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22 新しい異空間

 ルシオは新しい異空間を造ろうとしていた。

 ――今度は広すぎない、程良い広さの異空間が良い。

 だけど、ソフィアとは疎遠になって仕舞ったから、魔水晶を浄化して貰えなくなった。だから海も必要だ。

 そしてクリステルの異空間にあるような森や、設備があれば完璧ではないだろうか?

 ルシオはイメージを固めた。ワクワクしながら異空間を創造する。


「ロボやバーリョ達が自由に走り回れる空間。実り豊かな森があって、小さくても設備が整っている家があれば尚良い。広い海に囲まれた南国の小さな孤島」

 そう想像したのだが……。

 出来上がってみれば、少し様子が違っていた。

「え? ええーー!!」

 異空間は確かに広い南国の海だったのだが、目の前には島が十以上もポコンポコンと浮かんでいたのだ。

「こんなに島があっても、僕一人では意味が無いじゃないか!」

 然も海には魚がいた。魚だけでは無さそうだ。多分海の生物が殆ど居そうな雰囲気だった。磯場にはフジツボやイソギンチャクなどがいたのだから。

 これでは、魔水晶を浄化出来ないではないか。魚が、魔魚になって仕舞いそうだ。

 この分では森や他の島に獣がいそうな疑いが出てきた。

 ――どうしてこうなって仕舞ったんだろう。

 イメージとは随分違って出来上がった異空間を見てルシオは頭をひねる。


「仕方が無いか。出来てしまったのなら……いや、作り直せるか?」

【ルシオ、いいでは無いか。このまま使えば良い。きっとこれは神からの褒美だぞ】

「神からの……?」

 余計なお節介だと思ってしまうルシオだった。

「どうせ褒美をくれるなら、浄化しなくても使える魔水晶があったら良かったのに」

【ほ、ほ、確かにお主の言う通りじゃな。神も今頃慌てておるじゃろうて】


 異空間の出入り口がある島には、ルシオが思い描いた森があり、森の中に屋敷が建っていた。以前よりも大きい屋敷だ。屋敷の中には礼拝堂まであった。

 何れここに魔水晶を置くとして、取り敢えず何もない祭壇に祈りを捧げる。

 以前の異空間にあった神殿や屋敷は、そのまま次に派遣されてくる魔道師に利用してもらうことにしたのだ。


 屋敷の中のトイレを試してみる。排泄物は綺麗になくなった。これはルシオの希望通りに出来上がっていた。

 地下に造られた風呂はどうかと見て見れば、温泉が湧いている。源泉掛け流しと言う奴だった。

 綺麗な魔素が含まれた温泉がコポコポと蛇口から流れ出ている。大きな風呂場に大きな湯船。ロボと一緒に浸かっても大丈夫なほど広い、素晴らしい!


 気持ちよく風呂に浸かり、明日はバーリョ達を連れてこようと思いながら寝室に入る。

 調度品が総て揃っている。大きなベッドに入り、眠りに就いた。

 その夜、真夜中頃に、バシュシュシュッという大きな音がしてルシオは飛び起きた。異空間自体がグワーンと鳴動しているようだ。こんな事は以前の異空間では無かった。一体何があったのか?

 暫くすると音がしなくなってほっと一安心だ。

「文句を言ったから、神がへそを曲げたか?」

 

