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26 迷宮

「僕達からは何も受取らないそうだから、ガルシア、安心して。迷宮で取れた素材は君のものだ」

「……良いのですか? もらってしまっても」

「僕には必要無い物だと言っただろう。気にしないで使えば良い。君の異空間収納が出来るまで不便だろう? 見習いは指導者の言うことを素直に聞いていれば良いんだ」

「はい、そう言うことなら有り難く使わせて貰います!」


 ルシオはガルシアと魔力を通じてみた。

 だが、魔力の相性が合わなかったようで、魔力が通じ合わない。

 話をすれば盛り上がり、懐いてくるので、相性が良いのかと思っていたがそれと魔力の相性は違うらしかった。


「クリステルとはどうだった?」

「クリステル魔道師とは通じました。だから、以前迷宮に入ったときは、僕は殆ど魔物を倒していなかったのに少しだけ魔力が増えたんです」

「……そうか……僕とは魔力が合わないみたいだ。しかたがない。なるべく手は出さず、君に魔物を倒させるようにやってみよう」


 実はルシオは攻撃魔法を余り使えない。

 理論は知っている。本で昔読み込んでいたのだが、使う機会は殆ど無かった。精々が「風の刃」「豪炎」「飛行魔法」に「雷撃」程度だ。


 ルシオは錬金術ばかりしていたため、戦闘魔導師の知識を実戦しようとせず、不便も感じなかったのだ。

 近頃は剣術の修行もサボりがちだった。

 不安は残るが、取り敢えず、ガルシアに危険が及ばないようには出来る。

 結界で囲ってしまえば良い。と簡単に考えていた。


 ガルシアが以前入った迷宮とは別の迷宮へ潜る事になった。

 以前クリステルとガルシアが入った迷宮は、セレステに聞くとレベルが中級の迷宮だそうだ。一番レベルが低いと思われる迷宮にはいることに決めた。

 まだここに来ている一般の魔道師や魔法使い達はいない。

 迷宮島へ他の者達が来るには暫く時間が掛かるという。

 今迷宮に潜っているのはセレステ魔道師達や管理を任された魔導師達だ。

 迷宮の危険度や取れる素材の調査をしているらしい。


 ガルシアだけに魔物を倒させるには彼の魔力の問題があった。魔法だけで倒すとなれば、魔力が持たない。

 普通、戦闘魔導師は宝玉が付いた二メートル弱の杖を持っている。

 魔力の出力が上がり魔法の効率も良くするためだ。

 杖は堅い素材で作られていて、万が一のときは杖で魔物を突い足り叩いたりして倒す事もするが、ガルシアには筋力が足りなかった。

 棒術や剣術も習っていたというので、ルシオは以前使って居た自分の剣をガルシアに持たせることにした。

 魔力効率を開けるための宝玉は指輪に作り直して与える。

 剣があれば、魔力を使わず倒せる魔物は剣で倒せば良い。剣なら、杖よりは、攻撃の威力が上がる。

 魔素吸収バックルを工夫し、効率の良いものに変えた。

 

 ルシオは二人分の結界を張って、彼の魔力をなるべく温存させる方向で手伝う事にする。


 迷宮の入り口は洞窟だったが、一階層を抜けると石畳に変わり、一階層は真っ直ぐ続く一本道だった。

 時々壁から魔物が染み出てくる。ダンゴムシだ。

「この迷宮は虫が出るのか……僕がブルホで入った火の迷宮と似ている」

「クリステル魔道師にも聞いたんですが、つい十数年前までブルホにも迷宮があったなんて、考えられないです」

「あの迷宮に出てくる魔物には、悪意があったが、ここの魔物にはそれがないな……」

 ――流石、神が造った迷宮だ。

「あ、それ、クリステル魔道師も言ってました」


 浅い階層の魔物は武器で倒すようにガルシアには言ってある。何しろ一人で魔物を倒しているのだ。魔力をなるべく使わないようにするためだ。

 五階層を抜ける頃から、段々魔物を倒すのに手こずるようになってきた。

 攻撃はされても、ルシオの結界に阻まれるため、怪我は無いが、魔物が堅くなり、剣の攻撃だけでは倒せなくなってきた。

 そして、ガルシアの体力がおぼつかない。

 身体が華奢なせいで体力自体が無いのだ。


「仕方が無いな。今度からは魔法も使っていくか」

「はい」


 十階層のボスを倒した頃魔力が底をついたようだ。

 ルシオは先の階層の入り口に転位陣を敷く。この迷宮はボス部屋からは転移で帰る事が出来るが、再び迷宮へ潜るときには、また初めの階層からになると言う。

 ――神様が造った迷宮は片手落ちではないのかな? 


