28 人体実験?
クリステルは、ルシオにガルシアを預け、地下都市へ転移した。
ガルシアの最後の仕上げに、また迷宮へ戻る予定だが、今後の展開によっては難しいかも知れない。
「ルシオに異空間収納の指導をして貰わなければダメかも知れないな」
ルシオの方が適任なのは分かっているが、最後まできちんと面倒を見たいと思うのだ。
――たった五年で巣立ってしまった。
彼等がいなくなり寂しいクリステルだった。
初めての養い子達に、深い愛情を感じて仕舞って離れがたく感じている。
ただ、養い子達が残していった聖獣たちはクリステルの異空間に預かっている。
「見習いが終わったら迎えに来ます。それまでこの子の面倒をお願いします」
聖獣は今や彼等にとってはペット以上の存在になったようだ。しかし、違う師匠に就く間は面倒を見ることは出来ないだろう。
然も派遣されていく場所によっては、聖獣に危険が及ぶ恐れもある。
魔素が穢れた場所では、魔物に変わって仕舞うかも知れないからだ。
聖獣たちはポケットに入る大きさではなくなってしまっている。
地下都市は以前と変わらず、地底人は穏やかに暮らしている。以前と変わったのは、クリステルがそのままの姿でも受入れられていると言うことだった。
体中に呪いの呪文があり、顔にも複雑な文様がある為、二度見はされるが、それでも怖がらずに声を掛けられる。
「あんたも魔法が使えるお方だろう? 神殿には世話になった。あたしの子供の病気を治してもらったんだ」
そしてお礼だと言って僅かばかりのおまけをくれることもある。
「そう言えば、ソフィアが、定期的に無料で治療しているとか言っていたな」
魔道師や、魔法兵をここの住民達が受入れていると言う証拠だった。
貴族街を調査する前に、エンソ魔道師に話を通しておく。
「ソフィアが心配していたが、男女間のことは口出しできないのだよ」
エンソはそう言ったが、ソフィアの話では結界が張られて無理に突破すれば、騒ぎになりそうで手が出せなかったと言うことだった。
「結界まで張って、何か隠して居ると言うことは考えられませんか?」
「錬金魔道師は皆そうだ。結界は自分の研究を守るためでもあるのだ。それだけでは疑えないぞ」
確かにそうだ。錬金には危険な物もある。屋敷に強固な結界を張っている錬金魔導師は多い。
「神殿長からも調査するように言われています。一応許可は下りていますから。忍び込んでの調査になりますが、もし無理なら結界を壊して調査に入る事になります。もしこちらに苦情が来ても処理してくれますか?」
「神殿長からの任務だとなれば問題はないだろう。魔導師が犯罪に手を染めていたら、裁判に掛けられるのだ。それくらいは魔道師なら肝に命じているはずだからな」
クリステルは錬金魔導師の屋敷の前に立っている。
「バズウ錬金魔導師は、貴族達に随分優遇されているようだな」
凝った作りの大きな屋敷だった。
門番が出てきてクリステルに告げる。
「錬金魔導師様は王宮へ出向いてこちらには当分帰ってこられない」
ソフィアの言っていたとおりだ。クリステルは素直に立ち退き、暫くしてから認識阻害を掛けて屋敷に忍び込む。
「魔導師がいないのなら、結界を壊しても暫くバレないはずだ」
結界を壊し、屋敷の中を隈なく探すが、誰も居なかった。使用人ようの区画に数人、人がいるだけだった。
門番の言っていたことは嘘ではなかったようだ。
以前も行った事がある王宮へ行くことにする。
道順も王宮の中も手に取るように分かっているのだ。
王宮に忍び込み隈なく探す。王の居室の近くに魔力の反応があった。
目に力を込めて魔力の流れを見て見ると、ある部屋から魔力が感じられた。
その部屋にはこの国の重鎮がいた。この男は宰相のようだ。部屋の隅で彼の動向を観察する。
彼の側にはやはり魔力を持つ側近がいた。
クリステルがこの部屋に入ってから、ソワソワと落ち着きがない。しきりに部屋を見まわしている。
――感覚が優れているようだな。私の魔力を何となく感じているようだ。気を付けねば……。
「何をソワソワしているんだ?」
「いえ、気のせいでした、済みません。ところで次の候補は誰になりますか?」
「魔力持ちが私とお前、そして伯爵とその子供しかおらんのだ。決まっておるでは無いか」
「私にも廻ってきましたか……」
「ああ、まだ成果はないのだ。相性が良い者が見付からないうちは、研究が先に進めないそうだからな」
「こんな事で効果があるとは思えないのですが……」
――何のことを言っているのだ? 相性……?
