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15 北の獣人

 クリステルの養い子ガルシアと、ルシオは気が合う。

 他の二人はクリステルにべったりだが、何故かガルシアは、ルシオの後ばかり付いて歩くようになった。 彼は、気持ちが落ち着いてくると、気さくな面を見せるようになった。

 少しだけアレハンドロと似た気質の様だった。

 物事を深く考えないアレハンドロとは其処が少し違うが、少しだけオレ様気質で自信家な所と、よく笑い、天才的なひらめきがある部分が似ているとルシオは思うのだ。

「君はアレハンドロ魔導師に似ているね」

「そうですか? アレハンドロ魔導師というのは確か恋人が沢山いる方ですよね。何だか似ていると言われると微妙なんだけど……」

「は、は、彼は良い奴だよ。友達思いで、カラッとした性格だ。女好きは玉に瑕だけどね」

「……僕は女は要らない。あんなもの、生意気で意地悪だ」

「意地悪された経験でもあるのかい?」

 両親と住んでいたとき、彼には幼なじみがいたそうだ。彼女は何時もガルシアにちょっかいを出して、良く意地悪されたという。

「それは君の事が好きだからじゃないのか? まるで男の子みたいだな……」

「そうなんだよ! いじめっ子で、女のくせに何時も棒を振り回している奴だった。だけど僕の許嫁だったんだ」

「ええーっ! 君の許嫁だって!」

「今は解消されてしまった。僕が魔法使いに連れて行かれて……両親も殺されて仕舞ったし」

「魔法を習得したら地下都市へ帰るんだろう? そうしたらまた会えるんじゃないか?」

「……魔力が大きいと子供が出来ないって聞いた。僕はもう許嫁とは会わないつもりだ」

「そうか……その方が良いかもな。相手を哀しませてしまうかも知れないもの……」

「……僕もそう思う」


 地底人の弟子達は、始め雪原を見ても感動しなかったそうだ。遮光眼鏡を掛けても眩しくて殆ど直ぐに異空間に逃げ込んでしまったと言ってクリステルは、がっかりしていた。

「彼等にとっては苦行だったようだ。私にとっては感動した景色だったんだがなあ」

「仕方が無いよ。人種が違うんだ。僕の所の養い子も、僕の異空間が明るすぎて苦痛だったらしいよ」

 北の大地の南側には獣がいることが判明した。カモシカのような獣や、熊、狐や狼に似た生きものもいる。そして一年中氷に閉ざされているわけでは無いことも分かった。一年の内二ヶ月ほど地面が顔を出し、苔のような植物が生えて、それを獣たちは食べているようだ。その獣を肉食獣が食べると言う食物連鎖が出来上がっていた。海側にはペンギンに似た飛べない鳥や海獣もいる様だった。

 今は地下洞窟の探索だから、養い子達は喜んでいる。地下洞窟は大小沢山あったが何処にも人の気配はない。

 ここには人は住んでいないのかも知れない。そう諦めていた。

 広大な北には若しかしたら人が隠れ住んでいるかも知れないが、見付けるのは至難の業だろう。あっちの方から出てきてくれないことには無理だと感じる。

 地上は極薄い魔素しか無く魔物は居ない。しかし、地下には魔素が充満している。何処かに魔素が染み出る場所があるはずだ。南の地下都市と気候は違うが、魔素が留まるよく似た環境なのだろう。


 ガルシア達地底人は暗がりでも目が見える。率先して探索をしてくれている。

 探索を続けて二ヶ月経った頃トリニが、

「彼処に何か居る!」

 そう叫んだ。トリニが指さす方を見ると、獣がいた。熊に似た獣だが、牙がものすごく発達している。

ルシオ達に気が付くとこちらに突進してきた。ルシオ達はそれぞれ結界を張っているため熊は結界に打つかりダメージを受けて、一瞬意識を持って行かれたようだ。熊は後退りすごすごと何処かに逃げていった。