 帰還の転位陣があるんだ。どうせならボスを倒したらその次の階層から進めるようにもう一手間掛けて貰いたかった。


 時間のロスをなくす為、ルシオはボス部屋の前に転位陣を敷いた。

 なるべく早く最奥へ行って、ボスの周回をしたい。そうすれば効率よくガルシアの魔力上がるだろうと思っている。


「今日はここまでだな」

「……はい、魔力も体力も無くなりました」

 ガルシアは思いのほか魔力が少なかった。

 ――いや、普通はこんなものなのだ。ルシオやクリステルが特殊なだけだ。

 そう思い直し、一計を案じたルシオは、ガルシアに魔力操作をもう一度やるように勧めた。

「魔力操作をやっても魔力が増える。魔法の効率も上がるし、頑張ってみなか?」

「はい、なんでもやります。教えて下さい」


 それからは、昼に迷宮から帰って少し休み、魔力が回復したら、魔力操作をして就寝すると言うサイクルが出来上がった。

 五日後、迷宮の最奥三十階層に辿り付き、ボス部屋の扉の前に三つめの転位陣を敷くことが出来た。

 今日からボス部屋の周回をする。

 そうすれば魔力が効率よく増えるはずだ。雑魚を幾ら倒しても全く意味が無いのだ。


 最奥のボスは、日によって替わる。

 初めはカマキリのデカい奴だった。大きな鎌を振り回し、首を刈り取ろうとしてくるが、ルシオの結界に阻まれて、押し返されている。


「ルシオ魔道師の結界はいつ見ても凄いです。普通は攻撃を何度かされたら消えて仕舞うそうですよ」

「こういうのは得意だからな、僕は。戦闘はあまり経験が無いけどね」


 カマキリの魔物が、ルシオの結界に何度も斬りかかっている内に片方の鎌がポキリと折れて仕舞う。

「ガルシア、土の槍で上から地面に縫い止めることが出来るか?」

「やってみます」

 見事に地面に縫い止められて動けなくなったところを、ガルシアはちまちまと剣で攻撃し、なんとか倒す事が出来た。

 その間ルシオは見ているだけだ。

「フーッ、やっと倒せました」

「お、宝箱が出た。開けてみて」


 中に金貨が20枚入っていた。見たことも無い金貨だ。過去に栄えた文明のものかも知れない。

 他にも、カマキリの素材の鎌と魔水晶が落ちている。

「金貨はガルシアが持っていれば良い。他の素材はかさばるから僕が預かるよ。君が地下都市へ帰るとき渡すから」

「……はい、助かります」


 戦闘魔導師は魔物素材が取れなければ、生活がカツカツだろう。

 地下都市ではどんな仕事をするか分からないが、彼処には魔物は居ない。

 戦闘魔導師は、錬金魔導師や神官魔導師とは、収入の面で格段に落ちるのだから。


 少しだけ休み、ガルシアの魔力が回復した頃もう一度ボス部屋に入ったが、今度は蛾だった。

「鱗粉に毒がある。神経毒だな。結界は張ったままにしてあるから大丈夫だ。ここから火魔法の豪炎を放て!」

「はい」


 だが、もたもたしている間に、蛾がバタバタと羽ばたき、鱗粉が結界に張り付き前が見えなくなってしまった。

 何処に魔物がいるか分からないため目鞍めっぽうに魔法を放ったため、ガルシアの魔力が底をつく。

 まだ魔物は倒せていない。仕方が無いのでルシオが、最大出力の豪炎を部屋一杯に放つ。


 魔物は消え、鱗粉も消えて仕舞った。

 宝箱には見たことがある、グサノデセダの繭が入っていた。これは高級絹糸が取れる素材だ。良い金になる。

 それらも収納に入れその日は屋敷に帰った。


 同じ迷宮のボス部屋を10日入ってガルシアの魔力も少し大きくなったようだ。だが、まだまだ足りない。

 もう少しだけ大きくなるのを待ちたい。


「今度は中級クラスの迷宮へ行くか?」

「僕だけでは難しいと思います」

 ――クリステルなら、ガルシアと魔力が通じ合えるのに、ルシオでは彼の力になるのには力不足だった。


「じゃあ、同じような低級の迷宮に入るか?」

 ガルシアが取った素材は結構な量になったが、素材が同じものばかりで面白みがないだろう。

 セレステ魔道師に聞いて見れば、簡単な迷宮を教えてくれるはずだ。


 ルシオはガルシアの戦いを見て居て思うところがあった。

 魔法の使い方には拙いところがあったものの、戦闘の訓練は積んでいるだけはある。

 今のルシオでは、魔力を使わない戦いでは、ガルシアにも叶わないだろう。

「クリステルに、僕も鍛えてもらった方が良さそうだ」


 それから一ヶ月間、クリステルの任務が終わるまで、ルシオ達は迷宮を回り続けた。


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