37 魔力持ちの子供達
セグンドとテルセロを廻り魔力持ちを見付け親と話をする。
時間の掛かる事だが、ルシオとソフィアは手分けをしてやり遂げた。
一ヶ月は掛かっただろうか。
魔力持ちが生れそうな地域は目処が付いていたため見付けるのはたやすいが、親がいれば簡単には引き離せない。
百人以上の魔力持ちが見付かっても、魔法を習いたいと思う者は数人しかいなかった。 この都市の『魔法使いを恐れ嫌う』という風習も拍車を掛けているようだ。
この事態は、ルシオ達は十分予想済みだった。何故なら、以前呪いの王に捕らわれていた子供らを助けたときも、彼等の殆どが魔法など習いたくない、元の場所に帰りたいと言っていたのだから。
その結果残ったのは六人だけだったのだ。
今その子供達は魔道師にまでなったガルシアを筆頭に皆魔法が使える様になった。
養い子だったフレアは魔法学校の教師見習いとして働き始めている。
「それでも七人は魔法を習いたいと言ってくれた。ソコソコ大きな魔力を持っているし、彼等はプリメロに移住してもいいと言ってくれたから、これでプリメロ王に顔向けできそうよ」
魔力持ちの地底人は順次プリメロに送り届けている。大体九歳から十二歳までの子供達で、世話をするひとも探さなければならない。中には家族全員で移住するものもいた。そう言う人達には職と、住居を与える仕事もある。結構な手間が掛かっているのだ。
ルシオ達が、あちこちで魔力持ちを探しているのはここの地底人達にも知れ渡っているようだった。
あるとき、現地の地底人がルシオ達を訊ねてきた。
ルシオ達は異空間に入らず、態とテルセロに宿を取ってこの様な事態に備えていたいた。
皆の前では言い出せなくても隠れて魔法を習いたいと思う子供がいるかも知れないのだ。
そこに人目を忍んで地底人の男が訊ねてきたのだ。
彼は老人に見えたが四十歳だという。地底人は平均寿命が五十歳だと聞いて居る。
魔力持ちは寿命が長くなる傾向があることから、調べる前から彼には魔力が無いと言う事が分かる。
一体彼は何故ここへ来たのだろう。
「おいらは、二年前までさる男爵様の下働きをしておりやした。そこのお嬢様が……ある日部屋をめちゃくちゃにしてしまい……」
彼の話を聞き、ルシオは直ぐに察した。ルシオも幼い時魔力を暴走させて魔力持ちだと判明した過去があった。
「そのお嬢様は何歳ですか?」
「……六歳くらいになると思いやす。二年前そのせいでお嬢様には魔力があると知られて仕舞い、何処かへ連れて行かれやした。だけんど、多分お嬢様はもう生きてはいないでしょう」
彼が言うには、そう言う貴族の子供は極偶に見付かり何処かへ連れて行かれ、始末されていると言うことだった。
「なんていう事かしら。何も殺さなくても良いのに! 魔法は学ばなければ使えないのよ。そのままでいれば一般人と何も変わらないのに」
「ものを知らないと言うことだ。恐れから非道な行いに走ってしまっているようだな」
だが、こんな事を言いにここに来たのだろうか? もう生きてはいないというのでは、助けてはやれないではないか。
地底人の男は、ルシオ達をじっと見つめ、徐に口を開いた。
「おいらは……おいら達は……魔力を持った人族を匿っておりやす」
「ッ!……どこに?」
「街の外でやんす」
彼の元主人だった貴族は、我が子を殺されて憤慨し、貴族の中から魔力持ちを探し出しては庇護しているという。
「どうやって? その貴族は魔力が見えると言うこと?」
「魔道具を買取って使っているようです」
「ああ、魔力を見るモノクルか!」
魔力を見るモノクルはルシオが始めに造った魔道具だ。魔力がなくても使えると、ロマゴや他の国によく売れたものだったが、地下都市では余り売れないため、今は作っていないと聞いて居た。
「よく手に入れたな。ここでは知っているものは少ないだろうに」
「プリメロに知り合いがいたようです。二年前大金を払って手に入れたと言っておりやした」
その貴族は、「その内王は地底人の魔力持ちをも排除するだろう」と言って彼を脅しているようだ。
