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10 魔法使い達

 呪いの魔法使いの住処は厳重に結界の張られた場所にある。

  彼等は結界からは滅多に出ない。お互いの力を熟知しているが故、牽制し合い用心している。

 三人の魔法使い達は、元は兄弟子同士で、始めは諍いなどせずに平和にやっていた。だが、ここ数十年の間険悪になった。

 疑心暗鬼になり始めた原因は幾ら考えても分からない。

 いつの間にやら、心から湧き上がる憎悪に取り付かれてしまうようになったのだ。


 贅の限りを尽くし、新しい楽しみなど見付けることが出来なくなってしまった。一千五百年以上にも及ぶ長い生に膿んで仕舞ったのかも知れない。


「始め、この地底人達を見付けたときは驚いたものだったな。人間がこんな場所に存在していたとは。この場所が見付けられたのは、神の思し召しだと思ったよ」


 近くにいる弟子に話しているこの魔法使いは、ホアンと言う名だ。

 ホアンは弟子達の中でも最年少だった。彼はそれほど魔法の才能があったわけでは無かったが、兄弟子に呪いの実験台にされ、最初に呪文を描かれたのだ。

 何度も失敗し、何百人もの魔力持ちの子供を使って、やっと完成した呪文ができたときはもう五十歳になっていたし、その後、兄弟子の呪文を完成した時には六十歳に差し掛かっていた。そして兄弟子達は、

