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12 クリステルの養い子

 クリステルの養い子は十五歳のガルシアと十三歳のネポム、同じく十三歳のトリニと、三人いる。

 ネポムは泣き虫でさみしがり屋で、何時もめそめそと泣いている。

 トリニは妹を殺してしまったことに心を病んでしまっていた。何時も暗い隅っこで膝を抱えている。時よりビクリとして何かに怯えるようにしている。完全に心が壊れてしまったのだろうか。

 一番の年かさのガルシアは、人殺しをする寸前でルシオ達に保護されていたので、其処まで深くは傷ついていないようだが、この中では魔力が大きく、彼を欲しがった魔法使いに両親を殺されて仕舞った。

 彼は両親に愛されて育った中流家庭の子供だった。彼は魔法使いなどなりたくないと両親に言ったのだそうだ。彼のために両親は魔法使いに楯突いて殺されたのだ。その事で自分を責めているようだった。

 クリステルは少年達を異空間の部屋にそれぞれ連れて行き、今はそっとしておいている。

 その内、魔道師になるための一歩として、魔法文字から覚えさせなければならないが、まだそれは出来ないようだ。

 余りにも深く心を切り刻まれてしまった子供達。

 クリステルが預かった養い子達は基本属性の魔法は出来ていた。魔法使いに教え込まれていたようだが、基本を飛ばして攻撃魔法ばかりに偏って教えられていたのだ。

 クリステルは、彼等に対して責任があると思っている。

 つい、いつもの癖で自分の心に壁を造りそうになるが、すんでの所で踏みとどまっていた。

 自分が殻に閉じこもってしまえば、少年達の面倒は見ることが出来ない。必死になって気を持ち直し、自分を鼓舞している。「彼等と共に前に進むのだ」と。


 クリステルの異空間は不思議なことに、子供達の部屋にも食事が現れる。粗末な物だが、飢える心配は無かった。

 だが、育ち盛りの子供には毎日同じ物では物足りないだろう。これはルシオやソフィアに甘えても良いのではと、この頃では呼ばれもしないのに頻繁にルシオの異空間で食事をしている。

 ソフィアが作る物だけでは無く、湖の周りに出来た町には、食事処まで出来ているのだ。其処で食事をしたりもしている。

 子供達はここではルシオが作った遮光眼鏡を掛けている。地底人には目がくらむ明るさを防いでくれる物だ。

 ルシオの所にも養い子が三人いた。まだ八歳のライアと、十歳のロマ、十二歳のフリアだ。十歳のロマは男の子で、後は女の子だ。

 ソフィアは、子供達を猫っかわいがりに甘やかしている。

 ルシオの養い子達は、親がいない淋しさを早々に克服して、今では本当の家族のようになった。ルシオは父親としての威厳を出して、魔法の講義を厳しくしているようだが、偶にソフィアに睨まれてすごすごと退散している。その様子がおかしくて、つい笑ってしまう自分がいるのだ。

「なんて心が癒やされるのだろう、ここは」

 ルシオの異空間には清浄な魔素が溢れ、人の気配が沢山あり、淋しさなどは微塵も感じない。以前はここに来るのが苦しく、人の気配が煩わしかったのに、今では気持ちよいと感じる自分がいる。

 ここに来れば、泣き虫のネポムも微笑むのだ。心を病んでしまったトリニも少し普通に見える。


『彼等を、無理矢理私の養い子にして、本当に良かったのだろうか』

 クリステルは、少し後悔をしていた。子供を育てるのがいやなのではなく、子供にとっては良くなかったのではないか? 自分には、資格がないのではと考えて仕舞うのだ。

「何を考えている? クリステル」

「……私は養い親として不十分ではないかと、この頃思うんだ」

「また、難しいことを考えているな。子供を育てた経験が無いんだから、当たり前じゃないか。僕だって全く資格がない。でも、子供らといると癒やされる。僕はこの生活を楽しんでいるよ。クリステルも考え込まないで、楽しめば良いんだ」

