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21 心の中の声

 気まずい雰囲気を消し去ろうとソフィアは、明るく切出した。


「ここはいつ来ても気持ちの良い空間だわ。その内、命も生み出すようになるでしょう。この異空間は貴方そのものだわ」

「…………」


 ――ソフィアは、何を思ってこの異空間が僕そのものだと言っている? 命など生み出してはいないのに。

「只の寄せ集めだ。僕が命を生み出すわけ無いじゃないか」

「……ルシオ。私の研究課題を覚えているかしら」

「魔力器を人工的に作り出すと言うことかい?」

「ああ、そんなことも言っていたわね。でも一番興味があったのは、魔道師が何故子供が持てないかと言うものなの。検証は出来ていないけど予測は付いたわ」

「へぇ、相変わらず君は凄いな」


 ルシオはぶっきらぼうに答える。まるで本心では無いような言い方だった。

 ソフィアは、少しひるんだが、ルシオに知ってもらいたいと、教えて上げなければと言う気になっていた。


「あのね、魔素は穢れているでしょう。ペニーニョ島にある魔素でさえ僅かだけど穢れがある。この異空間にはないようだけど、グランデ大陸の魔素はかなり穢れている。その穢れを浄化しながら魔導師達は魔法を使う。穢れを浄化するために生殖器が使われていると私は思うの。魔力が大きいほど顕著なのではないかって」


「そうか、なら、やはり魔導師達は子は持てないという結果だな。君の考察には整合性があると思うよ」

「……でもね、ルシオ、貴方は違う。魔力器が特殊で、別の方法で浄化している……その意味、貴方なら分かるでしょう?」

「……何を言いたいか分からないよ。ハッキリ言って欲しいな」


 ルシオはムカムカしていた。

 本当は、ソフィアに聞かなくとも分かっていた。ソフィアが話始めて直ぐに察していたのだ。彼女の本当の気持ちが。言いたいことも……。

 だが、今まで、神の使命を選びその道を進んだ彼女のことは応援しようと心に蓋をしてきたのだ。その反動か、怒りがふつふつと湧き上がってくる。

 ソフィアを愛しく思う気持ちが、怒りへと置き換えられていく。


 ソフィアがルシオから離れた本当の理由が、神の使命などではなく、こんな事だとは思いたくなかった。聞きたくは無かった。

 ――聞きたくないのに僕は何故、ハッキリ言って欲しいなどと言った? 

 そして、ソフィアは、ルシオが考えていた通りの言葉を口にした。


「貴方は、私とではなく、別の女性となら子供が出来ると言っているのよ。だから別のお相手を早く見付けて欲しいと思っているの」


 ――余計なお世話だ! 子供を持ちたいと誰もが思うなどと! なんて独りよがりで傲慢なんだ。僕のことをそう決めつけて勝手に離れて行ったのか!

 

 ソフィアの使命を果すには、ルシオと離れる必要は全く無いのだ。転移があるのだから。寧ろ助け合って使命を果すことも出来たはずなのだ。

 だが、ご先祖様に暫くそっとしておけと言われた手前、ソフィアの好きにして貰ったのだ。


「ソフィア! そんな理由で僕から離れたと言っているのか!?」


 ルシオは激怒し、仁王立ちになった。転生してから今まで、こんなに頭が沸騰した事は無いほどに。魔力まで溢れてきて威圧を放ち始めた。

 ソフィアは、大粒の涙をこぼしてじっとルシオを見上げているが、可哀想だとは思えなかった。

 ソフィアの思いやりなのだろうが、お門違いも良いところだ。


 ――自己犠牲のつもりか? 僕の気持ちを知りもしないで。自らを貶め自分を哀れんでいる涙じゃないか! 反吐が出る!

 怒りで目の前が真っ赤だ。こんなソフィアには我慢がならない。


「帰ってくれ! 君の顔などもう二度と見たくない!」

「っ!……ごめんなさい、ルシオ……さようなら」

 ソフィアは、逃げるように去って行った。


 ルシオは、ソフィアの座っていた場所をじっと睨み付け動けないでいた。

 しかし、暫くして落ち着くと、自分が叫んだ言葉を思い返し、ルシオは呆然とした。


「もう二度と、ソフィアとの関係は修復出来ないだろうな……」


 クリステル達が街から酔っ払って戻ってきた。

「ヨー色男! よろしくやってるか?」

「アレハンドロ、もうソフィアとの関係は終わったんだ。これからこんな気遣いはしないで欲しい」

「……ルシオ、私が余計なことをして、返って関係がこじれてしまったのか。すまない」

「いや、既に終わった関係だ。もう諦めが付いている」


 それからは、二度目の北の探索について話し合った。

 彼等はもうソフィアのことは一言も口にせず、只管、妖精達の安住の地の探索の助けになろうと、気持ちを切り替えてくれた。


「アダ王に地の民のことを話したか?」

「あれ、どうだったかな……話したような気がするが」

「地の民の地下都市には、魔素が湧き出す温泉があるだろう? 彼処を安住の地にしたらいいのでは無いか?」

「確かに、地の民は気の良い種属だ。元は妖精だもの、上手くいくかも知れないな。一度見てもらった方が良いかもしれない。ボンゴ王にも了解を取らないと」


 王たちの話合いはスムーズに進んだ。

 地の民は正確には妖精では無いが、それでもエルフや、ハーフリング達とは言葉も同じだし、考え方や、価値観にも共通する点が多かった。


「ボンゴ王よ。この洞窟の一角に入り口を作らせてもらえまいか?」

「ああ、喜んで。そうなれば、私らも異空間で暮らせると言うことですな」

「そうです、ルシオの異空間は広い。然もアルマが澄んでおるのだぞ」


「そうですな。ルシオ殿、構わないのか?」

「ええ、どうせ広すぎて僕には使い切れないし、僕の命は短いんです。どうぞ、好きに使ってください」

 だが、余りにも呆気なく決まってしまい、探索も必要なくなってしまった。


 そして、ルシオはここから動けなくなったのだ。これにはどうしたものかと悩む。


 ――神殿からの依頼があれば、ここから移動しなければならない。どうすれば良いんだ?


