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19 不思議な木の実

 地の民の国スブムンドに来て早三ヶ月が過ぎた。

 極偶にソフィアから通信がある。彼女の不満や生活の状態を話してくれるのをルシオは静に聞いている。こちらの状況も話すが、少しだけだ。

 ソフィアと話しても、この頃では心が騒ぐと言うことも無くなりつつあった。


「ところで、ルシオ。 かわいい地の民の彼女でもできた?」

 地の民の彼女だって? 地の民の女性は髭が生えている。とてもでは無いがそんな対象としては、みることは出来ない。だがルシオは、

「まあね」

 と虚勢を張った。

「……そう良かったわね。話を聞いてもらってスッキリしたわ。ありがとう。貴方も地の民の力になってあげて、じゃあね」

「ああ、ソフィアも身体に気を付けて」


 ここでは養い子達も伸び伸びしている。

 彼等はそれぞれ十六歳、十四歳と成長した。明るすぎない空間で自由に歩き回り、偶に地の民の護衛のような仕事もしている。

 外の耕作地に行く事が出来る通路が出来上がって、ルシオ達も出入り自由だ。ただ、相変わらず天井が低いので腰は痛いが。


 ルシオは通路に設置された扉の外側に魔水晶を使った結界を張っておいた。外の様子が分かる結界のお陰で、危険な獣が待ち伏せしていた場合は、直ぐに結界の内側から排除できる。