「楽しむことなど無理だ。私の養い子は皆、心に傷を負っている。私には癒してやれそうもない、余りにも深い傷だ」

「そうだね、でも、皆多かれ少なかれ傷はある。手に負えないようなら何時でもここに連れて来れば良い。ここには妖精達や、獣人や聖獣だっているんだ。一人で抱え込むなよ」

「……そうだったな。一人で考え込むなと言われていたな」

「あ、そうだ、忘れて居た。クリステル、僕の神から君達にプレゼントを預かっている。皆が落ち着いたら渡そうと思っていたんだ」

「プレゼント? 神からとは……っ神からだと!」

 神からのプレゼントは、聖獣と呼ばれる生きものだった。子供達にはトカゲ、亀、蛇とそれぞれ迷宮の異空間でも馴染める生きものだったが、クリステルにはフクロウが与えられた。

「私にまで……凄く嬉しいが、良いのだろうか?」

「生きものがいれば心が癒やされる。子供達の心は少しずつ開いていって健康になるだろう。直ぐに結果を求めないでゆっくり行こうよ」

「ああ、神に感謝の祈りを捧げよう」

 

 神からのプレゼントのフクロウはまだ雛だった。灰色の幼羽がまだ少し付いていてもう直ぐ換羽出来そうな時期の雛だが、身体はもう大人と同じくらいに育っている。

 止まり木に留まって、小首をかしげている。

「可愛いなお前は」

 中指でくりくりと撫でると気持ちよさそうに目を閉じる。ときより羽を広げてバッサバッサとしているので飛ぶ練習もさせないといけないのだろうか? 親から早く引き離されたのではないのか?

 何となく、このフクロウと養い子を重ねてしまう自分がいた。

 養い子達はそれぞれの聖獣を大事にしている様だ。時より話しかけているのを見かける。彼等の聖獣は皆小さくて、ポケットに入る大きさなので何時も連れ歩いている。

 魔法文字の講義をしていると飽きてきたのかポケットを摩りながらボンヤリしていたり、ポケットに手を入れてゴソゴソしたりしている養い子達。

「こら、きちんと聞かないと、いつまで経っても魔法は使えないんだぞ」

 少し厳しく言うと、ビクッとしてポケットから手を離したりする。噴き出しそうになるが、其処は我慢して厳しい顔を崩さない。

 基本の魔法文字が出来る様になる頃は、養い子同士で笑い合えるようになっていた。

 神殿長から貰った大量の本も彼等は少しずつだが読めるようになってきている。素晴らしい成長だ。若く生命力に溢れている彼等の心は、柔らかい。傷はどんどん小さくなっているようだ。

 聖獣の癒やし効果が染み込んだお陰なのだろう。

「明日からは、魔力操作を教えよう。ルシオの養い子はもう練習しているそうだぞ。お前達も頑張らないと年下に負けてしまうぞ」

「大丈夫だって、僕らは魔力が大きいんでしょ。チビ達には負けないよ! 絶対」

「そうだ、直ぐに追いつくさ!」

「魔法なんて簡単さ」

 生意気な口も聞くようになった。クリステルはほっこりとすることが多くなった。


 魔力操作は人によっては時間が掛かる。クリステルの場合は一ヶ月もかからず出来たが、ルシオの話を聞くと、教える魔道師によってやり方がそれぞれ違うようだった。

 その頃のパブロ魔導師は堅物で有名で、「四角四面に考える、融通の利かない神官だ」と戦闘魔導師には煙たがれれていた。

 彼はルシオ達に特に難しい事を要求したようだが、子供達の指導はどうしたら良いかルシオに相談することにした。

「簡単なやり方で良いと思う。魔力操作は大事だけど、神官魔導師を目指すわけではないんだから、必要以上に難しいとやる気が失せてしまう。それよりも、魔法が使えるようになって自分でもっと高みを目指すようになってから、もう一度挑戦させた方が良いんじゃないかな」

「私の養い親は戦闘魔導師だったから、パブロ魔道師の魔力操作は教えられていないと思う。私に教えてくれないか?」

「良いよ」

 ルシオから教えて貰った魔力操作は第一段階はクリステルが教えて貰ったものと同じだったが、第二、第三と進むにつれ難しくなっていった。今の彼には最終段階は出来そうにない。クリステルは、改めて魔力操作の学び直しをしようと決心した。

