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30 十二番目の迷宮

 人工魔力器の研究は少しだが進展があった。

 ソフィアの、研究は、鬼人達に魔法を使わせることが出来れば、身体に蓄積された穢れを除去できるのではないかと言うことが根幹にある。

 一方バズウ魔道師の研究は少し違って、身体に魔力器を作り出せば、魔法が使えるようになると言うものだ。


 当たり前と言えば当たり前なのだが、ソフィアにとっては、余りにも短絡的で実現不可能なものに思える。

 バズウ魔道師が得意になって自説を言う。

「以前迷宮を支配していた呪われた魔導師達は、身体に穢れた魔水晶を埋め込まれていた。彼等の魔力器は驚くべき効果を発揮していたそうだ。それを改良すれば何とかなると思うのだ」

 

 ソフィアは、その考え方は危険だと思った。

「身体に直接魔水晶を埋め込むのは絶対に避けるべきだわ。それこそ、神の怒りに触れて鉄槌が下されるような事よ!」

 神官であるソフィアの剣幕に押され、タジタジとなるバズウ魔道師だ。

「そ、そんなことはするつもりは無いぞ……只の仮説だ……」


 疑いの目で見られてバズウ魔道師は焦ったようだが、ソフィアは彼の目を見て、やったらダメよと更に念を押す。


「でも、バズウ魔道師が発見した、普通の人達にも小さな魔力器があると言うのには驚いたわ。それ自体は凄い発見よ」

 そう言われてまた気分が上がり、得意になるバズウ。彼は基本おっちょこちょいで憎めない性格だ。ただ、考無しに突っ走る傾向があるのだ。


「そうであろう、そうであろう。だから、貴族の子供でも比較的ハッキリ見える魔力器を持った者を集めてみたのだ。彼等に同調できる魔力持ちを探し出せば、何とかなると思ったのだよ。魔力譲渡さえ出来れば、その過程を観察でき、人工魔力器を作れるのではないか?」


「いいえ、それはもうルシオが……ルシオ神官が随分以前に発見しているわ」

「え!? 何時?」

「魔素吸収バックルはそうやって出来ているはず。魔素を外から取り入れているのよ。それを改良すればきっとものになるはず。問題は、魔素を魔力に変換する際、どうやっているかという事よ。幾ら魔力操作を学んでも魔素を魔力に変換できなければ、魔法が発動できないんですもの」


 魔力がないと思われた者にも魔力器が在った。だが、その魔力器は機能していない。

 どうすれば機能するようになるのか。それが一番の課題だった。


「…………そうであったな。私のはお門違いの研究だったようだ」

 途端に自信を無くすバズウ魔道師だった。


 ソフィアは、ルシオの造った魔素吸収バックルを見た。

 バックルの裏側に魔法陣が描かれていて、魔力器とつながるようになって居る。表側には、漏斗型の魔水晶が付けられその周りに穢れを濾す為の漉し器があった。


「これだけで限りなく完成形に近い。これ以上手を加えて更に良い物が出来るとは思えないわ」

 ――ルシオと話し合いたい。彼なら何か解決策を思い付くはず。

 でも、自分からは会いに行けない。あれほど拒絶されてしまったのだ。今更研究のために手を貸して欲しいなどとは言えない。


 そんなある日、突然ルシオから連絡が入った。

 ソフィアはドキドキした。

 ――何かあったのかしら? 会えるかしら? それとも、また魔水晶の浄化の許可かしら。

 恐る恐る受信をすると、そこに現れたルシオは様変わりしていた。まるで別人のようだ。すらりとした青年だったのに、まるで戦士のように筋骨隆々となったルシオがホログラムとして立って居た。


「ルシオ!! 貴方どうしてしまったの?」

 余りに驚きすぎて、今までのわだかまりなど頭から飛んでしまい、大声で叫んでしまった。

「は、は、凄いだろう? 少し鍛えたら、こうなって仕舞ったんだ。恥ずかしいよ。ところで、少し会えないかな、こっちに来て、見て貰いたいものがあるんだけど。忙しくて無理かな」

「……い……いえ、行くわ。鍵は以前と同じなのだとクリステルに聞いた。それでいけるのよね」

「ああ、直ぐに来て、君に是非見てもらいたいんだ」


 ◆  ◆  ◆


 半年前から、ルシオ達は迷宮に潜っていた。

 無事にルシオの剣も出来上がり、今は迷宮の攻略に精を出しているのだ。


 中級も制覇し、今は上級の迷宮を攻略している。

 初級の迷宮は三十階層で中級は四十階層、そして上級の迷宮は五十階層からなっていた。

 