 その場所には門番がいて、声を掛けてくる。

「お前達の護衛があれば安心して農作業が出来るってもんだな」


 地の民はルシオ達に友好的に接してくれる。本来、彼等は人なつっこくおおらかな種属なのだ。魔法袋があるお陰で作業も楽に進んでいるようだ。

 魔法兵達も護衛の役を買って出ている。ルシオが作り出した暗視コンタクトレンズはここでも大活躍だ。

「これは登録していませんよね」

 セレステは心配そうにしているが、権利など面倒になっているルシオだ。

「君に権利はやるよ。硬化魔法のお礼だ」

「……そんなこと出来ませんよ、なんてことを言うんですか! 私がきちんとルシオさんの名前で登録しておきます。パブロ魔道師が心配するわけですね」

「僕はお金はもう必要無いんだ。神殿に権利をやると言ってくれないか? 使い処が限られて売れないだろうけど……」

「仕方が無いですね。ルシオ魔道師の希望なら……その様に処理しますけど」


 ルシオは生活に全く不自由していない。住む場所も食事の心配も無いのだ。魔水晶まで作り出せてしまっている。

 財産を受取る子供もいないし、伴侶までいなくなってしまった。


「そう言えば、魔法兵達、今回の遠征では魔物がいなくて 稼ぎがないだろう? 今後の生活に支障は無いのか?」

「彼等は殆どが見習いを卒業したばかりの若手です。養う家族はいません。この遠征が終われば神殿からそれ相応の報償が貰えるようですから、心配は要らないんです」


 魔法兵は、子供が持てる。魔力が少なめな者ばかりだ。家族が出来れば生活に金が掛かるようになるだろう。

 金や魔力が無くても、家族が出来て充実した人生が送れる。

 魔力があり金の心配が無くても、家族がいなければ、残す相手もいなく、そのまま消えて仕舞うだけ。

 ソフィアが言った「空しい人生、生きた証」という言葉が心に深く突き刺さる。


「彼女は生きがいを求めて自分の道を決めたんだな。僕の生きがいはなんだろう? 僕の生きた証は見付けることが出来るだろうか?」


 サムエルには同姓のパートナーがいるそうだ。同じ錬金魔導師で、年も近い。

 それはそれで家族と言える。同じ環境で育った同じ職種のパートナーだ。 

 ルシオとソフィアともそうだったはずなのだが、いつの間にか、道は分かれてしまっていたのだ。


 スブムンド国を去るときが来た。この先は違う魔道師がここに常駐するだろう。

「ルシオ殿。感謝の印にヒヒイロガネを持って行ってくだされ」

 これは素直に受取り、今回の遠征に参加した者達に分配する予定だ。神殿長にお伺いを立ててからにはなるが、多分許可されるだろう。


「僕達の役目は終わった。さあ帰ろう」

 ブルホに真っ直ぐ転移し、魔法兵達を送り届けそのまま神殿長に任務が終了したとの報告に行く。


「漸く終わったなルシオ。数年に渡った長い探索ご苦労であったの。これからどうする?」

「僕の使命はまだ残っています。妖精達の安住の地を探さなければなりません」

「ああ、そうであったな。だが、この世界で彼等が安心して住める場所など見付かるだろうか?」

 確かに難しいだろう。魔素が清浄で濃く、温暖な気候で敵対する種属が周りにいない場所など、見付けることは不可能に思える。


 頼みの探索ドローンはもう海に消えて仕舞った。

 シュバリスにある魔水晶の地図を見ても、グランデ大陸の近海には何もなかったのだ。

 強いて言えば中央の聖地の跡地だが、彼処はまだ浄化が済んでいない。それでも、いずれ浄化が終われば、また人族の住処となるだろう。


 人族がいない北が一番良いのだが、気候が厳しすぎて無理だった。勿論地下には住めないだろう。精霊樹を生育できる環境が必要なのだから。

 獣人の住む西は比較的安全だろう。だけど、またあの近くに異空間を作ったとして、魔素が薄すぎて異空間が長くは持たないはずだ。


「地の民が教えてくれた、過去にあったツォアル国周辺を今度は探してみます。良い場所が見付かるかも知れません」

「そうか、確か、山脈の東端だったな。だが、あの辺りの魔素は穢れていないか? 魔物が跋扈していそうだぞ」

「はあ、そうかも知れないですが、兎に角探し回るしか手はないようです」

「また君の力が必要になる。任務が出来たら声を掛けるが、それまではゆっくり探索してくれ」

「はい、では」


 神殿長の所から辞し、異空間に入る。

 ルシオの異空間では、また人口が増えていた。多めに作っていた獣人達の住居も足りなくなりそうだったし、ハーフリング達の住処である地面からボッコリと膨らんだ半地下の住処も沢山増えていた。