 翌朝、夕べの異変を調査するため、島巡りをして見ることにした。

 フライトモービルで回ってみる。

 島と島の間隔は三十分で着く距離だ。三十から四十キロ離れて居るようだ。


 一つ一つの島にはそれぞれ違う特徴がありそうだ。

 特に顕著に違うのは植生だった。

 サトウキビが自生している島や、薬草だけが生えている島。米が生えている島まであった。

 米は陸稲で水田では無かったが、取っても直ぐに復活するので手間いらずだった。


 大型の獣はいないが、小さなウサギや鳥はいた。探せばもっと多くの種類の獣が見付かるだろう。

「ここをクリステルやアレハンドロ、サムエルに見せれば喜びそうだな」

 多分、ミゲル魔導師やパブロ魔導師はここに来て、今度は魚釣りでもしそうな予感がする。


 どの島にも小さな砂浜があり、まるでプライベートビーチのようだ。

 一つ一つの島の大きさはそこそこある。街が作れそうな平地が広がっていたり、火山がある島もあったが、ご先祖様に、噴火はしないだろうと言われ安心する。

「昨日の異変は噴火では無かったのか?」


 最後に廻ったのは十三番目の島だ。

 他の島から百キロほど離れていて、少しだけ様子が違っていた。何となくこの島だけ特別魔素が濃い感じだ。この島にも砂浜があった。

 ゴツゴツとした岩が島の周りに廻らされていた。十三の小さな岩山だ。一つ一つに入り口のような洞窟があった。

 島の中心は、円形の平坦な地面になっている。周りの岩からはちょろちょろと絶えず石清水が流れ落ちて小さな水たまりが出来ていた。

 水たまりから溢れた水は小さな川となって海へ流れ落ちていく。水の魔素は浄化されていて濃い。


 「小さな村なら出来そうな広さがあるな」

 円形の平地の真ん中に立ってグルリと見渡してみる。

 洞窟に獣でもいるのか確かめることにした。中に入ってみると、壁から魔物が浸み出てきた。

「ッ! なんだ、ここは。本当に神からの褒美なのか!」

 その島は迷宮が密集する島だった。


 アレハンドロに急いで連絡を取る。何時でも集まれると言われたので、クリステルの異空間に集合した。まだ、ルシオの異空間には転位陣は敷いていなかったためだ。


 ミゲル魔道師、パブロ魔導師まで来ている。

「異空間を造り直したそうだな。ルシオ、見せてみなさい」


 皆は、ルシオの異空間に入った途端、感嘆の声を上げた。

 それぞれフライトモービルを出して飛び回っている。

「問題の島はアレか」

「はい、あの島には迷宮が十三程出来上がっています」


 一つの迷宮に皆で入る。角ウサギが出てきた。

 魔物のはずなのに禍々しさがない。まるで敵意が感じられないのだ。それでも淡々と襲ってくるので戸惑ってしまう。

 ミゲル魔導師が『風の刃』で難なく刈り取る。すると魔物は、毛皮と二センチほどの小さな魔水晶をドロップして消えた。

「ん? 随分純粋な魔水晶だ。小さくても価値は高いぞこれは」


 次々と出てくる魔物は総て魔水晶と素材を落す。深く潜るに従い魔物の難易度は少しずつ上がっていく。

 五階層を終わる頃、大きな部屋に出た。ここはきっとボス部屋だ。三メートルはある大きなイノシシの魔物を倒すと転位陣が現れそれで帰還する。

 迷宮はまだまだ先の階層がありそうだったが、今日の所は切り上げて話し合う必要がある。


「ルシオ、ここを魔道師や魔法使い達に解放しないか?」

「良いですよ。でも、これが神からの褒美だと言われたのですが、微妙ですよね」

「そんなことは無いぞ。この迷宮の魔水晶は浄化されている。然も素材まで落すとなれば、価値は計り知れない。魔法使い達のレベルを上げるには持って来いの迷宮ではないか」

「では、ここを監理する人材を選んでください。僕には監理は無理です」

「確かにそうだな、神殿長と相談してみよう」

 

 皆が帰った後、異空間収納を何げなく見て見ると、魔素の原液が少し減っていた。

「そうか……こう言う事か」

 ルシオの持っている魔素の原液で迷宮が作られ、更に迷宮から湧き出す魔物が浄化しているに違いない。

「魔水晶が欲しければ、自分で魔物を倒して取ってこいと言うことか? 随分回りくどい褒美だな」

【ルシオ、迷宮だけではないぞ。お主の異空間を造るときお主の持っている魔素の原液が使われた。ここの維持にも使われているのだぞ】


「褒美なのに? 神の力だけでは無かったと言うこと?」

【色々理の制約があるのだ。神には神の思惑がある。そう厳しい目で見るものでは無いぞルシオ】

「…………」


 やはり、ルシオが不満をこぼしたのを聞き、その事を神は根に持って、夕べ急遽迷宮を造ったのでは? 