「呪文が完成したのは良いが、このままではサンティシマ大師に呪文を解かれて、悪くすれば始末されてしまう。南へ逃げようと思うがお前はどうする?」

「私も一緒に逃げる」


 そうして南へ逃げ、地底にあったこの街を見付けたのだ。

 逃げ込んで数百年ほど経った頃、聖地が消えて仕舞ったと言って難民達がやってくるようになった。

「私達はなんて幸運だったのだろう。災害も免れた」

 これで自分達は安泰だと胸をなで下ろしたものだった。難民達はこの国では貴族の扱いにしてやった。彼等は喜び、魔法使い達に忠誠を誓った。


 サンティシマ大師はもういなくなっているかも知れない。星が墜ちてくるほどの災厄だ。いくら何でも生きてはいまい。死なない呪いと言っても其処までではないだろう。

 今は、こうして国を治め、誰も逆らえない自分だけの世界が出来上がった。


「お前はどうだ? 死なない身体を貰って嬉しいか?」

 だが、新しく呪いを施された年若い弟子は答えない。自分で考える力を奪われた、操り人形にされているのだから、当たり前だ。

 この弟子は肉の盾だ。死なない戦闘員になったのだ。自分は安全な場所で、何時までも続く戦いを高みの見物するだけで良いのだ。

 ホアンも死なない身体だが、万が一精神魔法を喰らえば自分まで操り人形にされてしまう。それを避ける為の肉の盾だった。

 まだ、操り人形を作っていない兄弟子がいる。彼奴を先に始末すれば楽になりそうだ。

 ホアンは近いうちに打って出たいと思っている。二人の内一人を先に片付けたい。だがどうやれば良いのか皆目見当が付かなかった。

 魔法では適わないし、死なない奴らだ。精神魔法は兄弟子の方が腕は上だろう。

 同じ考えに取り付かれ悶々とする日々だった。



 ルシオ達は結界の張られた通路を見付け、確信を持った。  ――王の居城はきっとこの奥にあるはずだ。

「この結界はお粗末ね。通路の一カ所にしか結界がないわよ。壊そうと思えば壊せるけど、どうする?」

「魔法使いに気付かれれば元も子もない。この岩をくりぬけばどうだろう?」

 土魔法が得意な二人は岩に穴を開けて結界を避けるようだ。

「岩をくり貫くのは良い方法だな。クリステル、それをやってくれ」

 魔法使いの城は巨大で、豪華絢爛だった。認識阻害を掛けたクリステルは、王の部屋を直ぐに見付け戻ってきた。

「ドアにも結界が張ってある。私が先に乗り込んでも良いか?」

「僕が行くよ。君達はここで待っていて」

【ルシオ、中に二人いる。両手に魔力を流して、後は神に任せるんじゃ】

「はい!」


 ルシオが普通にドアを開け静に部屋に入る。ドアに掛かっていた結界はいとも簡単に解けていた。

 魔法使いは始め何が起きているのか分からないようだったが少しして、

「っ刺客か!」

 ルシオの両手からまばゆい光が放たれ、二人の魔法使いに降りかかった。ルシオの記憶は其処までだった。


 気が付くと、一人の魔法使いは灰になり、もう一人は気を失ってその場に倒れている。

「ソフィア、クリステル、もう終わった」

 クリステル達が部屋に入ってくる。倒れている少年を見て、ソフィアは、

「この子、魔力があるわ。若しかして呪いを掛けられていたという子供? こっちの灰は?」

「魔法使いのなれの果てだね。その子の呪いも解けたみたいだ」

「初めからルシオに頼むべきだった。凄いなルシオは」

「いや、神に身を任せていただけで、僕は何もしていないんだ」

「神に身を任せる? 本当なのか?」

「そうだよ。僕にはどうやってこうなったのか全く分からない。総て神のやったことだ。多分、神官魔導師の神の鉄槌と同じようなものだと思うけど」


 少年を異空間に保護し、ルシオ達はここを出て次の地下都市を目指す事となった。

「実は転位陣がある。鍵を変えていたんだ」

「そうじゃ無いかと思っていた。クリステルは、危険だから僕達には来て欲しくないと考えたんだろう?」

「……本当に私は馬鹿だった」

「そんなに自分を責めないで。これからはみんなで力を合わせていけば良いのよ」


 次の地下都市には転位陣で一瞬で移動出来た。

 同じような造りの地下都市で、王の居城も似たような場所にあり結界も同じだ。

 彼等は、これほど長く生きていても工夫や独創性は皆無だった。

 結果も同じ。傀儡にされていた少年を保護し、最期の地下都市へ転移する。

 最期の地下都市は少しだけ離れた場所にあるようだ。

 地下に住む住人は、クリステルによると地底人という種属だそうだ。

 暗闇に特化した目を持ち、気配を感じる力が優れていると言う。貴族の地位に就いていたのは、中央から逃れてきた移民だと分かったそうだ。

 地底人の体毛は薄く、色素も薄い。体格は華奢でひょろりとしている。どちらかというと大人しい種属だそうだ。

「彼等は魔法使いを畏怖している。もし魔法使いがいなくなったと知ればどうなるだろう」

「それなりに生きていくでしょう。魔法使いがいなくても、ちゃんとやっていけるわ」

「まあ、少しは混乱すると思うけど、魔力を持っている人もいるんだから、これから学べば、魔法が街を更に発展させるだろうし。元難民の貴族は魔法が使えなければ、その内立場が逆転してしまうだろうな」

「その為には魔力のある子供達に魔法を教えなければね。まずは一歩、そこからよ」

「僕達にそれをこれからしろ言うのか? チョット無理があるよソフィア」

「……だったら、ブルホの魔道師を派遣して貰えばいいじゃ無い」

 幾ら魔力があっても、魔法は学ばなければ使う事が出来ないのだ。

 王の居城に着き、同じように神の鉄槌が下された。だがここには傀儡にされた少年はいなかった。

「おかしい。いるはずなんだ。この都市でも魔力を持った子供達が集められていたんだから」

「まだ、殺されていないんじゃ無い? 助けられるかも」

 しかし何処を探しても見付からない。

「地上に連れて行かれてしまった?」

「急がないと!」

 地上に転移し、ジャングルの上をフライトモービルで探し回った。

「いた! 固まっている集団。あれじゃないか?」


 ジャングルの木々が切り払われポッカリと其処だけ空間になっていた。その中で二百人くらいの子供達が円陣を組んでいる。その周りを武装した兵士が見張っていた。

 ルシオ達は子供達の近くに降り立ち結界を張った。

 兵士達は突然空から降りてきたフライトモービルの異形に驚き、怯えて逃げて仕舞った。

 ここには、まだ小さな子供が多くいた。少女や少年に交じり十五歳くらいのひょろりとした青年に差し掛かった子供も。

「君達、もう大丈夫だ今拘束を解いてやるから」

 子供達は手足を拘束され木に縛り付けられていたが、怯えるそぶりもなく、ボンヤリとルシオを見るだけだった。

 だが、拘束されていなかった十五歳くらいの少年が、ルシオに攻撃してきた。

「邪魔をするな。こいつらは僕の糧になる運命だ!」

 クリステルがすかさず攻撃を防御して、少年に軽く雷撃を当てると、少年は気絶してしまった。


 拘束された少年達は、精神魔法が掛けられていた。彼等の魔法を解く前に異空間に入って貰う。ジャングルでパニックになられたらやっかいだと考えたからだ。


 異空間で精神魔法を解くと、やはり子供達はパニックに陥った。

 彼等は、突然知らない場所にいることに怯え、泣きわめき走って逃げようとした。しかし、地底人にとって、余りにも明るい異空間では目がくらんでしまうようで、直ぐにうずくまってしまう。

