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24 迷宮探索

「まだ、数日だけど時間が残っている。ルシオも一緒に迷宮へ入らないか?」

 クリステルが、ガルシアを迷宮へ連れて行くと言う。

 ルシオも一緒に行こうと誘われたが、

「いや、僕は何時でもいけるし、僕では足手纏いになる。君達だけで行ってきて」

「そうか? その間、君はなにをしている?」

「ツォアルまで行こうと思っている。毎晩異空間へは戻るけど、用事があったら、遠慮せずに連絡をくれ。異空間に戻るから」


 ガルシアは転移が出来ない。転移するには魔力が足りない。

 転位陣を作れる魔道士は少ない。そして、転位出来る魔道師もそれほど多くはない。 転移は魔力を多く使う。

 神官魔導師並みの魔力が無いと転移は難しいのだ。

 ルシオの周りにいる魔道師が全員転位出来るので忘れがちだったが……。


 ルシオは地の民の国スブムンドへ転移し、そこからツォアルを目指す。その方が近道だ。


 スブムンドに定着した異空間へ入ってみると、妖精が非常に増えていた。

 精霊樹がもう妖精達を生み出したようだ。

 精霊樹自体も巨大になっていた。精霊樹の周りでエルフ達がアルマを注いでいる。


「久し振り。精霊樹凄く大きくなったね」

「あ、ルシオさん! ルシオさんのお陰です。貴方の身体のアルマが良い養分になった様です」


 ルシオの身体が養分になったと聞いて、喜べば良いのかどうなのか反応に困った。

「そうか? それは良かったね……」


 農場も活用しているようだ。農場から採れる作物から地の民は、大量のアルコールを造っている。

 地の民が走ってきて、ルシオにアルコールが入った樽を数個押し付けてくる。

「おいら達の酒を呑んでみなせぇ。一度呑んだらやみつきになるぞ」


「あ、ありがとう。良いのかい? 君達の分がなくなって仕舞わないか?」

「タップリ造ったから大丈夫だ。さぁ持ってけ持ってけ!」


 ルシオ達が作った農場では、穀物や根菜を大量に作っているそうだ。

 それらを酒に加工している。今まで少しだけしか出来なかったが、これからは、酒は飲み放題になりそうだと喜んでいる。

 ――中毒にならないように気を付けて呑んで欲しい。


「だったら、ペニーニョ島との取引に使えそうだね」

「……酒が?」

「そうだよ、だから熟成させて質の良いものになるように工夫した方が良い」


 献上された酒を有り難く頂く。異空間収納にいれ、これから探索に出るからと行ってスブムンドを出ることにした。


 スブムンドの洞窟を出て北の空をフライトモービルで飛ぶ。

 疲れれば異空間で休みまた次の日も空を飛ぶ。

「ツォアルに着いたら転位陣を敷いておくか」


 三日ほどでツォアルに着いた。

 やはり其処には魔物がいた。そして鬼人に変化して仕舞った人族の村がある。

「ここにはもう人族はいなくなってしまったのだろうか」


 鬼人族の村を認識阻害を掛けて覗いてみる。

 彼等は、もう人とは言えないほど魔物化が進んでいた。言葉も殆ど話していない。

 簡単なジェスチャー『Yesとno』だけしか意思の疎通ができていないようだった。


 鬼人達は原始人のような暮らしぶりで、魔物のように気が荒く、絶えず縄張り争いをして殺し合っているようだった。過去人間だったとはとても思えない変わりようだった。

「ここの国は崩壊していたんだな……人間性まで崩壊している」


 東沿岸部にいた鬼人達や魔法使い達はこれほどでは無かった。

 ルバレロが、農地をいち早く作り出し、住民達を守っていたのだと今更ながら感じ入った。

 穢れた魔素から住民達を守り抜いた彼の功績は計り知れない。


 ルシオは山脈に沿って南へ進んでいく。途中でクリステルから連絡が入った。

『私はこれから南の地下都市へ行く。ガルシアを頼む」

「了解」

 丁度良い岩陰を探し出し簡易転位陣を敷く。そして異空間へ入った。

 クリステルは、既にブルホへ行ってしまいガルシアだけが迷宮島に残っていた。

 ルシオは、彼を連れて屋敷へ転移した。


「ガルシア、迷宮はどうだった?」

「七日掛けて最下層まで行った。攻略はしたんだけど、こんなのが出たんだ。クリステル魔道師からルシオに渡せって言われた」

 ガルシア達が潜った迷宮は四十階層あったそうだ。最後のボスを倒して宝箱が出てきたという。

 以前ブルホにあった迷宮ではその様なことは無かった。初めてのことでクリステルは、困惑したのだろう。


 宝箱から出たのは魔法鞄らしい。無骨な作りの時代がかった作りの鞄だった。ガルシアはその他にも迷宮でドロップした魔水晶や素材を差し出してきたのだ。


「これはすべて君達のものだ。取っておけば良い。 僕には必要無い物だ」

「クリステル魔道師が言うには、これらはルシオ魔道師に受取ってもらうようにしなければならないって言ってました。ルシオ魔道師の善意で、僕達が異空間を使わせて貰っているからって」


