きる強さが付いてくるはずだ。

 そしていずれは、人族と堂々と渡り合えるようになってほしい。


 人族はエルフのように純粋培養ではないのだ。今のエルフが、人族の悪意に晒されれば大きく傷つき、立ち直れなくなってしまうだろう。


 ルシオ達は、大地溝の探索をした。

 この近くの対岸に、獣人達はどれほどいるのか。

 そして、以前見つけた、トカゲに似た獣人はどのような人達かを確かめるためだ。


 子供達をフライトモービルに乗せて連れ回す。

 異空間で待たせようとしたが、子供達が「一緒に行きたい」と強く望んだからだ。


 定着地から百キロも離れていない場所に、地溝から離れた土地がある。

 東の大陸からも西の獣人の大地からも離れて、孤島のような見た目だ。

 目算で測ってみたが、ロマゴ国と大きさは変わらないようだ。


 左右の崖の高さより低い土地だ。回りは滝による水煙がある為、簡単には見つからないような場所だ。

 ルシオの魔力感知があって初めて見つけることができたのだ。

 地溝の底には大河が流れている。その大河から二百メートル、飛び出したような土地だった。降りたって見ると、左右の崖は更に上に聳えている。


「わぁ!湖がある!」

 子供達ははしゃぎ、湖に入りたいとせがむが、クリステルは、

「この湖はかなり深そうだ。危険だから諦めなさい」

「ちぇ! わかったよ。ケチ」

 憎まれ口を利き、ルスはテセロを連れて湖の端に座って水の中を見ている。


 クリステルは、注意深く彼等から目を離さず、ルシオに話しかけた。


「ここにトカゲ獣人がいたのか?」

「ああ、だけど今はいないようだ。どこかへ行ったのか、それともこの間僕らが来た時に、偶々ここに来ていたのか……」


 危険かも知れない獣人がいなかったので、ここは心配ないと決め、子供達を連れて帰ることにした。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


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