「子供に教えるのに、自分で出来ないことは教える事が出来ないしな」

「でも、クリステルは、土魔法が得意なのに……あんなに繊細な魔法が使えているのに、不思議だな」

「多分、神の鉄槌を使う上で必要な魔力操作なのではないのか?」

「ああ、そうかもね」

 アレハンドロから通信が入り、こっちへ来たいと言ってきた。何時でもどうぞと。ルシオが答えている。直ぐに彼が転移してきた。

「アレハンドロ、何かあったのか?」

「何にもネェよ。何か無ければ来てはダメか?」

「いや、好きなときに来て良いよ。ここはオープンだし。プライバシーはもう無くなってしまったんだし」

「しっかし、賑やかな異空間だな。街が出来ているじゃネェか」

 アレハンドロは、久し振りに飲もうと言って、酒樽を差し出してきた。

 養い子をルシオの屋敷に泊まらせることにして、今夜は酒盛りだ。街からごちそうを届けて貰うと、何処から聞きつけたか、獣人達まで参加すると言って酒を持ってきた。

 獣人達が造る酒はアルコール度数が高く、とてもでは無いがストレートでは飲めない。

 外にテーブルを出して、皆でワイワイがやがやと大変な騒ぎになって仕舞った。

「愉しい? クリステル」

「ああ、何だか久し振りに気持ちが軽くなったようだ。アレハンドロは、人を愉しくさせる才能がある。彼はこう言う事が得意だな」

「そうだよね、彼は軽すぎて腹が立つことがあるけど、何にも考えないで結果を出すって言う特技があるんだ」

「何だとう! 失礼な奴だなお前は。俺だって考える事は、偶にはあるんだぞ」

「偶に……ね。流石アレハンドロだ」

「ブホッ!」

「こら、クリステル、きたねぇじゃネェか!」

 アレハンドロの底抜けの明るさと軽さは、クリステルには無いものだ。少し羨ましくなったが、無い物ねだりしても仕方が無い。

 アレハンドロの異空間から女性達が出て来て、ソフィアと軽く挨拶した後は女性達だけで楽しんでいるようだ。

「アレハンドロ魔導師は、五人も恋人がいるんだね」

「ああ、俺は絶倫だから、一人では負担が掛かって可哀想だろう」

「自慢か!」

「ルシオ、お前、俺より若いくせにそっちは弱そうだな、どうだ?」

「そんなことは無いよ。ソフィアは……もう何を言わせるんだ。何も言わないからな!」

 顔を赤くしたルシオも珍しい。二人の掛け合いを聞きながらクリステルは、心地よい眠気が襲ってきてそのまま寝てしまった。その夜は珍しく愉しい夢を見た。

 クリステルが、高い山の上で大声で叫んでいる夢だった。心から笑いながら叫ぶと、こだまが帰って来る。

「おーい、おーい。私はここにいる早く来てくれ!」

 何度もそう叫ぶ変な夢だ。次の日目覚めてもハッキリ覚えていた。

 彼の周りには草の上に雑魚寝状態で眠って居る獣人やルシオ達がいた。異空間は気温が一定で穏やかだから、皆心地よさそうに眠って居る。

「何を待っていたんだ? 夢の中の自分は」

 夢とはそう言うものだ。特別な理由などないのだから、とそれ以上夢について深くは考えなかった。


 それからのクリステルは養い子達を本格的に鍛えることに決め、スパルタで推し進めている。

 可哀想だからと今まで気を遣っていたが、それではダメだと思い直し、遠慮なんかしなくなったのだ。

「君達が魔力操作が出来て、結界の魔法が使えるようになったら、北の探索に連れて行く。だから早く出来る様になってくれ」

「「「はい!!」」」

 まだ見ぬ北の大地。氷や雪とはどんな物だろうと子供達はワクワクしているようだ。

 子供達は自分の身を守れるようになるだけで良いのだ。寒さに耐える魔法も教え込めば、異空間の外に連れ出せるだろう。

 彼等にあの氷の世界を見せてやりたい。生きものなど無い厳しい世界だが、其処は素晴らしく美しい場所なのだ。

 その後暫くしてクリステルは、異空間の開かずの扉がいつの間にか開いているのを知ったのだった。

 

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