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39 ソフィアの友達

 これから数日掛けてソフィアは、魔法学校の建設予定地の候補であるカリーダ国の首都カリカピタルを視察して廻る予定だ。


 魔力持ちの女子は、殆どが治癒院にいる。今彼女達は魔法文字を必死になって学んでいるそうだ。


 魔法文字が読めて書けなければ魔法学校の入学資格は得られないという取り決めにしたのだ。

「軌道に乗れば、文字から習わせることになるけど、今は手が回らない」

 

 当初、ロマゴ国に学校を造る予定だったが、ロマゴは山が多く平地には貴重な作物を植えている。

 ペケーニョ島中から集めてくる魔力持ちの女子は千人を超えると予想されるため。かなりの広さが求められるのだ。

 カリーダ国は平地が多く温暖な気候だ。ここならきっと広い土地が確保できる。


 カリカピタルの神殿の転位陣から出て、祭壇に祈りを捧げお布施をして神殿の外階段を降り、ゆっくりと街の中を歩き回る。

 この街はソフィアの生まれ故郷であり、ルシオと知り合った思い出深い地だ。


 ここには沢山の思い出が詰っている。

 以前ルシオの店だった魔道具店は、別の魔導師達に譲った。神の鉄槌を受け、中指が切り取られた錬金術士二人と、魔力を取り上げられて戦闘魔導師でなくなってしまったウゴと三人で力を合わせて商売を営んでいた。

 魔力がなくなったウゴは薬師となって再出発したのだ。

 ソフィアは十数年ぶりに、そんな彼等の様子を見に来たのだ。


「どう? 商売は順調?」

「はい、お陰様で何とかやっております。ただ、ルシオ魔道師が設置してくれた転位陣は一年しか持たなくて、随分前から使えなくなってしまいました……」

 後ろで控えていたウゴは、随分年老いて見えた。魔力がなくなれば寿命も縮む。他の二人の錬金術士に比べ格段に老けて仕舞っている。彼等は同年代だったはずなのに。

 ――神から受けた罰は彼にとって未だに続いているのね。


 ソフィアが転位陣に魔力を流すと普通に転位陣は動かせる。

「機能はしているけど……?」

 