 妖精達は精霊樹が無いため個体数は増えていないが、木々は増え、深い森になりつつあった。

 ――考えようによっては彼等の安住の地を探すのが僕の生きた証になるのかも知れない。


 ルシオが死ぬまでは何とかしなければならないのだ。ルシオが死んでしまえば、彼等は死に絶える。

 獣人達は生きていけるかも知れないが、ルシオが死んだ場所によっては、獣人は魔物化するかも知れない。彼等には魔力が無いのだから。

「でっかい家族だと思えば良いさ。僕の守るべき家族だ」


 ルシオは探索に出る前に、自分の異空間の探索をして歩いた。

 探索して、改めて広いと感じる。ペニーニョ島と同じ広さなのだから。

 以前魔水晶を沈めた湖周辺は、順調に魔素が染み出ていた。

 フライトモービルでゆっくり上空を飛んでいると、聖獣の狼の群れが走って付いてくる。

「彼等は人を襲わないんだったな」

 フライトモービルを着地させ降りて見ると、聖獣たちがルシオの周りに近づきちょこんとお座りをした。


「おや、子狼がいるね。可愛いな、おいで」

 一匹の子狼がルシオの所へやってきて、しきりにぺろぺろとなめ回してきた。顔や手、所構わずだ。

「オイ、くすぐったいから止めろよ」

 だが、悪い気はしない。柴犬くらいの大きさでコロコロモフモフとしている。

 その様子をじっと見ていた狼たちは、子狼を置いて走り出してしまった。

「え? おい、こら! 子供を忘れて居るぞ!」

 子狼も気にした風もなく、ルシオの側にちんまりと座っている。

「きみ、若しかして僕を慰めるために来てくれたの?」

「ク~ン」

 ――そうか、これは聖獣だ。クリステルのときと同じだ。僕の淋しさを埋めるために来てくれたんだ。


「君に名前が必要だな。なんにしようか? ロボなんてどう?」

「キャンッ!」

「良し、ロボ、こい!」

 ロボを抱き上げ懐に入れて、フライトモービルに再び乗り込む。

 こっそり確かめたところロボは雄だった。雄の聖獣は大きく育つ。きっとロボも大きくなるだろう。


 一ヶ月掛けて隈なく廻って探索した異空間は、豊かな自然に恵まれていた。獣たちも増えすぎず、少なすぎず良い感じだ。

「これに海があったら完璧だったのにな。そうしたら外の世界と変わりが無いんだけど」

 異空間の端は突然切り取られたような形でその先は認識できない。ボンヤリとしている。先に行こうとしても元の場所に戻されてしまうのだ。

 やはり異空間は異空間だ。実際の世界とは違うのだ。

 

 探索も終わり、ここでやることが無くなってしまったが、ロボを育てると言う楽しみが出来た。バーリョもいるし子馬もまた増えている。

「なんだ、全然寂しくないじゃないか。久し振りにゆっくりできる時間だし、思いっきりのんびりするかな」


 それからはハーフリング達と談笑したり獣人達と酒を飲んだりと異空間でまったり過ごした。

 ルシオ達の周りには、沢山の小さな妖精達が明滅しながら飛び交っている。


『まるで蛍だな。この小さな妖精達は妖精の原種だって、ソフィアが教えてくれたな……』

 暫くしたら、ツォアル周辺の探索が待っているが急ぐことも無いではないか。ルシオはまだ若い、時間はまだタップリ残っていると考え直す。

 

 ロボは瞬く間に大きくなった。聖獣の成長速度に驚かされた。八ヶ月で育ってしまった。今ではバーリョと同じ大きさだ。バーリョは馬の中でも大きいのに。

「おい、ロボ。君は聖獣の中でもとりわけ大きく育ったな。まるで狼王ロボみたいだぞ」


 ロボの食事は、自分で狩ってくるようになったので手は掛からなくなった。

 湖の水をがぶがぶと飲み、ついでに水の中を泳いだりして妖精達に叱られたりしている。


 そんなある日、やっとアダ王から連絡が入った。

『そちらへ戻りたい。迎えに来てくれ』

 ――やっと帰って来るか。全くエルフというのは、「チョットの間」が二年以上とは……。


 転移して精霊国に入る。久し振りの精霊国だ。エルフ達も一緒に里帰りをするようだ。


「ルシオ君。この実を君にやろう。食べてくれないか?」

 アダ王が差し出したのは、大ぶりの梅か李に似た果物だ。然も一個だけ。

 もったいぶって差し出された割りには、そんなたいそうな物には感じられない、何となく酸っぱそうな見た目に、食べる前から口の中につばが溢れてくる。

 ルシオは酸っぱい物が苦手だった。


「いや、貴重な物なんだろう、いいよ。折角だから他の誰かにやってくれ」

「いや、君にどうしても食べてもらいたいのだ。これは精霊樹から取れる貴重な実だ。私がアルマを注ぎ続けて、昨日やっと実ったのだ。食べた後の種も使うので飲み込まないようにな」

 李の種は意外に大きい。

 ――そんな物、飲み込めるはず無いじゃないか。僕をリスだとでも思っているのか?

 ムッとするが、ここまで言われたら食べないわけにはいかない。我慢して食べた。やっぱりとても酸っぱかった。


「うわ~酸っぱい!」

「は、は、そうだな。酸っぱいんだ精霊樹の実は。私も苦手でな」

「苦手な物を人に勧めるのはどうかと思うぞ」

 その後アダ王は、ルシオに精霊樹について話始めた。


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