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13 地底都市のその後

 神殿長から、子供達のために用立ててくれと大量の本を貰った。クリステルの所にも届いていた。

「ルシオ達の功績に対して何も褒美がないと言うのは、落ち着かなくてね」

 神殿長はそう言ってこの本を持ってきてくれたのだ。ルシオにとっては願ってもない物だった。

 ルシオの養い子が魔力操作の第一段階で苦戦している頃、アレハンドロから連絡が入った。

『もうそろそろ、北の探索を始めたいと神殿長から連絡が入ったがどうする?』

「僕に聞かれても困る。クリステルに聞いてくれ。僕は通信の魔水晶を設置するだけだから。探索隊が設置場所を決めてから僕が参加することになっていたはずだ。魔水晶の準備はもう出来ているから何時でも設置は出来るんだ」

『クリステルは、まだ養い子の魔力操作が終わっていないから、もう少し待って欲しいと言っているんだ』

「そうだったのか。だったら待ってやってくれ無いか?」

『分かった。そう神殿長に伝えておくから、クリステルの準備が出来たら連絡くれ。戦闘魔導師は俺が連れてくることになっているから』

「ああ、そうする」

 皆で飲み明かしたあの夜から数ヶ月たった。クリステルは、目に見えて変わった。表情が明るくなり、何に対しても前向きになっている。一体何がきっかけだったのか、聞きたくても聞けないルシオだった。

 それにアダ王に連絡を取っても、もう少しだ、の一点張りでこちらに帰って来る気配も無かった。全くエルフという種属は時間の感覚がずれている。

「今のところ問題は起きていないから良いけど。一体なにをしているんだ。アダ王は」

 クリステルの養い子達はこの頃ルシオの異空間に偶にしか来なくなってしまったし。それも心配になっている。

「そんなに気に病んでないで精霊の国でもクリステルの所へでも貴方が行けばいいじゃない」

「そうだけど、隠し事が多いからなどちらも。アダ王は放って置いても平気だけど……クリステルが心配だ。彼は僕が異空間に入る事を赦してくれるかな」

「馬鹿ね、友達なのに気を遣いすぎよ。貴方とクリステルは、少し似ているわ」

「そうかな……」


 クリステルに訪問の許可を取ると「良いよ」と軽く言われて肩透かしを食らう。

 ――一体このモヤモヤはなんだったんだよ。腫れ物に触るように接していた自分が、馬鹿みたいじゃないか。

 クリステルの異空間に転移して直ぐに違和感を覚える。

「クリステル、何だか……また変わった?」

「ああ、変わった。開かずの部屋が開放された」

「そうか良かったな、見て見たい!」

 だが、それだけではないような気がする。何となく魔素が濃くなったように思えるのだ。

 通路を進んで行くが、通路自体も広くなっていて、両側に扉が数十も並んでいた。

「まるで宿屋みたいな作りだね」

「そうか? そうかも知れない。人が部屋に入れば其処に食糧が現れるんだ。お陰で北の探索へ行くとき、同行する魔導師達は楽になるだろう」

 奥の方に扉のない空間が見えてきた。以前、開かずの部屋の扉が在った場所だ。

「入ってくれ」

 クリステルに促されて足を踏み入れると、其処は森の中だった。

 それほど大きくは無い森だったが、果樹がたわわに生っている。

 クリステルは一つもぎ取ってルシオに差し出す。もぎ取った後の枝に、直ぐに同じ果樹がみるみる出来上がっていく。

「なんだ、ここ!」

「不思議だろう。幾ら取っても直ぐに復活するんだ。養い子達は好きなときに好きなだけ食べる事が出来る。凄く助かっているんだ」

 暫く呆然としながら森の中を歩き回った。南国しか取れないものから、寒い場所で栽培されている果物など地域を無視して木に生っている。果物だけではない。野菜や薬草や、その他有りと有らゆる物が実っている。