 そう言えば、魔導師達が使えるようにルシオは魔水晶を組み込んだ魔法陣を設置していた。

 ブルホの荒野と、カリカピタルの郊外にある薬草畑にしか行けない限定された転位陣だ。

 組み込まれた魔水晶は足りない魔力を補助するためのものだったが、魔力が切れてしまったようだ。


「近頃は薬草は届けて貰えるし、ブルホまで出向かなくても魔水晶は手に入るようになりました。だから転移はそれほど必要ではないのですが……」

 魔物素材もふんだんに流れてくるので、ルシオが教えた魔法袋の素材にも事欠かなくなったそうだ。


 だが、何かあったときに使えれば助かるだろう。神殿の転移は毎回百万ディネロと言う金額が掛かるのだ。

 ルシオはこの魔水晶を組み込んだ魔法陣の特許も申請していなかった。彼が言うには

「魔水晶が高価すぎて実用的ではない。ブルホまで転位出来るのは十数回かな。薬草畑までは距離が近いから三倍は持つとは思うけど」

 ルシオはこの転位陣に魔水晶を定期的に補充するつもりでいたのに、グランデ大陸へ行って忘れて居たようだ。


 その当時その様に言っていたが、今は魔水晶の価格は以前ほどではなくなっているそうだ。純度も質も低いが魔物からも魔水晶が取れているからだろう。

 ルシオはその魔水晶さえも今は自前で作れてしまうのだ。


 彼は自分の作り出した魔水晶は売りには出していない。魔水晶の価格が暴落してしまうのを恐れた為だ。

 自分達で使う魔道具や巨大な農場を作る時だけ使っている。それらは総てボランティアで対価は一切もらっていないのだ。


 ソフィアは、改めて魔法陣に手持ちの魔水晶を設置し直した。もう少し長く使える様に大きめの魔水晶を組み込んでやった。

「これで数年は持つでしょうけど、また魔力がなくなったら、魔水晶をここに組み込めばうごかせるわ」


「そうだったんですか、こんな処にこんな大きな魔水晶を使っていたなんて……俺達の稼ぎが吹っ飛んでしまうな」

「貴方たち、魔力の同調は試してみた?」

「魔力の同調ですか?」

「神殿へ行って知識をもらってらっしゃい。お布施を惜しんでいては最新の知識から離れてしまうわよ。今では沢山の新しい魔道具や魔法理論が出来上がっているんですもの」

「「……はい……」」


 もし魔力が同調できたら自分達で転位陣を動かせるようになる。それでも魔力が足りず転位出来なくても、転位陣の魔水晶はもう少し長持ちするだろう。

 そうなれば高価な魔水晶の交換頻度が減るはずだと教えて上げた。


 彼等に説教していると、店にお客が来た。

「毎度! 薬草を持ってきたぞ」

 お客ではなくホセの農場から薬草を持ってきたようだ。彼はホセの処に最近使われた小僧だそうだ。


「ホセの奧さんは元気にしているかしら」

 ホセとは、ルシオが薬師に育て上げた身寄りのなかった子だ。彼は幼なじみと一緒になった。その奧さんバレリアとソフィアは親友だったのだ。

 ソフィアよりも少しだけ年下の親友。

 バレリアの紹介で、ソフィアはルシオと出会うことが出来たのだった。


 ――バレリアにも挨拶に行かなきゃね。

 彼女とは、ソフィアが魔導師になってから疎遠になって仕舞った。

 古い因習に囚われた考え方をするバレリアにとって魔法使いは忌避の対象だった。


「女が魔法を使えば穢れてしまう。魔法に触れただけでも穢れるのよ!」

 頑なにそう信じて居た。そんな彼女に、ソフィアが調子に乗って、覚えたての魔法を使って見せた。魔法を使う姿を見てバレリアは恐れ、それからは距離を取るようになって仕舞ったのだ。


 ルシオが以前言っていた様に、バレリアにも大きな魔力がある。

「バレリアは、何故子供が出来ないのか悩んでいるのではないかしら」


 もう三十歳を目前にして、子供を諦めているかも知れない。

 今のソフィアなら、彼女の悩みを解決して上げることが出来る。神から頂いた穢れを除去する魔法陣があるのだから。


 だが、頑なな彼女はそれを受入れるだろうか? 受入れてはくれないのでは?


 次の日、ホセの薬草農場へ転移しホセの家に行くと、ホセは三歳くらいの子供の相手をしていた。

 ホセは貫禄が付いて仕舞って、まるで叔父さんだ。ルシオよりも五歳年下のはずなのにかなり年上に見えた。魔力がなければこんな物だろう。


「お久しぶりホセ」

「っ! ソフィアさん。え、ルシオ様も?」

「いえ、今日は私だけよ。バレリアは元気かしら?」

 ホセは気まずそうにしている。何かあったのだろうか?


