23 新たな飛び地
「ソフィア、久し振り」
「……あ、ああ、ルシオ、何かあったの?」
「実は……」
――三年ぶり、いやもっとだな。
通信のホログラムでみるソフィアは心なしかやつれていた。
彼女に異空間のことを話し、魔水晶の浄化の為にソフィアの異空間を使わせて欲しいと頼み込んだ。
「何時でも使って。私は絶対異空間には入らないから……安心して」
「……そんな……あの時は酷いことを言って済まなかった、その……君の異空間を使わせて貰うよ。困ったことがあったら助けになるから、何時でも言って欲しい」
「ありがとうルシオ」
ソフィアの異空間へ行き、以前ご先祖様が作ってくれたような巨大な魔水晶を、数百本作り上げた。
これからまた魔水晶が必要になるかも知れない。ルシオがここにいる限りソフィアは、異空間に入ってこられないだろう。彼女に不便を強いることになる。
一度に多めに用意して、これ以上ここに来ないようにしようと、ルシオは考えたのだ。
海辺に浸し、魔水晶の浄化をしておく。
「チョット大きく作りすぎたかな。まあ数ヶ月待てば浄化出来るだろう」
ソフィアに数ヶ月語にまた異空間に来るから、君は異空間に来ても大丈夫だと連絡した。
その時もソフィアは、言葉少なに「分かったわ」と言っただけだった。それきり、ソフィアからは連絡はしてこなかった。
「やはり赦してはくれないんな」
アダ王はやはりルシオの異空間に入り浸っている。彼は屋敷の温泉をいたく気に入って仕舞った。
「スブムンドの温泉より心地良いぞここは」
「そうですかね? 彼処の方が広くて良さそうですが」
「それはそうだが、余りにも開け放たれて落ち着かなくてな」
――確かに、周りから丸見えだものな彼処は。
「囲いでも作ればどうですか? そうすれば落ち着くでしょう」
「まあ、その内にな。今はここで間に合っておるし」
――へいへい、そうですか、そうですか。この分だと暫くは帰りそうにないな。
「そろそろ、ツォアル周辺の探索をしようと思うのですが、あの辺りに魔素が湧いていれば、新しい異空間を定着できます」
「スブムンドや精霊の国に近すぎる。もっと離れた場所でないと、何かあったときは共倒れになる」
そうか、今度はもっと南を探す必要がありそうだ。東は人族や鬼人続が多くいる。
これから益々人口が増えていくことだろう。東は候補から外すしかない。
西の獣人が住む地は魔素が薄すぎてダメだ。また、土地を探して歩き回らなければいけなくなった。
そう言えば山脈の南に大地の裂け目があった。西側は魔素が薄いけれど東側は魔素が濃かった。聖地からかなり離れていたのに。彼処に魔素が湧く場所があったのだろうか?
「ツォアル探索の後、山脈に沿って南下しましょう。心当たりがあります」
「うむ、よろしく頼む」
ルシオはまず、聖地へ行くことにした。聖地の浄化の具合を見るためだ。あれから七年以上経つ。どうなっただろう。
「クリステル、聖地へ行くんだけど、君も一緒に行ってみないか?」
「今は無理だ。二,三日したら現地で合流しよう」
彼の養い子の魔道師の選別があるそうだ。
「もうそんなに成長したのか。彼等は魔道師に成れそうか?」
「何とも言えない……戦闘魔導師に成れるギリギリという感じだな。だが、魔法兵としては優秀だろう。彼等は選別が終われば地底都市へ帰るそうだ。そうなれば私にも時間が取れる。君の探索に付き合うよ」
「ああ、じゃぁ聖地で暫く待つよ」
聖地は浄化されつつあったが、やはり人が住むには魔素が穢れすぎている。
浄化するための魔水晶が三本あった筈が、始めに設置した魔水晶二本が壊れて粉々になっていた。
――数百年持つ魔水晶がたった数年でこうなって仕舞うのか……。
「もう一度魔水晶を設置し直さなければダメだな。今度はもっと大きくしておくか」
以前よりは穢れが少なくなっている。今度はもう少し長く持ってくれるはずだ。
ルシオは、穢れた魔素の水を利用して、巨大な魔水晶を二本作り出した。浄化の魔法陣を描き設置する。これでまた浄化が加速されるはずだ。
薄ピンク色だった湖の水は透明に近くなった。だが所々濃いピンク色になっている部分もあるのだ。
湖の底の土に多く魔素が染み込んでいた場所だろう。
「まだ時間は掛かりそうだな」
湖の周りの森はかなり広がっていた。あの森には魔物がいるはずだ。
植物も魔物も浄化の助けになっているのだ。植物が取り込んだ濃い魔素は、植物によって分解され、魔物がそれを食べ更に体内で分解されていく。そうやってゆっくり浄化しているのだ。敢えて魔物を狩る必要も無い。
湖からあふれ出した水は川となって流れ出している。川の水も以前と比べれば浄化されてはいるが、人が飲めるようなものでは無い。まだまだ危険だ。
聖地の上空に飛び上がって周りを見るが、砂漠はそのままだった。この砂漠は今後、災害以前のような豊かな土地になるのだろうか?