  正に、神の手が作り出した物だとハッキリ分る。

 森の中心だろう場所には泉と呼ぶには小さすぎる水たまりがあり、こんこんと水が湧き出していた。

 すくい取って飲んでみると魔素が含まれているのが分かった。

「まるで精霊の水みたいだな、これ」

「ルシオの異空間の小型版、みたいだろう?」

「うん、似ているけど、丁度いいなここ。明るすぎず、広すぎないところが良い」

 泉の辺には少し大きくなった聖獣たちもいて寛いでいた。養い子たちはその側で、魔力操作の練習の真っ最中だった。

「この頃来なくなったわけが分かったよ。こんな気持ちの良い場所なら離れがたいだろうね」

「そうだけど、それだけではないんだ。君の所の養い子にライバル心を燃やしているようだ」

 愛おしそうに子供たちを見て、苦笑しながらクリステルがそう言った。

 魔力操作の第一段階は既に出来ている。もうそろそろ第二段階に進んでもいいのでは無いだろうか。その事をクリステルに言うと、

「その前に、結界と体表の温度管理を教えようと考えている。アレハンドロから度々通信が入っているからもう潮時だ。北の探索へ連れて行こうかと思っているんだ」

「僕の所にも連絡が来た。この分だと後一ヶ月くらいでいけそうだな」

「ああ、養い子たちも楽しみにしている」

「魔法鞄とフライトモービル、子供達の分を持ってきた。魔素を吸収するタイプだけど、魔素はクリステルが一杯持っているだろう?」

「ありがとう、凄く助かる」

 クリステルたちは一ヶ月後、クリステルの異空間に戦闘魔導師十人錬金魔道師一人、魔法兵士十人がやってきた。彼等は皆フライトモービルを持っていると言った。一緒に来た錬金魔道師が作ったそうだ。

「これは画期的なものです。ルシオ魔道師の発明だそうですね」

「まあ、そう言うことになるかな。よく素材が見付かったね」

 見せて貰ったフライトモービルはまるで硬化プラスチックのような素材で出来ていた。風よけの部分は透明だ。どうやって作ったのか聞いて見ると、

「これは新しい技術です。以前私が発表したものですが、防具くらいしか使い処が見付からなかったものでした。今回これを魔物素材に施してみたのです」

 硬化魔法だそうだ。初めて聞く魔法だった。結界魔法の応用変化だそうだが、ブルホでは新しい発見が次々発表されているのだろう。

「君が発見したのか、凄いじゃないか。この使用料はいくら? 僕も使ってみたいんだけど」

「神殿長から言いつかっています。ルシオ魔道師からは使用料は取らないと言われました。どうぞ好きに使って下さい。そしてまた新しいものを作って教えて下さい。私はルシオ魔道師に感化されて魔法の研究に取り組んでいるのです」

 三十五歳の彼は、キラキラした目でルシオを見ている。

 彼に教わりながら、クリステル達に作ったフライトモービルに硬化魔法を掛けさせて貰った。薄らと表面に結界が張られているのが分かる。

 風よけは、一旦結界を張って、更に硬化魔法を掛ければ、固定され透明なガラスのようになった。

 硬化魔法を掛ければ、魔力はその後使わないそうだ。使い勝手の良い魔法だ。

 そうしてクリステル達は、北の探索に出かけていった。


 ルシオ達は未だに南にいる。ここの住民達のその後の動向を観察するのも大事な仕事だった。

 ルシオ達は、何処へ行こうと異空間にいれば問題は無いのだ。その内北へ転移するだろうが、それまでは異空間から出れば、地下都市の中に設置した転位陣の上だ。偶にブルホに呼び出されたりもするし、シュバリスのアレハンドロの所へも行くことはあるが。

 養い子達の魔力操作は、第一段階で止っている。頭打ち状態だった。

「僕のときも時間が掛かった。これくらいは普通だよ。クリステルやソフィアが特別なんだ」

「私が特別?」

「ああ、君は凄く早かったもの。何を教えても、覚えるのもあっという間だったし」

「そんなことは無いと思うわ。ルシオの場合、幼なすぎただけではないの? それか、指導者に問題があったか」

 そう言えば、初めの養い親のウゴは放任主義で、殆ど教えて貰った記憶が無い。ルシオは自学で魔法を身につけたようなものだった。それはそれで自由に伸び伸び出来たのだから、問題は無い。

 ルシオの養い子は、魔力がそれほど大きくは無い。魔導師にはなれないだろうが、それでも地下都市では貴重な存在になるはずだ。彼等が成長して次代を育てるようになれば少しずつ魔法が使える地底人が増えていくだろう。