 落ち着かせ、屋敷の中のなるべく薄暗い場所に連れて行き、話を聞くことにした。


「僕らは魔法を教えて貰えるからと集められたんだ。親は僕らを大金と引き換えに売った」

 途中までは、ルシオ達と同じ境遇だ。だが、彼等は贄として売られたのだ。親は知らなかっただろう。多分……そうであって欲しい。知っていて売られたのなら悲しすぎる。

「君達は帰る事が出来るよ。もう魔法使いはいなくなった。親のもとに帰っても誰も罰せられない」

 殆どの子供は喜んだが、数人は

「私、親はいない。孤児の奴隷……」

 そう言う子供もいた。

 帰りたい子供はクリステルが連れて行った。そして問題の魔法使いの傀儡だった子供と、魔法使い候補の子供をどうするか、悩むこととなった。

 殆どの子供が家に帰され、残ったのは行く当てのない十二歳と八歳の女の子二人と、十歳の少年。そして例の少年達三人だ。


 行く当てのなかった子供達はソフィアに任せ、ルシオは三人の少年に話を聞く。

「君達は魔法に掛かっていたんだ。何か覚えていないか?」

「「「…………」」」

 暫く時間を掛けて我慢強く待っていると、一人の少年がガタガタと震えだした。

「君は何をしたか覚えているんだね」

「は、はい。恐ろしいことを……ボクは……なんて言うことをしたんだ!」

 彼は贄にされた子供達の内臓を切り取って集め魔法使いのところに持って行ったという。その後魔法使いに呪文を描かれ『死なない身体』になった。

 一人が言い出すと他の二人も顔を青ざめて次々としゃべり出した。

 銘々がしゃべるのを纏めると、彼等も精神魔法に掛かっていたようだが、やっていることに違和感を抱かなかったという。これが一番正しいことだと思わされていたようだ。

 だが今、術が解け魔法も解けると、少年は自分の所業を新ためて認識することとなった。その記憶によって少年達は嘔吐いてしまう。

「ぼ、ボクはぁ! 妹をォ……こ、この手で……殺したあぁああ!」

 何という深い傷を負わされてしまったのだろう。可哀想で堪らない。せめて覚えていなかったのなら、救いがあっただろうか?

「君達には帰る家があるんだろう?」

「か、帰れない。とてもでは無いが……ここにいてはいけませんか?」

「ボクも帰りたくない。あんな親要らない! 妹とボク二人とも大金で売ったんだ……」

「私は帰る家などもう無くなった。両親はあの魔法使いに殺されて仕舞った。私を手放さないと父さんが言ったから……」

 この少年は特に魔力が大きい様だ。だから魔法使いはどうしても欲しかったのだろう。まだ悲惨な体験をして居ないだけ増しなようだが、心はやはり冷たく塞がってしまっている。

 暫くして彼はブルブルと震えて泣き崩れてしまった。


「何故こんな酷いことを子供にさせたんだ? せめて魔法使いが自分で始末すれば良かったじゃないか。そうすれば彼等の心の傷はもう少し軽く済んだだろうに」

 ルシオは憤る気持ちを声に乗せて怒鳴る。ソフィアもそうだとばかりに頷いた。

「子供に殺させた理由は解っている」

 クリステルが静かに言い出す。

「私がサンティシマ・ロペスの時代、魔法使い狩りが横行したことがある。私も何度か狙われた。魔力がある人間を殺すとレベルが上がるのだ」

「そんな……まるで魔物狩り見たいじゃ無いの」

「同じなんだよ。魔物も魔力があるからね。私の時代には魔物は居なかったが。魔法使いは狙わるのを恐れて隠れて住むようになったものだ。私はその事もあって呪いの研究に着手したのだ」

「それで、あの少年ガルシアは、子供達を自分の糧になると言ったのか」

 過去の魔法使い達は、人間性が欠落していたのだろうか? 恐ろしいとルシオは思った。

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