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27 ソフィアの苦悩

 ソフィアが地底都市に来てから五年が過ぎた。

 新しくできた神殿の神官魔道師として、そして孤児院の世話役として、また自分が立ち上げた魔法学校の責任者として忙しい日々を送っている。


 神殿の細々とした事はエンソ戦闘魔導師が引き受けてくれている。

 彼は59歳のベテランで、フリア達の養い親をお願いした魔道師だったが、ソフィアがこの地の神官になって必要なくなったと言う経緯があった。

 温厚で物事に動じないどっしりとした人だ。ルシオが当初、養い親として選んでくれた魔道師だから、ソフィアは、安心して相談できる相手でもあった。


 エンソ魔道師が養い親になると聞き、フリアは始め怖がっていたが、ソフィアに再び養い親になって貰い安心したようだった。

 彼女は今、魔法学校を卒業し孤児院の仕事を手伝いがてら魔法学校の教師をしている。


 他の二人の養い子も孤児院から魔法学校へ通っている。

 彼等は何れも魔力が少なめなので、魔導師にはなることは出来ないが、卒業後はフリアと同じく学校の教師になると意気込んでいた。

 

 ブルホから、錬金魔導師もこの街に来ている。彼は七〇歳の魔道師で、ソフィアとは研究の課題が共通している事こともあり時々交流を持っている。


 ソフィアが神殿でする仕事は殆ど無い。唯一仕事らしい仕事と言えば、転位陣を動かすことくらいだ。


 初めのうちは引っ切り無しにブルホとの行き来があったが今は月に五回ほど転位陣を動かすだけで良くなっている。


 南の地には魔物がいない。ペニーニョにとっては魅力がない地だとわかり、東沿岸の都市ほど話題には上らなかったようだった。


 ここに態々神殿を造ったのは、以前の王にルシオが神の鉄槌を下したため、その後の地下都市に問題が起こらないか様子を見るためだった。

 

 地下都市はここの他に二カ所あるがそちらに神殿はない。その内出来る様になるかも知れないが今はこの街だけで間に合っている。

 他の地下都市の視察に戦闘魔法兵を連れて行くとき、ソフィアが担当している。勿論異空間に入れて転移で彼等を送るためだ。


 戦闘魔法兵は10人ほど常駐して、一年で交代していく。彼等はここが終われば、東海岸沿いの街へ行って稼ぐことが出来ると喜んで去って行く。


 戦闘魔法兵のここでの仕事は、各都市の見回りだ。今のところ問題は起きていない。他の都市の貴族達も普通に都市を管理し、今まで通り街の運営をしていた。


 戦闘兵達は普段、仕事の合間に地上に出て、獣を倒して商店に卸したり、薬草を採取して小遣い稼ぎをしているようだ。

 偶に地上にある農場に危険な獣が巣を作ったときには、駆除するため駆り出されているようだった。


 特に目新しい事も無くまったりと時間が過ぎていく。

「ここにはそれほど長く魔道師を置く予定では無かったのではないかしら」

 この頃ソフィアは、そう考えるようになっていた。

 ソフィアが、地底人たちに魔法を教えたいと希望したためこの様な形にしてくれたのでは無いだろうか?


 逆を言えば、ソフィアが希望しなければ、地底都市はそのままそっとしておかれたはずなのだ。

 あの時、ルシオに自分が余計な口出しをしたせいで、彼が手を尽くしたのではないのか?

 周りを巻き込んでしまったのだと、責任を感じている。


 地下都市の人々には神信仰はなく、神殿は彼等にとって子供を捨てる場所、若しくは治癒をして貰う治療所と認識しているようだ。

 神殿で行われる治癒の料金は一般の住民には高額すぎる。だが、ソフィアの提案で、三ヶ月に一度だけ無料で治癒をすることに決まっている。


 だけど、誰でもと言うわけにはいかない。薬師では到底治せない重症患者だけを治癒しているのだ。

 この仕事はソフィアが率先して行っている。戦闘魔導師達にも治癒魔法は出来るが、やはり魔力が足りないし治癒が得意な戦闘魔道師は少ないのだ。


 神殿には戦闘魔導師の他に錬金魔道師もいる。

 彼が作り出す魔道具は、偶に売れているが、殆どが貴族に買われている。一般の人々には見たこともないと言う代物だ。

 余りにも高額で手が出ないためだ。


 当初ソフィアは、仕事の合間に各地底都市の孤児院を回り、魔力のある子供を捜し回った。

 孤児院には数百人の孤児がいたがその内魔力がある子供は20人見付かった。


 男の子が6人、女の子が14人だ。

「なぜ? 地底都市では女子の魔力持ちの割合が大きいのかしら」


 初めは地底人たちの種属特性だろうと考えていたが、落ち着いて調べてみると、原因が判明した。考えれば当たり前のことだった。

 男の子の魔力持ちは殆ど呪いの魔法使い達に連れ去られ殺されていたのだから。


 最後に殺されずに残っていた魔力持ち達に女児がいたのは、男児の魔力持ちがいなくなっていたせいだったのだ。

 この後数年も経てば、また、男女の比率が元に戻るだろうが、今は孤児の魔力持ちは女児が多くなっている。


 年齢は、0歳から12歳までと幅広い。

 魔法使いになりたいと言う子供だけに魔法学校に通わせ教えているが、今のところ魔法学校には50人に満たない子供が学んでいる。

 