 迷宮によって魔物は四種類に分かれていた。

 虫の迷宮。獣の迷宮。植物の迷宮。人型の迷宮。

 

 初級も中級も上級も、迷宮に出現する魔物は殆ど同じだったが強さが少しずつ強力になっている。

 上級の魔物は堅くすばしっこくそして数も多く出る。一人では到底先へは進めないものだ。

 クリステルと、ついこの間参加したアレハンドロと三人で迷宮に入っている。


 ガルシアには危険過ぎて無理だったのだ。今彼は同じ見習い同士でチームを組んで初級の迷宮に挑んでいる。

 偶に大怪我を負って迷宮から強制的に吐き出されて、待機している魔道師に治癒を掛けられているそうだ。

 神の迷宮では、この様な安全措置が組み込まれているため、安心して見習達を送り出している。


 迷宮には沢山の建物が建てられ、引退間近の戦闘魔法兵達がここで暮らすようになった。

 彼等は宿の管理や、食事の管理。細々とした仕事を担っている。

 その内に家族をここに連れてくる者まで出てくるだろう。


「これが最後の上級だな。ここを攻略できたら、いよいよ最上級に挑戦できる!」

 ルシオとクリステルそしてアレハンドロは、鼻息荒く意気込んで入って行った。


 十二番目の迷宮は、人型の魔物が出る。

 出てくる魔物が鬼人達に余りにも似ているため、初めは攻撃するのに戸惑いはあったが、迷宮に出る魔物には、『命がない只の木偶だ』と認識してからは、気持ちを切り替えることが出来た。


 一階層は角が生えたやや大きいゴブリンが五体纏めて出てくる。

 ゴブリン達は連携を取り、それぞれの役割分担に従い効率よく攻めてくるのだ。人型のやっかいな部分だった。

 然も、もたもたすると段々数が増えてくるので素早く倒し先に進んでいかなければならない。

 サムエルから時間との勝負だとアドバイスされていた。

 彼等調査隊は時間が掛かりすぎて魔物が増えて仕舞ったそうだ。

 迷宮から強制撤去されて、攻略できなかったと言うことだった。


 ルシオ達は一階層でどれだけ出てくるのか観察するためにその場に留まって見た。


 一定時間を過ぎると魔物は倍々と増えていき、数時間個には二〇〇体を超えた。その後でもまだまだ増え続けたのだ。

 悠長に構えていたルシオ達は慌てて殲滅したのだった。


 ――下手をすると無限に湧き出るのではないのか?

 

 そうなれば魔物はここから溢れ、迷宮の外へ出てしまいそうだ。だが、ここは神が作り出した迷宮だった。そんな苛酷な状況にはならないだろう……そんなことには成らないさ。


 ――大丈夫だとは思うけど……どうかな?

【大丈夫に決まっておる。馬鹿なことは考えるな。実現してしまうぞ!】

「え、そうなの! 考えてはダメ……と言うことは考えればあり得るの?」

【……何とも言えん】

 ――神のご褒美にしては、少し……アアーッ止めよう。考えないことが大事だ!


