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25 大地の亀裂

「この大きな裂け目、怖いくらいですね」

 大地の裂け目、深く亀裂が入り、山脈から流れてきた水が滝となって流れ落ちている。滝と言うには余りにも規模が大きい、所謂「瀑布」と言う奴だ。

 ゴーゴーと音を立て水煙も待っていて、虹が出来ていた。今は季節は初夏だ。山脈からの雪解け水で、水量が半端ない。


「この渓谷をゆっくり南下して魔素が湧き出す場所がないか探す。もし見付からなければ、今度はあの山へ行って探してみることにする。ガルシア、いいかい?」

「勿論です。何処までも付き合います」


 渓谷は狭いところでは幅一キロ広いところでは二十キロにも及んでいた。深さは場所によってまちまちだが、大体一キロ前後と言うところだった。

 切り立った崖と言うか亀裂は一つではなく平行して何本かあるようだ。

 その切り立った崖が南を目指して何処までも続いている。海まで続いているようだった。まるで巨大な斧で割られたような、若しくは無理矢理引き裂かれてような場所だった。

 対岸は獣人が住む西の土地だ。深い森が広く分布している。

 東側は荒涼とした土地が続いていて、全く違う環境だった。穢れた魔素によるものだろう。


「大地溝帯。確かそう言う場所が前世でもあったな。ケニアだったか? それよりは規模が小さいかも知れないが。とてつもない環境だな」

「え? 何か言いましたか?」

「いや、何でも無い……渓谷に入って、崖に沿って飛んでみよう」


 フライトモービルで渓谷に入り、南へと進みながら崖の様子を見ながら飛んでいった。

 崖の切り立った場所には所々大きな穴が開いてそこからも水が滝となって流れ落ちていた。

 遙か下の方には河となって悠々と流れていた。


「何だかここ魔素が大きくなったり消えたりしています。何故?」

「あの滝だ! 多分あの細い滝から魔素を含んだ水が流れ出しているに違いない」

 魔法陣が描かれたルシオの目に、魔素の流がハッキリと写って見えた。


 高いところから落ちてくる水は途中で霧となって霧消している。あの水が風によって流されて魔素が濃く感じる場所と薄い場所が出来ていたようだ。

「見付けたぞ! あの滝の源を辿ってみよう」

「はい!」


 地上から二百メートルの所から滝は流れ落ちていた。崖の底からは一キロ上と言うことになる。

 とても細い滝だ。滝の出口はやはり洞窟になっている。洞窟の中にフライトモービルでそのまま入って行く。暗がりでも目が利くガルシアに先導して貰った。


 三十分ほどして行き止まりになった。

 浅い綺麗な地価の湖。壁からは絶えず水が流れてきていた。


「魔素が綺麗だ。大地の中を通って浄化された魔素を含んだ水が流れてきているようだ」

「ここなら、妖精達の異空間を造っても良さそうですね」


 異空間へ入りアダ王を連れてくる。

「もう見付かったのか? ここか」

「壁が脆いようですが、異空間同士で行き来が出来るのだから、いいのでは? ここなら人族が来る事は無いはずです。どうでしょうか?」

「うむ、まあ良いだろう。他にも良い場所が見付かったらまた作るのでな。取り敢えずは合格点だ」

「……はい」


 苦労して見付けたのに、アダ王に取っては不満が残る場所だったようだ。だけど、当分は探して回れない。これからはガルシアのレベル上げに付き合うのだから。

 この場所に転位陣を敷いておく。


 ルシオはもう一度だけ周りを確認することにした。

 ――若しかしたらこの近くにまだ在るかも知れない。

 フライトモービルで上空高く飛び上がった。

「ルシオさんどうしたんですか?」

 ガルシアが後から慌てて付いてきた。


「何となく気になったんだ。この近くにまだ何かありそうな気がして……」


 上空から大地溝帯を鑑定を使って魔素の流を観察してみると、亀裂と亀裂の間に細長く離れ小島のような大きな土地が浮かんで見える。両側は深い渓谷に囲まれて居る。上から見ると大きなバナナのような形の土地だ。


 その中心が魔素が特別濃いことが分かった。

「降りて見よう」

降りて見ると結構広い大地だ。ここからは何処にも征く事が出来ないように東西の大地から切り離されてはいるが魔素の穢れはなく。豊かな森に被われた素晴らしい土地だ。

 ブルホの領地ほどは有るのではないだろうか。

 魔物は居ないが獣が結構いた。そして、トカゲのような生きものが崖を登ったり降りたりしている。

「彼等は魔物の反応はない。動物なのか?」

「何となく僕達地底人に似ています」

 言われてみれば、体表以外は背格好や体格など、ひょろりとしているところが似ている。

「獣人族なのかも知れない。トカゲに近い種属かも」


 魔素が濃い場所に降りて見ると、直径三十メートルほどの水たまりがあった。

 水は澄んでいて、水の中に先ほどのトカゲに似た生きものが泳いでいる。

「結構深くまで潜っているみたいだ」

 フライトモービルを仕舞い、認識阻害を掛けて暫く彼等を観察してみる事にした。


 彼等はここには住んでいないようだ。

 そして彼等には魔力があった。水属性に特化している。

 ――地の民のように、生まれつきのものかも知れない。と言うことは元は妖精なのか?