「君達は教師を目指せ。そうすれば地下都市に戻っても生活に困らないだろう」

「僕……ここから出ないといけないの?」

「いたければ何時までもいても良いけど、連絡をくれたら何時でも僕らは逢いに来るし、君達が大人になればきっと故郷の発展の力になれると思うんだ。どうだろう?」

「私は故郷に帰って教師になりたい。孤児達は沢山いる。私のように魔力がある子供は他にもいるはずだもの」

 この中では一番の年長者フリアは教師になると決心したようだ。

 ソフィアは、知識の魔水晶から必要な知識を引き出し、ルシオが以前作った知識の集積の宝玉とモノクルを新たに作っている最中だった。子供達が独立した後、困らない為の準備だそうだ。

「ルシオ、地下都市の状態がどうなったか、また見て来ないと。魔法使いがいなくなったことは知れ渡った頃だわ」

「そうだな、問題が起きていないか確認して、出来れば魔導師を派遣して貰えるように神殿長に聞いて見ないとな。君達も、一度戻って見たいだろう?」

「うん、行ってみたい。孤児院がどうなったか気になる」

 子供達も一緒に連れて行くことにした。万が一何かあっては大変だ。

 習ったばかりの硬化魔法を、子供達の革製の華奢な防具に掛けておく。硬化魔法の素晴らしいところは重量が変化しないという所だ。これなら大概の攻撃は防ぐことが出来るだろう。

 この間ルシオは地下の探索のためにカラーコンタクトに暗視魔法を加えた。これで、暗い場所でも一々魔法を使わなくても歩けるようになれるはずだ。

「ルシオ、これもパブロ魔導師に後で報告した方が良いわ。また叱られてしまうわよ」

「分かったよ……チョット面倒だけどね」


 三つの地下都市を見て回ったが、住民には変化は見られない。小間物屋の店主に、それとなく聞くと、魔法使いの代わりに有力貴族が主導権を持ったようだ。

「今度の王はどんな具合だ?」

「前よりかは良いような気はするが、あんまり変わらねぇな。王は以前から街には顔を見せなかったし、今まで街を取り締まっている奴らはそのままだしな」

 魔法使い達は居ても居なくても関係なかったようだ。

「じゃあ、今まで通りに暮らせますね」

「ああ、でも、子供が攫われることはなくなったぜ。アレは王がやっていたんだって話だぜ。警備兵が恐ろしい場面を見たって言っていた。魔法の生け贄にされたんだってよ。ひでぇよなぁ」

 王の居城へも行ってみた。結界はなくなっていて、ここには貴族と言われる元難民達が占拠して住んでいた。

 認識阻害を掛けて貴族達を見て周り、偶に心を読んでみたが、彼等は王がい無くなってホッとしているようだ。

 貴族達は王を恐れていたのだ。逆らえば殺されて仕舞うから大人しく従っていただけのようだった。

 選民意識は残っているようだが、それは何処の世界でもあることだ。

「勢力が変わったようだけど、彼等はちゃんと遣っていけているようね」

「まあ、暫くはこのままだろう。人族だろうが地底人だろうが、街をきちんと守ってくれればそれで良いさ」

「孤児院へ行ってみたい」

「ああ、そうだなフリア。案内してくれるかい?」

「うん!」

  孤児院を回り、以前と変わらず運営されている姿を見て、フリアも安心したようだ。懇意にして居た仲間や、管理人達と話をして、

「魔法を覚えたら直ぐに戻ってくるからね」

 そう言っているのを見てソフィアは、寂しそうな表情をしている。

「フリアは後二年もすれば、ここへ戻るでしょうね」

「そうかも知れないな……」

 フリアは魔力が一番少ない。魔力の少ないものは、それほど高度な魔法は使えない。勉強しようと思えば知識として蓄える事が出来るが、必要ないと考えればそれで終わりなのだ。

 魔法は、普段使いの良いものだけ学べば、他は必要無い物かも知れない。


 それから二ヶ月、通信の魔水晶を設置する場所が決まったと、クリステルから連絡が入った。

 魔水晶は準備出来ている。早速転移して通信の中継魔水晶を設置した。

 これで、ペニーニョ島とダイレクトに通信が出来る様になった。



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