20 続 不思議な木の実
「精霊樹はそのままでは実を付けない。エルフの王がアルマを注ぎ続けやっと実る物だ。そしてその実を食べ異空間を造る。異空間と、実を食べた者は一体となり同調できるのだ」
「異空間と同調? 僕が精霊国の異空間に同調するって事か?」
「いや、君の異空間と君が同調することになる」
彼の言っている意味が一ミリも分からない。
ルシオの異空間はもとより同調しているし連動している。態々貴重な木の実を食べてどうなるというのか。
「……?」
「君が死ねば、君の骸は異空間の肥やしとなってその地に根付くのだ」
「え、どう言うこと? 僕の身体が異空間を維持すると言うこと……で間違っていない?」
「いや、維持は精霊樹がする。君が死んだ後でも異空間は消えないと言うことだ。それまでは君は何も心配すること無く自由にして居れば良い。私達は君と共に何時でもいるのだ。そして君が力尽きたその場所が、私達の安住の地となる。少しだけ我が儘を言わせて貰えば、出来るだけ温暖で、住み易い魔素の多い場所で君の一生を終えて欲しいのだが」
――少しだけの我が儘だと? 随分無茶な要求だ。
だけど、これで安心したことは確かだった。責任は半分だけ軽くなった。後はアダ王の希望に沿った場所が見付かれば最高だろう。
「君の異空間にこの種を植える。其処には精霊樹が生え、妖精達が生れてくる。そして精霊樹が大きくなれば精霊樹の間で行き来が出来る様になる。妖精の道が出来上がるのだ」
――そうか、僕が死んでも異空間の転位陣は残るかも知れないが、彼等には使う事は出来ない。精霊樹があれば行き来が可能になるのだ。八方良い事ずくめだな。
ルシオは、魔水晶を沈めておいた一番大きな湖にアダ王を連れてきた。
「ここは多分異空間の中央部分に当る。ここに種を植えたら良いよ」
「良い場所だ。早速植えても良いか?」
「どうぞ。もう魔素は染み渡っているから、根付くはずだ」
アダ王の側近が土を深く掘り、アダ王が其処にアルマを流しながら種を落す。土をかぶせた後も王はアルマを流し続けた。
すると小さな芽が出た。みるみる二メートルほどに育ち、其処でアダ王はアルマを流すのを止めた。
「アルマを与えなければ、この精霊樹が大きくなるには百年は掛かる。君が亡くなれば、木の根はその土地に根付き、アルマを吸い上げ浄化して異空間に行き渡らせていくことだろう」
「ん? と言うことは君達の精霊の国も王の骸の上にあると言う事なのか?」
「そうだ。二代前の王の異空間だ。だが、あの場所はアルマが薄い。泉のアルマが枯れてきた……それに連れて精霊樹の力も弱ってきたのだ。ルシオのお陰で暫くは安泰だがな」
ルシオは、自分がいなくなった後のことを考えるようになった。
「ブルホの魔水晶の森のような場所なら理想的だ。魔水晶が絶えず出来上がる場所。その様な場所なら、今ある精霊の国にも魔水晶を供給できるだろう」
今は幾らでも作ってやることは出来るし、ブルホからも分けて貰えるが、将来は分からない。今のような友好関係は未来永劫続くと考えるのは、脳天気な考無しだけだ。
人間とは色んな輩がいる。今の神殿長のような人は寧ろ少数派なのだ。
――やはり、もう一度ドローンを飛ばしてみよう。今度は海の向こう、西南にだけ絞れば見付かるかも知れない。新たな地図の魔水晶を作ろう。始めに作ったように異空間に情報が集まるようにすれば、居ながらにしてリアルタイムで見付ける事が出来るはずだ。今なら時間はタップリあるのだ。
小さな島で良いのだ、誰にも見向きもされない価値のない島。其処が見付かれば、ルシオが深く地中に潜り、収納に保管している濃い魔素を総て入れて仕舞えばどうだろう。また埋め戻して魔素がゆっくり少しずつ浄化されて行くような魔法陣を考えれば良いのではないのか?