 水から上がった彼等は二足歩行をしていた。


 取り敢えず、この事を神殿長と相談した後で、一度彼等と接触してみなければならない。

 この場所に転位陣を敷き、日を改めてもう一度来てみることにした。


「もうそろそろ魔水晶が浄化されたな。取ってくるか」

 ソフィアの異空間へ行き浄化された魔水晶を総て引き上げ、ソフィアに連絡を取った。


「ソフィア、魔水晶の浄化は終わった、今まで不便を掛けて済まなかった。当分は大丈夫なほど魔水晶を作ったから……」

「そう……何時でも使って貰って良かったのに。でも、そうね暫くは大丈夫なら私の異空間は当分必要無いわよね。じゃぁ、ルシオ元気で」

「ああ、君も……」

 

 あっさりしたものだった。ソフィアの素っ気ない態度に少しだけ傷ついたルシオだった。

 

 二つ目の異空間に魔水晶を沈めれば、妖精達の新たな住処になる。

 総ての湖に魔水晶を沈めていく。ロボやバーリョ達も連れて行って暫く彼等を自由にさせておいた。

 広々とした草原を思い切り走り回ってさっぱりしたようだ。


「やはり島はここほど広くないものな」

 ロボは、獣がいないのを不思議そうに見ている。ここには植物しかない。妖精達が移住したら獣をどうすれば良いのだろう。

 また一つ問題が頭の中に渦巻くルシオだった。


「さあ、ガルシア。迷宮へ行って鍛えるぞ!」

「もう良いんですか? 山脈へも行ってみませんか?」

「いや、先に君のレベル上げが必要だ。君は地下都市へ帰るんだろう?」

「……僕はまだ帰らないほうが良いんです。暫くルシオさんの元にいさせて貰えませんか?」

「いたければ何時までもいて構わないさ。だけど、離ればなれになった婚約者に、魔導師になった今の君を見せたくないのか?」

「会わないって言ったでしょう。彼女が結婚した頃帰った方が良いんです。僕は」

「……そうだったな。余計なことを言った」


 迷宮には管理者が来ていた。戦闘魔導師がここの管理をするそうだ。そして錬金魔導師が転位陣の係だそうだ。

 その錬金魔導師はセレステだった。彼のパートナーと一緒に転位陣を動かすという。


「複数人で魔力を注げば転位陣を動かせることが出来る事が分かったのです。神官が足りなくて困っていましたが、これからは戦闘魔導師でも錬金魔導師でも転位陣を動かせるようになりました」

 セレステが発見した事実らしい。魔力の型が合えば、出来るのだという。


「魔力の型? そんなのがあったなんて知らなかったよ」

「型というか……相性みたいなものです。ほら、倒した魔物の魔力の譲渡をするために魔力を交わし合って迷宮に入る事が以前あったでしょう? アレには合う人と合わない人があったんです。それで、もしやと思って試してみたら、発見したと言うわけです」


 そう言えば、ルシオが初めて迷宮へ入ったとき、戦闘魔導師のルーカスとレオに魔力を通された。結局ルーカスとの相性が良いと言われ、彼の後に着いていったのだった。

 ルーカスが倒した魔物の魔力をルシオに入るようになるのだと言われた記憶があった。


 ――ガルシオを鍛えるとき、魔力を流せば僕が倒した分も彼に譲渡出来る。魔力の相性が良かったなら、だが。


「セレステ魔道師は凄いな。随分研究したんだね」

「私の趣味みたいなものですからね。ただ相性がいい人を探すのは至難の業ですよ。私はパートナーとの相性が良いことは以前から知っていましたので」

 

 「僕達は明日から迷宮を探索するけど、何か決まり事はある?」

「決まり事はありますけど、ルシオ魔道師には適用されませんよ。当然でしょう。ここはルシオ魔道師の異空間なんだから」

「兎に角決まり事は教えておいて欲しい。戦闘魔導師の見習いを連れていくんだ」

「そうでしたか。ではこの小冊子に書かれています。どうぞ」

 小冊子には、

・魔物のドロップした物は必ず申告すること。

・ドロップした物の五十パーセントは管理人に差し出すこと。

・問題を起こしたものはペナルティーが付く。三度のペナルティーが付けば二度と迷宮へは入れなくなること。

・見習いは付き添いの魔道師に全権を委ねる事。

 等と書かれていた。


「連れている見習いが倒した魔物の素材は、どうなるの?」

「ここに来るためには多額の転移費用か掛かります。付き添いがその金を払いますので、その補填に充てられます」

 そうだった。転移は金が掛かるのだった。

「採算が取れれば良いけど」

「大丈夫です。この間ミゲル魔導師が持ってきた素材は普通の魔物素材よりも質が高かったようです。十分元は取れる仕組みになってます」


 見習いが迷宮に来る目的がレベル上げだ。

 レベルが上がれば見習いを卒業でき、自分で迷宮に来る事が出来る。そうなれば楽に金を稼げるようになるのだという。


「そうか、なら良いか。ところで最奥に入ればボスが宝箱を落すことは連絡が行っているか?」

「はい、クリステル魔道師から既に話が入っています。宝箱の中身についてはまだ詳しい事が分かっていないようですのでこれから私達が実際に迷宮に潜り、どのような物があるか調べます。それを見てから、話を詰めていくようです」


「今回の分はどうだ? もし宝箱が出たら、どうすれば良い?」

「他の素材と同じ扱いになると思います。管理人に申告してもらい、後は本人が欲しければ、半額の金額で取引という形に収まると思います」

「……そうか。では、この間宝箱から魔法鞄が出たらしい。これを差し出すよ」

 ルシオは自分で魔法鞄が作れる。態々迷宮産の鞄を、金を払ってまで使う必要は無いと考えた。


「いえ、ルシオさんからはもらわないです! 貰えません! 私が言ったのは一般の魔道師に対しての取り決めです! ルシオ魔道師の見習いからも貰えないです! 寧ろこちらから使用料を支払わなければならない位なんです。今神殿ではその話合いが行われているんですから! もう、勘弁してください。本当にもらえませんから!」


「……そ、そうか。分かった」

 セレステ魔道師の必死の訴えにタジタジとなるルシオだった。



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