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9 南の探索

 異空間には大小三つの湖が見付かった。外にも、もっと小さな沼や池も沢山見付かった。それらに浄化した魔水晶を沈める。

 今直ぐには魔素が行き渡らない。一年以上かかるはずだ。しかしこれで人口が増えても安心して過ごせるようになった。

「問題は無くなったな」

「ルシオ、あそこにいるのは何という獣かしら?」

「ん?」

 異空間に、放した覚えのない獣がいた。どう見ても肉食獣だ。牙が鋭く、真っ白な見た目の狼が、群れで走り回っている。どうやら狩りをしているようだ。

「ご先祖様が言っていたのは、僕の案と同じじゃないか! どうするんだよこれ」

「肉食獣……結界を張らなければ危険よ、ルシオ」

 急いで戻り、湖の周りに結界を張ろうとすると、

【案ずるな。アレは人を襲わない。聖獣というものでな、他にもまだ違う聖獣をここに呼ぶ予定だ。彼等は獣を食べるが、人と友好関係を築く】

「でも、バーリョは……」

【アレ達も似たような物に進化しておる。案ずるな】


 南の探索に行ったクリステルからは連絡が途絶えている。通信を送っても返事がない。クリステルの異空間へ転移すれば良いのだが、連絡もせずに異空間へ勝手に入ることは憚れた。

 ギリギリまで待ってみたが、一向にクリステルからは連絡が無かったため心配になってきた。

 西の探索は数ヶ月で打ち切りとなり、今度はクリステルの居る南の探索をすることとなった。

「ルシオ、クリステルの異空間に行ってみようとしたけど入れないみたい。どうしたのかしら」

「転位陣の鍵を作り変えたのかも知れない。もしそうなら、僕達には来て欲しくないと言うことか……」

「危険な事態になっているのかしら」

 クリステルは、一人で抱え込みすぎるきらいがある。問題があれば、総て自分で片を付けようとするのだ。以前の穢れた聖地のこともある。独りよがりの考えに固執して、見当違いな責任感で孤独に陥ったことが良い例だ。

 大変な事態になったら助けに行くと言ったのが不味かったのかも知れない。

「兎に角、始めにクリステルが設置した南の転位陣が残っている。そこまで行ってみるか」


 南の沿岸沿いにある崖の上に転位陣は設置されていた。外は地下に設置したのだろうが、何故か転位陣の反応がない。まだ転位陣を敷いていないのか、若しくはルシオ達が来る事を予想して鍵を変えてしまったのだろうか。

「ここからはそう遠くないところに地下に入る入り口があるはずだ。手分けして見て回ろう」

 二台のフライトモービルを新たに作り、獣人二人に乗り方を教え、四人の鳥獣人と一緒に四方に散らばって探索していくことにした。

「すげぇな! おいらが空を飛べるなんて」

 猫獣人と犬獣人はフライトモービルに乗って、鳥獣人と行動を共にしている。腕力が必要になったときのためだ。鳥獣人は比較的ひ弱な部類だ。何かあったら助け合って貰おう。

 彼等には、魔力を使わない指輪型の簡易通信器も渡しておく。見付けたら直ぐに知らせが来るはずだ。

 出発してから一時間としないうちに通信が入った。

「もう見付かったのか!」

「いや。入り口はまだ見付かっていねぇですが、人族が沢山死んでいるのを見付けた。こっちへ来て下さい!」

 東に進んだ猫獣人を目指し駆けつけると上空でフライトモービルが旋回しながら待っていた。

「この下です」

 降りてみると、人族が二百人ほど酷い有り様で死んでいる。

 ルシオ達は一人一人確認していく。生き残りがいるかも知れない。

 だが、死んでから暫く時間が経っていて、生き残りはいなかった。

「処刑されたのだろうか」

 武装をしている様子はなく、手足を拘束されて、木に縛られていたようだが、ここに放置された後に獣にやられた様だ。

「ひでぇ事するな。こんなジャングルに放置されたら、ひとたまりも無かっただろう」

 ジャングルのあちらこちらから獣の気配がする。毒のある植物や動物、そして大きな虫が飛び交っているような場所だった。じっとりとした湿気と暑い気温は、魔素が薄くても生きものを巨大にしている様だ。