クリステルは、側近の後を付いていくことにした。
彼等は何かの実験若しくは研究の片棒を担いでいるようだ。
と言うことはバズウ錬金魔導師が、裏で動いているのだ。
もし、地底人の見習いを実験材料としているのなら、これは ゆゆしき問題だと、眉間にしわを寄せた。
側近の男は、王宮の奥にある一角に到着する。
「バズウ魔導師様、アンヘルです。入っても宜しいですか?」
中から声が掛かり、結界が解かれた気配がする。
――ここに問題の魔導師がいるようだ。
側近の後をコッソリついて行こうとすると、側近が突然振り向く。周りを見まわし、手を左右に動かしている。
クリステルはその手をくぐり抜け、先に部屋へと入って行った。
「アンヘル! 魔法を使っているのか?」
「いえ、滅相もない」
「……」
錬金術士は部屋の気配を探っている。クリステルの居る場所をじっと見て、
「誰じゃ! 姿を現せ!」
仕方なくクリステルは認識阻害を解いた。
側近は、目が飛び出るほど驚き、
「王様!? では無いようですが……前王と同じ呪文が……」
「おや、クリステル魔道師、どう言うことだ? 忍び込むとは……随分失礼ではないか!」
「バズウ魔道師、神殿長から貴方を調査せよとの依頼があり、私がここにおります」
「……私を? なんの調査じゃ」
「ソフィアの生徒を監禁しているのではないかという疑いが掛かっております。彼等は何処におりますか?」
「っ! か、監禁だと! な、なんという言いがかりを……見習達は私の研究を手伝っておる、現に今、隣の部屋におるわ!」
大きな声に驚いて、隣の部屋から、十五歳くらいの少女と少年が飛び込んで来た。
「師匠! 何かあったのですか!」
彼等の後ろから八歳くらいの子供三人が怯えながら覗いている。
――困ったな。本当に研究していただけなのか? だが……。
「ソフィア神官が心配しています。今ここへ呼びますので」
「ソフィア神官が神殿長に訴えたのか!」
「そうです。見習達と連絡が取れないと困っています。やましいことがなければ素直に従った方が良いですよ。もし逆らえば拘束します」
「……分かった」
クリステルはソフィアに連絡を取り直ぐに呼び寄せた。
ソフィアは、クリステルの異空間へ転移し、クリステルが異空間の入り口を開けると直ぐに姿を現した。
ソフィアを見たバズウ魔道師は、食ってかかった。
「ソフィア神官! これはどう言うことか! 私がなにをしたというのだ!!」
「バズウ魔道師、私が面会に行っても取り合わなかったからです。知らせもなく王宮で研究など、心配もしますでしょう? 一体どう言うことなの?」
「け、研究をしていたのだ。ここでな。研究は秘匿するものだ。君に知らせる義理はない!」
「そうでしたか、私の勝手な憶測でした……申し訳ありません。でも、見習達にはきちんと話を聞きます。良いですね!」
「ああ、研究以外のことなら何でも聞くが言い。何もやましいことはしていないのだからな」
見習達が意外に元気にしている姿を見てソフィアは、ホッとしたようだ。
だが、王宮で研究? クリステルはそれに引っかかりを覚えた。
「バズウ魔道師、なんの研究をしているのか教えて貰えませんか? 秘匿したいのは分かりますが、事と次第によっては裁判の対象になるかも知れませんよ」
「さ、裁判……?」
バズウ魔道師は、チラチラとソフィアを見ながら、ぽつりぽつりと語り始めた。
事の始まりは、ここの王からの相談から始まったという。
この頃市民に魔力持ちが多数見付かり、学校にまで通い始めた。貴族にはたった四人しかいない魔力持ちが、市井には沢山いると聞き、不安になったようだ。
そこで錬金魔導師が、教師としてやってきた折に、魔力持ちを増やすにはどうすれば良いかと相談をしたのだ。
バズウ魔道師の研究は、魔力がない物に魔法を使えるようにすると言うものだった。
以前ソフィア神官と話したとき、ソフィアの人工魔力器の研究の途中経過を聞き、出来そうな予感があったと言う。
それで見習いを次々に受入れ研究の実験に付き合って貰っていたのだ。
「け、決して酷いことはないのだぞ。ただ魔力を流してもらうだけだ。私の以前の養い子達が発見したのだ。魔力の相性を合わせれば魔力の譲渡が出来ると言うことを聞いて思い付いたことなのだ」
「それなら私にも知らせてもらえればもっと助けになったのに。隠すようなことですか?」
「……君のアイデアを……盗んだと思われると……思ってな……言い出せなかった」
「……一緒に研究しましょう。権利のことを心配しているなら、私は辞退しますので。安心して下さい」
「そうか! この頃行き詰まっておったんだ。魔力の型を合わせるのにもっと魔力持ちが必要でな。は、は、助かった、いや助かったぞ!」
なんと人騒がせな。そう言うことなら問題はないだろう。
クリステルは意外に早く事が片づいたことに一安心した。
「バズウ魔道師。貴方の屋敷の結界は壊しました。もう一度張り直す必要があります。これは神殿長からの依頼ですから。もしご不満なら、直接大神殿に抗議して下さい」
「……む、む仕方がないのう。私も怪しい動きをしていたことだしな。結界のことは良い。文句は言わんよ」
――本人に、自覚はあったと言うことだな。