「魔物では無さそうだ。地下をねぐらにしているんだろうか?」

 熊が居た場所に、人間の様な生きものがうずくまっているのが分かった。

 ルシオは結界を張ったまま近づくと、毛皮を纏った猿とも人間ともつかないものが苦しんでいる。

「怪我をしているようだ。治癒を掛けてみる」

 魔物かも知れないが、地下洞窟では滅多に会えない人型の生きものだ。意思の疎通も出来るかもしれないのだ。

 生きものは片腕に噛みつかれた後があり、足は骨折していた。治癒を掛けて直し、大陸語で言葉を掛けてみるが、何も答えない。

 只の獣か? 分厚い毛皮に被われていて、どう見ても人型なのだが、顔も毛に被われて目と鼻、額が僅かに見えるだけだった。

 手を添えて助け起こそうとすると、その生きものは突然立ち上がり、石壁の中に解けて消えて仕舞った。

「! なんだ、ここはダンジョンだったのか!」

「ルシオ、穢れた迷宮の魔素は感じられない。きっとアレは土魔法で石の中に入ったのではないか?」

「土魔法で、そんなこと出来るはずはない……それともクリステルには出来るのか?」

「いや、出来ないが……もしかしたらと思っただけだ。今思い出したんだ。昔、北の大地には、岩を通り抜けられる地の民がいたという話を」

「地の民、それは妖精のようなものだろうか」

「多分そうだろう。まだここに妖精の生き残りがいたのかも知れない。魔素が十分行き渡っているのだ。精霊の泉が何処かにあるはずだ」

「ルシオ魔道師」

 同行した唯一の錬金魔道師、サムエルがルシオに声を掛ける。

「危険な獣がこの洞窟内にまだいそうです。結界が解けていますよ。気を付けないと」

 そうだった。驚きすぎて結界や、体表温度監理の魔法まで解いてしまっていた。

「あれ? ここは随分気温が高いよ」

 魔法が解けているのに寒さは感じられない。皆、魔法で体表温度を保っていたので周りの温度の変化に気付けなかったのだ。

 今までで、一番大きな地下空洞だ。探索隊は気を引き締めて、何処まで続いているか分からない洞窟内を調べて回る事となった。

 洞窟は広くなったり、人一人がやっと通り抜けられるような狭い通路になったりと変化し、延々と続いていた。


「寒くないな。15度位ありそうだ。これはどう言うことだ?」

「地熱が影響しているんですよ……近くに温泉が湧き出しているのかも知れないですね」

 サムエルがそう結論づけた。

 数時間ほど探索したとき広い空間に行き着く。其処には地衣類が繁茂して、キノコも大量に生えている。

 キノコには毒が少量含まれているようだが、熱を加えると毒は消え、食用になりそうだとサムエルが言った。

「虫や小さな生きものがいるな。これを食べる獣もいそうだ」

 虫はカメムシやテントウムシに似ているものがいた。やや大きなリスに似た獣や大きなウサギが偶に見え隠れしている。

 洞窟はほんのりと明るい。遙か上から光が数筋零れている。どうやら天井にところどころ穴が開いていて、太陽光が僅かに射し込んでいるようだった。

「私が地上に出てみる」

 クリステルは天井に開いた穴を目指し、飛行魔法で飛び上がった。

 暫くして降りてきて、

「ここは山脈の北端だ。北の地の南端に当る。中央大陸にかなり寄っている場所だった。そして獣人もいた」

「!……獣人が? 種類は?」

「私が見たのは熊獣人だ。裾野を歩いて洞窟に入っていったところを目撃した」

「さっきの熊と見間違っていないか?」

「いや、二足歩行をしていた。獣人に間違いない」

「若しかすると、精霊国の獣人達と商取引していた獣人かも知れない」

「距離が離れすぎている。違うのではないか?」

「兎に角、会って話して見たい。もし、交流があるなら精霊語が通じるはずだ」

 それからは地上班と地下班に別れて探索を続けることになった。クリステルは、地下班。ルシオは地上班の担当だ。ルシオには錬金魔導師のサムエルと、魔法兵十人が付いてくることになった。

