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42 光る石

 新しい地底都市も軌道に乗り、住民が増え始めてきた。

 ここに住む地底人の殆どがセグンドやテルセロからの移住者だが、プリメロからも移り住むことも出来る。

 主に貴族や、魔力を持つ地底人が対象だ。


 魔法学校も移設した。神殿と併設している孤児院は今まで通りの場所に残してある。

 十年後にはブルホから派遣された人族の魔導師達は撤退することが決まっている。

 それまでは、ブルホとの行き来がある為、戦闘魔法兵が交代で派遣されている。

 十年もあれば、地底人たちが自分達だけで自衛も魔法の教育も出来るようになるだろう。


 既に二十人ほどの地底人が魔法兵として活躍し始め、魔導師になったガルシアももうすぐ戻ってくる。彼は数年後、ここをとりまとめる責任者になるはずだ。


 魔力が多い子供の候補が二人ほど見付かっているので、彼等が成長した暁にはブルホへ連れて行き、”神の試練”という選別を受けさせることになっている。

 ブルホとの連絡役もガルシアが担うことになるだろう。

 十年先を見据えた改革は何とかなったが、以前ソフィアが一番悩んでいたことは、魔法学校を卒業した後の子供達の受け入れ先だ。

 ルシオはその解決策を考えて欲しいと頼まれている。


 男は戦闘兵として働けるが、女性の魔法使い達の就職先の確保が難航していた。これはペケーニョでも共通の問題だろう。

 まだまだ、女性の社会進出には壁がある。

 この限定された地下都市なら、モデルケースとして思い切った政策が、実験的に導入出来るのではないかとルシオは考えた。


 そこでルシオは、この新しい街の中に薬師組合を作った。ここには錬金施設や研究所も併設し、魔法学校を卒業してきた子供を受入れる体制を整えたのだ。


 薬師組合は何処の国にもあるが、薬や魔法の研究施設はこの世界では見たことがない。

 魔導師達が個々に研究しているだけだった。

 この小さな一歩が、大きな成果に繋がることを祈ろう。


 地下都市の地上には、ブルホでは知られていない豊富な植生がある。

 戦闘魔法兵達に地上から薬草を採取してきてもらい、対価を払う。薬草の研究と販売が循環していければ良いとルシオは考えていた。


 ルシオが開発した遮光眼鏡は地底人には好評だ。

 これまで地上に出るのは最下層の農民だけだった。その為強い光で視力を失うものが多かった。

 だが、遮光眼鏡が普及したおかげで、今では誰でも気軽に地上へ行けるようになった。


 その成果として新種の薬草が次々と見付かっている。

 薬草に限らず、糖度があり得ないくらい高いマンゴーに似た果物や、カカオに似た実がなる木も見付かった。

「コーヒーの豆は見付けられないかな」

「こおひい……ってなんですか?」

「薬草茶みたいなもんだな。苦いけど香りが良くて癖になるんだ。確か、利尿作用があったはず。薬としても使える」


 地上は熱帯ゆえに豊かな植生だが、その多くは毒性を持つ。毒を消す方法も試行錯誤しなければならない。


「薬も毒も元は同じだ。皆、解析に取り組んでくれ。凄い効果がある薬が作れるかも知れないからね」

「「「はい!!」」」


 当面は利益は見込めない。

 ルシオには不労所得が毎月膨れ上がって積み上がっている。それを使って彼等に支払えば良いだけだ。

『金は廻ってこそ、生きてくるんだ』


「もう、この辺りの開発はやり尽くしたな。光の石を探してみるか」


 ルシオはワクワクしながら、魔素の噴き出す谷へ向かった。しかし谷の奥は巨大な岩盤に塞がれ、それ以上の探索は出来なかった。

「この先はどうなっているんだろうな……」


 岩の中の探索は地の民に任せることにした。

 岩の中を通り抜けることが出来る地の民なら、この先に何があるのか見付けてくれるだろう。若しかすると有益な鉱石も見付かるかも知れない。


  ◆  ◆  ◆


 一日の仕事を終え異空間へ入ると、珍しくソフィアが先に来ていた。

「ソフィア! 今日は早かったね」

 ソフィアを抱きしめようとして別の女性が側にいるのに気が付いた。

「お久しぶりです、ルシオさん」

「え、と、バレリア……だったね。でも君は……?」


 確かバレリアは魔法使いを異常に避けていた記憶がある。その彼女がどうして異空間にいるのだろう?