 それが分かってからは、下手に余裕をこいたりしないで、サッサと倒して先に進むことにした。


 この迷宮を攻略するには、転位陣を敷くか結界を張るか、異空間へ逃げ込むかしかないようだ。

 ルシオ達のように異空間持ちで無ければ、到底先に進めないと言うことだろう。


 長く留まれば魔物が際限なく湧く。迷宮で休憩を取ったり、その場で寝泊まりすることなど出来ないのだから。


 最下層へ行くには少なくとも十日は掛かるのだ。

 転位陣を敷けばそこから進めるが、敷ける魔道師も少ない。

 要するに転位陣も敷けない魔道師には攻略は無理だと言うことだ。


「転位陣を敷いておけばこの後ここに来る魔導師達は助かるかな。でも、以前敷いた転位陣は暫くすると消えていたんだ。どうすれば良いと思う?」


「止めておけルシオ。力がない奴がここに来ないように態々こうして居るんだろう?」

 アレハンドロに言われて、それもそうだと考え直すルシオだった。


 ゴブリンの他、オークや、羽根があるハーピィなど、殆どが人型の魔物が湧き出す。それらを順調に倒しながら先へ先へと進んでいった。


 十二番目の迷宮も最後の五十階層に差し掛かった頃、オーガが五体、扉の前に陣取っていた。

 身の丈五メートルのオーガは威圧感があった。今までで一番大きな個体だ。然も五体一気にと言うのは中々壮観なものがある。


 やはりオーガ等も連携を取ってルシオ達に攻め込んできた。

 このままオーガに手間取ってもたもたしていれば、際限なく増えていくだろう。それは避けなければならない。


 その場所は、ボス部屋でもないのにかなり広い空間になっていた。

 アレハンドロは、巨大な剣に魔力を通し、オーガに向かって走り出す。


 ルシオは結界で皆を守っている。ルシオの結界は他に類を見ない優れものだ。

 近頃は結界のレベルが上がり、皆を守りながら、別に盾を作り出し、相手の攻撃をいなしたりも出来る様になった。結構大事な盾役となっている。

 そのお陰でアレハンドロは思いっきり暴れ回ることが出来るのだ。


 ルシオの後ろでは、クリステルが魔法でアレハンドロに加勢している。

「クリステル、君もその剣でアレハンドロと一緒に倒してきたら? 早くしないと増えてくるよ。僕がここで結界と一緒に加勢するから」

「ああ、そうだな行ってくる!」


 アレハンドロの戦い方はどうしてか、剣を使うものに変わっていた。

 一緒に学んでいた頃は、確かに剣術の鍛錬をしていたが、その後は魔法にばかり比重を置いていたのに。彼が言うには

「剣で倒すことにロマンがある」

 のだそうだ。変なこだわりがあるようだった。

「脳筋だな」


 オーガが総て倒され素材を残してかき消える。

 そして、ボス部屋が大きな口を開けてルシオ達を招いている。

 部屋に入るとそこには塔がそびえていた。

「なんだ? 迷宮の中に……この塔の中に入っていけば良いのか?」

「回りくどいな、迷宮の中にまた迷宮だろうか?」

「兎に角入ろう」


 クリステルに促されて塔の中に入ると、十メートルほどの部屋があり、そこには魔導師がいた。

 いや、魔法使いか? 顔はよく見えない。ローブを目深く被っているためだ。杖は持っていないが、彼からは大きな魔力が感じられる。


【良く参った。われは過去の魔法使い達の統計で作られた謂わば魔法使いのまがい物だが、貴殿達とは意思の疎通は出来る。われは審判係としてここにいる。其方等の力を示せば、それをわれが見極めて、われに認められれば其方等の願いを叶えようぞ】


「なんか面倒くさそうな奴だな。魔法の威力を示せば良いのか?」

 アレハンドロが身も蓋もないような言い草で言い放つ。


【そうじゃ、貴殿の最大の魔法を見せてみよ。さすれば願いを叶えようぞ】


「ああ、やってやろうじゃ無いか! インフェルノ!!!」


 アレハンドロは最大火力の魔法を放つ。ゴーゴーと周囲が焼けただれるほどの火力がまき散らされて目の前が真っ赤に染まる。


 ルシオは結界に魔力を最大に流し結界を強化した。

 魔力切れで倒れ込んでしまったアレハンドロにクリステルが厳しく小言を言う。


「アレハンドロ! こんな閉鎖された空間で放つ魔法か!!! ルシオが居たから良いものの、普通なら周りにいる私達まで巻き添いになるところだぞ!」

 クリステルはすごく怒っている。

「ああ? わりい、わりい。だが、大丈夫だったろ。お前は死ねないし、ルシオの結界は規格外だしな」

 怠そうなアレハンドロは、大して反省もしていない口調で言い返している。


 目の前にいた魔法使いは跡形もなく消えて、代わりに宝箱が置いてあった。小さな箱が三個ある。

「一人に一つずつって言うことか?」

「そうみたいだね。クリステル、君から選んで」

「あ、ああ」

 彼の願いは分かる。多分神から赦されることだろう。ここで叶うだろうか?


 宝箱を開けると光が中から溢れ、クリステルを包み込んだ。その後は何事もない。

「お前、何処か変わったのか? 何を願ったんだ?」

「……いや、願いは叶えられ……なかったようだ」

 自分の手に描かれている呪いの呪文を見て、意気消沈しているクリステル。

 本当に以前と何も変わっていないのか? ルシオが彼の顔を見て、ハッとした。


「クリステル! 君の選別の魔法陣が変わった! 赤だったのが金色になっている」

「!!っ……?」


 クリステルの呪いの呪文は消えていない。だけど、自分で呪いを解除出来る様になったと言う事だ。

 解呪魔法をこれから習わなければならないが、神官に見習いとして付けば直ぐに学ぶ事が出来るだろう。

 もしクリステルが希望すれば、ルシオだって教えてやれるのだ。

 感極まったクリステルは跪いて神に祈りを捧げている。


「ほんとだ。お前、神官になりたかったのか? 変わった奴だな。神官なんぞ自由がなくて面倒なだけだぞ。じゃあ、俺の願いは……期待薄かな……」

 そう言って、アレハンドロは宝箱をぞんざいに開けた。

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