「バレリア奥様は、別宅に住んでいます。そっちへ行ってみれば?」

 ホセの後ろから、若い女性が我が物顔で歩いてきて、ホセから子供を抱き取り、そう言った。

 どうやら、この女性は抱いている子供の母親らしい。


 ――そう言うことになっていたのね。

「分かりました。ではそちらへ行ってみますね。お邪魔様」



 バレリアが住んでいる別宅は、本宅から結構な距離にあった。堅牢な造りの小さな家だった。

 しっかりとした太い木で造られていて、窓は一つしかない。家の回りは石の塀が張り巡らされている。

「ここに……?」


 玄関の呼び鈴を鳴らすと、バレリアが出てきた。昔と変わらない姿がそこにはあったが、大人になって落ち着いた雰囲気が出ている。

「ソフィア!!」

「お久しぶり、元気にしていた、バレリア」


 お互いの近況を話合い、薬草茶を飲みながらお菓子を食べるという普通の友人のように接して貰えて、ソフィアは心からホッとするのだった。


 彼女はここで薬師として働いているという。彼女の弟たちは既に独立して街の薬師ギルドの職員になっているそうだ。

 ホセから薬草を届けてもらい、出来上がった薬はまた取りに来て貰うのだそうだ。

「生活は十分出来ているようで、安心したわ。バレリア」


「おかしいと思っているのでしょう? ホセと離ればなれで暮らしているのを見て、何も質問しないのね、ソフィア」

「それは……何となく分かるから。ホセは浮気をしたのでしょう? 彼の子供を見てきたわ」

「そうね、原因はそれだけど……私が悪いのよ」

「そうかしら、浮気されてこんな寂しいところにおかれて、チョット酷いと思うわ」

「ここには自分で来たのよ。ホセは……私とは別れないって言って……それで自分からここに来て住んでいるの」


 バレリアは、魔力があることは幼い頃に知ったという。ルシオと同じく魔力の暴走があったようだ。

 バレリアの親は彼女に言い聞かせた。

『魔法を使えば穢れる。化物になって売られてしまう。これからは絶対こんな事をしてはいけない』

 そう言い聞かせられて育ったそうだ。その後は魔力の暴走をしたことは無かったが、ホセと女性従業員が抱き合っている姿を見てカッとしてしまった。

 魔力を暴走させた。魔力は家の天井を突き抜け、がれきが舞い落ち大変な惨状になって、危うくホセとその女性を殺してしまうところだったそうだ。


「六年前かしら、それから私はホセと別れようとしたのだけど、彼は絶対に嫌だと言ったの。だから私はここで一人で住むことにした。そういう訳よ。子供も出来なかったしね……今でもホセとは親密にしているのよ。私はもう彼を愛しているかどうか分からなくなってしまっているのに……若しかしたら私にも子供が出来るかも。それが今の私の生きる綱なの」


 ソフィアは、彼女の気持ちが痛いほど分かった。だが、真実を知らないままこうして一生を送るのは空しい。


「あのね、私も魔力が大きいのは知っているでしょう? 魔力が大きければ子供が出来ないの。私達夫婦の間にも子供はいないわ」

「……そう、やっぱりね……何となくそうでは無いかと思っていた。望みは叶えられないのね……」

 バレリアは声も立てずに、静かに涙を流した。


「貴方、魔法がきらいだって言ってたでしょう? 考は変わっていない?」


「きらいと言うよりは怖かった。またあんなことが起きたら私はどこか恐ろしい場所に連れて行かれると思っていたから。でも、今世界は変わって仕舞った。魔導師や魔法使い達が今では凄く尊敬されているの。昔ルシオさんに魔法を教えてやると言われたとき、素直に教えて貰えば良かったと後悔もしているのよ。こんなおばさんになってからでは遅すぎるわね」


「バレリア、私達のような人間は、どれくらい生きるか知っている?」

「……?」

「百二十歳くらいは生きるらしいの。今からでも決して遅くはないのよ。そして私には貴方に子供を持たせて上げることが出来る。まだまだ希望は捨てないで」

「……ひゃ、百二十年……そんなに?」


 既にホセから気持ちが離れて居るのなら、この際きっぱりと別れなさい。そして魔力の制御が出来る様に、一から学ぶべきだとソフィアは彼女を諭した。


「私でも、魔法使いになれる?」

「ええ、貴方は魔導師になれるほど魔力があるよ。五年もしないうちにものになる。私達がきちんと指導するから。大船に乗った気持ちでいて。その内子供だって持てるようになれるわ」


「こ、子供も?」

「ええ、でも、急ぐ必要はないわ。魔導師になって生活の基盤が出来てからでも遅くは無い。その頃には再び信頼できるお相手が見付かるはずよ」

「そうね……そうよね、長生きなんですもの!」

 バレリアは今日一番の笑顔を見せてくれた。


 数日後バレリアは正式にホセと別れ、その後ソフィアに連れられて、ルシオの異空間で暮らし始めた。

 話を聞いたルシオは、

「ホセめ! 見損なったぞ。バレリア、君を立派な魔導師にしてやる、僕に任せろ!」

 と、息巻いていた。

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