「君は平気になったの? ここは魔法使いが大勢来る場所だよ」

「ルシオ、実は……」


 ソフィアから事情を聞かされ、ルシオは憤慨した。

「ホセの奴! 見損なったぞ」


 更に驚いたことにバレリアは魔導師を目指すという。変われば変わるものだ。

 ルシオ達は、彼女のために全力で協力することにした。


 だが、ソフィアは魔法学校の設立で手が離せない。そこでアレハンドロに相談した。

「ああ、良いぜ、任せろ」

「あ、まだ魔法文字も満足に知らない状態だから。暫くしてからで良いからね」

「……そうか? 俺にも養い子を育てる経験が出来ると喜んでいるんだが……早く覚えさせろよ」

「え? 君養い子を預かったことがなかったの?」

「ああ、忙しすぎて無理だったからな。今なら時間がタップリある。迷宮島もうまく廻ってきたから、時間を掛けて手取り足取り育ててやるぜ」

「アレハンドロ、バレリアに対して今までのような接し方はダメだからね! 彼女を異性の目で見ないように」

「ッ……分かってるって!」


  ◆  ◆  ◆



 一年後、地の民が満面に笑みを浮かべてルシオのもとへやってきた。

 その腕には、大切そうに抱えられた木箱。


 ルシオが問いかけると、地の民は木箱をそっと差し出した。

 蓋を開けると、小指ほどの大きさの「光る石」の欠片が三つ、鋭く脈打つように光っていた。

「これが、光る石か」

「はい。やっと見つけました……どうぞ」

 ルシオが一つを手に取った瞬間、胸の奥に重い圧迫感が走った。

 魔素の純度が異常だ。

 魔力の弱い者なら、触れただけで倒れるだろう。

 地の民はその石を普通に掴めるのは、彼等の魔力器が我々人族とは違うからだろう。


 彼等の魔力器は自家発電のような物で、絶えず魔力を作り上げ、放って置くと魔力でパンパンになるという。その為彼等は、魔力を常に使って放出しており、そうしないと身体を壊してしまうのらしいのだ。


「ボンゴ王の屋敷には、これで作った杯が宝物になって大事に保管されておりやす。すりつぶして珪砂に少量混ぜるとキラキラして美しく光り輝く杯になるんです。白い石は滅多に見付からない、希少な鉱物ですんで金には換えられない代物です」


 その時、森の方からアダ王が駆け寄ってきた。

 エルフ特有の鋭い感覚が、この石に反応したらしい。


「……これは。精霊の息吹が感じられる」


 アダ王は吸い寄せられるように光る石を見つめ、息を呑んだ。そして畏怖と崇拝が入り混じったため息が漏れた。

 更に、滅多に森から出ない小さな妖精達まで石の周りにへばりつくように寄り集まってしまった。

 この奇っ怪な状況は、ただの小さな鉱石が引き起こしたものなのか?

 

――のんびりなエルフがこんなに反応するのか?

 ルシオが困惑していると、ご先祖様が話しかけてきた。

【ルシオ。それは“神に粉々にされた精霊の欠片”だ。

妖精たちが神と崇めていた存在の、なれの果てなのだ】

 ルシオは息を呑んだ。

 そうだった。一万年以上前、精霊たちは特定の民族に肩入れしすぎ、世界の均衡を乱した。

 その罰として、神により自我を抜かれ、その身はバラバラにされて世界中に散らばったと教わっていた。


 今では精霊達は、神の傀儡に成り果てているようだ。

 その残骸が、今ルシオの手の中にある。

 エルフが息を呑むのも当然だった。

 これはただの魔素結晶ではない。

 かつて、最北にあり、栄華を誇った精霊国を支えていた上位存在の遺骸なのだ。


 本来なら、これを砕いて、細かく研究したいところだが、妖精たちの視線があまりにも熱く、ルシオはタジタジとなってしまう。


 仕方なく、一つをエルフへ、もう一つを掘り起こしてくれた地の民へ渡し、残った一つだけをルシオの手元に残すことにした。


 ◆  ◆  ◆


 アダ王は、精霊の残滓である白い石を大切に持ち帰った。

 そして自分達が何時も飲んで居る湧き水がある泉にその石を沈めたのだ。

「この白い石があればこの泉はもっと素晴らしくなるのではないか?」


 そう考えたのだが、その後テセロが一人で泉に来て水と一緒に白い石を飲み込んでしまい、テセロは高熱を出して寝込んでしまった。


「すまないルシオ。何と言うことをしてしまったんだ私は……」

「いえ、目を離した僕が一番悪い。然もテセロの世話をバレリアばかりに押し付けてしまった」

「ごめんなさい。剣術の稽古ばかりしていて……テセロのお世話がおろそかになっていました」

「あ、アタイが……もっと早く起きていたら……」

 ミミまで責任を感じて、泣き出してしまった。

 ソフィアは神妙な顔で言った。

「幼い子供を持つと言うことはこう言う事なのね。一時も目を離せない。魔導師達は余りにも忙しすぎる……」


 ルシオは、神が魔導師に子が出来ないことを長い間黙認していたのは、こういう意図もあったのではないかと密かに思った。


 皆でお互いに謝ってもどうしようも無い。ただ気になることがあった。

 あの強い魔素を含んだ石をテセロが飲み込んでしまったことだ。このまま無事に起き上がれるだろうか?


 ルシオはテセロの身体を隈なく透視してみたが石の形は見えない。しかしテセロからは強い魔素は感じられるのだ。

 寝ている間におしめの交換をし、排泄物を確認しても、石はみつからなかった。


 一ヶ月後けろりとしてテセロは起き上がってきた。普通に歩けて顔色も良い。

 何事もなくてホッとする一同だった。


「僕、今気が付いたんだけど。僕は人間なの?」


 その言葉に皆がギョッとした。

 テセロはまだ幼いはずなのに、スラスラと話始め、突然大人びて、然も妙な事を言い出したのだ。


 ――白い石の影響か? 魔力があり得ないほど大きくなっている。

 だが、それ以上のことは分からない。暫く経過を観察するしかなかった。


 ソフィアは今回の事を受けて、魔導師達に神から受取った穢れを除去する魔法陣を、暫く封印すると宣言した。

「折角、子を授かっても、面倒を見られないのでは本末転倒だわ」


 バレリアは今回の事で、凄くへこんでいる。

「私、魔導師になるのはもっとゆっくりで良いわ。テセロが大きくなるまで待つことにする」

 そう言った。



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