 熊獣人が入ったという洞窟の入り口から探索を始める。洞窟は通路になっていて、長い登りと下りを繰り返し数日過ぎた頃地上に出た。

 出口から見下ろすと、数キロ先に針葉樹の森が一面広がっている。

「一体ここは大陸のどこら辺だ?」

 地図を出して、目星を付けると精霊国の真北千キロ当たりだと言うことが分かる。フライトモービルに乗って森の近くまで行き、高見から観察していると集落がある気配があった。森のそこかしこから煙がゆっくりと上るのが見えたのだ。洞窟の出口に転位陣を敷き、一旦クリステルの異空間に入って相談することにした。

 クリステルに通信を送ると彼も戻ってきた。

「そっちには進展はあったか?」

「ああ、集落を見付けた。多分獣人達のものだと思う。かなりの獣人が住んでいるようだった。この辺だ」

 地図を出して指さす。クリステルの方は全く進展はなかったそうだ。

「僕の異空間から獣人を連れてきて話を聞いてみるか」

「そうだな、突然訪問して警戒されてしまうかも知れないからな」

 商取引をしたことがあると言う猫獣人に来て貰った。

「私に話をさせて貰えば、精霊国に来ていた商人かどうか分かるわ。ただ、言葉が通じたらエルフや妖精達の事は言わないで欲しいの」

「どうしてだ?」

「あの場所に妖精達が居ると言うのは秘密なの。獣人にもよ。以前難民が来ていたとき、妖精を捕まえて連れ去られたことがあったと、ばば様に聞いたわ。それからは精霊国のことを秘密にするようになったんだって」

「精霊国、あの空間に人族が入れたのか?」

「その頃は魔法使いは入れたそうよ。今は案内人がいないと入れなくなったけど」

「掴まった妖精はどうしたんだろう」

「殆どは自力で戻った……その……難民を殺して。戻れなかった妖精は死んでしまったでしょうね」

 ルシオは猫獣人に魔法袋を十袋ほど持たせ、商人を装って貰うことにした。

 新たに獣人を六人連れてきて彼等に接触をして貰うことになった。勿論ルシオ達もコッソリついて行く。認識阻害を掛ければ大丈夫だろう。

 猫獣人達は商売をしている。魔法袋は凄い人気だ。彼等は、魔法袋の取り合いになって大変な騒ぎとなって仕舞った。

 ここでも物々交換だった。猫獣人は獣の素材や塩漬け肉、そして岩塩を大量に持って帰ってくる。

 異空間に戻り話を聞くと、

「精霊国に来ていた山羊獣人はいなかったわ。でも、精霊語は流暢に話していたの。不思議だわ」

「ありがとう、取引で得た肉や塩は皆で分けて」

「はい、また何時でもお手伝いさせて!」

「ああ、その時は頼んだよ」

 猫獣人達をルシオの異空間に戻し、クリステル達と今回の事を話し合う。


「獣人は妖精達を守っている。若しくはカモフラージュとしての役割で森にいたんだ。そういう観点から言えば、この森にも妖精の国が有るのではないか?」

「私も同じ考だ。アダ王はもう生き残りはいないと言っていたが、果たしてそうだろうか? 精霊水があれば生きられるんだろう、妖精達は。そして番う事が出来る妖精達は子孫を残せる。ここにはきっと妖精がいると確信している」

「獣人達が精霊語を話しているというのがその証拠だな。ここの獣人達は妖精達と交流があるはずだ」

「ルシオ、アダ王に連絡を取るか?」

「少しだけ待って。もしいなかったらがっかりさせてしまう。見付かってからでも遅くは無いさ。先に僕の異空間にいる妖精達に地の民のことを知っているかどうか、聞いてみようと思う」

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