 魔法学校には孤児だけでなく、一般の人達の子供も来ている。中には貴族の子供もいるのだ。

 魔法学校は基本無料だ。


 だが、貴族の子の親からは多額の寄付金がされている。そしてその子供は威張り散らしている。所謂問題児となっているのだ。

「困ったわ。どうしたら良いのかしら」

 ソフィアにとって寄付金は本当は必要無かった。学校を造ると話したとき、ルシオから沢山のお金と、浄化済みの魔水晶をもたせて貰っていたのだから。


 個人指導をしろとか、教室が暗すぎるから明るくしろだとか、親からは毎回要求が出されている。

 これ以上明るくすれば、他の地底人の子供たちは目が眩んでしまうだろう。


「それは出来ません」と突っぱねると、親からは寄付を取り下げると言われた。

「寄付金は必要ありません。今までの分もお返しいたします」

 つい、ソフィアは言ってしまった。今まで、余りにも理不尽な要求をされ続けて堪忍袋の緒が切れたのだ。

 そして、その後貴族の子供は学校に来なくなってしまった。

 

 毎回問題を起こす子供がいなくなって学校は一応落ち着いたが、神殿の方に要望が出され、家庭教師として錬金魔導師が出向くことになった。

 多額の授業料を提示された錬金魔導師は、貴族街に住むことになり、今ではそちらで錬金をしている。


 貴族街に住むのは人族だ。その為貴族街は魔道具の灯りが煌々と付いていて、とても明るい。

 2000人に満たない人族が貴族街に住み、そして地底都市を取り仕切って、富を吸い上げている。


 貴族にも魔力持ちはいるが、弱い力しか持たない魔法使いがたった三人だ。

 彼等は以前の不死の呪いの王に仕えていた者達で、少しは魔法の知識があるようだった。

 魔力は少ないが火魔法と水魔法、風魔法は使えている。

 そしてやっと生れた魔力持ちの子供は、大事にされているようだった。


「考えようによってはこれで良かったのでは? 市井では魔道具は売れない。貴族街へ行けば彼の魔道具はよく売れるし、子供の指導も出来るのだから」

 エンソ魔導師にそう言われてホッとするソフィアだった。


 今、フリアの次の卒業生が魔法学校から巣立とうとしている。

 彼女は15歳で、13歳の時からここで学び、魔法使いの称号を貰うことになっている。

 魔法学校では卒業試験に合格できれば卒業できる仕組みになっている。

 もっと学びたければ試験は受けず、何年でも通うことが出来る。


 ソフィアの養い子の二人はもっと学びたいと言ってまだ試験は受けていないが、殆どの子供は早く卒業して仕事に就きたいと思うようだった。


 だが、街には彼等を受入れる場が少ない。薬師の見習いになりたくても受け入れ先からは断られてしまう。

「魔法が使えるような弟子に払える給金はとても出せません」

 と言われてしまうのだ。

「その内受け入れ先としての仕組みを考えなければ……」

 ソフィアの悩みは尽きなかった。


 錬金術士志望の卒業後は、貴族街へ行き、錬金魔導師に付くことになっているが、彼等にとって明るい貴族街は苦痛だろう。


「この遮光眼鏡を掛ければ目が眩まないわ。これから頑張ってね」

「はい! 先生」

 ソフィアは、心配で溜まらない。この度卒業が決まった彼女にはこの学校に教師として残ってもらう予定だったが、どうしてもと貴族に請われて、給金も弾むからと言われて、承諾してしまったのだ。


 ブルホでは、錬金術士になるのがやっとの魔力では、魔道師に付くことはなく、殆どが錬金術士や魔法兵に付くか、薬師の見習いになるしかなかった。

 だけど、ここにはまだ、地底人の魔法使いはいない。

 彼女にとってはある意味破格の待遇なのだが……。


 彼女は孤児ではなく、宿屋の娘だった。

名前はマリアという。

 親には反対されたが、本人がどうしても魔法使いになりたいと学校へ来たのだった。

 魔力はそれほど大きくはないが、真面目で勤勉だった。


 女子の場合は錬金術士か薬師として育てられている。

 男子は他に戦闘魔法兵という選択肢が加わる。

 魔力が大きい子供は魔道師という道も目指せるが今のところ魔法学校にはいない。

 