「おいら達地底人の魔力持ちも、その内殺されてしまうかもしんねぇ。おいらの孫や知り合いにも魔力持ちがいるかも知れねぇ。恐ろしくて……まだ、ここの地底人はその事を知らねぇし、どうすれば良いか悩んでいまして……」
「プリメロでは魔力持ちを集めている。魔法使いになりたくなくても受入れてくれるはずだ。プリメロに移住してきたら良い」
「いいんですかい?」
「ああ、プリメロ王の方針だから、大丈夫だ」
ルシオは急いで魔力が見えるモノクルを数個造り彼に渡し、
「貴方が見て回って、魔力持ちがいれば、その方にも今の話をしてくれませんか?」
そして、有事の際は移住してこいと言い渡した。
彼に案内され、数時間掛けて細い通路をぬけやっと辿り付いた。
細まった岩の割れ目を更に登った処の空洞に子供達はいた。
そこは過去の地底人たちが住んでいた生活空間なのだろう。かなり広い洞窟で、奥には水が湧き出るくぼみまであった。涼しくて快適な空間だった。
ルシオはここに転位陣を敷く。そして
「見付かった地底人の魔力持ちは、ここで匿えば良い。知らせてくれたら僕が迎えに来るから」
彼に数枚の金貨を渡すと、地底人の彼は固持する。
自分達のためにしていることだからといって金を受取らないのだ。
だが、金は生きていくためにもこれからの活動のためにも必要なものだ、もっと必要なら更に渡すからと言い聞かせた。
「……へい……ありがとうごぜぇます」
保護されていた人族の魔力持ちをルシオの異空間で一時預かることにした。
子供達は二歳から十七歳までと幅広い年齢層だ。五人いた。
二歳の子は殆ど親の顔も覚えていない様で、ソフィアに大人しく抱かれて眠ってしまった。
十七歳の青年は、恐れて縮こまっている。
他の子供は八歳から十一歳と年齢が近く、三人で震えながら固まっていた。
「こんな処に突然連れてこられて、怖いでしょうけど、ここは異空間と言って外の世界とは繋がっていないのよ。安心して住めるから」
屋敷に居る獣人達を紹介すると、人族の子供達は目を丸くしている。獣人を見るのは初めてのようだ。
目を覚ました幼児は猫耳のメイドを見て「お耳、尻尾!」と騒いでいた。
応接間に落ち着き、薬草茶を飲みながらビスケットを頬張る彼等。
「君達は……いや君はこれからどうしたい?」
ルシオは十七歳の青年に尋ねる。
「私は地底都市の外へ行きたい。人族だけが住む国があると聞いて居ます。そこへ連れて行ってくれませんか?
他の地下都市へ行っても迫害されそうで恐ろしいんだ」
十七歳の青年は暫くここに残って貰うことになった。その内ペニーニョや東海岸沿いへ連れて行き、好きな場所に落ち着いてもらうことで納得してもらう。
問題は二歳と十歳前後の低年齢の子供達だ。親たちは素直に手放したのだろうか?
「親たちは、この子等をこれ幸いと手放しました。私の親もそうです。魔力持ちを生んだと知られれば貴族の立場が低くなります。最悪貴族街では住めなくなります」
青年はそうルシオ達に言った。
「彼等を集めている貴族は? 大丈夫か?」
「ミッチェル男爵は、最愛の愛娘を殺されて、更には貴族の地位も追われました。王に対しての恨みからこうした行いをしています。彼は集めて来ただけで後は地底人に世話をさせて、その後は一度も姿を見せません」
ミッチェルという元貴族は、貴族の中から魔力持ちを見付けその貴族達を脅して金をせびっているようだ。
子供達は金のために生かされているのではないかという。
「……そうか。では僕達が子供達を預かっても良いと言うことですね」
「ええ、お願いします。可哀想ですよね。まだ幼いのに捨てられてしまって……」
彼等の魔力は低い。魔法は使えたとしても大したものは使えないだろう。魔法兵にも成れそうに無い。
「貴族街は魔素の噴出地からかなり離れて居るから、今後も大きな魔力持ちは生れそうにないわね」
問題はこの人族の子供達をプリメロ王に差し出すかどうかだ。
まだ幼い二歳の幼児をきちんと育ててくれるだろうか?