 処刑された人々は百六十センチほどの体格だった。大きい者でも百七十センチはないだろう。

「ルシオ、この人達髪の毛が無いわ。一般市民か奴隷なのかしら」

「多分そうだ。クリステルが言っていた。この辺りを探索して見よう。入り口が見付かるかも知れない」

 数時間の探索の結果入り口が見付かった。獣人達には異空間に戻ってもらい、ここからはルシオとソフィアが認識阻害を掛けて地下に潜る。

「僕の認識阻害はレベルが低いんだ。クリステルのように動き回ることが出来ないかも」

「以前使ったカラーコンタクトをしてみたら?」

「そうだな、あの処刑された人達の肌色なら何とかなるだろうけど、僕の目の周りの魔法陣は消えない。ソフィアならそのままで大丈夫そうだけど」

「また、アイパッチを着ければいいじゃ無い」

 ソフィアが以前、面白がって作ったカラーコンタクトには色んな色があった。その中で処刑されていた人達に一番近そうなものを選んだ。

 ソフィアの目は薄い赤に薄ピンクの髪、ルシオは薄い灰色の目にうす灰色の髪になった。

 髪はそり上げることにする。ソフィアは髪を切ることに躊躇しなかった。

「直ぐに伸びるから平気」そう言ってサッサと髪を切ってしまった。

 処刑された人々の色素は極端に薄かった。地下に住んでいたためだろう。

「体格は違うわね」

「彼等は小さかったね。身体の大きさは変えることが出来ない。このまま行くしか無いよ」

 ルシオもソフィアも体格は百八十センチくらいだ。体格で騒ぎになるだろうか? ギリギリまで認識阻害を掛けて行くしか無さそうだ。不得意の魔法を使うのは本当はいやなのだが。