 孤児院に魔道師候補がいるが、三歳の男児と二歳の女児だ。まだ幼すぎて教育は暫く待たなければならないだろう。


 学校に通う生徒の卒業後は見習いとして数年過ごすことになるのだが、マリアは貴族街の錬金魔導師について見習いとなる事が決まった。

  ソフィアが卒業祝いとして作った、知識にアクセスできるモノクルをマリアに渡す。


 これの本体はソフィアが持っている宝玉だ。

 高価で重い本を持っていなくても、知識が欲しいときは何時でもソフィアが持っている知識の集積宝玉から知りたいことを引き出せるのだ。


 だが、汎用性の高い知識だけを入れ込んだソフィアの宝玉からは魔力がない物でもアクセスできる優れものだ。


 魔道師でなければ、神殿の魔水晶からは知識が得られない。

 知識が集積された宝玉はルシオが考え出した素晴らしい魔道具だった。

「彼は今でも何かしら生み出しているんでしょうね」


 マリアが卒業して数ヶ月経つ。今、彼女はどうしているだろう。

「一度会いに行ってみないと……」

 

 だが、錬金魔導師のところへ行っても門番に取り次いで貰えなかった。

「魔導師様は王宮へ出向いておられます」

 それから何度か行ったが何時も同じ答えだった。

 ――どうして?


 ソフィアは、認識阻害を掛けて錬金術士の屋敷に入ろうとしたが、結界が張られて先へは進めない。

 無理に結界を壊して忍び込めば大問題になるだろう。諦めるしかなかった。

「ルシオなら何とか探ってくれたかも知れないのに……」


 その内に次の卒業生が決まった。

 魔力が少ない子どもはそれ以上学んでも先はない。殆どの子供は三年学べば終わってしまうのだ。

 次の卒業生も女子だ。そして、また貴族に請われて、貴族街へ行くことになって仕舞った。


 ソフィアは、何度も引き留めたが、

「こんなにお給金が貰える職場はないです。私は行きたい」

 そう言われてしまった。ソフィアの思い過ごしかも知れないのに、これ以上は反対できなかった。


「嫌な感じだわ。何とか実情を知りたい」


 エンソ魔道師に相談したが、

「気にする必要はないのではないか? 君が心配しているのは彼女達が錬金魔導師の恋人になったかも、と言う事だろう。魔導師達には恋人を多く持つ者もいる。彼女等がそれで納得していればこちらからは何も言うことは出来ないのだ」


 男性と女性の感覚のズレなのか。それとも、女性を性の対象としか見ていない男性の意識がそうさせるのか。

 ソフィアは、納得できなかった。

「余りにも年の差がありすぎるわ」

 錬金魔導師は70歳になる高齢だ。魔道師はそれほど好色なのだろうか?

「そんな人には見えなかったのに……」


 魔道師は一般人とは男女間の問題に対して考が緩いのだ。ルシオはそんな中では異色なのだ。

 子供が出来ないと言う事は、家庭を持つという考が湧かないのだろうか?

 アレハンドロ魔導師街がいい例だ。

 ――だとしても、若い女の子を囲うのは違うと思うわ!


 仕方なくソフィアは、クリステルに助けを求めた。


「悪いが、今は抜け出せない、養い子が魔道師の選別を受ける時期だから。一応神殿長に相談して見るから。もう少しだけ待っていて貰えないか?」

「……ええ、分かったわ」


 そうこうしている間に次の卒業生が出てきた。


 今度の卒業生は十四歳の男の子だ。

 彼も、貴族街へ行くことが決まった。ソフィアは、

「心配のしすぎだったかしら?」

 錬金術士は純粋に指導するために受入れてくれていたようだと胸をなで下ろしたのだった。


 クリステルが、養い子を連れてきた。彼の養い子のうち二人は戦闘魔法兵見習いとしてエンソ魔道師に付くことが決まった。

「あとの一人は戦闘魔導師になれた。今、ルシオの新しい異空間で鍛えようと思っている」

「……新しい異空間?」


 ――そう言えば異空間にまた魔水晶が必要になったと言っていた。

 あの時はマリアのこともあって心ここにあらずで、録に話も聞かなかったソフィアだった。


「ああ、以前の異空間は妖精達の住処になっただろう? だから、ルシオは新しく作り直したんだ。素晴らしい異空間だよ」

「そう……見て見たいわ……でも無理ね私には」

「……切り替えてまた親しくすればいいじゃ無いか。以前の鍵がそのまま使えるそうだよ。親友として声を掛けてみれば?」

「……」


 ソフィアにはまだ気持ちの切り替えは出来ていない。ルシオに、二度と顔を見たくないと言われてしまったのだ。その事が心に重くのしかかっていた。


 ルシオが、ソフィアの押しつけがましい考えに辟易したのは分かっていた。だが、あれほど激昂したルシオは見たことがなかった。

「私は嫌われて仕舞ったのよ。いいえ、最初から好かれていなかったんだわ」


 クリステルには、見習い達の事は自分の考えすぎだったかもと話したが、彼は、

「そうか、だが、神殿長から調査するように言われている。ルシオにガルシアを一時預かってもらって、十日後にまたこちらへ来るから。君は心配しなくていいんだ」

「そう、ではお願いするわ」





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