かと言って地底人たちと一緒に孤児院で育てるのも、育つ環境が違いすぎて難しいだろう。人族は暗闇では目が見えづらいのだから。
ルシオはソフィアに抱かれた二歳の幼児を見ながら思案した。
十歳前後のグループの子供に聞いて見る。
「君達は? プリメロの貴族の世話になっても良いかい? そして友と一緒に勉強してみるかい?」
「……勉強? なんの?」
「魔法を使えるようになるための勉強だよ」
「ッ! 絶対嫌だ。また掴まって、今度は殺されてしまうじゃ無いか!」
「あら、プリメロでは違うのよ。魔法が使えれば優遇して貰えるわ。また貴族として生活できるようになれるわよ。どうする?」
「本当に?」
「ええ、本当の事よ。その代わり一生懸命勉強しなければダメよ」
「……僕勉強して貴族に戻りたい」
「私も!」「僕も!」
この三人のグループはプリメロ王に育ててもらうことになりそうだ。彼等は魔力は相当少ないが、成長した後彼等の子供に魔力持ちが生れる確率が高いだろう。
彼等が寝静まり、ルシオにソフィアが提案をした。
「子供達は魔力がかなり小さいわ。何とかならないものかしら」
「大きくなってしまった子供はどうしようも無いが、二歳の子供ならば、もしかすれば魔力器が成長するかも知れない……」
「どうやって? まさか、迷宮へ連れて行くのではないでしょうね。だとしたら無謀だわ!危険よ」
「いや、これはまだハッキリしないんだが、この異空間にある精霊水を暫く与えてみたらどうかと思う。アレは魔素が濃くて、綺麗に浄化されている」
ルシオが住居を構えるこの島の小さな森にあるのは、神が特別に手を加えた異空間で、そこの魔素を含んだ湧き水は、以前とは違う神の水なのではないだろうかと考えている。
屋敷の獣人達が、身体の切れが変わると言って常に泉へ行って飲んで居る。近頃は隣の島からも頻繁に獣人達が水を飲みにやってくるようになった。
他の島にも魔素を含んだ小川が流れているはずなのにこことは違うと言うことなのだろう。
「妖精達や獣人達には素晴らしい効果があるんだから、人間にも多少は影響が出るとは思わないか?」
「そうね、やってみましょう。それにこの屋敷の温泉もそうなのでしょう?」
「ああ、幼い彼を実験材料にしてしまうが、これが効果的だと分かれば、素晴らしい発見になるのではないか?」
ソフィアとルシオは、プリメロ王には二歳の幼児は預けないことに決めた。
他の子供達は自分の意思で決めるほど育っているが、この幼児は自分の意思で決めることは難しい。ルシオ達が面倒を見ることに決めたのだ。
ここには沢山の獣人や妖精達がいて世話を焼いてくれるはずだ。
子供達を庇護していた地底人たちにも、早めにプリメロに移住してもらうように言いつけておく。
「もし、今すぐにも移住可能なら、転移で一緒に連れていけるがどうする?」
世話をしていた地底人の男に聞くと、彼は、
「あっしは、魔力持ちを見付けてこっそり手引きしなけりゃなんねぇ。追々プリメロに逃げますんで、心配なさらねぇでくだせぇ。どうせ老い先短い命だ。皆のために使いますよ」
ルシオは彼に通信の魔道具を渡す。魔力がなくても使える指輪型の通信器だ。
これで何時でも連絡をくれれば助けに来ると言い含め、ルシオ達はプリメロへ帰る事になった。
◆ ◆ ◆
「おお、魔力持ちの貴族の子供を見付けてくれたか!」
プリメロ王は大層喜んでいる。これでルシオ達の依頼は終わったことになる。
子供達の教育はバズウ魔道師に一任すればいい。彼は既に貴族の子供を二人教えているのだから。