 地下への入り口は小さい空洞になっていて、奥へ進むと地下へ続く階段があった。

 何百段もある階段だ。階段を降りきると広い空間がある。ルシオ達は直ぐに影に引っ込んだ。

 門番が立って居るのが見えたのだ。門番の体格はそれほど小さくはないがひょろりとして力が無さそうに見えた。これならルシオ達が怪しまれることは無さそうだ。

「このままでは入れないわ。どうする?」

「……暫く待ってみよう。中から人が出てきたら、その隙に入り込めるかも知れない」

 数時間待つと、扉が開き中から人が出てきた。門番の交代のようだ。門番達は雑談をしている。その隙にルシオ達は門の中に入る事が出来た。

 街は石造りの街で、綺麗に石畳が敷かれ、ルシオ達の街とよく似ていた。しかし街は薄暗く、人の顔がやっと認識できるくらいの明るさだった。

 人々はそれでも苦にならないようだった。暗闇に慣れた目を持っているようだ。

「ルシオ、暗くて見えにくいわ。このままでは誰かに打つかって認識阻害が解けて仕舞いそう」

「……気配察知をしながら行くか?」

 認識阻害を解除し、気配察知を新たに使いながら街の大通りとおぼしき道を進んでいく。

 ルシオ達にはぼんやりとしか見えなくても、ここの住人達は至って普通に歩いている。道の脇をゆっくりそろそろと進んで、宿屋らしき場所の前まで来た。

「言葉は辛うじて分かるから良い物の……」

「クリステルが解析の魔水晶をくれたお陰ね」

 宿には食事何処が併設されているようだ。食事何処の区画に入り一番隅の席に陣取った。

「ここで暫く情報を仕入れよう。彼等の話を聞いて居れば何か分かるかも知れない」


「見ない顔だな。何処から来た」

 突然隣の席から声を掛けられて驚く。ルシオは平静を装って、立ち上がりテーブルをどんと叩いて、

「あ゛あ゛、何だとう! 前からここの住人だ。お前こそ何処のもんだ?」

 強気に出てみた。すると相手の男は、ペコペコし始めこう言った。

「す、すまねぇ。悪気はなかったんだ。ここいらに不審者がいるって聞いて探して廻っていただけだ。見逃してくれ」

 そう言ってそそくさと店を出て行った。

「ルシオ、旨く乗り切ったわね。かっこよかった」

「心臓が飛び出そうだよ」

「多分体格が良かったから目を付けられたのよ」

 住民は大体が華奢だ。中にはルシオ達のような体格の者もいたが少数だった。ソフィアの言う通りなのだろう。

 それからは静かに注文した食事を取りながら周りの声に耳を澄ます。

『また、憲兵がうろついているぜ』

『まだ見付かっていないんだな。黒い奴』

『突然消えたそうじゃないか。魔の力を持っているって言うぜ』

『おっかねぇな。今日も早く帰るとするか』

 そんな声を拾った。ルシオは、『黒い奴』と言う言葉にピンときた。

「クリステルは、僕の作ったコンタクトレンズをしているんじゃ無いのか? アレは体色を黒くする物だった」

「私もそう思う。消えたというのは、認識阻害か異空間に逃げ込んだと言う事ねきっと」

 だが、かえって目立つ格好をしたと言うことに何か理由がある。クリステルは戦闘魔導師で、認識阻害が得意だった。態々皆に自分を見せるようなことをしてどうしようと言うんだ?

 異空間に戻り、もう一度、クリステルに通信してみる。どうか通信に答えて欲しい。

 クリステルは、死ねない呪いが在るから、大丈夫だとは思うが、やっかいごとに首を突っ込んでいるのは確実だった。

 何度も諦めずに通信し続ける内にやっと応答があった。

「クリステル! 大丈夫か」

『ああ、問題……無い。どうした』

「問題は大ありだろう。何故助けを求めない? 僕らは南に来ている。僕の異空間へ来てくれ。話を聞きたい」

『……分かった』


 久しぶりに会ったクリステルは、少し痩せていた。そして目が暗く沈んでいるように見えた。

「何があったか話して欲しい」

「……ここには、魔法使いがいる。聖地の生き残りの、魔法使いが……」

「え? 不思議ではないだろう。ここには魔素がそこそこあるし。魔力持ちは生れるだろう」

「いや、聖地から逃れた魔法使いだ。呪いの呪文を施しているから、千年以上も生きている魔法使いだ」

「でも……クリステルは、サンティシマ・ロペスはルバレロさん以外には呪いの呪文を描かなかったのよね。どうしてそう言いきれるの?」

「ソフィア、もう一人いた。呪いの呪文を描いて直ぐに耐えられずに亡くなった魔法使いが。その人は死んでいなかったと言うことかい?」

「いや、彼は死んだ。それは確かだ。あの頃彼には弟子が複数いた。彼の亡骸を受取って荼毘に付したと聞かされていたが、どうやら違ったようだ。弟子達は私の研究の解析をするために遺体を受取り、独自に呪いの呪文を作り上げたようだ。濃い魔素は手に入らないから、誰にも呪文は掛けないと高を括っていたが、違う方法はあったんだ。ルバレロがやったように濃い魔素は作り出せる。ここにいる魔法使い達は、魔力のある少女や少年や若者の内臓を使って作っている」

「なんてことなの……」

「若しかして、ジャングルで処刑されていた人達はそれに使われていたのか?」

「そうだ。何とか止めさせたいと思って、何度か態と掴まったが魔法使い達は姿を現さないんだ」

「何故直ぐに話してくれなかった? 僕なら呪いを消すことが出来るのに」

「……これは私の過去の汚点だ。自分で解決したかった……」

 やはりクリステルは、自分で背負ってしまっていた。

「クリステルが言っていた諍いの話は嘘だったの?」

「諍いは確かにあったんだ。ここより数キロ離れた地下都市との勢力争いだった。魔法使いが統べる都市は3つあって、それぞれが呪いを持っている魔法使いが納めている。一千年以上君臨している君主だ。彼等は災い以前に聖地を抜け出していたようだ。そして地底人が住むこの場所に辿り着きここに国を造って治めていった。彼等の知識は初めは地底人に役立ったようだが、その後一千年以上の圧政に苦しむこととなった。今その魔法使い達はお互い牽制しあっている。諍いに勝つ為に彼等は同じような呪いを持った魔法使いを他にも作り出そうとしているんだ。彼等には精神魔法を掛けて傀儡にされてしまっている。魔力のある子供達を集め一番強い物だけを残して他は呪いの材料にしている。それが分かったのは数ヶ月まえだ」

「分かったけど、どうやって解決するつもりだったの? 一人の手には余ることだろう?」

「……私はやはり役立たずだな。何も出来ないのに一人で突っ走って……」




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