ルシオが生きている間に復活した姿を見ることは叶わないだろう。
クリステルが造った神殿へ入って中を見てみる。素晴らしく手の込んだ作りだった。
だが、折角の立派な神殿も誰も居なければ廃墟のような趣に感じるものだ。
神殿の祭壇の裏に、転位陣がある小部屋がある。そろそろクリステルが来る頃だ。
ルシオは祭壇の前で神殿を眺めながら、クリステルを待っていた。
転移してきたのはクリステルと養い子のガルシアだった。
「おや、ガルシアも来たのか。地底都市に帰ったのではなかったのか?」
「帰ろうとしたんですが……その」
「ガルシアはルシオの新しい異空間に出来た迷宮を是非攻略したいそうだ。ああ、ガルシア戦闘魔導師……見習いだな」
そうクリステルは言ってガルシアを誇らしそうに見た。
ルシオの異空間に神が作り出した迷宮は、まだ整備されていない。受け入れ体制が出来ていないため公開はされていなかった。
ガルシアは、クリステルから話を聞き、整備された後制限が掛かるのを恐れて、今のうちに自由に見たかったのだろう。
「やったな、とうとう魔道師か」
彼の目にはクリステルと同じ戦闘魔道師の証の赤い魔法陣があった。
クリステルは湖の様子を見て、魔水晶が新たに設置されていたのに気が付いた。
「アレは? 以前と違う魔水晶ようだが」
「以前のは、壊れていたから新しく作り直した」
「……壊れたのか! 魔水晶が……そうか。随分浄化が進んでいるが、まだまだ掛かるな」
「そうだね」
「ルシオ、見習いとなったガルシアを暫く預かって貰えないか」
「え、構わないけど、僕は戦闘魔導師の経験が無いから指導は出来ないよ」
「良いんだ、神殿の依頼が終わったら私が指導するから。少しの間だけだ。ガルシアを君の異空間に住まわせてくれ」
「ガルシア、僕の異空間は明るすぎて苦しくないかい?」
「僕……目の強化をしたいんです。鍛えれば光に耐えられるようになれる気がして……」
「かえって目を悪くするよ。まあ、君に丁度良い眼鏡かコンタクトレンズを造ってやれるかも知れない。歓迎するよガルシア」
他の二人の養い子は魔道師には成れず、南の地下都市に出来た神殿で警護の魔法兵として働くそうだ。
クリステルは、南の地下都市を回り魔導師達の行動を密かに監視するのだそうだ。
――何かあったのだろうか?
ルシオの異空間に入り、森の中にある屋敷を案内する。
「ルシオさん、この森なら苦しくないです。クリステル魔道師の森と似ています!」
「ああ、そうなるように考えて造ったからね。屋敷もクリステルの異空間を参考にしたんだ。転位陣は設置した。以前の鍵で入れるから」
「良いのか? 暫く誰も来ない所でゆっくりしたくないのか?」
「もうそれは諦めた。既に先客がいるしね」
「……? 先客?」
「アダ王達妖精と獣人達さ。沢山こっちに来ている」
「ふ、ふ、そうか。それは賑やかだな。では、私も少しだけやっかいになる。その後は南の地下都市へ行くが、ここに帰ってくることにしても良いか?」
「勿論良いよ。ああ、そうだ! 丁度良かった。クリステル、君の好きなようにしていいから、あっちの島に村か街を作ってよ。獣人達のための家が欲しかったんだ。エルフ達は自分で木の家を造ったんだけど……獣人達は僕が作った小屋に住んでいる。僕は土魔法があまり上手くないから……」
「ああ、任せておけ。他に必要なものは?」
「迷宮の場所にも建物が必要だけど、まだ神殿から知らせが来ていないんだ」
迷宮をどのように管理するかで揉めているのだろう。早く決めてもらわないと迷宮に建物を造るのに困る。
「勝手に造ってしまうか……」
「いいのでは無いか? ここはルシオの異空間だ。許可を取る必要など無いさ。私は過去にも何度か街を作った経験がある。神殿もその方が助かるはずだ。今なら少し時間があるんだ。私に任せてくれ」
「そうしてくれるか?」
次の日からクリステルは、仕事を始めた。まずは獣人達の住居を作り上げた。
以前のような上下水道設備は必要無いだろう。新しい異空間では汚物の処理が自動で行われているからだ。数十戸を瞬く間に作りあげてしまった。
獣人達はルシオの造った簡易の小屋から、立派な住居に代わって喜んでいる。
ここは神が作り出した空間だ。下水の処理が要らない素晴らしい異空間だった。
「あっし等、ここにずっと住んでも良いな。食いもんは勝手に生えてくるし魚も旨い」
――あれ? 獣人達は住み着いてしまうのか?
次は迷宮島に宿泊施設を作る。
ここには役所のような施設が必要だ。クリステルは、神殿と併設している大きな建物を造った。
ルシオは転位陣を神殿に設置し直した。
この転位陣は、ブルホの大神殿からしか入れない限定されたものだ。迷宮島にはこの転位陣しか入る事は出来ないし結界から出ることも出来ないようにしている。
勿論ルシオだけは別だ。ここはルシオの異空間なのだから。
――良し!これで完璧だ。
ルシオは完成した役所を見て、
――漫画で見た冒険者組合みたいだな。
そう思ったが口には出さない。言ってもクリステルには意味が通じないだろう。
その他にも大きな銭湯がある宿泊施設も造った。
「これだけ用意しておけば当面は間に合うだろう。足りなければ、建て増せば良いだけだ」
「ありがとうクリステル」
施設を造ったことをパブロ魔導師に連絡すると早速やってきた。
「もう造ったのか。色々手間取ってこちらに連絡が遅れてしまった。後は管理者を選別するだけだ。十日もすればこっちへ寄越すから」
「あの、パブロ魔導師。僕の異空間の鍵はそのまま以前ので対応出来ます。ですが、迷宮島には結界を張りました。ここから直接外の空間へはいけなくしましたので」
「そうか、其処まで準備が終わったのか。君の異空間を勝手に動き回らないように周知させるにはどうしたものかと、頭を抱えていたのだ。問題が解決したな。ありがとうルシオ」