それが出来上がれば、其処が安住の地となる。誰にも邪魔されることなく、種属としての寿命が尽きるその時まで、数万年、若しかしたら人間という種が滅びた後までも、妖精達は生きていけるのでは無いだろうか?
ルシオは自分の考えにどんどん吸い込まれていく。
ソフィアという有能な参謀、ブレーンがいなくなり、また以前のような思考の暴走が止らなくなっていた。
以前なら直ぐにソフィアが、ルシオのアイデアの穴を埋めたり反対意見を言ったりしてくれて、考がおかしな方向へ行くのを止めていたのだ。
【ルシオ、ルシオ、これ! 返事をせぬか!】
「え、何か言った、ご先祖様?」
【全く、久し振りにお前が殻に閉じこもるのを見たぞ】
「僕が? 只考え事をしていただけだ。殻になんて……」
【良いか、ルシオ。精霊の国もこれからお主の骸に出来るであろう国も異空間だ】
「そんなことは分かっているよ。だからそれを維持する場所を模索しているんじゃないか」
【異空間は何処に出来ても同じ条件で維持出来る。例え極寒の地でも海の中であろうともな。言っている意味が分かるか?】
「…………ん?」
【ヤレヤレ、思考力までおかしくなっておる。ソフィアに相談したらどうだ?】
「ソフィアは、今忙しいんだ……魔法の学校を造っている最中だそうだ。優秀な女の子を教育するんだと言っていた」
【では、クリステルはどうじゃ。その為の仲間であろう。自分一人で抱え込むことは良くないと、以前お主がクリステルに言っていた言葉だぞ】
「分かった。クリステルに相談してみるよ」
クリステルに通信で、エルフとの経緯や精霊樹の実のことをを話すと、
『明日、そちらに行くのでゆっくり聞かせてくれ。そうすれば手助けできることが分かるはずだ』
次の日クリステルは、やってきたが、その直ぐ後アレハンドロが来た。そしてソフィアまで来て仕舞ったのだ。
「ソフィア……今忙しい時期だろう。大丈夫なのか?」
「何を言っているの。助けが必要なら何時でも呼んでって言っていたはずよ」
「オイ。俺だって忙しいのに来てやったんだぞ。何か無いのか?」
「アレハンドロは別に来なくっても良かったのに。忙しいのならいいよ」
「なんだとう! お前の一大事だって聞いたからきてやったんだ。まず、話を聞かせろ」
一大事? クリステルが大げさに話したようだ。
クリステルを睨むと、目を反らされた。
「早く話を聞かせて、ルシオ」
「ああ」
一年半ぶりに見るソフィアは、相変わらずセクシーだ。心や身体がまたうずき始める。
――やっと諦めが付いたのに。余計なことをしてくれたよ、クリステル。
ルシオは、精霊樹の木の実を食べた話から、その影響までを詳しく話した。
「で、お前。そんな物喰って大丈夫なのか? 妖精みたいになって仕舞わないのか?」
「大丈夫。何も変わらない。ただ、死に場所を選ばなければダメなんだ」
「……死に場所だなんて。嫌な言い方だわ」
「ルシオ、どう言う場所を探せば良いのだ?」
魔素が綺麗で濃い場所。難しい条件だ。更に人がいないところで気候が温暖となれば見付けるのは不可能だろう。
「僕は今、西南の海にドローンを飛ばして探している。だけどまだ見付かっていないんだ」
「もし島が見付かっても、其処に魔素がなければ意味が無いんだろ? 余計な一手間じゃないのか、それ」
アレハンドロに余計な一手間だと言われ、少々へそを曲げたルシオだ。
「大丈夫さ。僕には魔素の原液が大量にある。それを地下深くに流して蓋をする。その蓋に浄化の魔法陣を描く。その場所で僕が生涯を終えれば良いだけだ」
「そんな……たった一人で死ぬと言うの?」
「いや、僕には妖精達や獣人や聖獣もいる。彼等は僕の大きな家族だ」
