プロローグ
この作品は、「神のジャッジ」の続編です。
先に神のジャッジをお読みになってからこちらの作品を読んで頂ければ内容の繋がりが分かります。
よろしくお願いします
サンティシマ・ロペス、今世のクリステル魔道師は今、聖地に一人佇み、聖地が浄化されていく姿を眺めている。
この場所に来て半年が過ぎたが、未だに穢れは土に染み渡っている。特に西の大地はこの先何千年も浄化出来ないだろう。
湖からは大量の水がこんこんと湧き出している。その水に薄められた穢れた魔素を更に大魔水晶に浄化して貰っている。
誰もいない独りぼっちのこの地で祈りを捧げ只管懺悔する日々だ。孤独に押しつぶされそうになるが、自ら侵した罪の精算のためにここにいるのだ。孤独など罰の内にも入らないだろう。
過去、クリステルの前世、サンティシマ・ロペスはこの地の惨状を見て逃げ出した。あの時に魔素の吹き出しを止めていれば、今頃は元通りになっていたはずなのに。だが、彼は怖くなって仕舞ったのだ。死ねない自分には浄化が出来たはずなのに……。
更に彼は、彼を慕って共に旅をしてきた民までも置き去りにしたのだ。
災厄から逃れて辿り着いたはずの西の地は瞬く間に魔物に蹂躙され、住めなくなってしまった。恐れをなした一万人の民は、東を目指すという彼に付いていくことを選択した。
だが、聖地に近づく内に魔力を持たない彼等は苦しみ死んでいくものや、異形に変化して行く者までいた。
「ここにいては自分まで異形になって仕舞う!」
そう考えてしまったのだ。
「弱い自分の心。民など率いていい気になっていた自分。そして巨大になった自尊心……保身」
浄化以外ほぼやることが無い毎日。その浄化もルシオ魔導師が作り出した魔水晶がやってくれている。その様子をクリステルは、ぼんやり眺めているだけだった。
何もやることが無ければ必然的に過去に意識が向き、今まで……いや前世で侵した己の所業を反芻する日々だ。
余りに閑で、得意の土魔法で荘厳に整えられた立派な神殿を作り上げたりもした。だが神殿には誰も住んでいない。
クリステルが休むのは、専ら自分の異空間だ。
彼の異空間は石造りの薄暗い無味乾燥な通路だった。クリステルの異空間に魔法兵達を入れて運んだこともあったが、魔法兵達は落ち着かない様子だった。
通路は何処までも続いている、異空間は意外と広いのに、魔法兵達は一カ所に集まり、怯えながらそこにいるのだ。
冷たい石造りの薄暗い空間は、迷宮そのものに見える。いつ魔物が湧き出すかと不安で、気が休まらないからだろうが、魔物など居た試しはないのだ。
「ルシオ魔道師の異空間は素晴らしかったな……」
クリステルは、以前、ルシオの妻ソフィアが言った『異空間はその人の心を映し出している』という言葉を聞いたときギョッとしたものだった。
だが彼の異空間は、いつの間にか変化したようだ。何時変化したのか覚えていないが、確かに少しだけ変わったのだ。心持ち薄明るくなり、三つの扉が出来上がっていた。
石造りの通路を進んで行くと、目立たないが確かに扉が出来上がっていた。
扉を開けてみると、一つは二メートルほどの白い空間。一つは三メートル四方の落ち着いた空間。この落ち着いた空間に寝具や机などを置いて休んでいる。其処には不思議なことに黒パンや惣菜、偶に肉など質素な食糧が一日分置かれている。どう言う仕組みなのかは未だに分からないが、このお陰で食糧の仕入れはしなくて済んでいるのだ。そしてもう一つの扉は、開かずの間だった。自分の異空間なのに入る事が出来ない、しっかりと閉ざされた扉が其処にあった。
これから神に赦されて死ねるようになるまでこの聖地を見守る、と決心した経緯を神殿長に話した。神殿長はクリステルの話を静かに聞いて居た。そして、
「クリステル魔道師。貴方の気持ちは理解しました。貴方の心の縁にこれを持って行きなさい」
そう言って六十センチ程の魔水晶を渡してくれた。
貴重な知識の魔水晶は、各神殿に納められるべき物だ。自分一人しかいない穢れた聖地に持って行くなど考えられないと、その時は固持したが、神殿長は微笑んで気にしないで持って行きなさいと言われた。
恐縮して有り難く受取り、今は新しくできた白い小さな異空間の部屋に祀っている。
彼はこの魔水晶に祈りを捧げ毎日を過ごすこととなったのだ。
『折角作り上げた神殿に納めないで、自分の空間に入れてしまって申し訳ない』
そう心では思ったが、魔水晶のお陰でこれから先も自分は乗り切れるような気もしているのだ。
神殿長からは、ルシオが作り出したホログラムの通信器も渡された。その為、月に一度は通信が入ってくる。殆どがクリステルを心配している言葉と、この聖地に訪問したいという伺いの便りだったが、クリステルは、
「ここは君達には危険だ。来てはいけない。転位陣も外した」
そう言って退けている。クリステルのように不死の呪いがなければ、彼等にどのような危険があるのか分からないのだ。まだ数十年、いや、若しかすると数百年、人は寄りつけないのではないだろうか。