 異空間はルシオと連動しているのだ。ルシオが動けば異空間も移動してしまう。そうなれば地の民は困るだろう。

 彼等は既に異空間に居場所を作り始めているのだ。

 然も、絶えず地下都市と行き来する必要がある。彼等が使う鉱石を採取するためだ。土や鉱石に親和性が高い彼等にとって鉱石の加工は生活の一部なのだ。


 地下都市に来て三年。

 パブロ魔導師や神殿長、ミゲル魔導師などがここに頻繁に来るようになった。ルシオが動けなくなってしまって、今ではルシオの異空間が話し合いの場になっている。


 連絡は通信で何とかなるが、どうしても面と向かって話し合う必要が出てきたときは、皆、転移でここに来るようになった。

 セレステ錬金魔導師は自分で葉転位出来ないが、パブロ魔導師やミゲル魔導師と一緒に良く来るようになった。

 勿論クリステルやアレハンドロもだ。連絡などまどろっこしいことはしなくなり自由に出入りしている。


 だが、誰でもと言うわけではない。ルシオが許可したものだけだ。妖精達に危害が及ぶ恐れはなるべく排除しているつもりだ。


 異空間の入り口を開けておいて、どれだけ離れることが出来るか試してみる。

 百メートルも離れると異空間の入り口は閉じてしまうようだ。


「ご先祖様、僕はここから動けないまま、死ぬまでこうして居なければならなくなりました……」

【困ったの。ではもう一つ異空間を造ってみればどうか?】

「そんなことが可能なの?」

【お前には創造魔法があるであろう。やってやれないことは無いと思うぞ。誰にでも出来ることではないが、試してみない事には、この先困るだろう?】


 もう一つの異空間を造ろうと何度も試したが全く出来る気配は無かった。

「僕は何か間違っているのかな?」

【若しかすると、精霊樹の実を食べたせいでは無いかの? 余りにも異空間と同化してしまったと思われるが……エルフの王に聞いてみたらどうじゃ?】

 アダ王に相談してみないとどうにもならない。何か方法は見付かるのだろうか?


「無い事も無い」


 アダ王はそう言った。

「どのような方法か教えてくれませんか?」

「少々言い出しにくいのだが……ルシオ殿が死んだと異空間に認識させねばならん。その為には、其方の身体の一部が必要になる」


 身体の一部……切り離せば良いのだろうか? 足とか。

「腕や足の一本なら良いですが、そう言うことですか?」

「ッ! 良いのか? 身体が不自由になるのだぞ!」

「ああ、それは大丈夫です。僕は部位欠損は自分で治せます。足一本だけで良いですか?」

「も、勿論じゃ、十分すぎる。指だけでも良いのだぞ」

「いえ、手には魔法陣があって切り離せませんが、足なら大丈夫です。確実にするために足を股関節から切り取ります。その後は……?」


「私が精霊樹の成長を促すだけじゃ。精霊樹は其方の身体を養分として根を張りここに定着するのだ」


 ルシオはためらわず切り取ろうとして、ハタと思い至る。

 ――ご主人様、異空間収納はどうなりますか?

【お主は生きておるのだ。そのまま変わらぬ。異空間も以前と同じものを作ろうと思えば作れる。気に病むことは無い】


 それを聞き安心して足を切り落とした。感覚を鈍くして切断したので痛みは感じない。

 顔が引きつっているアダ王にそれを渡し、ルシオは自分に治癒を掛けた。


 だが、流石に、根元から足を切ったのだ。大変な出血で意識がもうろうとする。何とか治癒は終わったものの、起き上がるまで数日かかった。


 起き上がれるようになって、異空間の入り口から遠ざかってみる。百メートルを過ぎても入り口はそのままだった。

「良かった。これで使命は完遂した事になるんだよね」

【そうだな。よくやった。こんなに早く終わるとは。儂もおもわなんだ。この先お主はどうする? 神の尻拭いは終わったようだぞ】


「尻拭いって! どう言うこと?」

【ここに、過去精霊達がいたことは知っておろう?】

「うん、神に鉄槌を喰わされてちりぢりになって仕舞ったんだよね」

【そうだ。そのせいで妖精族達は絶滅し掛かっておった。神は救いの手を差し伸べられたのじゃ。その使徒としてお主が使わされた、と言うわけじゃ、尻拭いであろう?】


「ふ、そうだね。やり過ぎてしまって神も慌てたのかな?」

【お主は見事やり遂げた。この先の人生は、お主の生きたいように生きれば良い。これからどうする?】

「そうだな、また探索を続けようかと考えている。ツォアルに行ってみて、其処に何もなかったら、ペニーニョへ戻ろうと思う」


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