ルシオは傍らに寝そべるロボをゆっくりと撫でながらそう言った。
「……ルシオ、新しい伴侶を見付けていないの? 地の民の彼女は?」
「へ? 地の民? ああ、アレは……その……チョット虚勢を張っただけさ。君の他にそんな気持ちは抱けないよ、ソフィア」
「まあ、ルシオったら……」
「なんだぁこの甘ったるい空気は。やってられない! おい、クリステル! 街へ行って飲むぞ。ここにいたら甘い匂いに当てられそうだ」
「ふ、ふ、そうだな。久し振りに飲み明かすか」
ルシオは彼等が示し合わせて余計な気を遣ったのだと察した。
クリステルが、態々アレハンドロまで連れてきたのはその為なのだろう。ルシオとソフィアを、元サヤに納めようとしたのは目に見えている。
だが、それは余計なお節介なのだ。ソフィアのためには、ルシオは身を引くべきだ。彼女の使命の邪魔をしてはいけないのだと心を強く保つ。
「ソフィア、君には君の生きがいがある。それは神からの使命なんだろう? 僕の使命は僕の物さ、だから気にせず君の道を行って欲しい」
「……そうね、そうする。でも、今は一緒に考えさせて。貴方の大きな家族のために、私も力になりたいの」
ソフィアは、ルシオの側に付き添っている大きな白い狼を見ながらそう言った。
「ルシオ、……貴方が亡くなった後の異空間はどうなるの?」
「精霊国と同じだと思うよ」
「精霊の国と同じ……なら、彼処は洞窟の中だったでしょう? あんな場所でも大丈夫なら、別に絶海の孤島である必要は無いのではなくって?」
「! ああ、そう言うことか。ご先祖様が言っていたことは……」
「え、なんですって? ご先祖様って」
「いや……神が僕に言っていたことなんだけど、例え海の中でも異空間はそのままだって言ったんだ」
「そう……だったら、北の地でも良いのでは? あそこは広大な無人の地だわ。多分将来にわたって人は寄りつけない。問題の一つは潰せたでしょう? そして、スブムンド国のような地下に魔素が湧き出している場所が他にも見付からないかしら。若しくは、聖地。彼処でも大丈夫ではないかしら。異空間に人が侵入出来ないようにしておけば、彼処なら穢れている魔素だとしても、タップリあるし」
「穢れが問題だ。どのような影響があるか分からないんだ。僕が死んだ後、精霊樹が異空間を維持すると言っていた。多分精霊樹は外から魔素を取り込んでくるはずなんだ。彼処の魔素の浄化次第で変わってくると思う」
「そう、なら、やはり北をもう一度探索して見ましょうよ。地の民も手伝ってくれるはず。その内に島も見付かるかも知れないし、まずは北から候補地を探してみない?」
「そうだな……そうするか! 流石ソフィアだ。僕の考を精査して良い方向に導いてくれる」
「そんな事無いわ。でも、こうして居ると凄く愉しいわ。以前に戻ったみたいで……」
「そうだな……」
話が突然終わってしまい、気まずい雰囲気になった。
ルシオ達はそれぞれの思いはあるが、言葉にはせず、しばし沈黙が漂った。
ロボがそっとソフィアに近づき側に寄り添ってきた。彼女は泣きたい気持ちをぐっと堪え、ロボの優しさに身を委ねるように顔を埋める。
「ロボも君の事が好きみたいだね」
「可愛いわ、ロボって言う名前なの? 優しい子……」
大きなロボを可愛いと言うには無理があるが、ソフィアにとってはそうなのだろう。
――僕達はこれからずっと、このよそよそしい関係で生きて行くことになるのだろうか? 年齢を重ねれば、もっと時間が経てば、わだかまりも消えて普通に接することが出来る友となれるだろうか?
触れあうことが出来ないもどかしさ。
アレハンドロのように女性と気楽に付き合えれば良いのだろうが、それは出来ないルシオと、ソフィアだ。