 また面倒なことになった、とルシオは思った。

 こう言う事は神殿で管理してどうにかしてもらいたい。今はまだ体制が出来ていないから仕方が無いが。


「ガルシア、今は持って行きなさい。神殿が管理するようになれば変わるだろうが……僕には必要無い物なんだ。君が要らないようなら、クリステルにやれば良い」

「……はい」


 魔法鞄が欲しいと、遠慮しながらガルシアは言った。

 彼には以前魔法袋を与えていたが、魔法袋には、フライトモービルや私物が沢山入っている。魔物を倒している内に容量が足りなくなったそうだ。

「君は異空間収納をまだ作っていないのか?」

「はい、クリステル魔道師から、もっと魔力を増やしてから作った方が良いと言われましたので、まだ作っていません」

「確かにその通りだな。この探索が終わったら、僕も迷宮には言って君の手助けをしよう」

「あ、ありがとうございます!」


 次の日からはガルシアと一緒に探索に出かけることにした。

 彼のために作っておいた遮光グラスは、新たにuvカットを施した。

「ルシオ魔道師! この眼鏡凄く良いです! 目が痛くないです」

「そうか、良かった。無理に太陽に目を晒さない方が良いぞ。下手をすれば失明してしまうからな」

「……そうなんですか? 知らなかった……」


 フライトモービルでゆっくり低空飛行しながら進んで行く。地上の広い範囲を蛇行しながら、時間を掛けて魔素の濃い部分を探し永らの探索だ。一日四十キロ進むのがやっとだった。

 山脈の南端までは、一週間はかかるだろう。


 ここを以前ソフィアと二人で通り抜けた事を思い出す。あの時はハイスピードで先を目指すだけだった。

 ――これほどじっくり見てはいなかったな。


「ここにも国があったんだな。大きな街の痕跡がある」

「古代遺跡って奴ですか?」

「降りて見るか」

 地図で確認すると、地の民が教えてくれた国の名前がある場所だった。


「ここは、スタビアエという国だったらしいな」

「この地図を見ると更に南にはトロアという国があるとなっていますね」


 大きな街だったであろう場所には建物のの土台が残るのみだ。道路だった石畳の所々は残っているが後は干からびた草に被われてしまっていた。

 やはりここにも魔物がいる。結界を張っているルシオは魔物を相手にしなかったが、ガルシアは違う。

 積極的に魔物を倒している。魔力を増やすためなのだろう。


「クリステル魔道師に言われたんです。魔物を倒せば魔力が増えるって」

「そうだったな。でも十分倒したろう。もうそろそろ行くか。ここには穢れた魔素しかないようだ」


 もしまだトロア国が残っていたら、妖精達の飛び地にはここは適さないのではないだろうか。

 気候が温暖であれば、まだ人族が住み着いているはずだ。魔物化していなければだが。


 一日探索を続け異空間へ入ると、獣人が食事の支度をしてくれている。

「お帰りなさい。もう直ぐ夕食が出来ますので、温泉でさっぱりしてきて下さい」

 屋敷を取り仕切っているのは、猫獣人の家族だ。

 彼等は、今、屋敷に泊まり込んでいる。他の獣人達は隣の島に住んでいて、フライトモービルで各島を回り食糧を集めてきたり加工したりしている。

 短い期間で、すっかり村が出来上がってしまっていた。


 迷宮に魔導師達が来れば彼等はこの食糧を売る事が出来るようになる。しかしそれには問題があった。獣人達には通貨がない。商売は物々交換で成り立っているし他にも課題がある。

 ――結界をどうにかしないと……。

 だがどうすれば良いのか、ルシオはまだ決めかねていた。


 墓の魔導師達に、異空間を自由に行き来させたくは無かったし、獣人に危害を加えられる恐れもあるのだ。

 ペニーニョの人にとって、獣人は余りにも珍しい種属なのだから。


 食事が出来たと声を掛けてきたのは年若い女性の猫獣人だった。

 獣人達は皆、上半身裸だ。目のやり場に困っている、年頃のガルシアは顔が真っ赤になっている。

 ――彼等に服を着せた方が良いだろうか?


 風呂から上がり獣人達が用意してくれた食事を取りその日は就寝した。

 就寝前に、ガルシアの魔力がどれくらい大きくなったか鑑定を掛けてみたが、ごく僅かしか増えていなかった。


 魔物を倒して増える魔力は極僅かだ。数千匹の魔物を倒してやっと少し増える程度なのだ。

 ルシオ自身は魔物を倒した経験は少なかった。殆ど結界を張って避けることしかしていない。


「ガルシアの魔力を増やすには、魔力を多く持っている魔物を倒した方が効率が良いのでは?」

 その為に葉迷宮の最奥に潜って何度もボスを倒す必要がある。

「転移で直接いけるか? ボス部屋を周回できれば効率が良いのだが……」

 この探索が終わったら、本腰を入れて迷宮に潜る必要がありそうだ。ガルシアのために一肌脱ぐ気持ちになっているルシオだった。


 次の日からも探索は続いた。

 元、トロア国が在った場所に到着したが、ここでも魔物が跋扈し、人族は鬼人に変わっていた。


 東の方にはグランデ大陸を東西に分断する、もう一つの山脈が遠くに聳えている。

「あの先にはルバレロの街があったはずだ。今どうしているのか」

「ルバレロというのは誰ですか?」

【農場を開発した魔法使いだ。凄い人だよ、今度会いに行くか?」

「はい」

 

 これ以上南へ行っても無駄だとルシオは諦めようとしていた。清浄な魔素が沸く場所はもう無いのではないか。

 取り敢えず、前回も行った大陸を東西に分断する渓谷へ行き、その周辺を探索して見ることにした。

 

 ――もし、何も見付からなければ、今度は山脈の南端を隈なく見るしか無さそうだ。


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