 少しだけ納得いかないルシオだったが、文句は言わないとぐっと堪える。

 ――これ以上おかしな改造をされたらたまらない。


 異空間の迷宮には強固なドーム状の結界で囲う事にした。そうしなければ、他の場所にも簡単に出入りされてしまい、ルシオのプライバシーは藻屑と消える。

 結界は島の周り一キロまで広げておく。「ここで魚を釣るなり泳ぐなり好きにすれば良い」ちょとしたリゾート地になりそうだ。

 ここは異空間だ。朝夕の時間の推移はあるが季節感はなく、台風などの自然災害はないのだ。

 ルシオが生きている間だけという時間制限はあるが、それまでは自由に使って貰える。


 『迷宮島』と名付けた其処に通路がブルホ大神殿だけに限定された転位陣を敷き、その日の作業を終えた。

 後はこの場所に宿屋を造るなり、神殿を建てるなり自由にして貰おう。

「さあ、ロボ達を迎えに行くか」


 バーリョとその番とロボだけを連れてくるつもりだったが、何故か懇意にしていた獣人達三十人ほどが寄ってきて自分達も連れて行って欲しいと懇願してきた。

「僕が死ねば、消えて仕舞う所なんだよ。君達はここにいた方が良い」

「いや、あっし等はルシオさんの召使いとしていくんでさ。いや、金は要らねぇです。偶にこっちへ里帰りできればそれだけで良いんです」


 どうやらアダ王の差し金らしかった。アダ王は、

「今度の異空間には精霊の湖はあるのか?」

 と聞いてきたのだ。ルシオは、

「探せばあるかも知れませんが、まだ細かくは探索していませんね。あ、そう言えば僕が住処にしている島の森には湧き水がありました。小さな水たまり程度ですが魔素は綺麗で濃いですよ」

「では私も少し遊びに行こう」


 そう言って数名の妖精達を引き連れて来る事になった。

 ルシオは嫌な予感がした。エルフの時間感覚は信用ならないのだ。だが、断れないルシオだった。


「海があるのか。今度の異空間も面白いのぉ。で、この素晴らしい異空間もルシオが亡くなれば消えて仕舞うというのか? 勿体ないのう……」

 アダ王は、ルシオをチラチラと見て、もじもじしている。

 エルフは美しい、例え女とも男とも言えない種属でも、例え三千歳を超えているとしても綺麗なことには変わりない。

 だが、そのもじもじしている姿にルシオは絆されない。

「欲しければ、僕の死んだ後使って貰って構いませんよ。でも今はダメです。後五十年したら以前食べた酸っぱい実を食べましょう」

「……そうか、今はダメか……其方なら幾らでも作れるではないか。どうしてもダメか?」


 アダ王は精霊国の飛び地をもっと作りたいと考えているようだった。

 天変地異や災厄にいつ何時襲われるかも知れない。

 妖精達はそのせいで今度こそ絶滅して仕舞う恐れがある。その予防策として、まだまだ飛び地を増やしたいと考えていたようだ。


 エルフの王が作る事も出来るが、数千年の時間が掛かるという。何しろ王の骸が必要なのだから。

 ルシオは、エルフにとってあっという間に死んでしまう儚いものと思われている。ルシオが生きている間に出来るだけ多くの飛び地を作って貰いたいと要求してきた。


 仕方が無い。以前試して出来なかったが、今回は出来るのではないだろうか? もう一つの異空間を。

 今は精霊樹の実を食べていないのだから。出来上がったら、また足の一本でもくれてやる。ルシオなら治癒で治す事が可能なのだから。


「要望はありますか? どのような空間にします?」

「要望が通るのか! では、精霊の泉がある広い空間が良い。山があり川があり柔らかな風が吹き、水は清らかで土は肥え、光が降り注ぐ清浄な地が一番だ」


 呆れてしまうルシオだった。要するに以前作ったルシオの異空間と同じものを作れば良いと言うことだろう。そんな大きな物が、今再び実現できるだろうか? 

 広く大きな異空間は既に此処にあるのだ。二つ目の異空間を大がかりなものに造る自信は無かった。まあ、試してみてダメだったら諦めてもらおう。


 出来てしまった。以前のルシオの異空間と全く同じものだ。

 だが、湖は只の水だった。魔水晶を沈めなければ精霊の水にはならないと言うことだろう。

「そうか……精霊の水は出来なかったか……」

 アダ王はがっかりしているが、簡単に解決出来る問題だ。ただ、今すぐには移住できないだけで一年待てば魔素は濃くなるだろう。


 問題は今持っている魔水晶では足りないと言うことだった。

「ここでは浄化出来ないし、迷宮では小さな魔水晶しか取れない。八方塞がりだ」

【ルシオ、ソフィアに頼みなさい。もう仲を修復する頃合いではないか? 何時までもこのままではソフィアにとっても酷ではないか?】


「ソフィアに酷いことを言ってしまったんだ、僕は。彼女は赦してくれないと思う」

【赦して貰えないとしても、ソフィアは、異空間を使わせてくれるのでは無いか? それくらいは許可してくれる。彼女は狭量ではないはずだ】

「そうだったね。分かった、連絡してみる」

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